休職中の社員を飲み会に誘っていいか迷ったら

メンタルヘルス対応

「今月、チームの打ち上げがあるんですが……休んでいる○○さんも誘ったほうがいいですかね?」——採用担当を兼務している総務部のAさんが、そんな質問をSlackに投げたのは金曜の夕方でした。誰も答えられないまま週末に入り、結局なんとなく誘わないことにした。そういう判断を積み重ねているうちに、復職してきた社員が「自分はいなかったことにされていたんだな」と感じてしまう。小さな判断の迷いが、長期的な職場関係に影響することがあります。この記事では、休職中の社員を飲み会に誘うかどうかを判断するための軸と、誘う・誘わないそれぞれの場合の実務手順を整理します。

「誘う・誘わない」の二択より先に確認すべきこと

休職中の社員への飲み会の誘いは、一律にOKともNGとも言えません。判断の前提として、休職の原因・回復段階・本人の意向という三つの軸を確認することが必要です。

休職の原因による分岐

休職の原因が職場の人間関係や上司・同僚とのトラブル、ハラスメントである場合、飲み会への誘いは「加害行為の延長」と受け取られるリスクがあります。本人にとっては「なぜあなたたちと飲まなければならないのか」という感情につながりかねません。この場合、誘うこと自体が心理的な負荷になる可能性が高く、慎重に対応する必要があります。

一方、業務量の過多や体調不良、家庭の事情が主な原因であれば、チームとのゆるやかな接点を保つことが回復を支える場合もあります。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」においても、休職中の職場との連絡・関係維持を段階的に設計することが推奨されており、「完全な遮断」は必ずしもベストプラクティスではありません。

回復段階の確認

主治医から「外出可能」「社会的な活動を少しずつ再開してよい」という判断が出ている段階なのか、まだ自宅安静が続いている段階なのかによっても対応は変わります。特に試し出勤やリハビリ出社の期間中は、「もうほぼ回復した」と周囲が思い込みやすいですが、本人はまだ相当なエネルギーを使って職場に来ている状態です。この時期に社内外のイベントへの誘いを重ねることは、回復の妨げになる場合があります。

本人の意向を確認する前に動かない

判断の軸が整っても、本人の意向を確認しないまま「誘う」「誘わない」を決めてしまうことには注意が必要です。ただし、本人に確認する際も「来れそうなら来てください」という曖昧な伝え方は避けるべきです。休職中の方は「断ると職場の印象が悪くなるかもしれない」と感じて同調してしまいがちで、「考えてみます」という返答を「OKのサイン」と読み違えるケースが起きやすくなります。確認する場合は、参加を前提としない文脈(「無理に参加しなくていい」「返信しなくても大丈夫」)を明示した上で行うことが基本です。

判断軸を整理する:誘う・誘わないの分岐表

休職の原因・回復段階・本人の希望の三つをかけ合わせると、対応の方向性が見えてきます。以下の表を参考に、自社のケースに当てはめてみてください。

休職原因 回復段階 推奨される対応
職場の人間関係・ハラスメント どの段階でも 原則として誘わない。連絡も最小限にとどめ、主治医・専門家に相談
業務過多・体調不良・家庭事情 自宅安静・急性期 誘わない。定期連絡のみ(頻度・内容も本人と事前に合意する)
業務過多・体調不良・家庭事情 回復期(外出可能) 本人の希望を確認した上で、参加を強制しない形で案内を送ることは可
業務過多・体調不良・家庭事情 試し出勤・リハビリ出社中 慎重に対応。産業医または主治医の見解を確認してから判断する

法的・実務的に押さえておくべきリスク

休職中であっても雇用関係は継続しているため、会社には安全配慮義務(労働契約法第5条)が残ります。飲み会への誘いが本人に心理的な負荷をかけた場合、この義務との関係で問題になる可能性があります。

