社員の弔事対応、誰がやるか決まってない会社のための整備術

社員の弔事対応、誰がやるか決まってない会社のための整備術 採用・定着
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「社員のお父様が亡くなったと連絡が入ったのですが、忌引きって何日ですか?」——そんな問い合わせが、ある日突然あなたのもとに届く。就業規則を開いても該当ページが見当たらない。前回対応した人はすでに退職している。弔慰金の金額も、供花の手配先も、誰も把握していない。

弔事対応は「いつ起きるか分からない」からこそ、事前の整備が難しい業務です。しかし対応が後手に回れば、ご遺族への配慮が欠けるだけでなく、「あの会社は冷たかった」という印象を残しかねない。人事担当者が専任でいない中小企業でも、最低限の対応フローと規程を整えておくことで、いざというときに慌てずに動けます。この記事では、今日から使える実務的な整備の手順を解説します。

弔事対応が属人化・形骸化しやすい理由

弔事対応が整備されない根本的な原因は「頻度が低いからこそ、対応が形に残らない」ことにあります。年に数回しか起きない出来事のために仕組みを作る優先度は上がりにくく、前任者が感覚でこなした対応がそのまま引き継がれないまま消えていきます。

「誰の仕事か」が宙に浮くメカニズム

専任人事がいない職場では、経営者・総務・経理・直属上長のいずれもが「自分の仕事ではないかも」と感じる状況が生まれやすい。訃報を受け取った人が右往左往している間に、ご遺族への第一報が遅れる——というケースは珍しくありません。弔事は時間的に急を要する場面だからこそ、担当が明確でないダメージが大きく出ます。

「前回やった人」が辞めると何も残らない

香典の費用をどの勘定科目で処理したか、弔電はどのサービスで送ったか、供花の発注先はどこか——こうした実務知識が特定の社員の記憶にだけ存在している状態を「属人化」と呼びます。その人が退職・異動すると、次の担当者はゼロから手探りで動くことになります。忙しい兼務人事にとって、これは非常に大きなストレスです。

「なんとなく対応できてきた」が続くリスク

過去に大きなトラブルがなかったとしても、それは「たまたま」である可能性があります。社員ごとに忌引き日数が違う、弔慰金の金額に一貫性がない——こういった対応のブレが積み重なると、後から「不公平な扱いを受けた」という不満やハラスメントの申告につながるリスクがあります。

忌引き休暇の日数をどう決めるか

忌引き休暇は法律で定められた休暇ではなく、会社が独自に設ける制度です。だからこそ、自社の実態に合ったルールを明文化することが重要になります。

忌引き休暇は「法定外」——だからこそ規定が必要

労働基準法には忌引き休暇に関する定めがありません。付与するかどうかは会社の任意ですが、就業規則に記載した場合はその内容が労働契約の一部となり、会社はそれに拘束されます(労働基準法第89条)。従業員数が10人以上の事業場は就業規則の作成・届出が義務であり、忌引き休暇を設ける場合は「相対的必要記載事項」として記載が必要です。10人未満でも就業規則を作成していれば同様に注意が必要です。

一般的な忌引き日数の目安

業界や企業規模によって差がありますが、多くの企業が採用している忌引き日数の目安は下記のとおりです。自社の規程を作る際の参考にしてください。

続柄 一般的な忌引き日数の目安
配偶者 5〜10日
父母 5〜7日
5〜7日
兄弟姉妹 3〜5日
祖父母 1〜3日
配偶者の父母 3〜5日
叔父・叔母・甥・姪 1〜2日

忌引き期間を有給とするか無給とするかも会社が決める事項です。有給とする企業が多いですが、どちらを選ぶにしても就業規則に明記することが重要です。

続柄の確認方法と注意点

実際の運用では「続柄をどうやって確認するか」という問題が出てきます。一般的には本人からの申告を基本とし、必要に応じて死亡診断書・会葬礼状の写しなどで確認する方法が取られます。ただし、悲しみの中にある社員に対して過度な証拠提出を求めるのは配慮を欠く対応になりますので、「確認は形式的に行い、基本的に申告を信頼する」という運用方針をあらかじめ決めておくと良いでしょう。

