採用選考中に妊娠が発覚したら不採用にしていい?

採用選考中に妊娠が発覚したら不採用にしていい? 採用・定着
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「妊娠しています」——面接中にそう告げられたとき、どう対応すればよいか。即答できる経営者・人事担当者は多くありません。「正直、今すぐ動ける人材が必要なのに」という本音と、「でも、違法になるのでは」という不安が同時に頭をよぎる。その判断を誤れば、訴訟リスクや社会的信用の失墜につながりかねません。この記事では、採用選考中に妊娠が発覚した場合の法的リスクと実務上の正しい対応を、専任人事がいない企業の方にもわかるよう整理します。

妊娠を理由にした不採用は、原則として違法

結論から言えば、採用選考中に妊娠が発覚した場合、妊娠を理由に採用を断ることは違法です。男女雇用機会均等法(以下、均等法)に違反する性差別として判断されます。「採用するかどうかは会社の自由では」と感じる方も多いですが、採用の自由にも法律上の限界があります。

均等法が禁じていること

均等法第5条は、事業主が労働者の募集・採用において、性別を理由とした差別的取扱いをすることを禁止しています。妊娠は生物学的に女性のみに生じる事象であるため、妊娠を不採用理由にすることは「女性であることを理由とした差別」に直結します。

厚生労働省が定める「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し事業主が適切に対処するための指針」においても、妊娠・出産を理由とした不利益取扱いの禁止が明示されています。つまり、採用選考の段階から、妊娠に基づく差別的扱いは許されないということです。

「採用の自由」との関係

確かに、採用するかどうかの判断は企業の裁量に委ねられている部分があります。しかし、その裁量の行使が特定の属性(ここでは女性・妊娠)に基づく場合、法律はその裁量を認めません。

「現場が回らないから」「すぐ産休に入られると困るから」という理由は、経営上の切実な悩みではあっても、法的には正当化の根拠にはなりません。この点を明確に理解しておくことが、後々のトラブル防止につながります。

採用面接で妊娠の有無を聞いてもいいのか

採用面接で妊娠しているかどうかを直接質問することは、法律上の直接禁止規定はないものの、紛争リスクの観点から行うべきではありません。聞いた事実が、後の不採用判断と結びついた瞬間に、差別の証拠として機能します。

質問が「証拠」になるメカニズム

面接中に「妊娠の予定はありますか」「現在妊娠していますか」と質問し、その後に不採用となった場合、候補者の側からは「妊娠を確認したうえで落とされた」と主張する根拠になります。面接メモ・評価シート・メールのやり取りはすべて証拠になりえます。

口頭でのみ確認した場合でも、候補者がSNSや労働局に申告することで紛争に発展した実例があります。採用選考の記録は数年間保管される傾向があるため、後になって問題が浮上することも珍しくありません。

聞いてはいけない質問の具体例

以下のような質問は、妊娠の有無を直接・間接に確認するものとして避けるべきです。

  • 「現在妊娠していますか?」
  • 「近いうちに産休を取る予定はありますか?」
  • 「お子さんを作る予定はありますか?」
  • 「長期的に勤務できる体調ですか?」(健康状態を名目にした間接確認)

一方、業務に必要な要件(夜間勤務・出張・特定の身体的要件など)は、妊娠の有無に関わらず全候補者に均等に確認する形で問題ありません。「夜間勤務が月○回あります。対応可能ですか」という聞き方であれば、妊娠の有無を確認するものではなく業務条件の確認として正当性があります。

内定後に妊娠が発覚した場合、取消はさらに厳しい

採用選考中の不採用よりも、内定後の取消はより高いハードルが課されます。内定は法律上「労働契約の成立」とみなされるためです。

内定の法的性質——「解雇」に準じる扱い

最高裁判所昭和54年7月20日判決(大日本印刷事件)は、採用内定通知と誓約書の提出により「始期付き解約権留保付き労働契約」が成立すると判示しています。つまり、内定を出した段階で企業と候補者の間には労働契約が成立しており、内定を取り消すことは実質的に解雇に準じる行為です。

