従業員のタトゥー発覚時に取るべき3つの対応手順と就業規則への明記方法

従業員のタトゥー発覚時に取るべき3つの対応手順と就業規則への明記方法 コンプライアンス
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「タトゥーのある応募者がいる。断ったら差別になるのか」「入社後に社員のタトゥーが発覚した。就業規則には何も書いていない。どうすれば……」。こうした相談が、専任人事のいない中小企業の経営者や兼務担当者から後を絶ちません。タトゥーに関するルールは法律で明確に定められているわけではなく、業種・職種・状況によって対応が変わるため、正解を見つけにくいテーマです。この記事では、採用段階での判断基準から就業規則の規定文例、発覚後の対応手順まで、実務で即使える情報を順を追って解説します。

採用選考でタトゥーを理由に断ることは違法か

結論から言えば、日本の労働法にはタトゥーを理由とした採用拒否を直接禁止する条文は存在しません。ただし「理由があれば何でもできる」わけではなく、判断の仕方によっては法的リスクが生じます。

採用拒否が許される条件

採用は企業の自由であることが原則ですが、厚生労働省「公正な採用選考の基本」は、本人の適性・能力と関係のない事項(身体的特徴など)を選考基準にしないよう指導しています。タトゥーの有無を採用判断に使う場合、「業務上、なぜそれが必要か」の合理的な理由が問われます。たとえば飲食業・医療・介護・保育など、衛生管理や利用者への心理的影響が大きい職種では制限の合理性が認められやすく、逆にIT・クリエイティブ職など顧客接触が少ない業種では合理性の説明が難しくなります。

面接でタトゥーの有無を確認してもよいか

職業安定法第5条の4は、求職者の個人情報について「業務上必要な範囲」での収集を求めています。つまり、接客業や衛生管理が求められる職種であれば「露出する可能性があるタトゥー・入れ墨の有無を確認させてください。業務上、お客様の目に触れる部位への規定があるためです」と目的を明示した上で確認することは許容されます。一方、業務上の必要性が説明できない職種で確認することは、プライバシーへの過度な侵害として問題になりうるため注意が必要です。

業種・職種別の制限合理性の目安

以下の表を参考に、自社の業種・職種と照らし合わせて判断の基準にしてください。

業種・職種 制限の合理性 主な理由
飲食・食品製造 衛生管理・食品衛生法上の観点
医療・介護・保育 利用者・患者への心理的影響、信頼性
接客・小売・ホテル 中〜高 顧客対応・ブランドイメージ
建設・製造(非食品) 社外接触の有無・安全管理の必要性による
IT・クリエイティブ 顧客接触が少なく、身体的外見の業務影響が限定的

就業規則にタトゥーの規定がない状態で発覚したときの対応手順

就業規則に規定のない状態で社員のタトゥーが発覚した場合、即座に懲戒処分や解雇を行うことは法的に非常にリスクが高いです。まず事実を確認し、その後ルールを整備してから対応するという順序を守ることが安全策です。

事実確認と現状把握

まず最初に、タトゥーの部位・大きさ・業務への影響(接客時に露出するか、制服で隠れるかなど)を落ち着いて確認します。この段階ではまだ処分は行わず、「どのような状態か」「業務に具体的な支障があるか」を客観的に把握することに集中します。1on1の面談を設定し、本人の認識や今後の意向も含めて丁寧に聞き取ることが大切です。面談の内容は日時・参加者・概要を記録に残しておきましょう。

経営者が一人で判断して進めると、予期せぬ法的トラブルになることも。対応の方向性に迷ったら、早めに専門家に相談する選択肢も視野に入れておくと安心です。

就業規則の整備と本人への説明

次に、就業規則にタトゥーに関する服務規律を追加します。規定のない状態での懲戒処分は、労働契約法第15条(懲戒権濫用の禁止)に抵触するリスクがあります。「規定がなかったから今回は対応が難しいが、今後のルールとして整備する」という姿勢が法的に安全です。規定を新設・変更した後は、全従業員に周知した上で本人にも正式に説明し、今後の対応(隠蔽の徹底、配置転換の可能性など)について合意を取るようにします。

