社員のSNS投稿、削除を求めることはできる?

社員のSNS投稿、削除を求めることはできる? 採用・定着
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「うちの社員が会社の不満をSNSに書いている。でも、削除を求めていいのか、法的な根拠があるのかさえわからない——」

社員のSNS投稿トラブルは、専任人事がいない中小企業ほど初動で迷いやすい問題です。「お願い」なのか「命令」なのか、就業規則に規定がなくても動けるのか、対応を誤って逆に訴えられないか。本記事では、削除要請の法的根拠から具体的な対応フロー、よくある落とし穴まで、実務で使える形に整理します。

削除を「お願い」するのか「命令」するのか

在職中の社員に対しては、労働契約に基づく業務命令として削除を求めることが可能です。ただし、その命令の強度と正当性は、就業規則の整備状況によって大きく変わります。

在職中の社員への削除要請

労働契約には「誠実義務(信義則上の義務)」が付随しており、社員は会社の利益を不当に損なう行為を控える義務を負います。また、就業規則に服務規律や秘密保持義務の規定があれば、それを根拠に削除を業務命令として指示できます。

就業規則にSNSに関する明示的な規定がない場合でも、「会社の信用を傷つける行為を禁ずる」といった一般条項が存在すれば、SNS投稿の削除命令の根拠として活用できる可能性があります。ただし規定が曖昧なほど、命令の正当性に疑義が生じやすくなります。

退職者・元社員への削除要請

退職後は就業規則上の服務規律は原則として及びません。そのため、在職中の根拠のみで削除を命じることはできません。

退職者に対して削除を求めるには、次のいずれかの根拠が必要です。

  • 退職時に締結した秘密保持誓約書・競業避止誓約書の違反
  • 民法709条に基づく不法行為(名誉毀損・業務妨害)
  • 不正競争防止法上の営業秘密侵害

退職後トラブルへの備えとして、退職時に秘密保持誓約書を締結しておくことが重要です。在職中は当然の義務でも、退職後は書面がなければ根拠が脆弱になります。

投稿内容の「違法性」はどう判断するか

すべての不満投稿が違法になるわけではありません。削除を求められる根拠があるかどうかは、投稿内容の性質によって変わります。以下の3つの軸で判断してください。

名誉毀損・侮辱にあたる投稿

「事実を書いているから問題ない」という誤解は非常に多いですが、これは正確ではありません。刑法230条は、事実を摘示して他人の名誉を毀損する行為を処罰対象としており、「事実だから免責」ではありません。免責されるのは刑法230条の2が定める「公益目的かつ真実性・相当性」の要件を満たす場合に限られます。

また、事実の摘示がなく単に悪口を書く行為は刑法231条の侮辱罪に該当しうります。会社名を出さずとも、業種・地域・従業員数などから会社が特定できる状態であれば、匿名投稿であっても名誉毀損は成立しえます。

秘密漏洩にあたる投稿

顧客情報や取引先の未公開情報、社内の財務データなどを投稿している場合は、不正競争防止法2条1項7号(営業秘密の不正開示)や個人情報保護法の問題になりえます。秘密情報は「会社が秘密として管理している情報」であることが要件なので、日頃から情報管理体制を整えておくことが、後の法的対応の前提となります。

違法性の軸 投稿の具体例 根拠法令
名誉毀損 「うちの会社は○○した」という事実摘示 刑法230条・民法709条
侮辱・誹謗中傷 経営者・同僚への根拠なき悪口 刑法231条
秘密漏洩 顧客名・未公開情報の暴露 不正競争防止法・個人情報保護法

就業規則に規定がない場合でも懲戒できるか

就業規則に根拠規定がなければ、懲戒処分は原則として無効と判断されるリスクがあります。これは「規定がなければ何もできない」という意味ではなく、「規定なしに懲戒処分を下すと会社側が敗訴するリスクがある」ということです。

