休職中の社会保険料立替、回収と同意書の3ステップ

休職中の社会保険料立替、回収と同意書の3ステップ 休職・復職対応
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「給与がゼロなのに、社会保険料はどうすればいいの?」——休職者が出た際に、多くの中小企業の担当者がはじめて直面する壁です。無給休職中でも社会保険料の支払い義務は続くため、会社が本人分を一時的に立て替えるケースが大半。しかし書面を交わさずに進めると、復職後や退職時にトラブルへ発展するリスクがあります。この記事では、立替の仕組みから同意書の作り方、回収までを実務に即して解説します。

休職中も社会保険料は払い続けなければならない

休職しても被保険者資格は継続する

休職とは「労働義務を免除された状態」であり、雇用関係そのものは継続しています。健康保険法第156条・厚生年金保険法第81条に基づき、被保険者である限り保険料の納付義務は消えません。よくある誤解として「給与がゼロなら社会保険を外せる」と考えてしまうケースがありますが、休職を理由に資格喪失手続きをすると、後から大きな問題が生じます。健康保険証が使えなくなり、傷病手当金の受給資格も失われてしまうからです。

無給休職中に会社が立替を迫られる理由

社会保険料は会社と本人が折半して負担します。通常は毎月の給与から本人負担分を天引きし、会社負担分と合わせて年金事務所へ納付します。ところが無給休職中は天引きできる給与がありません。そのため、会社が本人負担分も含めて一時的に立て替えて納付するケースが多くなります。

たとえば標準報酬月額30万円の社員であれば、健康保険と厚生年金を合わせた本人負担分はおよそ月額4〜5万円程度。半年の休職で20〜30万円単位の立替金になります。早めに取り決めをしておかないと、回収が事実上困難になるため、書面による合意が重要です。

「社会保険を抜く」という対応が危険な理由

保険料の支払いを避けようと、休職中に社会保険を喪失させるケースも実際に起きています。しかしこの対応は本人にとって傷病手当金の受給資格喪失という深刻なダメージを与えます。傷病手当金は健康保険の給付であり、被保険者でなければ受け取れません。メンタルヘルス不調の休職でこの手続きを誤ると、会社への損害賠償請求に発展した事例もあります。「立て替えが面倒だから」という理由での安易な資格喪失は絶対に避けてください。

立替金の回収方法は状況によって使い分ける

休職中に毎月振込で払ってもらう方法

最も回収リスクが低いのは、休職中に毎月振込で支払ってもらう方法です。ただし、傷病手当金の支給が始まる前に請求すると、本人に支払い余力がない場合があります。傷病手当金は連続3日間の待期期間を経た4日目から支給され、金額は標準報酬日額の3分の2。支給が確認できた段階で「毎月の保険料相当額をご負担ください」と依頼するのが現実的です。振込先・振込期日・金額を書面で明示しておくと、後のトラブルを防げます。

復職後に給与から分割天引きする方法

復職後に給与から分割で回収する方法もよく使われます。ただし、ここで注意が必要なのが労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)です。賃金から立替金を差し引くには、本人の書面による同意か、労使協定(賃金控除協定)が必要です。口頭での合意だけでは後に「知らなかった」と言われるリスクがあります。

また、控除額が月給の大半を占めるような設定は本人の生活を圧迫するため、現実的な分割額(例:月1〜2万円程度)を話し合って決めることが大切です。立替総額が大きい場合は、返済期間を長めに設定して負担を分散させることで、本人の納得も得やすくなります。

退職時に最終給与・退職金から精算する方法

休職が長引いてそのまま退職になるケースでは、最終給与や退職金から一括精算するという選択肢があります。ただしこの方法も、書面による本人の個別同意なしには実行できません。最高裁判例(日新製鋼事件・1990年)は、相殺には「労働者の自由意思に基づく合意」が必要であり、それを書面で立証できることが望ましいと示しています。同意なしに一方的に控除すると、賃金未払いとみなされ労基署への申告や訴訟リスクが生じます。退職のタイミングが見えてきた段階で、必ず書面での合意を取っておきましょう。

