「社員が友人を紹介してくれたので、お礼に報奨金を払いたい。でも、税金ってどうするんだろう?」——リファラル採用を始めた経営者や人事担当者からよく聞く場面です。採用コストを抑えながら自社に合った人材を確保できるリファラル採用は、中小企業にとって魅力的な手法です。しかし、社員への紹介報奨金は「お礼金だから経費で落とせばいい」と処理してしまいがちで、税務・社会保険・労働法の観点から見ると落とし穴が多く潜んでいます。この記事では、紹介報奨金をめぐる税務処理の正しい考え方から、就業規則の整備、返還条件の設計まで、実務担当者が押さえておくべきポイントを順を追って解説します。
紹介報奨金は「給与課税」が原則
社員に支払うリファラル採用の紹介報奨金は、所得税法上「給与所得」として取り扱われ、源泉徴収が必要です。この点を誤解している企業が多く、まず最初に確認すべき最重要ポイントです。
なぜ「お礼金」ではなく給与になるのか
報奨金を受け取るのが自社の社員である以上、その支払いは雇用契約に基づく勤務関係から生じるものと税務上みなされます。所得税法第28条は給与所得を「雇用契約その他これに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価」と広く定義しており、紹介という行為が業務の一環と判断されるからです。
「社員同士の個人的なつながりを介した紹介だから業務外だ」と考え、「一時所得」や「雑所得」として処理しようとする会社もありますが、税務調査で給与と認定されるリスクが高く、追徴課税につながる恐れがあります。安全策として、給与課税での処理を前提に設計することを強くお勧めします。
源泉徴収・給与台帳への反映が必要
給与所得として扱う場合、会社側には次の実務対応が求められます。
- 賞与として一括支給する場合:「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を用いて源泉徴収額を計算する
- 毎月の給与に上乗せして支給する場合:通常の給与所得の源泉徴収計算に含める
- 給与台帳または賞与台帳に記載し、年末の源泉徴収票にも反映する
経理担当者や顧問税理士に相談する際は、「社員へのリファラル報奨金を支給したい。給与として処理するにはどの勘定科目で、どのタイミングで源泉徴収すべきか」と具体的に確認しましょう。
採用エージェントへの紹介料との違い
外部の採用エージェント(人材紹介会社)に支払う紹介料は、雇用関係のない第三者への支払いですので「外注費」や「採用費」として経費処理が可能で、源泉徴収も不要(法人への支払いの場合)です。一方、社員への報奨金は雇用関係があるため、同じ「紹介への対価」でも税務上の扱いが根本的に異なります。この違いを経理担当者と共有しておくと、混乱を防げます。
社会保険料にも影響する「賞与」の定義
紹介報奨金は社会保険上の「賞与」に該当することがあり、健康保険料・厚生年金保険料の計算に影響します。見落としがちなポイントですが、適切に処理しないと社会保険料の申告漏れになりかねません。
「賞与」に該当するかどうかの判断基準
健康保険法第3条第6項および厚生年金保険法第3条第1項第4号では、「賞与」を「3か月を超える期間ごとに支払われる賃金」と定義しています。紹介報奨金を年に1〜2回、または採用が決まったタイミングで不定期に支給する場合、この定義に該当し、標準賞与額の対象となります。
具体的には、支給のたびに被保険者賞与支払届を日本年金機構へ提出し、社会保険料(会社負担分・本人負担分)を納付する必要があります。また、雇用保険の賃金総額にも含まれるため(雇用保険法施行規則第19条等)、雇用保険料の計算にも反映させなければなりません。
支給頻度と金額設計の考え方
社会保険料の負担感から「毎月少額ずつ支給して賞与扱いを避けたい」と考える会社もありますが、毎月の定期支給は「通常の賃金」として標準報酬月額の改定につながる可能性があります。支給頻度・タイミング・金額の設定は、社労士や顧問税理士と事前に相談しながら決めることが安全です。
就業規則・社内規程の整備が不可欠な理由
口頭やメールだけで報奨金を支払っている場合、「もらえると思っていた」「条件が聞いていた話と違う」といった社員クレームや労使トラブルに発展するリスクがあります。規程の整備は義務の問題だけでなく、トラブル予防の観点からも欠かせません。
常時10名以上の事業場は就業規則への記載が必要
労働基準法第89条は、常時10名以上の労働者を使用する事業場に対して就業規則の作成・届出を義務付けています。さらに同条第2号は、賃金の決定・計算・支払いの方法を「絶対的記載事項」と定めています。
紹介報奨金を「賃金」として位置づける場合、就業規則本体または「リファラル採用規程」などの別規程に支給条件・金額・支給時期を明記し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。規程がないまま支給を繰り返すと、社員側に「支給を受ける権利」として既得権化するリスクもあります。
9名以下の事業場でも規程整備は推奨
