職種限定採用でも配置転換できる契約見直し3つのポイント

職種限定採用でも配置転換できる契約見直し3つのポイント 労務管理
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「営業として採用したはずなのに、総務の仕事もお願いできないか」——成長期の中小企業では、こうした会話が日常的に起きます。ところが、いざ業務命令を出そうとした途端に「採用時の話と違う」と社員に言われ、対応に困るケースが少なくありません。

職種限定採用と配置転換の問題は、雇用契約書の記載ひとつで「命令できる会社」と「社員の同意なしには動かせない会社」に分かれます。この記事では、法的な考え方の整理から、実務で使える契約見直しのポイントまでをわかりやすく解説します。

「職種限定」で採用した社員は、一方的に異動させられないのか

職種限定の合意が成立している場合、使用者(会社)は原則として社員の同意なく一方的に職種を変更できません。ただし「限定合意が本当に成立しているか」の判断は思いのほか複雑で、書面がなくても合意が認められることがある一方、書面があっても実態次第で否定されることもあります。

職種限定合意とは何か

職種限定合意とは、「この職種の業務だけを担当する」という内容で締結された雇用契約上の約束です。労働契約法第8条は「労働者と使用者は、合意により労働契約の内容を変更できる」と定めており、裏を返せば、一度合意した内容を使用者が一方的に変更することは原則として認められません。

「特定職種に限定する」という合意は、必ずしも書面に明示されている必要はなく、採用面接での口頭説明や、入社後に一貫して特定業務のみに従事してきた実態から「黙示の合意」が認定されることもあります。専門性の高いエンジニアや医療職、専門士業などは、職種限定の合意が認められやすい典型例です。

限定合意の「有無」はどう判断されるか

裁判所は職種限定の有無を判断する際、以下の要素を総合的に考慮します。

  • 求人票・採用通知書・雇用契約書に職種が特定して記載されているか
  • 採用面接や内定時に職種を限定する旨の説明があったか
  • 入社後、一貫して特定業務のみに従事してきたか
  • 就業規則に「業務上の都合により配置転換を命じることがある」などの規定があるか

就業規則に配置転換の根拠規定がある会社では、限定合意が否定されやすくなります。逆に、就業規則に何も書かれていない中小企業では、求人票や面接での説明が職種限定合意の根拠として使われるリスクがあります。

配置転換を命じると「解雇」にも影響する

見落とされがちな重大な落とし穴があります。職種限定合意が認められると、整理解雇の有効性審査がより厳しくなるという点です。整理解雇の有効性は「解雇回避努力」の有無によっても判断されますが、「他の職種に配置転換すれば雇用を維持できたはず」という主張が通りにくくなり、解雇が無効と判断されるリスクが高まります。配置転換の問題は、将来の人員整理コストにも直結していることを念頭に置いてください。

社員に「採用時と話が違う」と言われたときの考え方

社員から反発を受けた場合、まず確認すべきは「職種限定の合意が法的に成立しているかどうか」です。合意が成立している場合と、そうでない場合とでは、会社が取るべき対応が根本的に異なります。

限定合意が成立している場合の対応

職種限定の合意が成立している場合、配置転換命令は原則として無効です。この場合、会社としての選択肢は大きく二つに絞られます。一つは社員と個別に合意交渉を行い、書面で同意を得ること。もう一つは、変更後の業務に見合った待遇を提示しながら説得するプロセスを踏むことです。

同意書を取得する際は、社員が自由意思(任意)で署名していると認められるよう、十分な説明と検討時間を確保することが重要です。最高裁平成28年2月19日判決(山梨県民信用組合事件)は、労働者の「自由な意思に基づく同意」かどうかを厳格に判断する枠組みを示しており、「断れない雰囲気で署名させた」と後から争われるリスクに注意が必要です。

限定合意が成立していない場合の注意点

職種限定の合意が成立していないと判断できる場合、使用者には配置転換命令権があります。ただし、命令権があるからといって何でも許されるわけではありません。日産自動車事件(最高裁昭和61年7月14日)が示したように、配置転換命令が「権利の濫用」にあたる場合は無効となります。判断基準は、業務上の必要性の有無、社員への著しい不利益(賃金の大幅低下・家庭生活への重大な支障など)、不当な動機・目的がないかどうかです。

反発された場合の現実的な交渉ステップ

実務上は、命令の有効・無効を争うよりも、丁寧な対話で合意形成を図る方がリスクも低くコストも少なくて済みます。以下のステップを踏むことが、後のトラブル防止につながります。