同意書を取るべき理由と盛り込むべき内容

なぜ書面の合意が必要なのか

「うちは信頼関係があるから口頭で十分」と考える経営者もいますが、書面がないトラブル事例は後を絶ちません。「そんな説明は受けていない」「給与から引かれた意味がわからない」という主張を本人にされた場合、会社側に証明手段がなくなります。書面は本人を疑うためではなく、会社と本人の双方を守るためのものです。特にメンタルヘルス不調による休職の場合、後から「あの時は判断能力が低下していた」と争われるケースもあります。合意の時点で「任意の同意」であることを明記しておくことが重要です。

同意書に必ず盛り込む6つの項目

実務で使える同意書には、以下の内容を盛り込んでください。

(1)立替の対象期間と金額
月次で明記します。「2024年4月分〜」のように具体的な期間と金額(または確定次第通知する旨)を記します。

(2)返済方法と返済スケジュール
振込払いか給与控除か、毎月いくらかを具体的に示します。

(3)退職時の取り扱い
退職した場合は最終給与・退職金から一括精算することへの合意を記載します。

(4)金額の確定に関する条項
金額が確定していない場合は「確定次第通知し、改めて合意する」旨の条項も入れておきます。

(5)任意合意であることの明記
この合意が会社から強制されたものではなく任意の同意であることを示す文言を入れます。

(6)署名・捺印・日付
必ず取ります。

これら6点が揃っていれば、後日のトラブルをほぼ防ぐことができます。

同意書を渡すタイミングと伝え方の工夫

同意書を渡すタイミングは、休職開始後できるだけ早い段階が理想です。ただし、メンタルヘルス不調で休職直後の本人に法的な書類を突きつけると、心理的に追い詰めてしまう可能性があります。「会社としても適切に手続きを進めるために、お互いが安心できるよう書面を用意しました」という言い方で、サポートの一環として提示するとよいでしょう。

可能であれば、社労士や産業医などの第三者を通じて渡す方法も有効です。「会社対本人」ではなく「一緒に手続きを進める」というスタンスが、トラブル予防につながります。

傷病手当金との連動で立替金問題をスムーズに進める

傷病手当金の仕組みを会社が把握しておく重要性

傷病手当金は、健康保険法第99条に基づき、病気やケガで働けない期間に支給される給付です。待期3日間を経た4日目から支給が始まり、支給額は標準報酬日額の3分の2、支給期間は同一傷病につき通算1年6か月(2022年1月改正後)。月収30万円の社員であれば、月あたり約20万円が給付される計算になります。

この収入があることを前提に、毎月の保険料立替分の振込を依頼することが可能です。会社が支給開始時期を把握しておくことで、「払えない」という状況を回避しやすくなります。

督促の方法と「二次被害」を防ぐ配慮

メンタルヘルス不調による休職の場合、金銭的な督促がプレッシャーになり症状悪化につながるリスクがあります。「督促したら状態が悪くなった」「退職を迫られたと感じた」という訴えが起きた事例も報告されています。

連絡の際は、必ず書面やメール等で記録を残し、「お体の回復が最優先です。ただ、手続き上ご確認いただきたいことがあります」という形で伝えましょう。電話での督促は避け、担当者が直接ではなく総務や専門家を通じて対応する仕組みを作ることが有効です。

立替金問題を放置するとどうなるか

「揉めたくないから何も言わずにいよう」と立替金の取り決めを先送りにしている企業は少なくありません。しかし、6か月の休職で30万円以上になることもある立替金は、放置すればするほど回収が難しくなります。退職後に請求しても応じてもらえないケースや、弁護士を立てて交渉が必要になった事例もあります。

書面を交わす手間は最初の1時間もあれば足ります。その1時間が、数十万円のリスクと数か月の対応負担を防いでくれるのです。

実務で使える同意書の雛形と記載例

同意書の基本構成と記載例

以下は、実務で活用できる社会保険料立替に関する同意書の基本構成です。タイトルは「社会保険料立替金に関する確認書」とし、書き出しは「株式会社〇〇(以下「会社」)と〇〇〇〇(以下「本人」)は、本人の休職期間中における社会保険料の立替および返済について、以下のとおり合意します。」という形にします。

その後に、対象期間・月額立替金額(または確定通知の旨)・返済方法・返済スケジュール・退職時の取り扱い・任意合意である旨・署名欄を順番に記載します。特に「本合意は会社から強制されたものではなく、本人の自由な意思に基づくものです」という一文は必ず入れてください。