懲戒処分が有効とされるための4つの要件

最高裁・フジ興産事件(2003年)などの判例が示す有効要件は次のとおりです。

  • 就業規則上に懲戒事由と処分の種類が規定されていること
  • 投稿内容が懲戒事由に実質的に相当すること(比例原則)
  • 本人への弁明機会を付与していること
  • 不当な動機・目的(報復など)がないこと

SNS投稿が業務時間外・私用端末からのものであっても、会社の社会的評価や信用を損なう内容であれば懲戒対象となりうることは、東京地裁の複数の裁判例で認められています。ただし、その前提として就業規則上の根拠規定の存在が不可欠です。

「一般条項」だけでの対応の限界

「誠実義務」「会社の信用を傷つける行為の禁止」といった一般条項はあるが、SNSに特化した記載がない——という企業は多いです。この場合、「会社の信用を著しく傷つけた」として懲戒処分の根拠に使えないわけではありませんが、処分の正当性を争われたとき、会社側の主張が脆くなります。SNS規定を今すぐ整備することが、将来のリスク軽減に直結します。

投稿を発見してからの対応フロー

投稿を発見したら、まず感情的に動かず、証拠の保全と法的評価を先行させることが鉄則です。初動の誤りが後の対応全体を複雑にします。

証拠保全と法的評価を最初に行う

まず最初にすべきことは、スクリーンショット・URL・投稿日時を保存することです。投稿はいつ削除されるかわからないため、証拠は発見直後に保全してください。その後、投稿内容が名誉毀損・秘密漏洩・その他の違法性に該当するかを判断します。判断に迷う場合は、この段階で弁護士や専門家に相談することを勧めます。

本人への確認と削除要請は書面で行う

次に、就業規則上の根拠規定を確認したうえで、本人に事実確認と弁明の機会を与えます。「知らなかった」「本人ではない」という可能性もゼロではないため、決めつけた態度での接触は避けてください。削除要請は口頭だけでなく、書面(メールでも可)で行い、記録を残すことが重要です。

削除に応じない場合・退職後の対応

本人が削除を拒否した場合や退職後も投稿が継続する場合は、次の選択肢を検討します。

  • 各SNSプラットフォームの名誉毀損・プライバシー侵害報告窓口への申請
  • プロバイダ責任制限法(令和3年改正)に基づく発信者情報開示請求
  • 弁護士名義による投稿削除の仮処分申立て
  • 名誉毀損・業務妨害を根拠とした損害賠償請求

プラットフォームへの申請はプラットフォーム独自の判断によるため、必ずしも削除されるわけではありません。確実性を求めるなら弁護士を通じた法的手続きが現実的な手段です。

対応を誤ったときのリスク——逆に訴えられないために

削除要請や懲戒処分の手続きを誤ると、会社側がパワハラや不当解雇として訴えられるリスクがあります。「投稿が問題だったとしても、対応プロセスの瑕疵で会社が負ける」ケースは珍しくありません。

「言った言わない」を避けるための記録管理

削除要請・弁明機会の付与・懲戒手続きは、すべて書面やメールで記録を残してください。口頭だけのやり取りは、後に「そんな話は聞いていない」「一方的に処分された」と主張されたとき、会社側に不利に働きます。

感情的な対応・過剰な処分はしない

「投稿が腹立たしいから即解雇」という対応は、比例原則(処分の重さが違反の程度に見合っていること)に反するとして処分が無効とされるリスクがあります。不満の書き込みで戒告・譴責にとどめるべきケースで解雇を選択すれば、逆に会社が損害賠償を求められる事態にもなりえます。初めての案件では、段階的な処分(口頭注意→書面注意→戒告)のプロセスを踏むことが安全です。

今すぐ着手すべき就業規則の整備ポイント

SNSトラブルが起きてから規定を整備しても、その規定は「事後の追加」として処分の根拠になりません。トラブルが起きる前に、就業規則にSNS関連の条項を盛り込んでおくことが最も有効な予防策です。

