年功型給与から貢献型への移行の進め方

年功型給与から貢献型への移行の進め方 組織運営
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「古参社員の給与が高すぎて、頑張っている若手に報いる原資がない」——経営者や兼務人事担当者から、こうした相談を受けることが増えています。年功型給与制度は、社員が長く定着していた時代には合理的な仕組みでした。しかし、成長企業にとっては「払えるお金が、払いたい人に払えない」状態を生み出し、採用競争力の低下や若手の離職につながるケースも少なくありません。この記事では、20〜50名規模の中小企業が年功型給与から貢献型評価制度へ移行するための具体的なステップと、社員説明・法的手続きの落とし穴をわかりやすく解説します。

年功型給与の限界と移行が必要な理由

年功型給与制度は、勤続年数を重ねるほど自動的に基本給が上がる仕組みです。長期雇用を前提にした高度経済成長期には有効でしたが、現在の中小企業では深刻な歪みを生んでいます。

逆転現象が生む不公平感

在籍年数だけで高い給与を受け取るベテラン社員と、実際に成果を出しているにもかかわらず給与が追いつかない若手社員の間に、明確な逆転現象が生じます。この不公平感は表面に出にくいものの、モチベーションの低下や「報われない」という感情として蓄積し、中堅・若手の離職につながるリスクをはらんでいます。

採用原資が確保できない構造的問題

年功によって積み上がった基本給は固定費として会社の財務を圧迫します。成果を出している既存社員の昇給原資も、採用強化のための予算も、ベテラン層の固定費が吸収してしまう構造です。特に20〜50名規模では、人件費総額に占める特定個人の影響が大きく、制度設計の歪みが財務に直結します。

評価制度なき給与制度変更のリスク

「貢献度で給与を決める」と宣言しても、評価基準・評価プロセスが整備されていなければ、給与の増減が経営者の主観や感情に左右されると社員に受け取られます。貢献型への移行は、報酬制度と評価制度をセットで整備することが前提です。この順序を間違えると、制度変更がかえって不信感を高める結果になります。

移行前に必ず確認すべき法的ルール

給与制度の変更は、やり方を誤ると労働法違反になります。特に既存社員の賃金が実質的に下がる場合には、法的な手続きと合理性の確保が不可欠です。

不利益変更のルール(労働契約法第10条)

給与制度の変更によって既存社員の賃金が下がる場合、それは「労働条件の不利益変更」にあたります。労働契約法第10条は、就業規則の変更による不利益変更が有効となるためには「変更の合理性」と「変更内容の周知」の両方が必要だと定めています。合理性の判断にあたっては、労働者が受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉状況などが総合的に考慮されます。「就業規則を変えれば社員の同意なしに変更できる」という理解は誤りです。不利益が大きい場合は、個別の同意取得が必要になる場面もあります。

就業規則変更の手続き(労働基準法第89条・第90条)

常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を変更する際に労働者代表の意見聴取と労働基準監督署への届出が義務付けられています(労働基準法第89条・第90条)。意見聴取は「同意」ではなく「聴取」で足りますが、記録として書面(意見書)を残すことが重要です。10人未満の事業場でも、変更の手続きと記録を残す習慣は、後日のトラブル防止に役立ちます。

同一労働同一賃金への配慮

正社員・パートタイム・有期雇用が混在している場合、制度変更がパートタイム・有期雇用労働法が禁ずる「不合理な待遇差」を生まないか確認が必要です。正社員だけに有利な貢献型給与を導入しながら、同じ業務をするパート社員の処遇を据え置くと、法的リスクが生じる場合があります。

制度変計の法的判断が難しい場合は、専門家への相談が無用なトラブルを防ぎます。

移行設計の基本的な考え方

既存社員の給与を物理的に下げることなく、段階的に貢献型へ移行することが現実的かつ法的リスクの低い方法です。「下げる」ではなく「差をつける・上限を設ける」という発想が基本になります。