安全配慮義務とハラスメントの観点

労働契約法第5条は、使用者が労働者の生命・身体・健康を危険から保護するよう配慮する義務を定めています。休職中の社員に対しても、この義務は消えません。本人が明示的に「休職中は連絡してほしくない」と意思表示しているにもかかわらず、繰り返し連絡や誘いを送ることは、精神的苦痛を与えるとしてハラスメントに発展しうる行為です。一方で、会社が意図せず本人を完全孤立させた場合、「職場から排除された」と感じた本人がその心理的被害を主張する余地がないとは言えません。どちらに振れても問題になりうる、というのがこのテーマの難しさです。

個人情報・プライバシーへの配慮

飲み会に誘わないという判断をした場合、他のメンバーへの説明が必要になることがあります。このとき、本人の病状や休職理由を具体的に開示することは、センシティブな個人情報の取り扱いとして問題になりえます。チームへの説明は「本人の体調を考慮している」という表現にとどめ、詳細は伝えないことが原則です。

傷病手当金との関係

健康保険の傷病手当金は「労務に服することができない状態」であることが受給条件です。飲み会への参加が直ちに受給資格を失わせるわけではありませんが、主治医の判断と矛盾するような活動状況が問題となるケースがゼロではありません。誤解を避けるためにも、休職中の社外活動については本人にも丁寧に説明しておくことが望ましいです。

誘わないと決めた後の実務:現場と本人への伝え方

「誘わない」と判断した後の実務対応を怠ると、チームメンバーが個別に動き始め、対応がバラバラになります。判断と同時に、チームへの周知と本人への連絡方針を整理することが重要です。

チームメンバーへの周知

経営者・人事が方針を明示しないまま放置すると、現場の同僚が「自分から誘っていいのか」「LINEしても大丈夫か」と個別に悩みます。判断の権限と責任が曖昧なまま現場に丸投げされている状態は、チーム全体のストレスになります。「○○さんの体調に配慮して、今回は案内を控えます」という一言を、飲み会の主催者か直属の上司から伝えるだけで、現場の混乱はかなり防げます。繰り返しになりますが、この際に病状の詳細を伝えることは避けてください。

本人との連絡チャネルと頻度の設計

飲み会の誘いとは別に、休職中の定期連絡(状況確認・手続き案内など)はどのチャネルで、どの頻度で行うかを、休職開始時に本人と合意しておくことが理想です。「メールのみ、月一回」「LINEはなし」など、本人の希望に合わせた設計を最初に決めておくと、「飲み会の案内を送ってよいか」という場面でも判断の根拠になります。この合意内容は、書面またはメールで残しておくことを推奨します。

判断の軸が見えても、現場やメンバー対応で迷うことは多いもの。専門家の視点で「その判断で大丈夫か」を整理する選択肢もあります。

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産業医がいない50名未満の会社での対応

従業員50名未満の企業は産業医の選任義務がなく、「主治医に聞けばいいか」「誰に相談すればいいかわからない」という状況に陥りがちです。この制約を前提にした実務対応のポイントを整理します。

主治医との連携の限界と向き合う

産業医がいない場合、休職中の社員に関する医療的な判断は主治医に委ねるしかありません。ただし、主治医は「職場の飲み会に参加してよいか」という実務的な問いには直接答えることが難しいケースも多く、「本人の希望を尊重してください」という返答にとどまることもあります。主治医からの情報は、復職判断の参考にはなりますが、飲み会対応の指針をすべて主治医に求めることには限界があります。

就業規則・復職支援規程の有無を確認する

自社に休職・復職に関する規程(就業規則内の条項含む)があるかどうかを確認してください。「休職中の社内外イベントへの参加可否」を明記している規程は少ないですが、「会社との連絡方法・頻度」「復職判断の手順」が定められているかどうかによって、飲み会への対応方針を作る際の根拠が変わります。規程が整備されていない場合は、今回の対応を機に簡単なガイドラインを作ることを検討してみてください。

外部の専門家に相談する選択肢

産業医がいない、社労士との契約もない、人事専任者もいない——という状況では、休職中の社員への対応に関して「誰に聞けばいいかわからない」という問題が出てきます。メンタルヘルスや休職復職支援に特化した外部の専門家に相談することで、判断の軸を整理し、トラブルを未然に防ぐ選択肢があります。単発での相談が可能なサービスも存在するため、抱え込まずに相談することが現実的な選択肢の一つです。

