中途採用の退職理由を深掘りする質問の作り方

中途採用の退職理由を深掘りする質問の作り方 採用・定着
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「キャリアアップのために転職を考えました」——面接でこの一言を聞いたとき、あなたはどう対応していますか?「そうですか、では弊社で活躍したいことは?」と話を前向きに進めてしまっていないでしょうか。実はこの瞬間に、入社後の早期離職リスクを見逃しているかもしれません。退職理由の表面的な言葉を受け取るだけで面接を終わらせてしまう——この習慣が、採用コストの損失と職場の混乱を繰り返させる根本原因になっています。本記事では、本音を引き出す深掘り質問の設計方法と、定着リスクを見極める実務的な判断軸をお伝えします。

なぜ退職理由の「表面的な回答」で止まってしまうのか

多くの面接担当者が退職理由の深掘りに踏み込めない背景には、質問スキルの問題ではなく、構造的な「遠慮のクセ」がある。この遠慮を自覚することが、深掘り質問設計の出発点です。

「前向きな理由=問題なし」という思い込み

転職エージェントや面接対策本は、候補者に対して「ネガティブな理由をポジティブに言い換える」ことを推奨しています。そのため「スキルを活かしたかった」「御社の事業に共感した」といった回答は、面接対策のテンプレートとして広く使われています。これを額面通りに受け取ると、面接官は「前向きな人材だ」と判断して深掘りをやめてしまいます。しかし実際には、「前職の人間関係が限界だった」「メンタル的に続けられなかった」という事実を前向きな言葉でコーティングしているケースが少なくありません。

「これ以上聞くと失礼では」という過剰な自主規制

公正採用選考への意識が高まるにつれ、「深く聞くのは問題では?」という心理的ブレーキが働くことがあります。確かに聞いてはいけない領域は存在しますが、退職理由そのものを丁寧に確認することは候補者の適性・能力を判断するための正当な行為です。遠慮しすぎて本質的な情報をまったく取らないことは、むしろ採用判断の精度を大きく落とします。「聞いてよい範囲」と「聞いてはいけない領域」を正確に理解することで、この自主規制を解消できます。

専任人事がいない現場の「なんとなく採用」

20〜50名規模の企業では、面接を経営者や現場マネージャーが担当することがほとんどです。採用面接の設計・訓練を受けていないため、「感じがいい」「スキルは申し分ない」という印象で採用が決まりやすく、退職理由の精査は後回しになりがちです。この構造的な問題を認識したうえで、意図的に質問設計を組み込む必要があります。

聞いてよい範囲・聞いてはいけない領域の線引き

退職理由の深掘りは、候補者の仕事上の適性・能力を確認するための質問である限り適法です。一方で、本人の適性・能力と関係のない事項への踏み込みは就職差別に該当する可能性があります。

公正採用選考の原則を正確に理解する

厚生労働省が定める公正採用選考の原則では、採用選考において「本人の適性・能力に関係のない事項」を採用基準にすることを禁じています。具体的には、家族構成・本籍・出生地・思想・信条・宗教・病歴全般などが該当します。退職理由の深掘りがこれらの領域に踏み込む形になると問題になります。たとえば「前職を辞めた理由は家庭の事情があったのですか?」「宗教上の理由で何か困ったことがあったのですか?」といった質問は避けるべきです。

「病気・休職歴」への対応方針

前職での休職歴やメンタル不調が匂われる場合、多くの担当者が「聞くべきか、聞かざるべきか」で迷います。個人情報保護法では、病歴は「要配慮個人情報」として取得に本人の同意が必要です。また、精神障害・発達障害を持つ候補者を採用選考で不利に扱うことは障害者雇用促進法の観点からも問題になりえます。基本的な方針は「候補者が自己申告した情報への丁寧な対応」と「業務遂行上の懸念点を仕事の文脈で確認すること」です。「前職で長期間お休みされていた期間があるようですが、現在の体調についてお聞かせいただけますか?」という形で、業務上の適性確認として丁寧に尋ねることは状況によって可能です。ただし個別の状況により判断が異なるため、迷う場合は専門家への相談をお勧めします。

確認してよい・避けるべき質問の整理

確認してよい内容 避けるべき内容
前職での具体的な業務内容・成果 家族構成・配偶者の有無
退職に至った職場環境・業務上の状況 本籍地・出身地・宗教・思想
転職後に実現したいこと・求めるもの 病歴全般(自己申告なしの場合)
業務遂行に関わる体調・コンディション(本人申告ベース) 出産・育児・介護の予定