弔慰金の支給ルールと税務上の注意点

弔慰金は、適切に規程化しておかないと支給額のブレや税務リスクが生じます。まず「いくら、誰に、いつ支給するか」を慶弔規程に落とし込み、経理処理のルールも合わせて整備することが重要です。

弔慰金の規程に盛り込む項目

弔慰金の規程を作成する際には、少なくとも次の項目を定めておきましょう。対象となる続柄の範囲、支給金額(続柄ごとに設定することが一般的です)、支給のタイミング(給与支払日に合わせる場合と随時支給する場合があります)、支給方法(現金手渡しか振込か)、申請の手続きと必要書類。これらを明文化しておくことで、担当者が変わっても同じ対応ができるようになります。

弔慰金の非課税要件を理解する

弔慰金は、社会通念上相当な金額であれば所得税が非課税となります(所得税法施行令第30条)。「社会通念上相当」の具体的な金額基準は法令で明示されていませんが、一般的に数万円程度であれば問題になることはほとんどありません。一方、著しく高額な弔慰金は給与とみなされて課税される可能性があります。金額設定に迷う場合は、税理士や社会保険労務士に確認することをお勧めします。また、弔慰金は給与ではないため、給与台帳とは別に支給記録を残しておくことが後の税務対応でも重要です。

香典・弔電・供花の費用処理

会社名義で香典・弔電・供花を手配する場合の費用は、一般的に「交際費」または「福利厚生費」として処理します。どの勘定科目を使うかは税理士と確認した上でルール化しておくと、毎回判断が揺れません。また「誰が手配するか」「費用の上限はいくらか」「発注先はどこか」をチェックリストに残しておくと、担当者が変わっても迷わず動けます。

弔事対応フローの作り方

弔事対応フローの整備は、複雑なシステムは不要です。「誰が・何を・いつまでに」を一枚の紙に落とし込むだけで、急な対応時の混乱を大幅に減らすことができます。

対応フローの基本ステップ

訃報を受けてから対応が完結するまでの流れを整理すると、おおむね次のようなステップになります。

まず訃報を受けた人が「弔事対応窓口」に連絡し、窓口担当者が経営者または管理職に報告します。次に続柄を確認し、就業規則に基づいて忌引き日数を決定。上長が承認します。その後、会社名義の弔電・供花・香典の手配を行い、弔慰金の支給手続きを進めます。最後に給与・勤怠システムへの入力と経理処理を行い、クローズです。

このフローで最も重要なのは「最初の窓口が誰かを決めておくこと」です。担当者名ではなく「役職」で定めておくと、人が変わっても機能します。

社員本人が亡くなった場合の追加対応

社員自身が亡くなった場合は、通常の弔事対応に加えて複数の行政手続きが必要になります。これは通常の退職とは異なる対応が求められる場面です。主な手続きとして、雇用保険の資格喪失届(ハローワークへ、死亡翌日から10日以内)、健康保険・厚生年金保険の資格喪失届(年金事務所または健保組合へ、死亡日から5日以内)が挙げられます。また、未払い賃金は相続財産となるため(民法上の取り扱い)、相続人を確認した上で支払い先を決める必要があります。死亡退職金については相続税の課税対象となり、一定の非課税枠があるものの、支給時期によって課税区分が変わります。これらの手続きは社会保険労務士や税理士と連携して進めることを強くお勧めします。

慶弔規程ひな形の活用方法

インターネット上には慶弔規程のひな形が多数公開されていますが、そのまま使うことには注意が必要です。ひな形はあくまで構成の参考として使い、自社の従業員構成・支給実績・財務状況に合わせて金額や続柄の範囲をカスタマイズすることが重要です。特に「弔慰金の金額」は自社の実態と大きくかけ離れた数字が設定されているひな形もあるため、必ず確認してから採用してください。作成した規程は就業規則の一部として位置づけ、従業員への周知と労働基準監督署への届出(10人以上の場合)を忘れずに行いましょう。

規程がない・就業規則が古い会社がまず着手すること

慶弔規程も就業規則も整備されていない会社は、完璧なものを一度に作ろうとするより、「最低限動けるチェックリスト」から始めるのが現実的です。

まず「対応窓口と連絡ルート」だけ決める

規程の整備には時間がかかりますが、「訃報を受けたら誰に連絡するか」だけは今日中に決められます。これがないと、発生のたびに「誰が動くか」で時間を浪費します。緊急連絡先と役割分担を一枚のシートにまとめ、総務・経理・経営者で共有しておくだけで、初動の混乱が大幅に減ります。

