「人が足りないと言っているのに、面接には来ない」——これは、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務人事担当者からよく聞かれる声です。現場マネージャーを面接に巻き込もうとしても、直前にキャンセルされたり、来ても黙って座っているだけだったり。本記事では、マネージャーが面接を避ける本音の構造を整理し、無理な説得をせずに「参加したくなる・参加しやすくなる」仕組みの作り方を実務目線で解説します。
マネージャーが面接を避ける4つの本音
「忙しい」という表向きの理由の裏には、スキルへの不安や権限の曖昧さといった別の本音が隠れています。この構造を理解しないまま「とにかく来てほしい」と頼み続けても、同じことが繰り返されるだけです。
準備方法がわからず「時間を使っても無駄になりそう」という不安
マネージャーが「忙しい」と言うとき、その多くは「面接でどう振る舞えばいいかわからない」という不安を抱えています。何を聞けばいいのか、どう評価すればいいのか。これが明確でないと、面接の準備そのものに取り掛かれず、結果として「行けない」という形で回避するのです。
採用面接の経験が少ないマネージャーにとって、「場をどう回すか」は意外と高いハードルです。事前に何も渡されないまま「同席してください」と言われても、動きにくいのは当然です。
「自分が決めていいのか」という権限の曖昧さ
「採用は人事の仕事」という意識がある場合、マネージャーは「自分が面接に出ることで責任が発生するのでは」と感じることがあります。もし自分が評価した候補者が採用されて失敗したとき、誰の責任になるのか。その答えが曖昧なまま関与を求められると、合理的に距離を置こうとします。
この権限の曖昧さは、採用フローの設計が整備されていない中小企業では特に起きやすい問題です。
過去の採用失敗体験と「どうせ辞める」という諦め
採用に関わった経験があるマネージャーほど、過去の失敗体験を引きずっていることがあります。「せっかく採用したのにすぐ辞めた」「自分の評価が通らず、合わない人が来た」といった体験が積み重なると、採用プロセスへの関与そのものを避けるようになります。
加えて、自分のチームに「合わない人」を押し込まれる恐怖も存在します。面接に参加してもどうせ人事が決める、という無力感がある場合も少なくありません。
現場が関与しないと採用ミスマッチが起きる理由
現場マネージャーが採用プロセスに関わらないと、入社後の「こんな人だと思わなかった」というミスマッチが高確率で発生します。この問題は、採用後に現場からの不満として人事に向けられ、信頼関係の損失につながります。
書類・面接だけでは「実際の業務適性」が見えない
職務経歴書やスキルチェックは、あくまで候補者の過去を示すものです。「このチームでこの仕事をこなせるか」「既存メンバーと協力して動けるか」といった現場固有の視点は、現場を知るマネージャーにしか評価できません。
人事が一人で選考を完結させると、どうしてもスペック重視・印象重視になりがちです。結果として「能力はあるが、このチームには合わない」という人材が入社するケースが生まれます。
現場が「選んだ」という当事者意識が定着率に影響する
マネージャーが採用プロセスに関与すると、「自分たちで選んだメンバー」という当事者意識が生まれます。この感覚は、入社後のフォローや育成の丁寧さに直結します。逆に「人事が勝手に決めた人」という意識があると、受け入れ側の姿勢が受け身になりがちです。
中小企業では特に、マネージャーと新入社員の距離が近い。だからこそ、選考段階からの関与が定着率に与える影響は大きいのです。
参加を促す前に整備すべき面接設計の基本
マネージャーに「参加してほしい」と頼む前に、参加しやすい仕組みを用意することが先決です。準備コストを下げ、役割を明確にするだけで、参加への抵抗感は大きく変わります。
役割分担を明確にする
まず「現場マネージャーが確認すること」と「人事が担当すること」を明確に切り分けましょう。以下のような役割分担の整理が有効です。
| 担当 | 確認・担当内容 |
|---|---|
| 現場マネージャー | 業務への適性・チームとの相性・コミュニケーションスタイル |
| 人事・経営者 | 給与・待遇・入社時期・会社のビジョン・条件調整 |
この分担を明示することで、マネージャーは「自分は何をすればいいか」が明確になり、動きやすくなります。
所要時間と質問を事前に用意する
「30分・質問3〜4問」という最小化されたフォーマットを用意することが有効です。マネージャーにとっての時間的コストが目に見えると、スケジュール調整への心理的ハードルが下がります。
併せて「聞いていい質問リスト」と「絶対に聞いてはいけない質問リスト」をセットで渡しましょう。厚生労働省のガイドラインでは、本人の出生地・家族構成・宗教・思想・信条に関わる質問は「就職差別につながるおそれのある質問」として明確に禁止されています。これを知らないマネージャーが善意で行った質問が法的リスクになるケースは珍しくありません。事前にレクチャーと書面での案内が不可欠です。