解雇に必要な「客観的合理性」「社会的相当性」(労働契約法第16条の法理の類推適用)が求められます。妊娠を理由とした内定取消は、均等法違反に加え、不法行為(民法第709条)として損害賠償請求の対象となりえます。

採用選考中と内定後の違い

局面 法的位置づけ 妊娠理由の不採用・取消のリスク
選考中(内定前) 採用の裁量の範囲内だが均等法の制約あり 均等法違反として行政指導・訴訟リスク
内定後 労働契約が成立済み(始期付き) 解雇準拠の基準が適用・損害賠償請求のリスク(より高い)
入社後 雇用関係が完全に成立 解雇は原則無効・均等法・育介法の保護対象

よくある誤解——「黙っていた候補者が悪い」は通用しない

「妊娠していることを事前に伝えなかった候補者にも問題がある」という考えは、法的には認められません。妊娠の有無は個人のプライバシーに属する情報であり、候補者には申告義務がないからです。

プライバシーと申告義務

労働法の世界では、個人情報・プライバシーの保護が採用局面にも及びます。妊娠の有無は健康・身体に関する極めてセンシティブな情報であり、候補者がそれを開示しないことは「隠した」「欺いた」とは評価されません。

「重要事項の不告知があったから内定取消は正当」という主張は、裁判例においてほぼ認められていません。法的には、候補者は妊娠状況について企業に報告する義務を負わないのです。

「信頼関係の毀損」という名目も使えない

「妊娠を黙っていたことで信頼関係が損なわれた」という理由づけも、同様の理由で機能しません。そもそも候補者に告知義務がない情報を「告知しなかったこと」は、信頼関係の毀損には当たらないからです。

この論法を用いると、かえって「候補者に申告義務があると誤認していた」として企業側の認識の甘さが問われる可能性もあります。法的な安定性を欠いた主張は、紛争時にマイナスに働くことを念頭に置いてください。

では、どのような判断なら法的に許容されるのか

妊娠を直接の理由としない不採用であれば、すべてが認められるわけではありませんが、正当性が認められやすいケースは存在します。重要なのは、妊娠発覚前から一貫した評価基準を持っていたかどうかです。

正当性が認められやすい要素

以下の要素が揃っている場合、法的リスクは相対的に低くなります。ただし、個別事情によって判断が異なるため、必ず専門家に確認することが必要です。

  • 採用要件(スキル・経験・資格)の不充足が妊娠発覚前から記録されている:評価シートや面接メモに、妊娠発覚前の時点で「要件未達」と明記されていること
  • ポジション自体の消滅・採用計画の変更が客観的に証明できる:組織改編や予算凍結など、妊娠発覚とは無関係の事情によるポジション廃止
  • 職種の本質的要件として妊娠中の就業が困難であることが客観的に明確:特定の危険業務への従事が職務の中核であり、代替手段がない場合

「表向きの理由」とみなされるリスク

上記の要素があっても、妊娠が発覚した後に評価が急変していた場合は、「妊娠を知ってから理由を後付けした」とみなされるリスクがあります。特に、それまで好意的な評価だったにもかかわらず妊娠発覚後に急に不採用となったケースでは、実質的な差別と判断される可能性が高まります。

妊娠発覚前後で評価の変化がないことを、客観的な記録で示せることが極めて重要です。事実の記録が不十分だと、後から「実は差別的な意図があったのでは」と疑われやすくなります。

採用選考中に妊娠を告げられたときの実務対応

候補者から「実は妊娠しています」と告げられた場合、その場での言動が後々の法的判断に影響します。慌てず、感情的にならず、適切に対応することが求められます。

その場でやってはいけないこと

まず、即座に「それでは採用が難しい」「業務上問題がある」と発言することは絶対に避けてください。その一言が、後に差別発言として問題になります。「産休・育休に入られると困る」という本音を口にすること、妊娠に関連する追加質問(出産予定日・体調・育休期間の見込みなど)も、この場では慎むべきです。