従業員数・就業規則の有無で優先度を判断する

会社の状況によって、優先して整備すべき項目は異なります。従業員数が10人以上で就業規則を作成している場合は、慶弔に関する条項が就業規則に含まれているかを確認し、記載がなければ追記と届出が必要です。従業員数が10人未満で就業規則がない場合でも、社内ルールとして慶弔規程を文書化しておくことは、対応のブレをなくすために有効です。どちらの場合も、まず「現状を確認する」ことが最初のステップです。

整備を後回しにするコストを意識する

慶弔対応の整備を後回しにすることには、目に見えないコストがあります。対応のブレによる社員の不満、ご遺族に対する配慮不足による信頼の損失、税務処理の誤りによるリスク——これらはいずれも「規程を作っておけば防げた」ことです。特に社歴が浅く兼務で人事を担っている担当者にとって、「前例がない」場面での判断は大きな精神的負担になります。仕組みを作ることは、担当者自身を守ることでもあります。

規程作成の手順が分からない、税務的に正しいか不安——そんなときは、プロに相談することで判断の迷いを減らせます

まとめ

弔事対応は「頻度が低いから整備が後回しになる」業務の代表格ですが、だからこそ発生時のインパクトが大きくなります。対応窓口の明確化、忌引き日数の規程化、弔慰金の支給ルールと税務処理、社員本人死亡時の行政手続きまで、整備すべき項目は多岐にわたります。一度に完璧な規程を作る必要はありません。まずは「誰に連絡するか」という連絡ルートの明確化から始め、慶弔規程・就業規則へと順を追って整備していくことが現実的なアプローチです。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の人事労務課題を、経営者・兼務担当者の立場に寄り添いながらサポートしています。「うちの会社、何から手をつければいいか分からない」という段階からでも、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 忌引き休暇を与えないと法律違反になりますか?

A. 忌引き休暇は法律上の義務ではないため、制度を設けないこと自体は違法ではありません。ただし、就業規則に忌引き休暇の規定が存在する場合は、その内容が労働契約の一部となり、会社は規定どおりに付与する義務を負います。就業規則に記載するなら、運用できる内容で定めることが重要です。

Q. 弔慰金はいくらまでなら税金がかかりませんか?

A. 所得税法施行令第30条に基づき、社会通念上相当な金額の弔慰金は非課税です。ただし「社会通念上相当」の具体的な上限額は法令で明示されていません。一般的には数万円程度(1万〜3万円が多い)であれば問題になることはほとんどありませんが、著しく高額な場合は給与課税されるリスクがあります。個別の金額設定については、顧問税理士に確認することをお勧めします。

Q. 社員本人が亡くなった場合、最初に何をすればいいですか?

A. まず遺族への連絡と弔意表明を行った上で、行政手続きの期限を確認することが優先です。健康保険・厚生年金の資格喪失届は死亡日から5日以内、雇用保険の資格喪失届は死亡翌日から10日以内とそれぞれ短期間での対応が求められます。未払い賃金の支払いや死亡退職金の処理も発生するため、早期に社会保険労務士・税理士と連携することを強くお勧めします。

Q. ネットにある慶弔規程のひな形をそのまま使っていいですか?

A. ひな形は構成の参考としては有用ですが、そのまま使用することはお勧めしません。弔慰金の金額や対象となる続柄の範囲などは、自社の規模・財務状況・過去の支給実績に合わせて調整が必要です。また、完成した規程を就業規則に追加する際には、従業員への周知と、10人以上の事業場であれば労働基準監督署への届出も必要です。

Q. 人事担当者が一人の場合、不在時の対応はどう備えればいいですか?

A. 担当者が一人の場合でも、対応できる「バックアップ」を事前に決めておくことが重要です。具体的には、経営者・総務・経理など複数名が対応手順を共有できるよう、チェックリストや対応マニュアルを文書化しておきましょう。「誰が不在でもマニュアル通りに動ける状態」を作ることが、属人化リスクへの最善の備えです。外部の社労士と顧問契約を結んでおくと、急な対応時の相談先としても機能します。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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