社員のメンタル不調に困ったら最初に読む経営者の初動ガイド

社員のメンタル不調に困ったら最初に読む経営者の初動ガイド メンタルヘルス対応
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「社員が『もう限界かもしれない』と打ち明けてきた。どうすればいい?」——そのメッセージが届いた瞬間、手が止まった経営者は少なくありません。人事部門も産業医もいない10名規模の会社では、経営者自身がすべての判断を迫られます。本人への接し方、業務の穴埋め、法的なリスク、手続き……一度に複数の不安が押し寄せる状況で、まず何から手をつけるべきかを整理したのがこのガイドです。焦らず、正しい順番で動くことが、本人にとっても会社にとっても最善の結果につながります。

初動でやるべき3つのアクション

社員のメンタル不調が疑われたら、まず「聴く・つなぐ・確認する」の3ステップを落ち着いて実行することが最優先です。診断や判断は医療の領域であり、経営者の役割ではありません。

「聴く」面談で状況を把握する

まず最初にすべきことは、本人と1対1で話す時間をつくることです。ただし、この面談の目的は「診断」でも「原因の特定」でもありません。本人がどんな状態にあるかを、評価せずに聴くことです。

面談では「なぜこうなったの?」「頑張れるよね?」といった言葉は禁物です。本人をさらに追い詰めるリスクがあります。「最近、しんどそうに見えていたけど、どんな状態か教えてもらえますか」という問いかけから始め、話を遮らずに聴く姿勢を保ってください。経営者は「答えを出す場」ではなく「安心して話せる場」をつくることに集中しましょう。

医療機関への受診を促す

面談で「不調がありそうだ」と感じたら、次のステップは受診の案内です。かかりつけ医、心療内科、精神科のいずれでも構いません。「一度、専門の先生に相談してみませんか」と穏やかに伝えるだけで十分です。

重要な点として、受診を強制することはできません。本人の意思を尊重しながら、「会社としてサポートしたい」という姿勢を示すことが大切です。また、経営者が「毎日1時間話を聴き続ける」状態になると、本人の受診が遅れるうえに経営者自身が疲弊します。傾聴はあくまで受診につなぐまでの橋渡しと位置づけてください。

就業規則と休職規定を今すぐ確認する

本人への対応と並行して、社内の制度を確認します。自社の就業規則に「休職規定」があるかどうかを確認してください。休職期間の上限、復職の条件、復職を判断する根拠(主治医の診断書など)が明記されているかどうかが、のちのトラブル回避の鍵になります。

規定がない、あるいは内容が曖昧な場合は、社会保険労務士(社労士)に相談することを強くお勧めします。「規定がないから休職させられない」ということはありませんが、ルールなしで走り始めると復職・退職の局面でトラブルが起きやすくなります。

アクション 目的 注意点
「聴く」面談を行う 本人の状態を把握する 「なぜ」「頑張れ」は禁句
受診を促す 医療専門家につなぐ 強制はできない。意思を尊重する
就業規則を確認する 休職・復職の制度基盤を整える 規定がなければ社労士に至急相談

経営者が陥りやすい4つの落とし穴

初めてメンタル不調の対応をする経営者が、善意から行動して後から問題になるパターンがあります。よくある落とし穴を事前に知っておくだけで、多くのリスクを回避できます。

「話を聴けたから大丈夫」という過信

経営者と社員の距離が近い10名規模の職場では、「本人が話してくれた=関係が良好で問題は解決に向かっている」と感じやすいものです。しかし面談での傾聴は診断でも治療でもありません。経営者の役割は「受診につなぐこと」であり、その先の判断は医療の専門家に委ねることを明確に切り分けてください。

「休ませれば治る」と思って復職条件を決めずに休職を始める

休職を開始する際に「いつまで休むか」「どういう状態になれば復職できるか」「誰が復職を判断するか」を取り決めていないケースが非常に多く見られます。その結果、「本人が大丈夫と言ったので復職させたら2週間で再休職」「半年以上が経過し、雇用継続か退職かが宙ぶらりんになる」といった事態が起きます。休職開始前に、社労士と相談しながら最低限の取り決めを文書で交わしておくことが重要です。