記録の面でも、候補者から妊娠告知を受けたという事実をメモに残すことは、慎重に判断してください。後の参照時に「妊娠を知った上で不採用にした」と解釈される可能性があるためです。

適切な対応の流れ

告知を受けた場合は、「教えていただきありがとうございます。選考は引き続き通常通り進めます」と伝えることが基本です。その後、選考の評価はあくまでスキル・経験・採用要件に基づいて行い、妊娠の事実を評価に組み込まないことを担当者全員で徹底してください。

社内で共有する際も「妊娠していると申告があった」という情報は必要最小限に留め、評価シートへの記載は避けることが望ましいです。選考結果が不採用となる場合は、その理由が妊娠以外の客観的な理由に基づくものであることを、記録として明確に残しておくことが重要です。

まとめ

採用選考中に妊娠が発覚した場合、それを理由とした不採用・内定取消は原則として違法です。均等法第5条に基づく性差別の問題であり、内定後であれば解雇に準じる基準が適用されます。面接での妊娠確認質問も、後の不採用と結びつけば差別の証拠になります。「黙っていた候補者が悪い」という論理は法的に通用せず、候補者には申告義務がありません。

正当な不採用理由があるとしても、それが妊娠発覚前から一貫した評価に基づくものでなければ「後付けの理由」と判断されるリスクが高まります。こうした判断は、ケースごとに事実関係が大きく異なるため、一律の対応は危険です。

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よくある質問

Q. 妊娠を理由に不採用にした場合、どのような法的リスクがありますか?

A. 男女雇用機会均等法第5条違反として、都道府県労働局による行政指導・勧告の対象になります。内定後であれば不法行為(民法第709条)として損害賠償請求訴訟に発展するリスクもあります。また、SNSや口コミサイトを通じた企業イメージへのダメージも無視できません。問題化した場合の対応コストも相応に大きくなります。

Q. 採用面接で「長期間働けますか」と聞くのは問題ないですか?

A. 妊娠の有無を間接的に確認する意図で使われた場合は問題になりえます。一方、全候補者に対して均等に「当社では最低2年以上の勤務を期待しています。長期的なキャリア形成をお考えですか」と業務条件として確認する場合は、妊娠に特化した質問とはみなされにくいです。ただし、妊娠発覚後に同じ質問をした場合は文脈によって判断が変わるため注意が必要です。

Q. 候補者が妊娠を自ら申告した場合と、こちらが確認した場合で扱いは変わりますか?

A. 法的な結論は変わりません。候補者が自発的に申告した場合でも、その情報を採用判断に使えば均等法違反となります。重要なのは「妊娠の情報を知った後、評価に影響を与えなかったか」であり、申告の経緯ではなく情報の取り扱い方が問われます。自発的申告だからといって、記録に残したり他の判断基準に組み込んだりすれば、トラブルのリスクは同じです。

Q. 妊娠していても問題なく働ける職種と、そうでない職種で判断は変わりますか?

A. 職種の本質的要件として妊娠中の就業が客観的に困難な場合(例:特定の有害業務への常時従事が必須で代替業務がない場合)は、考慮要素になりえます。ただし、「大変だから」「負担が大きいから」という抽象的な理由では不十分で、業務の具体的な性質と代替手段の有無を客観的に示せることが必要です。この判断は個別性が高いため、企業側の単独判断は避け、専門家への確認をお勧めします。

Q. すでに妊娠を理由に不採用にしてしまった可能性があります。今からできることはありますか?

A. まず、当時の評価記録・面接メモ・連絡履歴を整理し、不採用の判断がどのような根拠に基づいていたかを確認してください。候補者からすでに異議申し立てや問い合わせがある場合は、感情的に対応せず事実確認を優先することが重要です。記録が不十分な場合でも、今からできる対応があります。早期に社労士・弁護士等の専門家に相談し、自社の記録と法的リスクを客観的に評価してもらうことをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
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