金額が確定していない場合の対処法

休職開始直後は、何か月休職するかわからないため、立替金の総額が確定できないことがほとんどです。その場合は「休職期間中の社会保険料(本人負担分)について、毎月発生する金額を会社が立て替えるものとし、金額は毎月末日に書面で通知する。返済方法については別途協議のうえ合意する」という形の包括的な条項にしておきます。

そのうえで、毎月の立替金額を記録した「立替金台帳」を作成しておくと、後の精算がスムーズです。月次で金額を記録・通知しておけば、最終的な回収交渉の際にも根拠として使えます。

同意書と労使協定の使い分け

複数の従業員が休職するケースが想定される、ある程度規模のある企業では、個別の同意書だけでなく「賃金控除に関する労使協定」を整備しておくことも検討してください。労使協定があれば、毎回個別に書面を取らなくても給与控除の根拠になります。ただし協定の締結には労働者代表の選出が必要です。

従業員が20〜50名規模の企業であれば、個別同意書で対応するほうが現実的かつ柔軟に運用できます。どちらが自社に適しているか迷う場合は、社労士に相談するのが確実です。

まとめ

休職中の社会保険料立替は、多くの中小企業が「なんとなく」対応してしまいがちな実務課題です。しかし書面なしに進めると、復職後・退職後に回収できないリスクや、本人との認識齟齬によるトラブルが現実になります。

対応の流れとしては、まず最初に休職発生時点で立替の仕組みと返済の流れを本人に説明し、次に同意書を交わして立替金の記録を毎月残すこと、そして復職または退職のタイミングで書面に基づいて回収する、という3つのステップを押さえておくことが重要です。専任人事がいない環境だからこそ、「書面を交わすこと」だけは省略しないでください。

もし「うちの場合はどうすればいいか」というような社会保険料立替や休職対応について判断に迷われていたら、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。休職・復職支援から人事労務の実務的な対応まで、中小企業の皆さまからのご相談をお受けしています。

よくある質問

Q. 休職中、本人が保険料を払えないと言っています。会社がすべて負担しなければなりませんか?

A. 会社が本人負担分を「立て替える」義務はありますが、最終的な費用負担者は本人です。立替をしたうえで、傷病手当金の受給開始後などに返済してもらう取り決めを書面で交わしてください。社会保険料の本人負担分を会社が永続的に肩代わりする法的義務はありません。

Q. 口頭で「復職後に返します」と約束してもらいましたが、書面は必要ですか?

A. 必要です。口頭の約束は証明が困難であり、「そんな話は聞いていない」と言われた場合に会社側に反論する手段がなくなります。労働基準法第24条に基づき、給与から立替金を控除するには書面による同意が法的に必要です。1枚の同意書を交わすだけでリスクを大幅に下げられます。

Q. 復職後の給与天引きは毎月いくらまで可能ですか?

A. 法律上の上限規定はありませんが、控除後に本人の生活が成り立たない金額は後にトラブルになりやすいです。実務的には月1〜2万円程度の分割払いとし、本人と合意した金額を書面に明記することを推奨します。立替総額が多い場合は、返済期間を長めに設定して負担を分散させる方法が現実的です。

Q. 休職者が退職することになりました。同意書なしに退職金から立替金を差し引けますか?

A. できません。退職金や最終給与からの控除にも、本人の書面による個別同意が必要です(労働基準法第24条・日新製鋼事件判例)。同意なしに一方的に差し引いた場合、賃金未払いとみなされ労基署への申告や訴訟リスクが生じます。退職の話が出た段階で、速やかに書面での合意を取るようにしてください。

Q. メンタルヘルス不調の休職者に同意書を求めることは、プレッシャーを与えませんか?

A. 伝え方と時期に配慮することで、プレッシャーを最小限に抑えられます。「お互いが安心して手続きを進めるために書面を用意しました」という説明と、メールや郵送での穏やかな伝達が有効です。また、社労士や産業医などの第三者を介して書類を渡す方法も、担当者と本人の心理的な距離を保つうえで効果的です。早期に取り交わすほど本人の負担は軽くなります。

【監修】ウェルセンス株式会社
社会保険労務士・産業カウンセラーと連携し、中小・成長企業の人事課題に向き合う実務ノウハウをお届けします。
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