昇給テーブルの作り方|3ステップで感覚昇給を卒業する

昇給テーブルの作り方|3ステップで感覚昇給を卒業する 採用・定着
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「なんとなく毎年3,000円上げてきたけど、これでいいのか正直わからない」——給与改定のたびにそんな迷いを抱えていませんか。根拠のない昇給を続けると、社員から「なぜ私は上がらなかったのですか」と問われたとき、答える言葉がなくなります。本記事では、人事専任がいない20〜50名規模の会社でも運用できる昇給テーブルの作り方を、3つのステップで具体的に解説します。制度を整えることは社員を縛ることではなく、経営者も社員も「納得して働ける環境」を作ることです。

感覚昇給が引き起こす3つのリスク

昇給の根拠が曖昧なまま続けると、給与の不公平感・社員の不信感・法的リスクという3つの問題が積み重なっていきます。まずこの構造を把握することが、制度整備への第一歩です。

社員同士の給与格差と不信感

入社時期や採用時の交渉力によって、同じ仕事・同じ評価でも給与が数万円異なるケースは中小企業でよく起きます。在籍10年のベテランより実力ある若手の給与が低い「逆転現象」も、感覚昇給を続けると自然に発生します。20〜50名規模では社員全員が顔見知りのため、給与の不公平感は大企業よりも直接的に人間関係や離職意向に影響します。

評価制度の形骸化

「頑張ったら評価する」と伝えているにもかかわらず、昇給額が毎年ほぼ一律であれば、社員は評価を受ける意味を感じられなくなります。評価シートを書く手間だけが残り、制度そのものへの信頼が失われていく——これは多くの中小企業が経験している悪循環です。

昇給根拠を説明できないことの法的リスク

労働基準法第108条は賃金台帳の作成・保存を義務付けており、昇給の根拠も記録として残しておくことが重要です。「約束と違う」「同期より不当に低い」といったトラブルが起きたとき、根拠が記録されていなければ会社側は弁明の手がかりを持てません。また、パートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金)の観点からも、正規・非正規を問わず賃金の説明責任を果たせる仕組みが求められています。

昇給テーブルとは何か

昇給テーブルとは、「どの等級・どの評価結果なら、いくら給与が上がるか」の目安を一覧化した表です。複雑な制度設計は不要で、シンプルな対応表があるだけで昇給の根拠を社員に説明できるようになります。

昇給テーブルの基本構造

最もシンプルな形は、縦軸に「等級(職位)」、横軸に「評価結果(S・A・B・Cなど)」を置き、交差するセルに昇給目安額を記載する表です。たとえば以下のようなイメージです。

等級 評価S 評価A 評価B 評価C
一般職 5,000円 3,000円 1,500円 0円
中堅職 8,000円 5,000円 2,500円 0円
リーダー職 10,000円 7,000円 3,500円 0円

数字はあくまでイメージです。重要なのは「評価に応じて昇給額の目安が明示されている」という構造そのものです。

「必ずこの通りにしなければならない」は誤解

昇給テーブルを作ると「記載通りに昇給しなければならない」と思い込む経営者は少なくありません。しかし実務では、業績が厳しい年度に一律で昇給するのは現実的ではありません。「原則として評価Aは3,000円を基準に昇給を検討する」という表現にとどめ、最終判断は経営状況を加味できる余地を残すことが重要です。昇給テーブルはルールではなく、根拠のある目安です。

昇給テーブルを作る3つのステップ

昇給テーブルの作成は、等級の設定・評価との紐付け・金額設計という順番で進めます。この3つを順に整えるだけで、感覚昇給から脱却できます。

等級(グレード)を設計する

まず最初に、社員をいくつかの等級に分類します。20〜50名規模では、等級を細かくしすぎると格付けと運用の維持コストが跳ね上がるため、2〜3段階が現実的です。「一般職・中堅職・リーダー職」の3段階、あるいは「メンバー・リーダー」の2段階から始めることをおすすめします。等級の定義は職務内容・責任範囲・期待成果で記述し、社員が「自分がどこに属するか」を理解できる言葉で書くことがポイントです。