給与構造の組み替え方

多くの企業が採用する移行方法は、定期昇給の停止・縮小によって年功部分を徐々に圧縮しながら、新たに「役割給」や「成果給」の区分を上乗せする形でスタートするものです。これにより、既存社員の現在の給与水準を下げずに移行できる一方、将来の昇給の原資を貢献度連動型に切り替えることができます。経過措置として、移行後一定期間(たとえば2〜3年)は現行給与を保障するグランドファザリング(既得権保護)条項を設ける企業もあります。

役割定義が先、報酬設計が後

貢献型への移行で最初に整備すべきは「何をもって貢献とするか」の定義です。職務・役割の等級(ジョブグレードなど)を先に設計し、各等級に対応する給与レンジを設定する順序が重要です。この土台なしに報酬制度だけ変えると、評価が属人的・感情的になり、社員の不信感が高まります。役割定義の精度が、制度の信頼性を決定します。

二重構造のリスクに注意する

「既存社員は旧制度、新規採用者は新制度」という二重構造を長期間放置することには注意が必要です。中堅・若手の既存社員が「同じ仕事をしているのに旧制度に縛られている」と感じると、離職リスクが高まります。移行期間は設けても、制度を一本化する時期(出口)を明示し、社員に共有しておくことが重要です。

社員説明の順序と伝え方

制度変更の成否は、制度設計の合理性よりも、プロセスの透明性と説明の丁寧さによって大きく左右されます。特に20〜50名規模では、経営者や上司との距離が近い分、「なぜ話してもらえなかったのか」「決定の過程が見えなかった」という感覚が強い不信感につながります。

説明の順序と構成

まず経営幹部・管理職層への事前共有を行い、現場への説明に協力してもらえる体制を整えます。次に全社説明会を開き、変更の背景・目的・スケジュールを伝えます。そのうえで、個別面談の機会を設け、社員一人ひとりの疑問や不安に向き合います。この三段階を踏まずに一斉通知だけで済ませると、「一方的に決められた」という受け取られ方になります。

説明会で伝えるべき内容

全社説明会では、以下の四点を明確に伝えることが信頼構築の基本です。

  • なぜ今変える必要があるのか(変更の必要性・背景)
  • 何がどのように変わるのか(変更内容の具体的な説明)
  • 既存社員の給与はどうなるのか(不安の核心に直接答える)
  • 移行スケジュールと経過措置の内容(いつ・どのように移行するか)

「詳細は追って連絡」という形で重要事項を曖昧にすることは避けてください。情報の空白は不安と憶測で埋まります。

従業員数・体制別の対応分岐

会社の規模や体制によって、対応すべき事項が異なります。下表を参考に、自社の状況を確認してください。

状況 追加で必要な対応
常時10人以上の事業場 労働者代表の意見聴取・意見書作成・労働基準監督署への届出
常時10人未満の事業場 法的義務はないが、変更手続きの記録を残すことを推奨
パート・有期雇用が混在 同一労働同一賃金の観点から待遇差の合理性を確認
労働組合が存在する 組合との誠実な交渉・協議が合理性判断に影響
専任人事がいない 社労士・外部専門家への設計・届出支援の依頼を検討

移行を進める現実的なステップ

貢献型給与への移行は、一度に完成させるものではなく、段階的に積み上げていくプロセスです。焦らず、社員との対話を重ねながら進めることが、定着率と制度の信頼性を高めます。

現状の給与構造と課題の可視化

まず現状の給与台帳を整理し、年功要素がどのくらい給与に占めているかを把握します。勤続年数と実際の職責・成果のギャップが大きい社員を特定し、どの層にどの程度の影響が出るかを試算します。この段階では外部に公表せず、経営陣だけで情報を共有します。

役割等級と評価基準の設計

次に、職務・役割の等級定義と各等級の給与レンジを設計します。評価基準(何をどう評価するか)を明文化し、評価者間でのばらつきを最小化するための評価者トレーニングも検討します。この段階で、社内に評価制度設計のノウハウがない場合は、社労士や人事コンサルタントの支援を活用するのが現実的です。