本音を引き出す深掘り質問の設計方法

退職理由の本音を引き出すには、一問一答ではなく「複数の質問軸を組み合わせて事実を立体的に確認する」設計が必要です。用意された回答を一つの角度からだけ聞いても崩すことは難しいからです。

STAR法で行動事実を引き出す

STAR法とは、Situation(状況)・Task(役割・課題)・Action(実際の行動)・Result(結果)の順に過去の事実を構造的に聞く質問技法です。「前職で最も難しかった局面を教えてください」と聞いたあと、「そのとき、あなた自身はどう動きましたか?」「結果として何が変わりましたか?」と深掘りを重ねると、準備した回答では対応しにくくなります。退職理由についても同様に、「退職を決意した時期の状況を具体的に教えてください」「そのとき上司や同僚とはどんなやり取りがありましたか?」と事実ベースで確認することで、表面的な言葉の背後にある文脈が見えてきます。

「回避動機」と「接近動機」の両方を確認する

退職理由を聞くときに重要なのは、「何から離れたのか(回避動機)」と「何を目指したのか(接近動機)」の両方を把握することです。接近動機だけを聞くと「御社でチャレンジしたい」という前向きな言葉しか出てきません。「前職で最も改善してほしかったことは何ですか?」「もし前職の環境が変わっていたら、今も続けていましたか?」という問いを加えることで、回避動機が見えてきます。この二軸を照らし合わせることで、転職の本当の動機を立体的に把握できます。

退職理由と別の質問軸でクロスチェックする

退職理由として「上司との方向性の違い」と答えた候補者に対して、「これまでのキャリアで最も尊敬したマネージャーはどんな人でしたか?」「チームで意見が割れたとき、あなたはどう動くことが多いですか?」という別軸の質問を重ねると、対人関係のパターンや価値観が自然に出てきます。退職理由として語られた内容と、こうした行動パターンの回答が一致しているかを確認することで、回答の信頼性を高めることができます。

面接精度を高めたいけれど、「どこまで聞いていいのか」の判断に不安がある場合は、人事専門家のサポートを活用するのも一つの方法です。

複数回転職歴がある候補者の評価基準

転職回数が多い候補者に対して「大丈夫か?」という感覚はあっても、どう評価すればよいかの基準がないと、結局「経験値があるから」という理由で採用してしまいます。評価基準を明確にもつことが定着リスクの判断精度を上げます。

転職理由の「一貫性」と「成長性」を見る

転職回数そのものよりも重要なのは、それぞれの転職に文脈の一貫性があるかどうかです。たとえば「製造業の現場経験を積んだあと、品質管理の専門性を深めるために転職し、その後サプライチェーン全体を扱う企業に移った」という流れには成長の文脈があります。一方で「職場の雰囲気が合わなかった」「期待と違った」という理由が毎回繰り返されている場合は、環境適応の課題がある可能性を示しています。「それぞれの転職でご自身はどう成長できたと感じていますか?」という問いが有効です。

「自社環境との適合」を具体的に確認する

定着リスクを見極めるには、自社の実際の職場環境を候補者に正直に伝えたうえで、反応を観察することも重要です。「弊社は20名規模なので、一人ひとりが複数の役割を担います。前職と比べてどう感じますか?」「意思決定のスピードが速く、仕組みが整っていない部分もあります。そういった環境は得意ですか?」と具体的に聞くことで、理想と現実のギャップを面接段階で縮めることができます。入社後のミスマッチは、採用時に伝えるべき情報を伝えていなかったことが原因の一つです。

面接官としての質問設計トレーニングをどう進めるか

深掘り質問は、その場のアドホックな会話力に依存しない「設計」が前提です。面接官が変わっても一定の質問精度を保つために、事前設計と振り返りの仕組みを作ることが重要です。

質問リストを事前に準備・共有する

面接前に「この候補者には何を確認すべきか」を整理したチェックリストを用意することが出発点です。退職理由の確認では、最低限「退職を決意したきっかけ」「その状況での本人の行動」「転職で変えたかったこと・変えたくなかったこと」の三点を確認するよう設計します。経営者・マネージャーが面接を担当する場合も、このリストを共有しておくことで個人の感覚的判断に依存しすぎることを防げます。