評価結果と昇給を紐付ける

次に、すでに運用している評価制度の結果(たとえばS・A・B・Cの4段階)を昇給目安と対応させます。評価制度がまだ整っていない場合は、昇給テーブルと同時に「評価項目を3〜5項目程度に絞ったシンプルな評価シート」を作成するのが効率的です。人事専任がいない場合、月次・四半期での評価更新は現実的に回せないことが多いため、年1回の昇給サイクルに評価も合わせて設計しましょう。

ここまでで「実際の運用方法や法的な手続きが心配」という経営者も多いです。昇給テーブルはシンプルに見えても、導入時の説明や既存社員への対応は企業ごとに異なります。ウェルセンス株式会社では、貴社の現状に合わせた昇給制度の設計から運用開始までをサポートしています。

昇給額の目安を設定する

最後に各セルに昇給額の目安を入れます。設定の基準は主に次の2点から考えます。一つ目は「過去の昇給実績の平均」で、自社がこれまでどれくらい上げてきたかを出発点にします。二つ目は「人件費総枠」で、今年度に昇給に使える予算から逆算して設計します。最上位評価のSは最下位評価のCの3〜4倍程度の差をつけると、評価への動機付けが機能しやすくなります。

既存社員への説明と移行の進め方

昇給テーブルの導入で最も経営者が不安に感じるのは、「社員に説明したときにモメないか」という点です。適切な順序で進めれば、ほとんどのケースで社員の反応は「やっと基準ができた」という安心感の方が上回ります。

不利益変更にはならないと理解しておく

昇給テーブルの導入は「これから上がる仕組みを決めること」であり、現在の給与を下げることではありません。労働契約法第9条・第10条が定める「不利益変更」の問題は、既存の労働条件を引き下げる場合に生じます。昇給ルールの明文化・透明化そのものは、原則として社員の不利益にはなりません。ただし賃金規程を改定する場合は、労働基準法第89条・第90条に基づき、10名以上の事業場では就業規則の届出と過半数代表者への意見聴取が必要です。

一斉説明と個別面談をセットで行う

移行説明を全社会議一度で終わらせると、後から個別の不満が噴出するケースが多くあります。標準的な移行プロセスは、全体説明で制度の趣旨・仕組みを共有し、その後に個別面談を行う2段階構成です。「自分の昇給がどう変わるか」を個別に確認したい社員は必ず出るため、個別Q&Aの機会を事前にアナウンスしておくことが重要です。

自社の状況によって対応を変える

就業規則や賃金規程がすでに整備されているかどうかによって、手続きが変わります。

  • 賃金規程がある場合:規程の改定→過半数代表者の意見聴取→労働基準監督署への届出(10名以上)→社員への周知の順で進めます。
  • 賃金規程がない(または就業規則が整備されていない)場合:昇給テーブルを含む賃金規程を新たに作成し、同様の手続きを踏みます。
  • 9名以下の事業場の場合:就業規則の作成・届出義務はありませんが、社員との合意形成と書面化は行っておくことをおすすめします。

小規模企業が陥りやすい設計の落とし穴

シンプルに作ろうとしても、いくつかの典型的な誤りで運用が止まってしまうケースがあります。事前に把握しておくことで、設計の精度が上がります。

テーブルを硬直的に作りすぎる

「評価Aなら必ず5,000円昇給」と規程に明記してしまうと、業績が想定を下回った年に対応できなくなります。「原則として評価Aは5,000円を基準に昇給を検討する」という表現設計が、実務では重要です。経営判断の余地を文言に組み込んでおくことが、長期運用の鍵になります。

