月曜の朝、採用担当から「来月末で退職したい」と告げられる。進行中の面接が3件、内定出し直前の候補者が1人、エージェントとのやり取りも途中——そんな状況で、あなたは何から手をつければいいでしょうか。
採用担当者の突然の退職は、20〜50名規模の中小企業にとって、経営上の緊急事態になりえます。専任の人事部門がなく、採用業務が一人の担当者に集中している会社ほど、その影響は大きい。採用が止まれば増員が遅れ、現場の負担が増し、既存社員の離職リスクにまで波及します。
この記事では、採用担当者の退職が判明した直後に取るべき行動から、採用引き継ぎを円滑に進めるコツ、再発を防ぐ体制づくりまでを、実務の流れに沿ってお伝えします。
採用が止まると何が起きるのか
採用担当者が退職した途端に採用業務が停止するのは、業務が「属人化」しているからです。採用引き継ぎが必要になったとき、まず起きることを正確に把握しておくと、優先順位が見えてきます。
進行中の候補者・内定者への影響
選考途中の応募者に連絡が届かなくなると、候補者は「この会社は大丈夫か」と不信感を抱きます。内定後に音信不通になれば、辞退やクレームに直結します。エージェント経由の採用であれば、エージェントとの信頼関係が損なわれ、以後の紹介が止まるケースもあります。採用引き継ぎの際、候補者・内定者への対応は「最優先の引き継ぎ事項」として扱ってください。
組織全体への連鎖リスク
採用が止まると増員計画がずれ込み、既存社員が穴を埋める形で業務量が増えます。特に20〜50名規模では、1人欠けただけで現場の負荷が目に見えて上がります。過重な業務が続けば、別の社員が離職を検討するという連鎖が起きることも珍しくありません。採用担当の退職を「その人だけの問題」と見ずに、組織全体へのリスクとして捉えることが重要です。
退職が判明した当日にやること
採用担当者の退職意向が確認できたら、感情的な対応を後回しにして、まず情報の確保に動いてください。後から取り戻せない情報が、時間の経過とともに失われていきます。
採用業務の棚卸しを即座に依頼する
退職が確定する前でも、「円滑に引き継ぐために現状を整理させてください」という形で、以下の情報を書き出してもらうよう依頼します。担当者の感情的な状況に配慮しながらも、採用業務の引き継ぎに必要な情報確保は会社として必要なことであり、「お願い」ではなく「業務の一部」として依頼する姿勢が重要です。
| カテゴリ | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 媒体・チャネル管理 | 使用中の媒体名・ログイン情報・契約状況・費用・担当営業の連絡先 |
| エージェント管理 | 取引先一覧・担当者連絡先・手数料率・送客中候補者の有無 |
| 選考状況 | 現在の選考中候補者リスト・選考ステップ・次のアクション・期日 |
| 内定者管理 | 内定通知日・入社予定日・入社書類の進捗状況 |
| 採用基準・評価軸 | 面接評価シート・判断基準・見送り基準 |
| 社内承認フロー | 選考通過・内定に必要な承認の流れ・関係者 |
エージェント・媒体への窓口変更連絡を最速で行う
現在やり取りしているエージェントや媒体の担当営業には、退職が確定次第、できれば退職日の前に窓口変更の連絡を入れてください。採用引き継ぎの連絡が遅れると、候補者への対応が止まり、エージェント側は「この会社は信頼できない」と判断します。新しい担当者が決まっていなければ、経営者や兼務担当者が暫定の窓口になる旨を伝えるだけでも、関係を保つことができます。
法的・個人情報上のリスクを把握しておく
退職者が応募者情報(氏名・連絡先・選考状況など)を持ち出すことは、個人情報保護法違反や不正競争防止法(営業秘密侵害)に問われる可能性があります。採用引き継ぎの際には「情報の返却・消去確認」を書面で行うことが実務上必須です。一方、会社側も「退職を受け取らない」「後任が見つかるまで辞めるな」という対応は違法リスクを伴います。民法第627条では退職届提出から2週間で退職できると定められており、就業規則に「1ヶ月前申告」の規定があっても、強制的に引き留めることはできません。引き継ぎは「お願いする」姿勢で進めることが、トラブルを防ぐ現実的な対応です。
引き継ぎで残すべきドキュメントの作り方
採用業務の引き継ぎドキュメントは「後任者が見てわかる」レベルで作ることが目標です。担当者本人に任せきりにせず、経営者や兼務担当者が確認しながら仕上げることで、情報の抜け漏れを防げます。
「今すぐ対応が必要なもの」から優先して残す
引き継ぎの時間が限られている場合、まず手をつけるべきは「進行中の案件リスト」です。選考中の候補者が何人いて、次のアクションが何で、期日はいつか——この情報だけでも残っていれば、最低限の採用活動は継続できます。退職まで1ヶ月あるとしても、実際に担当者が積極的に引き継ぎに協力できる期間はさらに短くなることが多いため、最初の1〜2週間で優先情報を押さえることを目標にしてください。
