社員のメンタル不調、誰に相談する?4つの専門家の役割と最初の一手

メンタルヘルス対応

「社員がしんどそうなんだけど、誰に連絡すればいいんだろう……」。そう思いながら、とりあえず顧問の社労士に電話したら「メンタル系は専門外で」と言われてしまった——そんな経験をした経営者・人事担当者は少なくありません。社労士、産業医、EAP、弁護士。名前は聞いたことがあっても、それぞれが何をしてくれるのか、自社の状況でどこに頼めばいいのか、整理できている方はほとんどいないのが実情です。この記事では、4つの専門家の役割の違いと、今すぐ動くための「最初の一手」をわかりやすく解説します。

「誰に頼めばいいか」がわからない理由

メンタルヘルス対応で最初に詰まるのは、専門家の名前は知っていても、それぞれの役割の境界線が見えないことです。この構造を理解するだけで、相談先の選び方が大きく変わります。

専門家ごとに「見ている視点」が違う

社労士は労務リスクの視点で動きます。産業医は医学的な就業可否を判断します。EAPは従業員本人のカウンセリングを担います。弁護士は紛争化してからの法的対応が主戦場です。同じ「社員のメンタル不調」という問題に対して、それぞれがまったく異なる切り口でアドバイスを出すため、経営者側で情報を受け取ると「言っていることがバラバラ」と感じてしまいます。これは専門家が間違っているのではなく、そもそも役割が違うのです。

小規模企業には「つながり」がない専門家がいる

産業医は労働安全衛生法の規定により、常時50名以上の事業場で選任義務が生じます。つまり、50名未満の企業には産業医との接点がないケースが大半です。EAPについても「どこの会社のサービスか」「何をしてくれるか」すらわからない、という声をよく聞きます。入口が見つからないまま時間だけが過ぎていく——これが小規模企業でよく起きる最初の壁です。

「放置したら訴えられる」という恐怖だけが先走る

労働契約法第5条は使用者の安全配慮義務を定めており、精神的健康への配慮もその範囲に含まれます。この法律の存在は知っていても、「何をすれば義務を果たしたと言えるか」の基準がわからず、漠然とした不安だけが膨らんでいる、という状況に多くの経営者が陥っています。

4つの専門家、それぞれの役割と限界

社労士・産業医・EAP・弁護士の4者は、対応できるフェーズも守備範囲もまったく異なります。まず全体像を把握することが、適切な相談先を選ぶ第一歩です。

社労士——労務手続きと制度設計のプロ

社労士(社会保険労務士)が担うのは、休職規定の整備・休職発令の手続き・傷病手当金の申請サポート・復職判定の仕組みづくりなど、「労務管理の枠組み」です。就業規則に休職規定がない、または休職期間の定めが曖昧な企業では、まず社労士に相談して制度を整えることが優先課題になります。ただし、社労士は医学的な判断はできません。また、メンタルヘルス対応に慣れているかどうかは個人差が大きいため、「メンタル系の対応経験があるか」を事前に確認することを強くお勧めします。

産業医——医学的な就業可否を判定する唯一の専門家

「この社員は今、働けるのか」「復職できる状態か」という医学的な判断を下せるのは産業医だけです。主治医(かかりつけ医・精神科医)が「復職可能」と診断書に書いたとしても、それは「治療上の回復」を意味するものであり、「職場環境での就業継続が可能か」とは別の話です。この点を混同して、主治医の診断書だけで復職させてしまい、再発・悪化を招くケースは非常に多いです。50名未満の企業でも、スポット契約(単発での意見書作成依頼)という形で産業医と連携することは可能です。費用の目安は1回あたり数万円程度から対応している医師もいるため、「義務がないから使えない」と諦める必要はありません。

EAP——従業員本人を支える相談窓口

EAP(Employee Assistance Program、従業員支援プログラム)は、従業員本人がカウンセラーに相談できる窓口を提供するサービスです。会社としては「社員が話せる場所を用意した」という安全配慮の実績になります。ただし、EAPには守秘義務の壁があります。カウンセラーが面談の内容を会社に共有することは原則としてできないため、「EAPに任せたから大丈夫」と思って会社側が何もしないのは危険です。EAPは本人ケアの補助線として活用するものであり、人事上の判断や業務調整の責任まで代替してくれるものではありません。