「創業メンバーだから」と情で判断する

少人数のチームでは、本人への情が判断を歪めることがあります。「辞めてほしくない」「早く戻ってきてほしい」という気持ちから、無意識のうちに復帰への圧力をかけてしまうことも起こりえます。本人のことを大切に思うからこそ、感情と業務判断を意識的に分けることが本人の回復にとっても重要です。

「業務が回らないから早く復職させたい」という焦り

10名規模では1名の離脱が業務に与えるインパクトは大きく、経営者が焦るのは自然なことです。しかしその焦りを本人に伝えることは、回復の妨げになるだけでなく、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)に問われるリスクもあります。業務の補填策は、本人への対応とは切り離して考えるようにしましょう。

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知っておくべき法律と制度の基礎知識

メンタル不調対応における法的なポイントを把握しておくことは、経営者自身のリスク管理でもあります。「うっかり解雇できない行為をしてしまった」を防ぐための基本知識を整理します。

解雇制限と安全配慮義務

労働基準法第19条により、業務上の疾病・負傷による休業中および休業後30日間は解雇が禁止されています。メンタル不調が「業務上」か「業務外(私傷病)」かによって適用が変わるため、判断に迷う場合は早めに社労士か弁護士に確認することをお勧めします。

また、労働契約法第5条に定める安全配慮義務として、使用者は労働者の生命・身体・精神の安全に配慮する義務があります。「不調のサインに気づいていたのに放置した」という状況は義務違反とみなされる可能性があります。早期対応は本人のためであると同時に、経営者自身を守るためでもあります。

就業規則の作成・届出義務と休職規定

労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業場は就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。10名規模の会社はまさにこの境界線上にあります。

就業規則に休職制度が明記されていない場合、休職期間・復職条件・休職満了時の扱いが不明確なまま運用することになり、退職・解雇を巡る紛争リスクが高まります。現時点で未整備であれば、今回の対応を機に整備に着手することを検討してください。

傷病手当金の仕組みを知っておく

社会保険(健康保険)に加入している社員が、業務外の理由(私傷病)で仕事を休んだ場合、連続する3日間の待機期間を経て、4日目以降の休業日について傷病手当金が支給されます。支給期間は最長で通算1年6か月です。

傷病手当金は会社ではなく協会けんぽまたは健康保険組合への申請になります。本人が手続きの仕方を知らないケースも多いため、会社側から情報提供することが安心感につながります。なお、フリーランスや国民健康保険加入者はこの制度の対象外です。

多くの経営者は、初期対応を一人で判断しようとして、後から法的トラブルに見舞われています。「判断に迷う場面が多い」「社員対応と法律の両面でサポートが欲しい」という段階から、専門家に相談することで、後々の困難を大きく減らせます。

産業医がいない会社が頼れる外部リソース

産業医の選任義務は従業員50人以上から発生します(労働安全衛生法第13条)。10〜40名規模の会社には選任義務がないため、社内に医療的判断ができる専門家がいないのが現実です。だからこそ、外部のリソースを知っておくことが重要です。

まず相談できる窓口

  • 社会保険労務士(社労士):休職規定の整備、傷病手当金の手続き確認、就業規則の見直しなど労務面全般の相談窓口。
  • 産業保健総合支援センター(産保センター):各都道府県に設置された無料相談窓口。産業保健の専門家が経営者・事業主からの相談にも対応しています。
  • EAP(従業員支援プログラム)提供事業者:外部カウンセリングや職場復帰支援を提供するサービス。社員が直接利用できる窓口を提供するものもあります。
  • かかりつけ医・心療内科・精神科:本人の受診先となる医療機関。主治医からの診断書は復職判断の根拠として重要になります。

自社の状況に合わせた相談先の選び方

就業規則がない・休職規定が不明確という場合は、まず社労士への相談を優先してください。社員本人のメンタルサポートが主な課題であれば、EAPや産保センターへの相談が適しています。複数の課題が同時に発生している場合(例:休職制度の整備+本人の受診サポート+業務体制の見直し)は、労務と人事の両面を一括でサポートできる専門家や支援事業者への相談が有効です。