等級定義があいまいなまま運用を始める

「中堅職ってどんな人?」が社員に伝わらない状態で格付けをすると、「なぜ私はまだ一般職なのか」という不満が生まれます。等級の定義は職務内容・意思決定の範囲・後輩指導の有無など、誰が読んでもイメージできる言葉で記述してください。初回は多少粗くても、年1回の見直しサイクルで改善していく姿勢で運用を始める方が、完璧を目指して着手できないよりはるかに有益です。

昇給履歴を記録していない

労働基準法第108条に基づく賃金台帳とは別に、「誰をどの等級に格付けし、どの評価でいくら昇給したか」を記録する習慣を持つことが重要です。後日「約束と違う」といったトラブルが起きた際、根拠の記録があるかどうかは会社側の対応力に直結します。Excelの簡単な一覧表でも構いませんので、毎年の昇給時に記録を残してください。

まとめ

昇給テーブルは、複雑な人事制度がなくても作れます。等級を2〜3段階に設定し、評価結果と昇給目安を対応させ、経営判断の余地を残した表現で文書化する——この3つを順に進めるだけで、感覚昇給から脱却し、社員に説明できる昇給の仕組みが生まれます。制度変更は不利益変更ではなく、社員にとっても「上がる根拠が見える」安心感につながります。

ただし賃金規程の改定手続きや既存社員への説明の進め方は、自社の状況によって適切な方法が異なります。「法的な手続きが複雑で判断に困っている」「社員説明で揉めないか心配」という段階でも、専門家に相談することで円滑な導入が実現します。ウェルセンス株式会社では、貴社の規模・現状に合わせて、運用できる昇給制度の構築をサポートしています。

よくある質問

Q. 評価制度が整っていない状態でも昇給テーブルは作れますか?

A. 作れます。昇給テーブルと評価シートは同時に設計するのが効率的です。評価項目は「業務遂行力・チームワーク・主体性」など3〜5項目に絞ったシンプルな形から始めれば、人事専任がいなくても運用できます。完璧な評価制度ができてから昇給テーブルを作ろうとすると着手が遅くなるため、まず簡易版で動かしながら毎年改善していく進め方をおすすめします。

Q. 昇給テーブルを導入すると、昇給できない年でも必ず昇給しなければなりませんか?

A. 表現の設計次第で、経営判断の余地を残せます。「評価Aは原則として〇〇円を基準に昇給を検討する」という形にすれば、業績状況を加味した最終判断が可能です。「必ず〇〇円昇給する」と硬直的に書いてしまうと対応が難しくなるため、賃金規程の文言は専門家に確認しながら設計することをおすすめします。

Q. 昇給テーブルを導入する際、社員の同意は必要ですか?

A. 「昇給の仕組みを明文化すること」自体は労働条件の不利益変更にあたらないため、個別同意は原則として必要ありません。ただし、賃金規程を改定する場合は労働基準法第89条・第90条に基づき、10名以上の事業場では就業規則の変更届と過半数代表者への意見聴取が必要です。既存の給与を引き下げる変更を伴う場合は、労働契約法第9条・第10条の不利益変更の論点が生じるため、個別対応が必要です。

Q. 等級を何段階にすればいいですか?

A. 20〜50名規模では2〜3段階が現実的です。等級を細かくしすぎると格付けの判断が難しくなり、運用の維持コストが増します。「メンバー・リーダー」の2段階、または「一般職・中堅職・リーダー職」の3段階からスタートし、組織が成長してから段階的に細分化する方法をおすすめします。

Q. 昇給テーブルを作った後、社員への説明はどのように進めればいいですか?

A. 全社への一斉説明と、その後の個別面談をセットで行うことが標準的なプロセスです。全社説明では制度の趣旨・等級の定義・昇給目安の考え方を共有し、個別面談では「自分の等級はどこか」「今後どうすれば昇給できるか」を一人ひとりに説明します。一度の全社説明だけで終わらせると、後から個別の不満が表面化しやすいため、個別Q&Aの機会を事前に周知しておくことが重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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