SNS規定に盛り込むべき内容

最低限、以下の内容を就業規則または別規程(ソーシャルメディアポリシー)に明記することを推奨します。

  • 会社・業務に関する情報のSNS投稿に際しての遵守事項
  • 会社の社会的信用を損なう投稿の禁止
  • 顧客情報・営業秘密の投稿禁止
  • 違反した場合の懲戒処分の種類(戒告・減給・出勤停止・解雇など)
  • 退職後も秘密保持義務が継続することの明示

企業規模・状況別の優先度

就業規則を一度も見直していない、または10名未満で規則が未整備の企業は、まずSNS規定の新設よりも就業規則全体の法令適合性を確認することが先決です。一方、既存の就業規則があり服務規律の条項が存在するが「SNS」という文言が一切ない場合は、既存条項への追加・改定という形で対応できます。従業員への周知・意見聴取の手続きを経たうえで変更することも忘れずに(労働契約法10条)。

まとめ

社員のSNS投稿への削除要請は、在職中であれば労働契約上の誠実義務と就業規則を根拠に業務命令として行うことが可能です。ただし、就業規則の整備状況・投稿内容の違法性・対応手続きの適正さによって、その正当性は大きく変わります。退職者には秘密保持誓約書や不法行為(名誉毀損)を根拠とする対応が必要となり、法的手続きへの発展も視野に入れなければなりません。

対応を誤れば会社側が訴えられるリスクもあります。「まず証拠保全→法的評価→書面による要請→段階的処分」という手順を守り、就業規則のSNS規定を今のうちに整備しておくことが、最大の予防策です。

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よくある質問

Q. 会社名は書かれていないが、業種・地域・人数などから特定できる投稿は問題になりますか?

A. 問題になりえます。名誉毀損の成立には会社名の明記は必須ではなく、投稿を読んだ一定の読者が「どの会社か」を特定できる状態であれば、法的な問題が生じる可能性があります。業種・地域・組織規模・特定のエピソードなどを組み合わせれば特定できるケースは多く、「名前を書いていないから大丈夫」という判断は危険です。

Q. 就業規則にSNSに関する規定が何もない場合、懲戒処分はできませんか?

A. SNS専用の規定がなくても、「会社の信用を傷つける行為の禁止」などの一般条項を根拠に懲戒処分を試みることは可能です。ただし、規定が曖昧なほど処分の有効性を争われたときのリスクが高まります。SNS関連の問題が起きる前に、就業規則にSNS規定を明示的に追加しておくことを強く推奨します。

Q. 本人が削除を拒否した場合、強制的に削除させる法的手段はありますか?

A. 直接本人に強制することはできませんが、弁護士を通じた仮処分(投稿削除を求める仮処分命令)や、プロバイダ責任制限法(令和3年改正)に基づく発信者情報開示請求を組み合わせた法的手続きを取ることは可能です。また各SNSプラットフォームの通報窓口への申請も一つの手段ですが、削除の保証はなく、迅速かつ確実な対応を求めるなら弁護士への依頼が現実的です。

Q. 退職後に元社員が会社の悪口をSNSに書き続けています。どうすればよいですか?

A. 退職後は就業規則の服務規律が原則として及ばないため、在職中と同じ手段は使えません。退職時に秘密保持誓約書を締結していた場合はその違反を根拠に、締結していない場合は民法709条の不法行為(名誉毀損・業務妨害)を根拠に削除要請・損害賠償請求を検討します。まず弁護士に相談し、投稿内容の違法性評価を受けることが先決です。

Q. SNS規定を就業規則に追加するとき、社員の同意は必要ですか?

A. 就業規則の変更は、原則として労働者の過半数代表者への意見聴取と労働基準監督署への届出が必要です(労働基準法89条・90条)。ただし「同意」と「意見聴取」は異なり、代表者が反対意見を述べても変更自体は可能です。一方、社員に不利益を与える変更の場合は、労働契約法10条が定める「合理性」要件を満たす必要があります。SNS規定の新設はルールの明確化であるため、通常は不利益変更とはみなされませんが、念のため専門家に確認しながら進めることをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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