ログイン情報・契約情報の集約
採用媒体や人材エージェントのログインIDとパスワード、契約更新日、費用、担当営業の名前と連絡先は、1枚のシートにまとめます。これらが担当者の個人メールや手帳の中にしかない場合、退職後には取り戻せなくなります。特に求人媒体は契約が自動更新されているケースがあり、採用引き継ぎが不完全だと費用だけが発生し続けるリスクもあります。
選考基準・評価軸を言語化する
採用担当者の「感覚」に依存していた選考基準は、引き継ぎの際に最も言語化しにくい部分です。「どんな人が採用されてきたか」「見送りにした理由」を、過去の選考履歴をもとに言語化してもらいましょう。完璧でなくても、「前任者が重視していたポイント」として残っていれば、後任者の判断の拠り所になります。
採用業務の属人化を解消する仕組みづくり
採用引き継ぎを乗り越えた後に必要なのは、「また同じことが起きない体制」を作ることです。採用業務の属人化解消は、次の担当者が辞めたときのためだけでなく、採用の質を安定させるためにも重要です。
採用マニュアルを「担当者が変わっても使える」粒度で作る
採用マニュアルは、採用の流れ全体を俯瞰できる「目次」と、各工程の「手順書」に分けて作るのが現実的です。たとえば「求人票の更新方法」「エージェントへの求人依頼の流れ」「面接後のフィードバック共有方法」など、手順が決まっている作業から文書化を始めると取り組みやすい。担当者が自分で作ることが難しい場合は、経営者や兼務担当者が「教えてもらいながら書く」形で作成すると、情報の抜け漏れを防ぎやすくなります。
採用情報を「会社の資産」として管理する
採用媒体のアカウントを会社の共有メールアドレスで登録する、選考状況をスプレッドシートやクラウドツールで管理する、エージェントとのやり取りを共有フォルダに保存するなど、情報が「個人のデバイス」に入らない仕組みを整えることが重要です。ツールの導入コストをかけなくても、Googleスプレッドシートや共有ドライブで対応できるケースが多く、まず「情報の置き場所を決める」ことから始めてください。
採用業務を複数人が関与できる体制にする
専任の採用担当がいない20〜50名規模の企業では、採用業務を「1人が担当する」という前提を変えることが根本的な解決策です。たとえば、媒体管理は総務が担い、エージェントとのやり取りは経営者が行い、面接は現場のリーダーが入るという形に分散させる。完全な分業は難しくても、経営者が採用の全体像を把握し、担当者と情報を共有する「複数人で見る採用」を目指すことが、属人化の再発を防ぐ基本的な考え方です。
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緊急時に採用を継続するための現実的な選択肢
後任の採用担当者がすぐに見つからない場合でも、採用を完全に止める必要はありません。状況に応じた現実的な手段があります。
兼務担当者に「採用の最低限の知識」を早急に渡す
総務・労務・経理を兼務している担当者が急遽採用を引き受ける場合、すべての採用知識を学ばせる時間はありません。まず「進行中の案件を止めない」ことに集中し、エージェントや媒体の担当営業に「担当が交代したので、しばらくサポートをお願いしたい」と正直に伝えることも有効な手段です。エージェントは採用が進むことで収益が生まれるため、窓口担当者の業務支援に協力的なことが多い。
採用支援サービス・外部委託の活用を検討する
採用担当者がいない期間、採用業務の一部を外部に委託することも選択肢のひとつです。RPO(採用代行)と呼ばれるサービスでは、求人票の作成、媒体管理、候補者とのやり取り、面接日程調整などを外部が代行します。費用はサービスや業務範囲によって異なりますが、採用が長期停止することによる事業上の損失と比較したうえで検討する価値があります。自社の採用規模や緊急度に応じて、部分委託から始めることも可能です。
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まとめ
採用担当者の突然の退職は、採用の停止だけでなく、候補者・内定者への影響、エージェントとの関係悪化、組織全体の負荷増大という連鎖を引き起こしえます。退職が判明した当日に進行中の案件情報を確保し、エージェント・媒体への窓口変更を最速で行い、採用引き継ぎドキュメントを「今すぐ必要な情報」から優先して整備することが、被害を最小限に抑える実務の鉄則です。そのうえで、採用情報を会社の資産として管理する仕組みを整え、複数人が関与できる体制を作ることが、再発防止の根本策となります。
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