就業規則の改訂と法的手続き

設計した制度を就業規則に反映します。賃金規程を含む就業規則の変更にあたり、常時10人以上の事業場では労働者代表の意見聴取と労働基準監督署への届出が必要です。変更内容を社員に周知する方法(掲示・配布・イントラネット掲載など)も記録に残します。就業規則の変更は、法的効力の発生要件でもある「周知」と、労働者への「不利益変更の合理性」の両方を満たすよう整備します。

給与制度の移行は人事だけで判断する課題ではありません。法務・財務との連携、社員の心情への配慮など、複数の視点が必要です。

まとめ

年功型給与から貢献型評価制度への移行は、「制度を変える」ことよりも「どう変えるか」のプロセスが成否を分けます。法的には労働契約法第10条が定める不利益変更のルールを守り、就業規則の変更手続きを適切に踏むことが前提です。設計面では、役割定義と評価基準を先に整備し、給与を段階的に移行させることで社員の不安と法的リスクを最小化できます。そして何より重要なのが、社員への丁寧な説明と対話のプロセスです。「決定の過程が見えた」「話を聞いてもらえた」という経験が、制度への信頼と定着につながります。

専任人事がいない中でこれらを兼務でこなすことには限界があります。ウェルセンス株式会社では、給与制度変更の設計支援から社員説明の進め方、就業規則の整備まで、20〜50名規模の中小企業の実情に合わせた伴走支援を提供しています。「何から手をつければいいかわからない」という段階からでも、ぜひお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 既存社員の給与を下げずに貢献型に移行することはできますか?

A. 可能です。多くの企業が採用するのは、定期昇給を停止・縮小して年功部分の増加を抑えながら、新たに役割給・成果給を上乗せする方法です。現在の給与水準を下げるのではなく、今後の昇給の仕組みを貢献度連動型に切り替えることで、既存社員への不利益を最小限にしながら移行できます。一定期間の経過措置(現行給与の保障期間)を設ける企業もあります。

Q. 社員の同意なしに給与制度を変えることはできますか?

A. 変更によって社員の賃金が実質的に下がる場合(不利益変更)は、就業規則を変えるだけでは不十分です。労働契約法第10条に基づき、変更の合理性と周知が必要であり、不利益の程度が大きい場合は個別同意が求められます。一方、社員の処遇が下がらない変更であれば、就業規則の変更手続き(意見聴取・届出・周知)を踏むことで対応できる場合があります。具体的な判断は社労士や弁護士に確認することをお勧めします。

Q. 評価制度がまだ整っていない状態で、給与制度だけ先に変えても大丈夫ですか?

A. 避けることをお勧めします。評価基準が明文化されていない状態で給与を貢献度連動にすると、「何で評価されているかわからない」「経営者の好みで決まっている」という不信感が生まれやすくなります。役割等級の定義と評価基準の整備を先に行い、報酬設計はその後というのが基本の順序です。両方を同時に進めることが難しい場合は、評価基準のたたき台を社員と一緒につくるプロセスを経るだけでも、透明性の確保につながります。

Q. 新入社員だけ新制度にして、既存社員は旧制度のままにする方法はどうですか?

A. 短期的には選択肢の一つですが、長期間の二重構造は推奨しません。中堅・若手の既存社員が「同じ仕事をしているのに旧制度に縛られている」と感じ、離職リスクが高まるケースがあります。新旧制度を使い分ける期間は移行措置として認めつつも、制度を一本化する時期(出口)を明示し、社員に共有しておくことが重要です。

Q. 専任人事がいない中で移行を進めるには、どんな支援を活用すればいいですか?

A. 就業規則の改訂・労働基準監督署への届出・給与制度設計については社会保険労務士(社労士)への依頼が一般的です。社員説明会の準備や評価制度の設計・運用定着については、人事コンサルタントや外部の人事支援サービスの活用が現実的です。ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業向けに、制度設計の支援から社員説明のサポートまで一体的に相談できる窓口を設けています。まずは現状の課題をご相談ください。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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