源泉徴収票の提出を拒否されたときの対処法

源泉徴収票の提出を拒否されたときの対処法 採用・定着
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「前職の源泉徴収票を出してほしいとお願いしているのに、なかなか提出してもらえない——年末調整の締切が目前なのに、どう対応すればいいのかわからない」

中途採用者が入社した年の年末調整は、前職の源泉徴収票がなければ正確に計算できません。しかし従業員側にはさまざまな事情があり、「提出したくない」「前職から発行してもらえない」といった状況が起こることがあります。専任人事のいない職場では、義務の根拠もわからないまま何度もお願いするだけになりがちです。この記事では、法的根拠・実務対応・代替手順まで、現場ですぐ使える情報を整理します。

源泉徴収票の提出は「お願い」ではなく法的義務

従業員が前職の源泉徴収票を現在の勤務先に提出することは、所得税法上の義務です。会社側が求める根拠もあり、「法律的にどちらが正しいか」は明確です。

従業員側の提出義務の根拠

所得税法第203条は、給与所得者が前の勤務先から交付を受けた源泉徴収票を現在の勤務先に提出しなければならないと定めています。また所得税法第190条は、年の途中で就職した者の年末調整において「前の給与等の支払者から交付を受けた源泉徴収票」の提出が前提要件であることを明記しています。つまり源泉徴収票の提出は、会社の「社内ルール」ではなく税法上の要請です。

会社側が要求することに問題はない

「強く求めたら個人情報保護やハラスメントになるのでは」と萎縮する担当者もいますが、この懸念は正確ではありません。源泉徴収票の提出要求は、税務上の正当な手続きの一部です。業務上必要な書類を求める行為はパワーハラスメントには該当せず、個人情報保護の観点でも問題ありません。「法律に基づく正当な要求である」という認識を持って、毅然と対応してください。

前職が発行しない場合も違法になる

前職の会社が源泉徴収票を発行しないケースも法律違反です。所得税法第226条は、退職者に対して退職後1か月以内に源泉徴収票を交付する義務を前の雇用主に課しています。従業員が「前職から発行してもらえない」と言っている場合は、前職への再請求を促し、それでも対応がなければ税務署への相談・申告という手段があることを従業員に伝えましょう。

「拒否している」と「発行してもらえない」は別問題

対応を間違えないためにまず確認すべきは、提出されない理由が「従業員本人の意思によるもの」か「前職の不対応によるもの」かの区別です。原因によって対応の方向性が全く異なります。

本人が「出したくない」と言っているケース

転職理由が複雑だった、副業収入があって知られたくない、前職の給与額を見られたくないなど、従業員側にさまざまな心理的抵抗がある場合です。この場合は、所得税法第203条を根拠として法的義務であることを穏やかかつ明確に説明します。「会社からのお願い」ではなく「税法上の義務」であることを伝えると、従業員も納得しやすくなります。

本人も入手できていないケース

前職との関係が悪化していて連絡が取りにくい、会社が倒産した、退職からかなり時間が経って所在がわからないといった事情がある場合です。この場合は本人を責めるのではなく、代替手続き(後述)を案内する方向で対応します。税務署への相談が実質的な解決策になることを伝えましょう。

状況別の対応方針一覧

状況対応方針
本人が提出を拒否している所得税法第203条を根拠に説明。それでも拒否なら年末調整対象外(乙欄)として処理し、確定申告義務を本人に通知
前職が発行してくれない前職への再請求を促す。解決しなければ税務署への源泉徴収票不交付の申告を案内
年の途中入社で前職なし源泉徴収票は不要。現職分のみで年末調整が可能
副業収入があり源泉徴収票が複数枚あるすべての源泉徴収票の提出を確認。漏れがあると年末調整が不正確になる

それでも提出されない場合の実務対応

法的根拠を伝えたうえでも提出が得られない場合、会社は「年末調整を行わない」として処理を切り分けることができます。この場合の実務フローを把握しておくことが重要です。

乙欄適用とは何か

源泉徴収票が提出されない従業員は、年末調整の対象から外し「乙欄」で処理します。乙欄とは、主たる給与の支払者が確定できない場合などに適用される税率区分です。年末調整を行わないことで、会社の年末調整業務は完結し、その従業員は翌年に自分で確定申告を行って税額を精算することになります。

会社が行う実務的な処理

具体的には、当該従業員の年末調整を「未実施」として記録に残したうえで、現職分の給与に基づく給与支払報告書を翌年1月31日までに市区町村に提出します。ここで多くの担当者が見落とすのは、「年末調整をしなかったとしても給与支払報告書の提出義務は残る」という点です。この提出を忘れると、従業員の翌年の住民税計算がずれるという二次被害が発生します。必ず提出してください。

従業員への伝え方

年末調整を行わない旨を従業員に伝える際は、「提出しなかった結果、翌年の確定申告があなた自身の義務になる」ことを書面などで明確に通知しておきましょう。口頭だけでは後でトラブルになることがあるため、メールやチャットのログなど記録が残る形で伝えることを推奨します。

源泉徴収票が入手できないときの代替手順

前職から源泉徴収票をどうしても入手できない場合でも、完全に手詰まりになるわけではありません。利用できる代替の方法があります。

給与明細書の活用

前職の給与明細がすべて手元に残っている場合、月ごとの支給額・控除額を合算することで、源泉徴収票に近い情報を把握できます。ただし、これは社内での参考情報として活用するものであり、税務署や年末調整の公式書類として代替できるものではありません。最終的には確定申告での精算が必要になる旨を従業員に説明します。