配置転換・業務制限を行う場合の記録方法

「接客業務から外す」「制服でカバーできる部位に限り従来通り業務継続とする」といった対応を取る場合は、その判断根拠と経緯を必ず書面で記録してください。「なぜその判断をしたか(衛生上の理由、顧客接触の頻度など)」「本人にいつ何を説明したか」「本人の合意はあったか」の3点が記録に残っていれば、後のトラブルに対応しやすくなります。場当たり的な口頭指示のみで対応すると、後から「差別的扱いを受けた」と訴えられた際に会社側が不利になります。

就業規則へのタトゥー規定の明記方法と文例

就業規則にタトゥーを規定する場合、「一律禁止」よりも「業務上の合理的目的に紐づいた制限」として書くことが、労働契約法第7条・第10条の観点から有効です。合理性のある文言を選ぶことで、万一争いになった際にも会社の立場が守られやすくなります。

規定を設ける場所と基本の考え方

タトゥーに関する規定は、就業規則の「服務規律」の章に組み込むのが一般的です。「外見・身だしなみ」に関する既存の条文がある場合は、そこに追加する形が自然です。全面禁止を一律に定める書き方は、業種によっては合理性を欠くと判断されるリスクがあります。「接客業務中に露出しないこと」「制服着用時に第三者の目に触れる部位に施術したものを露出させないこと」のように、制限の目的と範囲を明確にした表現が望ましいとされています。

就業規則の規定文例

以下は実務で参考にできる文例です。自社の業種・職種に合わせて適宜修正してください。

  • 接客・飲食・医療介護向け(制限の合理性が高い業種):「従業員は、業務中および制服着用時において、タトゥー・入れ墨等(以下「タトゥー等」という)を第三者の目に触れる形で露出してはならない。業務上必要と認める場合、会社はタトゥー等の部位・状態について申告を求めることがある。」
  • 業種を問わず幅広く使える汎用版:「従業員は、職場環境の維持および取引先・顧客との信頼関係の保持の観点から、業務中にタトゥー・入れ墨等を不必要に露出させないよう努めなければならない。会社は業務上の必要性に基づき、配置・業務内容について調整を行うことがある。」
  • 新規採用時の告知義務を設ける場合の追記例:「採用選考においては、業務上必要と認める職種について、タトゥー・入れ墨等の有無を申告していただく場合があります。申告内容は選考および業務配置の判断にのみ使用し、他の目的には利用しません。」

既存社員への不利益変更を避けるための手続き

就業規則を新設・変更する際に注意すべきなのが、労働契約法第10条の「不利益変更」の問題です。既存の社員に対して、従来なかった制約を課す変更が「不利益変更」に当たる場合、変更の合理性と周知の両方が必要です。実務上は、変更内容を書面または社内システムで全従業員に周知し、意見聴取(10人以上の事業所では労働者代表からの意見書が必要)を経てから施行します。特に懲戒の対象として追加する場合は、弁護士や社会保険労務士への確認を強く推奨します。

大阪市営バス事件から学ぶ「合理性」の判断軸

タトゥーをめぐる労働紛争の中で、実務上の判断基準として参考になるのが大阪市(市営バス運転手タトゥー)事件です。この判例は、会社がタトゥーに関してどこまで制限できるかを考える上での重要な指標を示しています。

事件の概要と判決のポイント

この事件は、市営バス運転手が乗客に見える形でタトゥーを露出していたことを受け、大阪市が自己申告を求めたにもかかわらず拒否した運転手に懲戒処分を行ったことが争われたものです。大阪地裁・大阪高裁の判断では、「職場環境や顧客(乗客)への影響」を踏まえた合理性の有無が検討されました。公共交通機関という不特定多数の市民が利用するサービスにおいて、外見の管理は業務の一部として合理性があると判断されたこの事案は、接客業や公共サービス業における制限の合理性を支持する論拠として引用されることがあります。