「記録を残す」習慣が後のトラブルを防ぐ

対応の記録を残すことは、経営者が取った行動の正当性を後から証明できる唯一の手段です。記録は本人を管理するためではなく、会社と本人の両方を守るためにあります。

記録しておくべき内容

面談を行った日時・場所・出席者・話した内容の要点は、簡単なメモでも構いません。「いつ、誰と、何を話したか」が後から確認できる形で残してください。本人から「しんどい」「眠れない」などの訴えがあった場合は、その発言内容も記録しておきます。

また、受診を促したこと・本人の反応・診断書の受領日なども時系列で記録しておくと、のちに労使間でトラブルが生じた際に経緯を整理しやすくなります。難しく考える必要はなく、日時と要点を書いたメモをフォルダに保存しておくだけでも大きな違いがあります。

記録の共有範囲に注意する

本人の健康情報はセンシティブな個人情報です。記録は経営者または対応担当者に限定して管理し、他の社員に不必要に共有しないことが原則です。情報の取り扱い範囲を決めておくことも、信頼関係を守ることにつながります。

「人事的な判断と医療的な判断は分けるべき」という原則が理解できても、実際の場面では迷いが生じるものです。「この対応でいいのか」という不安を感じたときこそ、外部専門家のスポット相談が活躍する場面です。

まとめ

社員のメンタル不調に直面したとき、経営者がまずすべきことは「聴く・つなぐ・確認する」の3アクションです。診断は医療の専門家に委ね、経営者は受診につなぐことと制度の整備に集中することが、本人の回復と会社の安定につながります。安全配慮義務(労働契約法第5条)や解雇制限(労働基準法第19条)といった法的な枠組みを知った上で動くことで、善意の行動がリスクになるケースを避けられます。休職規定が未整備であれば今が整備のタイミングです。一人で抱え込まず、社労士・産保センター・EAPなどの外部リソースを積極的に活用してください。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない成長企業が直面するメンタル不調対応・休職復職支援・人事労務の課題を、実務に沿った形でサポートしています。「うちの状況でどう動けばいいか、一度整理したい」という段階からでも、いつでもご相談ください。

よくある質問

Q. 本人が「大丈夫」と言っている場合、無理に医療機関へ行かせなくていいですか?

A. 受診を強制することは法的にも倫理的にもできません。ただし「大丈夫」という言葉を鵜呑みにせず、定期的に声をかけ続けることが重要です。「何かあればいつでも話してほしい」という姿勢を継続して示しながら、必要に応じて「一度だけ相談として行ってみませんか」と促すアプローチが有効です。気になる言動が続く場合は、外部の専門家に状況を相談することをお勧めします。

Q. 就業規則に休職規定がない場合、休職させることはできますか?

A. 就業規則に規定がなくても、会社と本人が合意した上で休職という運用を取ることは可能です。ただし、休職期間の上限・復職条件・休職満了時の取り扱いが不明確なまま運用すると、復職や退職の局面でトラブルに発展するリスクが高まります。規定がない場合は、社労士に相談しながら少なくとも「覚書」として基本ルールを文書で取り交わしておくことを強く推奨します。

Q. 傷病手当金の申請は会社が行うのですか?

A. 傷病手当金の申請は、原則として本人(被保険者)が協会けんぽまたは健康保険組合に行います。ただし申請書類には会社が記載する欄(休業期間と賃金支払いの有無の証明)があるため、会社と本人が連携して手続きを進める必要があります。申請の流れを本人が知らないことも多いため、会社側から積極的に情報を提供することが親切です。

Q. メンタル不調の社員を解雇することはできますか?

A. 業務上の疾病・負傷による休業中および休業後30日間は、労働基準法第19条により解雇が禁止されています。また私傷病の場合でも、就業規則の休職規定に従った手続きを踏まずに解雇することは解雇権の濫用として無効になるリスクがあります。「業務上か否か」の判断も含め、解雇を検討する前に必ず社労士または弁護士に相談することを強くお勧めします。

Q. 産業医がいない会社でも、社員のメンタルヘルスケアはできますか?

A. できます。産業医の選任義務は従業員50人以上から発生するため、10〜40名規模では義務はありませんが、外部リソースを活用することで十分なサポートが可能です。各都道府県の産業保健総合支援センターでは無料で相談できます。また外部EAPサービスや、メンタルヘルス支援に特化した専門事業者を活用することで、社内に専任担当者や産業医がいない環境でも継続的なケアの仕組みをつくることができます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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