税務署を通じた対応

前職が所得税法第226条に違反して源泉徴収票を発行しない場合、従業員は管轄の税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を提出することができます。税務署から前職に対して指導が入るケースもあり、実質的に発行を促す効果が期待できます。また、発行が間に合わない場合でも、税務署の指導のもとで確定申告の対応策を相談することができます。

確定申告での精算が最終的な着地点

どうしても源泉徴収票が入手できない場合の現実的な最終手段は、従業員本人が翌年に確定申告を行うことです。会社は現職分の年末調整のみ行い、前職分との合算精算は本人の確定申告に委ねます。この流れ自体は税務上認められており、会社側の責任追及にはなりません。ただし前述のとおり、給与支払報告書の提出は忘れずに行う必要があります。

拒否する従業員とのコミュニケーション

法的根拠を持ちながらも、実際のコミュニケーションでは従業員との関係性を考慮した対応が大切です。強引な要求ではなく、背景を理解したアプローチが解決への近道です。

拒否の背景を丁寧に聞く

従業員が提出を渋る場合、その背景に何らかの事情があることがほとんどです。「前職に個人情報を照会されたくない」「退職時のトラブルで連絡したくない」「副業をしていたことを知られたくない」など、言いにくい理由が隠れていることがあります。最初から「法律上の義務です」と押し込むより、「何か事情があれば一緒に対処法を考えます」という姿勢で話を聞くと、従業員も事情を打ち明けやすくなります。

法的説明を「責める」文脈で使わない

所得税法第203条の根拠を伝えることは必要ですが、それを「だから必ず出せ」という脅し的な文脈で使うのは逆効果です。「税法上の要件なので、会社も対応の義務があって困っている」という形で共通の問題として提示すると、従業員も「会社に従う」のではなく「一緒に解決する」という姿勢になりやすいです。

提出期限と次の対応策をセットで伝える

「いつまでに提出してほしいか」「間に合わない場合はどうなるか」を明確にセットで伝えることで、従業員も状況を理解して動きやすくなります。期限を設けずに「なるべく早く」と繰り返すだけでは、優先度が低く扱われ続けます。「○月○日までに提出がない場合は年末調整の対象外となり、確定申告が必要になる」と具体的に伝えましょう。

まとめ

源泉徴収票の提出は、所得税法第203条に基づく従業員の法的義務です。「お願いしてもなかなか出してもらえない」という状況でも、根拠を示しながら丁寧に対応することで多くのケースは解決できます。それでも提出されない場合は、当該従業員だけを年末調整対象外として処理し、現職分の給与支払報告書は必ず市区町村へ提出する——この切り分けを知っておくだけで、年末調整全体を止めずに済みます。

一方で、こうした個別対応の積み重ねは専任人事のいない職場では大きな負担になります。「法的に正しい対応をしているか確認したい」「従業員とのやり取りでどこまで踏み込んでいいか迷う」といった場面で、外部の専門家に相談できる環境があると心強いです。ウェルセンス株式会社では、中小企業の人事労務の実務的な課題に寄り添った支援を行っています。年末調整の対応に限らず、人事まわりで「これどうすればいい?」と思ったときにお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 従業員が源泉徴収票を提出しなくても、会社側に罰則はありますか?

A. 会社側への直接的な罰則規定はありませんが、源泉徴収票なしで年末調整を行うと税額計算が不正確になり、後に税務調査などで問題になる可能性があります。提出されない従業員は年末調整対象外として処理し、記録を残しておくことが会社を守ることにつながります。

Q. 源泉徴収票の代わりに給与明細書を使って年末調整はできますか?

A. 給与明細書は源泉徴収票の代替書類として年末調整に使用することはできません。給与明細を参考情報として使うことはできますが、正式な手続きとしては認められていないため、当該従業員は年末調整対象外として処理し、翌年の確定申告での精算を案内することになります。

Q. 年の途中で入社した従業員に前職がない場合、源泉徴収票は必要ですか?

A. その年に他の給与の支払者がいない場合(新卒・専業主婦からの復職など)は、前職の源泉徴収票は不要です。現在の勤務先での給与のみで年末調整を行うことができます。入社時に「今年他から給与を受け取っていないか」を確認しておくと安心です。

Q. 前職が倒産していて源泉徴収票をもらえない場合はどうすればよいですか?

A. 前職が倒産している場合は、清算人や破産管財人が引き続き発行義務を負うケースがありますが、対応が難しい場合は税務署に相談することを従業員に案内してください。税務署の指示のもとで確定申告の対応策を取ることができます。会社側は現職分の年末調整のみ行い、給与支払報告書を市区町村に提出します。

Q. 源泉徴収票の提出を求めたら「個人情報だから出せない」と言われました。この主張は正当ですか?

A. 正当な主張ではありません。源泉徴収票の提出は所得税法第203条に基づく法的義務であり、個人情報保護を理由に拒否できるものではありません。個人情報保護法も「法令に基づく場合」は本人の同意なしに情報を取り扱えるとしており、税務手続きはこれに該当します。法的根拠を丁寧に説明することで多くのケースは解決できます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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