中小企業が学べる「合理性の3要素」

判例の流れから、実務上、タトゥー制限の合理性を判断する際には次の3点を自社の状況に当てはめて考えることが有効です。第一に「顧客・利用者との接触頻度」——不特定多数の顧客と接する業種ほど、外見に関する制限の合理性が認められやすい。第二に「露出の程度と業務への具体的影響」——業務中に実際に見える部位かどうか、心理的な影響が具体的にあるかどうか。第三に「制限の目的と手段の比例性」——全面禁止でなく、業務中の露出制限にとどめるなど、目的に対して手段が過度でないこと。この3点を意識して規定を設計し、判断記録を残すことが実務上の安全策です。

まとめ

従業員のタトゥーへの対応は、「違法か合法か」という二項対立ではなく、「業種・職種・状況に応じた合理性があるか」で判断が分かれます。採用段階では業務上の必要性を明示した上で確認し、就業規則には一律禁止ではなく「業務中の露出制限」として合理的な文言で規定する。そして、規定がない状態で発覚した場合は、まず事実確認と記録を行い、次に規定整備と本人説明、その後に業務調整という順序を踏むことが法的リスクを最小化する王道です。

「うちの就業規則、タトゥーに関する記載がない」「既存社員への対応方針が曖昧なまま」——こうした人事判断の迷いは、一社で抱えず、専門家に相談する価値があります。ウェルセンス株式会社では、就業規則の整備から個別ケースの対応まで、中小企業の実情に寄り添ったアドバイスを提供しています。

よくある質問

Q. 就業規則にタトゥーの規定がない状態で、発覚した社員を即解雇することはできますか?

A. 就業規則に規定がない状態での解雇は、労働契約法第15条(懲戒権濫用の禁止)・第16条(解雇権濫用の禁止)に抵触するリスクが極めて高く、不当解雇として争われた場合に会社側が負けやすい状況です。まず規定を整備し、本人への説明・指導を経てから対応を検討してください。緊急に対応が必要な場合は、専門家に相談した上で進めることを強くお勧めします。

Q. 採用面接でタトゥーの有無を聞いても問題ありませんか?

A. 「業務上の必要性」を明示した上であれば許容されます。たとえば「接客時に制服から露出する可能性のある部位についての社内規定があるため確認しています」のように、目的を添えて質問することが重要です。一方、業務との関連が説明できない職種でプライバシーに踏み込む質問をすることは、職業安定法第5条の4の観点から問題になりえます。

Q. 「制服で隠れるなら問題ない」という対応で十分ですか?

A. 口頭での個別指導だけでは不十分です。「どのような状態であれば業務継続を認めるか」という基準を就業規則または社内ルールとして文書化し、本人にも書面で説明・合意を得ておく必要があります。記録がない状態では、後から「そんな説明はなかった」「差別的な扱いを受けた」と主張された際に会社側が立証できなくなります。

Q. 就業規則を変更して既存社員にタトゥー制限を適用することはできますか?

A. 可能ですが、労働契約法第10条の「不利益変更」の要件を満たす必要があります。変更内容の合理性(業種・業務上の必要性があること)と、全従業員への適切な周知が必須です。また10人以上の事業所では労働者代表からの意見書が必要です。変更の内容が制限的であるほど、社会保険労務士や弁護士への事前確認を強くお勧めします。

Q. IT企業でもタトゥー禁止規定を設けることはできますか?

A. 法律上、禁止はされていませんが、IT・クリエイティブ職のように顧客接触が少なく外見の業務影響が限定的な業種では、制限の合理性を説明するのが難しく、紛争になった場合に会社側が不利になるリスクがあります。「全面禁止」よりも「社外(取引先・顧客先)訪問時の露出制限」などの形で業務場面を限定した規定にとどめる方が現実的です。

【監修】ウェルセンス株式会社
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