「人事だけで判断しきれない」と感じたら、その判断自体が正しい判断です。1回の相談で対応方針を整理する選択肢もあります。

まとめ

休職中の社員を飲み会に誘うかどうかは、「誘う・誘わない」の二択で考えるよりも、休職原因・回復段階・本人の意向という三つの軸を確認した上で判断することが大切です。特に、職場の人間関係やハラスメントが原因の場合は、誘うこと自体がリスクになります。判断した後は、チームへの周知と本人との連絡方針の設計を忘れずに行い、現場が個別に動かないよう会社として方針を示してください。

また、安全配慮義務(労働契約法第5条)の観点から、何もしないこと(完全な孤立)も、やりすぎること(本人の意向を無視した接触)も、どちらもリスクになりえます。「とりあえず誘わない」で済ませるのではなく、根拠のある判断と、それに基づいた丁寧なコミュニケーションが、復職後の職場関係を守ることにつながります。

ウェルセンス株式会社では、産業医がいない中小企業の経営者・人事担当者が直面する休職・復職の実務に関する相談を受けています。「自社のケースではどう判断すればいいか」「社員への連絡方針を一緒に整理したい」という方は、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 休職中の社員が「参加したい」と自分から言ってきた場合は、飲み会に参加させてもいいですか?

A. 本人の意向は大切ですが、それだけで判断するのは早計です。主治医が「社会的な活動を再開してよい」という段階にあるかどうかを確認してください。また、参加後に体調が悪化した場合も会社の安全配慮義務が問われる可能性があるため、「本人が希望したから」という理由だけで会社側の確認を省略することはリスクになります。可能であれば主治医または外部の専門家に確認した上で判断することを推奨します。

Q. 誘わないことを本人に伝えるべきですか?それとも何も言わなくていいですか?

A. 休職中の社員との連絡方針をあらかじめ合意している場合は、その方針に沿って対応してください。特に合意がない場合、「誘わないことを知らせる連絡」自体が本人に心理的な負荷をかける可能性もあります。基本的には、飲み会の案内を送らないことを積極的に通知する必要はありませんが、普段から定期的に連絡を取っている場合は「今回は案内を控えました」と一言添える配慮が関係維持につながることもあります。ケースバイケースで判断してください。

Q. チームメンバーが個人的にLINEで誘ってしまった場合、会社はどう対応すべきですか?

A. まず、その事実を把握した時点で、当該メンバーに対して「今後は個人的な連絡を控えるように」と伝えることが必要です。その上で、本人に対して「チームメンバーからの連絡があったことを把握しており、配慮が不十分だったことをお詫びする」という対応が望ましいケースもあります。再発防止のために、休職中の社員への連絡は「会社窓口(上司または人事)を通じてのみ行う」というルールをチームに周知することを検討してください。

Q. 復職した後、「飲み会に呼ばれなかった」と本人から不満を言われた場合の対応は?

A. まず、「体調への配慮から判断した」という事実と、その時点での判断の根拠を丁寧に伝えることが基本です。「排除しようとしたわけではない」という意図を明確にしつつ、本人の気持ちを否定しないことが重要です。復職後の信頼関係を修復するためには、今後のイベントへの参加について本人の希望を改めて確認し、本人が参加しやすい環境を整える具体的なアクションを示すことが効果的です。

Q. 飲み会ではなく、ランチ会やオンラインでのカジュアルな集まりも同じ判断基準で考えるべきですか?

A. 基本的な判断軸(休職原因・回復段階・本人の意向)は同じです。ただし、飲み会と比べてランチ会やオンライン集会は参加のハードルが低く、時間も短く区切りやすいため、回復期の社員にとって職場との接点を緩やかに取り戻すきっかけになる場合があります。「参加しなくていい」という選択肢を明示した上で案内するという方法は、飲み会よりも取りやすい形です。いずれの場合も、参加を強制しない文脈の設計が最も重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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