面接後の振り返りを習慣化する

面接終了後に「退職理由を深掘りできたか」「回避動機と接近動機の両方を確認できたか」を10分程度で振り返る習慣を持つことで、質問力は着実に上がります。採用後に短期離職が発生した場合は、「面接でどの情報を取れていなかったか」を遡って検証することも重要です。この「採用振り返りログ」を積み重ねると、自社特有の定着リスクのパターンが見えてきます。

リファレンスチェックを補完的に活用する

どれだけ丁寧に面接を設計しても、候補者が意図的に情報をコントロールする場合には限界があります。こうした場合に補完的に有効なのが、リファレンスチェック(候補者の同意を得たうえで前職関係者に確認する手法)です。日本でも近年活用が広まっており、面接だけでは見えにくい行動特性・対人関係のパターンを確認できます。ただし候補者への事前説明と同意取得が必須であり、取得した情報の管理にも個人情報保護法の観点から注意が必要です。導入を検討する場合は、実施方法を事前に整備してから運用してください。

採用判断に迷ったときや、人事対応で判断基準が不明確なときは、一人で抱え込まず専門家に相談することが早期離職防止の第一歩です。

まとめ

退職理由の深掘りは、「失礼かもしれない」という遠慮を手放し、候補者の適性・能力を正当に確認するための技術です。表面的な回答で面接を終わらせないために、STAR法による行動事実の確認、回避動機と接近動機の両軸チェック、別質問によるクロス確認という三つのアプローチを組み合わせることが有効です。あわせて、公正採用選考の原則と個人情報保護法の観点から「聞いてよい範囲」を正確に理解しておくことで、過剰な自主規制を解消し、必要な情報をしっかり取れる面接が実現します。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない成長企業向けに、採用面接の設計から入社後のメンタルヘルス対応・休職復職支援まで一貫して支援しています。「面接でどこまで聞いていいのか判断に迷っている」「採用した人材がすぐ辞めてしまう状況を変えたい」という場合は、まずは気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 「一身上の都合」と言われたとき、どう深掘りすればよいですか?

A. 「一身上の都合」はほぼすべての退職に当てはまる言葉であり、そのまま受け取る必要はありません。「差し支えない範囲で教えていただけますか?退職を考え始めた時期のことを少し詳しく聞かせてください」と丁寧に問い直すことが基本です。さらに「もし前職の環境が変わっていたら今も続けていましたか?」という問いを重ねると、回避動機が出やすくなります。

Q. 転職回数が多い候補者は採用しないほうがよいですか?

A. 転職回数そのものは採用可否の基準にはなりません。重要なのは、それぞれの転職に成長や一貫したキャリア文脈があるかどうかです。「職場の雰囲気が合わなかった」という理由が毎回繰り返されている場合は、環境適応の課題として面接で確認すべきポイントになります。一方で、業界・職種の経験を積むために複数の企業を経ている場合は、プラスに評価できる場合もあります。

Q. 前職での休職歴について面接で聞くことはできますか?

A. 病歴は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当するため、取得には本人の同意が必要です。候補者が自ら休職歴に触れた場合は、業務遂行に関わる体調について「現在の状況をお聞かせいただけますか?」と丁寧に確認することは可能です。ただし個別の状況によって判断が異なるため、対応に迷う場合は専門家への相談をお勧めします。

Q. 面接官が経営者一人の場合、質問設計はどう進めればよいですか?

A. まず「退職理由の確認で最低限聞くこと」を3〜5項目リスト化し、面接前に手元に置いておくだけで大きく変わります。具体的には、退職を決意したきっかけ・そのときの本人の行動・転職で変えたかったこと・自社環境との適合確認、の四点が基本です。面接後に「今日は何を聞けて何を聞けなかったか」を5分でメモする習慣を加えると、回を重ねるごとに質問精度が上がります。

Q. リファレンスチェックを導入したいのですが、何から始めればよいですか?

A. まず候補者への事前説明と書面による同意取得の仕組みを整えることが出発点です。「選考の一環としてリファレンスチェックを行うことがある」と応募要項や面接の場で事前に伝え、実施する場合は候補者に確認先の候補を出してもらう形が一般的です。取得した情報は採用目的に限定して使用し、管理方法も明確にしておく必要があります。初めて導入する場合は、専門家のサポートのもとで手順を整備することを推奨します。

【監修】ウェルセンス株式会社
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