「採用予算、今年もとりあえず去年並みで」——そう決めていませんか。専任の人事担当者がいない中小企業では、採用費の根拠を問われても明確に答えられないケースが少なくありません。しかし採用予算を売上計画や人員計画と連動させず、感覚で設定し続けると、採り過ぎ・採れなさ過ぎのどちらも起きます。この記事では、売上から逆算して採用予算を設定する具体的な方法と、媒体配分の考え方を実務目線で解説します。
採用予算の「業界水準」を知っておく
人件費・売上に対する採用費の目安
採用予算の適正水準を議論する前に、まず数字の目安を押さえておきましょう。一般的に、採用費が人件費総額に占める割合は1〜3%が中小企業の水準とされています。売上高に対しては0.5〜1.5%程度が目安です。たとえば売上3億円の会社であれば、採用費は150万〜450万円の範囲に収まることが多いといえます。
ただしこれはあくまで平均値です。IT・エンジニア職や専門資格が必要な職種は採用難易度が高く、採用費単価が跳ね上がります。「目安の範囲に収まっているから安心」ではなく、自社の採用目標と照らし合わせて判断することが大切です。
採用単価(CPH)で効率を測る
採用コストを語るうえで外せない指標がCPH(Cost Per Hire:1人採用するためにかかった費用)です。計算式はシンプルで、「採用にかかった総費用 ÷ 採用人数」で求められます。
正社員の場合、CPHは職種や採用手法によって50万〜150万円の幅があります。人材紹介会社を活用すると年収の25〜35%が手数料となるため、年収400万円の人材を採用するだけで100〜140万円のコストになります。求人媒体(Indeed・エン転職など)を活用した場合は月額10〜30万円程度の掲載費が主なコストで、複数名採用できれば1人あたりのCPHは下がります。CPHを媒体別・手法別に把握するだけで、「どの手法が費用対効果に優れているか」が見えてきます。
「採用コスト」は費用か、投資か
採用費は会計上、求人広告費・人材紹介料ともに原則として損金算入(費用計上)が可能です。しかし経営の視点では、採用費は「将来の売上を生み出す人材への投資」と捉えるべきです。費用として圧縮するのではなく、リターン(採用後の貢献利益)と比較して判断する習慣が、採用予算設定の精度を上げます。
売上から採用予算を逆算するプロセス
まず売上計画と必要人員数を結びつける
採用予算の設定は、売上計画から始めます。具体的な流れを例で示します。
来期の売上目標を5億円と設定したとします。自社の1人あたり生産性(売上÷従業員数)が平均1,000万円であれば、必要な従業員数は50人です。現在の従業員数が40人なら、10人分の増員が理論上必要になります。
ここで重要なのが離職率の考慮です。年間離職率が10%の会社なら、40人のうち4人が年間で辞める計算になります。つまり「純増10人+離職補充4人=14人採用」が実際のターゲットです。この数字を持たずに採用予算を組むと、計画より常に人員が不足する状態が続きます。
採用手法の組み合わせでコストを試算する
採用人数が決まったら、手法別のコストを当てはめます。たとえば14人の内訳として、即戦力の専門職2人を人材紹介(1人あたり120万円)、残り12人を求人媒体+ダイレクトリクルーティングで採用(1人あたり50万円)と想定すると、採用予算総額の試算は以下のとおりです。
2人×120万円+12人×50万円=240万円+600万円=840万円
この840万円を人件費総額(仮に2億円)で割ると約4.2%となり、業界水準(1〜3%)をやや超えます。この段階で「手法の配分を見直すか」「採用計画を調整するか」という経営判断ができます。逆算することで、感覚ではなく数字で話し合えるようになります。
採用できなかった場合の機会損失も計算に入れる
予算を絞った結果、採用が遅れたり人員が不足したりすることにも、見えないコストが発生します。たとえば営業担当者1人の不在が月100万円の売上機会損失を生む場合、3か月採用が遅れただけで300万円の機会損失です。採用費を惜しんで生じる損失が、採用費そのものを上回るケースは珍しくありません。採用予算設定の議論には、この「採用しないコスト」も必ず含めましょう。
採用媒体・手法の費用対効果を比較する
手法ごとの特性を把握する
採用手法にはそれぞれ得意・不得意があります。以下の視点で整理すると配分の判断がしやすくなります。
人材紹介(エージェント)はコストが高い反面、即戦力・専門職・急ぎの採用に向いています。自社で母集団形成ができないときの「保険」として使うのが合理的です。求人媒体(Indeed・求人ボックスなど)はボリューム採用や未経験可ポジションに強く、掲載費を抑えながら応募数を稼げます。ダイレクトリクルーティングはスカウト型で、ターゲット職種が明確な場合に有効です。リファラル採用(社員紹介)は謝礼が3〜30万円程度と低コストで、文化適合度が高く定着率も上がりやすい手法です。ハローワークはほぼ無料で、地域採用やパート・アルバイト職種には今でも一定の効果があります。