評価を「感覚」ではなく「言葉」で残せる仕組みにする
面接後に「なんか違う気がした」という評価では採用判断に使えません。簡易な評価シートを用意し、「業務理解度」「チームフィットの印象」「コミュニケーションの質」など3〜5項目を5段階で評価できる形にするだけで、マネージャーの意見を採用判断に活かせるようになります。
さらに重要なのは、「マネージャーの評価が実際に採用判断に反映された」という体験を作ること。この実感が生まれると、次回以降の協力を得やすくなります。
参加しやすくする具体的アプローチ
仕組みが整ったうえで、マネージャーに働きかける際には「強制」ではなく「動きやすい環境を作る」という発想が基本です。以下の4点を実践することで、自然な巻き込みが実現します。
「面接の存在意義」をマネージャー目線で伝える
「採用は大事だから協力して」という依頼より、「あなたのチームにとって必要な人を選ぶ場です」という伝え方の方が動機づけになります。マネージャー自身の課題(人手不足・業務負荷)と面接への参加を直接つなげて話すことが大切です。
「面接に関わることで、自分のチームに合う人が来やすくなる」という因果関係を具体的に伝えましょう。
「来てもらうだけ」から「有効に機能する場」に変える
来てはくれるが沈黙している、というケースは「役割が不明確なまま呼んでいる」ことが原因です。事前に「この時間帯にこの質問をお願いします」と役割を渡しておくだけで、マネージャーの行動は変わります。
初回はあえてマネージャーの参加時間を短くする(15〜20分の同席から始める)という設計も有効です。成功体験を積ませることが継続的な参加につながります。
会社規模や体制によって対応を変える
20〜50名規模の企業では、「現場マネージャー」が経営者・副社長・チームリーダーを兼ねていることがあります。この場合、面接に呼ぶこと自体よりも「採用基準を一緒に言語化する場を作る」ことの方が現実的な場合もあります。
- 専任人事がいる場合:面接フォーマットの整備とマネージャーへの事前レクチャーを人事が担う
- 専任人事がいない場合:経営者が面接設計を主導し、マネージャーへの役割付与を行う
- マネージャー層が薄い場合:経営者・現場リーダーが兼任する形での小規模フォーマットを設計する
自社の体制に合わせた「現実的な関与の形」を設計することが、長続きする採用プロセスの鍵になります。
採用設計が曖昧なまま現場マネージャーへ参加を促しても、うまくいきません。人事機能が限定的な企業こそ、プロの視点を取り入れることで採用プロセスの質が大きく変わります。
やりがちな失敗と避けるべき設計
面接への参加を促す際に、逆効果になりやすいアプローチがあります。「来させること」を目的にしてしまうと、かえって採用の質が下がります。
「参加させること」がゴールになってしまう
マネージャーを強制的に面接に呼んでも、スマートフォンを触りながら座っているだけでは候補者に悪印象を与えるだけです。「参加したくなる・参加しやすい構造を作ること」がゴールであり、参加そのものはあくまで手段です。
この視点の違いを持つだけで、働きかけのアプローチは大きく変わります。
面接後のフィードバックを無視してしまう
マネージャーが面接で意見を出したにもかかわらず、採用判断にまったく反映されないと「参加しても無意味」という感覚が生まれます。すべての意見を採用判断に反映させる必要はありませんが、「あなたの評価はこういう形で判断材料にしました」というフィードバックを返す習慣が、次回以降の参加意欲を維持します。
禁止質問のリスクを軽視してしまう
面接に慣れていないマネージャーが「雑談感覚」で行った質問が、就職差別に該当するリスクは無視できません。厚生労働省の「公正な採用選考の基本」では、家族構成・出生地・宗教・思想信条に関わる質問が明示的に問題のある質問として示されています。面接に参加するマネージャー全員に対して、この内容を書面で事前に案内することは、企業としての最低限のリスク管理です。
まとめ
現場マネージャーが面接を避ける理由は、「忙しい」という表面的なものではなく、スキルへの不安・権限の曖昧さ・過去の失敗体験・合わない人材を押し付けられる恐怖という4つの本音に根ざしています。これを解消するには、説得や強制ではなく「参加しやすい仕組みの設計」が先決です。役割分担の明確化・最小化された面接フォーマット・事前の質問リスト整備・評価シートの導入という一連の設計を整えることで、マネージャーは自然に動きやすくなります。また、禁止質問の周知は法的リスクの観点からも欠かせない対応です。
採用の課題は人事だけで抱える必要はありません。「採用フローの設計をどう整えるか」「現場をどう巻き込むか」といった組織全体の仕組み作りでお困りでしたら、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。貴社の規模や体制に合わせた現実的なアドバイスをしています。
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