弁護士——紛争化してから動く専門家

弁護士(労働専門)が本領を発揮するのは、休職・解雇をめぐるトラブルが表面化した後や、損害賠償請求・労働審判に発展した段階です。予防や初期対応の相談窓口としては費用対効果が合いにくく、「まず弁護士に電話」という選択は、事態がすでにかなり進んでいる場合を除いては適していません。逆に言えば、問題が紛争化した段階では迷わず弁護士に相談することが重要です。

フェーズ別の「最初の一手」

メンタルヘルス対応は、社員の状態がどの段階にあるかによって、動くべき専門家が変わります。順番を間違えると対応がこじれるため、フェーズを正確に見極めることが最も重要です。

不調のサインが出始めた段階でやること

遅刻・欠勤が増えた、表情が暗くなった、ミスが増えた——こうした兆候が見えてきた段階では、まず上司や経営者が1on1で話を聞く「ラインケア」が最初の一手です。このとき重要なのは、話の内容と対応した日時を必ず記録に残すことです。口頭で「大丈夫?」と声をかけただけでは、後から「会社は何もしなかった」と言われるリスクが生じます。面談メモをメールや社内文書として残す習慣をつけてください。外部相談先としては、この段階ではメンタルヘルス支援会社や、社労士への方針確認が適しています。

診断書が出た段階の対応

医師から「休養が必要」という診断書が提出された段階では、社労士と産業医の両方にアクセスすることが理想的です。社労士には休職発令の手続きと傷病手当金(健康保険から支給される所得補償)の申請サポートを依頼します。産業医にはスポット相談という形で就業可否に関する医学的意見書の作成を依頼します。就業規則に休職規定がない場合は、この段階で社労士に整備を急いでもらう必要があります。

休職中・復職判断の場面

休職期間中は、EAPや支援会社による本人ケアと並行して、復職に向けた準備を会社側でも進めます。復職可否の最終判断は産業医の意見を軸に行います。主治医が「復職可能」と言っていても、職場の業務量・人間関係・通勤時間などを踏まえた就業可否判断は産業医が行うものです。この2つを混同しないことが、再発防止の観点から非常に重要です。

フェーズ 状況 優先して動く専門家
不調の兆候が出始めた 遅刻・欠勤増、元気がない 社内ラインケア+社労士・支援会社への相談
診断書が出た 受診し「休養必要」の診断 社労士(休職手続き)+産業医(就業可否意見)
休職中・復職準備 休職期間の管理と復職判定 産業医(復職判定)+EAP・支援会社(本人ケア)
紛争化・訴訟リスク 解雇・損害賠償・労働審判 弁護士(労働専門)

記録を残さないと「やった」と言えない

どれだけ誠実に対応していても、記録がなければ会社の行動を証明できません。安全配慮義務の観点から、記録の保存は対応と同じくらい重要です。

安全配慮義務は「結果」ではなく「プロセス」で問われる

労働契約法第5条に定められた安全配慮義務は、「社員が回復したかどうか」ではなく「会社が適切な措置を取ったかどうか」で評価されます。厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」(2023年改正)では、職場での出来事と会社の対応が労災認定の判断材料になります。会社がどのタイミングで何をしたか、その記録が重要な証拠になります。

残すべき記録の具体例

面談を行った場合は、実施日・参加者・話した内容の要点・次のアクション(業務量の調整、受診の勧奨など)を文書に残します。業務調整を行った場合はその内容と期間を記録します。社員本人からの申し出や主治医の診断書の受領日も記録に含めます。これらはメールや社内共有ドキュメントとして残すだけで十分です。高度なシステムは必要ありません。重要なのは「何もしなかったとは言わせない」記録を積み重ねることです。

就業規則に休職規定がない場合のリスク

就業規則に休職規定が整備されていない企業では、「いつから休職か」「休職期間は何日か」「その後の扱いはどうなるか」が曖昧になります。これは会社・社員双方にとって不安定な状態であり、後のトラブルの温床になります。社員のメンタル不調が明らかになった段階で、まだ規定がない場合は、社労士に依頼してできるだけ早く整備することを優先してください。

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小規模企業でも「つながれる」専門家の探し方

産業医選任義務がなく、専任人事もいない企業でも、コストと手間を抑えながら専門家とつながる方法はあります。「自社には関係ない」と諦める前に、選択肢を確認してください。