媒体ごとのCPHを計算して配分を最適化する
複数媒体を使っている場合、媒体別にCPHを計算することが費用対効果の判断基準になります。たとえばA媒体に月20万円投じて月2名採用できればCPH10万円、B媒体に月30万円かけて月1名ならCPH30万円です。単純にA媒体の方が効率的といえます。
ただし、職種によって媒体の相性は異なります。エンジニア採用にはIT特化媒体が有利で、販売スタッフには地域密着型媒体が強い場合もあります。媒体費用だけでなく「どの媒体から内定承諾まで至ったか」を追跡する仕組みを作ることが、データに基づいた配分最適化の第一歩です。
求人情報の正確性は法的義務でもある
採用活動を行ううえで見落とせないのが、2022年10月に改正施行された職業安定法の規制強化です。求人票に記載する給与・勤務条件は正確に表示する義務があり、虚偽・誇大な内容には行政指導や罰則が科される可能性があります。また、求人票と実際の労働条件が食い違うと、入社後の労働紛争の原因にもなります。採用費をかけて採用した人材が条件相違を理由に早期離職するのは、コスト面でも信頼面でも大きな損失です。求人票の内容は、掲載前に必ず実態と照合する習慣をつけましょう。
定着コストを採用計画に織り込む
早期離職が採用予算を食い潰す
採用費の無駄遣いで最も痛いのは、採用した人材がすぐに辞めてしまうケースです。入社後3か月以内に離職した場合、かかったCPHが丸ごと損失になります。さらに再採用のための費用、既存社員の業務負担増、チームの士気低下など、間接的なコストも膨らみます。
採用コストの総額を語るなら「採用費+教育費+離職損失」で計算すべきです。たとえばCPH80万円の採用に、入社後3か月の教育コスト20万円が加わり、早期離職で発生した既存社員の残業コスト30万円を足すと、実質130万円の投資が無に帰します。
メンタルヘルス対応の遅れが採用コストを押し上げる
採用後の職場環境が整っていないと、メンタル不調による休職者が発生しやすくなります。休職者が出ると、その穴を埋めるための緊急採用や派遣活用が必要になり、予算外のコストが発生します。20〜50名規模の会社では、1人の休職が組織全体の生産性に直結するため、影響は特に大きくなります。
採用予算の議論と並行して、既存社員の定着施策・職場環境の整備に投資することが、中長期的な採用コストの削減につながります。採用で補充し続けるサイクルから抜け出すには、「採用前に職場を整える」という視点が欠かせません。
採用計画にメンタルヘルスリスクを盛り込む
より精度の高い採用予算を立てるには、過去の休職発生率や早期離職率を採用計画に反映することが有効です。たとえば過去3年の離職率が15%であれば、翌年の採用人数の計算にその数字を使います。また、休職者が年間1〜2名発生している実績があれば、その補充コスト(緊急採用費・業務カバーのための残業コストなど)を別枠で予算化しておくと、年度途中の予算オーバーを防げます。
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採用予算の設定を「仕組み」にする
年次サイクルで採用計画と予算を連動させる
採用予算の設定は一度やれば終わりではありません。売上計画・人員計画・採用予算を毎年連動して見直すサイクルを作ることが重要です。具体的には、期初に翌年の売上目標と必要人員を確認し、採用人数の見込みを立てます。そのうえで手法別コストを試算し、採用予算を確定します。期中には媒体別CPHを確認し、効果の低い媒体への配分を見直します。期末に実績を振り返り、翌年の精度を上げます。この一連のサイクルを回すことで、採用予算の根拠が毎年蓄積されていきます。
採用担当者がいなくてもできる最低限の管理
専任人事がいない会社でも、採用管理のために必要な情報は絞れます。最低限把握しておきたいのは、採用手法別の応募数・面接数・内定数・入社数の4つです。この4つがあれば、各手法の歩留まり(通過率)とCPHが計算できます。Excelで簡単に管理できる情報ですが、これがあるだけで採用予算の議論が「感覚」から「数字」に変わります。
まとめ
採用予算の設定は、「去年並み」や「なんとなく」から卒業し、売上計画・必要人員・採用手法のコストを順番に積み上げる逆算プロセスで組み立てることが大切です。CPHで手法ごとの効率を測り、媒体配分を最適化する。そして採用費だけでなく、定着コストやメンタルヘルスリスクも織り込んだ「トータルの採用投資」として捉え直す。この一連の考え方が、限られたリソースで採用の成果を最大化する基盤になります。
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