常時9名以下の場合、法的な作成義務はありませんが、支給基準を文書化しておくことは強く推奨します。「誰が・いつ・何を紹介したときにいくら支払うか」を明文化するだけでも、社員間の不公平感の払拭や経営者自身の判断ブレの防止につながります。シンプルな「リファラル採用に関する社内ルール」として一枚の文書にまとめるところから始めましょう。
規程に盛り込むべき主な項目
| 項目 | 記載のポイント |
|---|---|
| 支給対象者 | 正社員のみか、パート・アルバイトも対象か |
| 紹介対象 | 正社員採用のみか、パートも含むか |
| 支給金額 | 職種・ポジション別に設定するか一律にするか |
| 支給タイミング | 採用決定時・入社時・試用期間終了時など |
| 支給条件 | 紹介された社員の在籍要件(後述) |
| 不支給条件 | 同一人物の重複紹介、管理職による直属部下の紹介など |
返還条件を設けるときの法的リスクと正しい設計
「入社後すぐに辞めた場合は報奨金を返してほしい」という気持ちは自然ですが、返還を求める条件の設計を誤ると労働基準法違反になる可能性があります。「返還させる」のではなく「一定期間在籍した後に支給する」設計に切り替えることが実務上のポイントです。
労働基準法第16条「賠償予定の禁止」とは
労働基準法第16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と規定しています。支給済みの報奨金について「紹介した社員が退職した場合は返還すること」と定めると、退職という行為(労働契約の終了)に対するペナルティと解釈され、この条文に抵触するリスクがあります。
「返還条件」より「支給繰り延べ」が安全
法的リスクを回避しながら在籍期間を担保したい場合は、「報奨金はいつでも返還を求めることができる」ではなく、「紹介された社員が入社後6か月在籍した時点で報奨金を支給する」という設計に変えます。これは返還ではなく「支給条件として在籍要件を設けている」だけなので、第16条の問題が生じません。
たとえば、報奨金30万円を「入社時に15万円・入社6か月後に15万円の2回払い」にする方法も、早期退職リスクを分散しながら法的にクリーンな設計として活用されています。
公平性と職場環境への配慮も忘れずに
報奨金の金額が社内で知れ渡ると、紹介した社員と紹介に関わらなかった社員との間で不公平感が生まれることがあります。また、採用に困っているポジションだけ高額にすると、人間関係よりも報奨金目当ての紹介が増えるリスクも指摘されています。金額の設定と情報の開示範囲については、社内の状況を踏まえて慎重に検討しましょう。
コンプライアンス視点で整えるべき全体像
税務・社会保険・労働法それぞれに個別の対応が必要ですが、まとめて「制度として整える」視点を持つことで、後からの修正コストを大きく減らせます。
自社の状況別チェックポイント
まず最初に、自社の従業員数と現在の就業規則の状況を確認してください。次に、以下のいずれのケースに当てはまるかを確認し、対応の優先順位を判断します。
- 従業員10名以上・就業規則あり:就業規則または別規程に報奨金の支給条件を追記し、変更届を労基署へ提出。源泉徴収・社会保険手続きの担当者に周知する。
- 従業員10名以上・就業規則なし:就業規則の作成が法的義務。リファラル採用制度の導入と同時に就業規則を整備し、届け出ることを最優先にする。
- 従業員9名以下:作成義務はないが、支給基準を文書化してトラブルを予防する。顧問税理士・社労士へ税務・社会保険上の処理方法を確認する。
専門家との連携が必要な場面
紹介報奨金の設計は、税務(顧問税理士)・社会保険(社会保険労務士)・労働法(社労士または弁護士)の3領域にまたがります。「どの専門家に何を聞けばいいかわからない」という状態になりがちですが、まずは社労士に「リファラル採用の報奨金制度を作りたい」と相談すると、規程整備から社会保険・労働法の確認まで一括して対応してもらいやすくなります。税務の細部は社労士から顧問税理士への橋渡しを依頼するのが効率的です。
まとめ
リファラル採用の紹介報奨金は、「お礼金だから経費処理でOK」ではなく、社員への支払いである以上、原則として給与課税・源泉徴収が必要です。社会保険上は賞与として扱われる場合があり、就業規則への記載・届出も常時10名以上の事業場には義務として課されます。また、返還条件を設ける際は労働基準法第16条への抵触リスクを避けるため、「支給を繰り延べる」設計が法的に安全です。
中小企業では「とりあえず払ってしまった」後に問題が発覚するケースが少なくありません。制度として正しく整えることが、採用トラブル・税務リスク・社員間の不満を同時に防ぐことにつながります。
人事だけで抱える課題ではありません。税務・労務の複雑な領域こそ、専門家のサポートを活用して、制度設計の段階から正しく進めることをお勧めします。ウェルセンス株式会社では、人事の専門担当者がいない成長企業の皆さまに向けて、労務制度の整備や人事課題の解決をサポートしています。「うちの会社のリファラル採用のやり方、このままで大丈夫?」と気になっている方は、お気軽にご相談ください。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