産業医はスポット契約で活用できる

産業医を常時選任していない50名未満の企業でも、特定の案件に対してスポット的に意見書作成や面談を依頼できる医師がいます。地域の医師会や産業保健総合支援センター(全国47都道府県に設置、相談は無料)を通じて探すことができます。まずは産業保健総合支援センターへの問い合わせが、費用をかけずに始められる現実的な入口です。

社労士は「メンタル対応経験」で選ぶ

顧問社労士がいても、メンタルヘルス対応の実務経験が豊富かどうかは別問題です。初めて相談するときは「休職・復職対応の経験はありますか」「メンタル不調の案件を扱ったことがありますか」と率直に聞いてください。専門外であれば、対応できる社労士を紹介してもらうことも一つの方法です。

統合支援サービスという選択肢

社労士・産業医・カウンセラーのそれぞれと個別に契約するのではなく、これらの機能を統合した形で中小企業向けに提供しているメンタルヘルス支援会社も存在します。「誰に最初に連絡すればいいかわからない」という問題を解決するうえで、一元的な窓口として機能するため、専任人事がいない企業には特に相性が良い選択肢です。

まとめ

社員のメンタル不調への対応で大切なのは、「誰に頼むか」を状況のフェーズに合わせて判断することです。不調のサインが出た段階では社内のラインケアと記録、診断書が出たら社労士と産業医、休職中は産業医とEAP、紛争化したら弁護士——この流れを頭に入れておくだけで、最初の一手を間違えるリスクがぐっと下がります。また、何より重要なのは「やった記録を残す」こと。口頭対応だけでは安全配慮義務を果たしたとは言えません。

ウェルセンス株式会社は、20〜50名規模の企業を中心に、「最初の一手」から復職支援まで一貫してサポートしています。「今すぐどう動けばいいか」「うちの状況では何が必要か」をまず整理したい、という段階からご相談いただけます。専任人事がいない企業でも、一緒に考える伴走者として機能できるのがウェルセンスの強みです。気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 従業員が30名で産業医がいません。それでも対応できますか?

A. できます。産業医の選任義務は常時50名以上の事業場に課されるものであり、50名未満でも対応は可能です。産業保健総合支援センター(各都道府県に設置・相談無料)を通じてスポット的に産業医に意見を求めたり、メンタルヘルス支援会社に相談して対応方針を整理したりすることが現実的な選択肢です。「義務がないからできない」ではなく、「義務がなくてもできる方法を探す」姿勢が安全配慮義務の観点からも重要です。

Q. 主治医が「復職可能」と書いた診断書があれば、そのまま復職させていいですか?

A. 主治医の診断書だけで復職させるのはリスクがあります。主治医は「治療上の回復」を判断しますが、「実際の職場環境・業務量・通勤ストレスに耐えられるか」という就業可否の判断は産業医が担います。この2つを混同して復職を早めると、再発・悪化を招きやすくなります。産業医によるスポット面談を依頼し、就業可否の意見書を取得してから復職を判断することを強くお勧めします。

Q. 就業規則に休職規定がない場合、どうすればいいですか?

A. まず社労士に連絡して、休職規定の整備を急いでください。規定がないと「いつから休職か」「期間は何日か」「満了後の扱いはどうなるか」が曖昧になり、後のトラブルの原因になります。すでに不調社員が出ている場合は、規定整備と並行して個別の対応方針を社労士と相談しながら決めることが必要です。規定がない状態で場当たり的に対応すると、後から「不当な扱いを受けた」と主張されるリスクが高まります。

Q. EAPを導入すれば安全配慮義務は果たせますか?

A. EAPの導入は安全配慮の取り組みの一部になりますが、それだけで義務を果たしたとは言えません。EAPは守秘義務があるため、カウンセリング内容を会社側は把握できません。会社としては、業務調整・面談記録の保存・復職支援の体制構築など、「会社側として何をしたか」の記録を別途積み重ねる必要があります。EAPは従業員本人の相談窓口として有効ですが、会社の対応責任を代替するものではありません。

Q. 社員本人が「受診しない」と言っています。どうすればいいですか?

A. 受診を強制することはできませんが、「会社として受診を勧奨した」という記録を残すことは重要です。1on1面談の場で「体の具合が心配なので、一度専門家に相談してみませんか」と伝え、その内容と日時をメモとして保存してください。また、EAPや社外相談窓口の存在を本人に伝えることも有効です。本人が拒否している場合でも、会社として「勧奨した事実」を積み重ねておくことが、後の安全配慮義務の観点から重要な意味を持ちます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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