  1. 1対1の面談で変更の理由・背景を説明する
  2. 変更後の業務内容・待遇を明確に提示する
  3. 同意が得られたら書面(変更合意書)を交わす

職種限定採用での配置転換——契約見直しのポイント

将来にわたって柔軟な人員配置を可能にするには、雇用契約書と就業規則の両方に手を入れることが必要です。どちらか一方だけでは不十分で、両輪で整備することが実務上の安全策です。

雇用契約書に「変更可能性」を明記する

雇用契約書に職種を記載する場合は、「現在の担当業務」であることを明確にしたうえで、「業務上の必要に応じて職種・担当業務を変更することがある」という趣旨の文言を必ず添えましょう。また、変更の際には事前に協議を行う旨を記載しておくと、社員の納得感も高まります。

記載例:「職種:営業(業務上の都合により、他の業務への変更を命じる場合があります)」

求人票の段階からこの表現を使うことで、採用選考の初期から職種限定採用の柔軟性について認識を合わせることができます。

就業規則に配置転換の根拠規定を設ける

就業規則に「会社は業務上の必要がある場合、労働者に対して職種・担当業務・勤務場所の変更を命じることができる」という規定を置くことが、配置転換命令の法的根拠として機能します。この規定がない会社では、社員から「根拠がない」と言われた際に反論が難しくなります。

就業規則を変更する際は、労働契約法第10条に基づき「変更に合理性があること」と「社員への周知」が必要です。配置転換に関する規定の新設・明確化は不利益変更には当たらないケースがほとんどですが、賃金に連動する条件変更が絡む場合は慎重な検討が必要です。就業規則の変更届・意見書を労働基準監督署への届出も忘れずに行ってください(常時10人以上の労働者を使用する事業場では義務です)。

既存社員の契約変更は個別同意が原則

新規採用社員については契約書の文言を整備すればよいですが、既存社員の場合は現在の雇用契約の内容が優先されます。職種限定の合意がある既存社員に対して、その内容を変更するには個別の書面による同意が原則です。

重要:就業規則を変更するだけで既存社員全員の合意内容を上書きすることはできません。この点は、中小企業の経営者が最も誤解しやすいポイントです。

従業員数・就業規則の整備状況別の対応ガイド

会社の規模や就業規則の整備状況によって、取るべき対応の優先順位が変わります。自社の状況に照らし合わせながら確認してください。

状況別の対応方針

会社の状況 優先して対応すべきこと
就業規則がない(9人以下) 雇用契約書に「業務変更可能性」の文言を必ず入れる。口頭約束は書面化して残す
就業規則はあるが配置転換規定がない(10人以上) 就業規則に配置転換・職種変更の根拠規定を追加し、労基署に届出
既存社員に職種限定合意がある疑いがある 現契約内容を確認のうえ、変更が必要な場合は個別面談・同意書取得のプロセスを踏む
これから採用する社員がいる 求人票・雇用契約書の両方に職種変更可能性を明記し、面接時にも口頭で説明する

10人未満の会社が特に注意すべき点

常時雇用する労働者が9人以下の会社には就業規則の作成義務はありませんが、だからといって雇用契約書だけで安心できるわけではありません。就業規則がない場合、配置転換命令の根拠は雇用契約書の文言のみとなります。「職種:〇〇」とだけ書かれた簡素な雇用契約書を使い続けている場合は、早期に文言の見直しを検討してください。

10人以上の会社が陥りやすい落とし穴

就業規則があっても「業務上必要な場合に配置転換を命じることができる」という規定がない会社は、実態として9人以下の会社と同じリスクを抱えています。就業規則の作成時期が古い会社では、現代の働き方に対応していない条文が残っているケースが多く、定期的な見直しが必要です。

また、就業規則を変更したとしても、それ以前に締結した既存社員の雇用契約を上書きするものではない点(労働契約法第12条)も理解しておいてください。

まとめ

職種限定採用と配置転換の問題は、雇用契約書・就業規則・採用時の説明という三つの要素が絡み合って発生します。配置転換を柔軟に命じるには、以下の三つが実務の基本です。

  • 就業規則に根拠規定を設ける
  • 雇用契約書に「業務変更の可能性」を明記する
  • 既存社員については個別同意のプロセスを丁寧に踏む

「就業規則に書けば一方的に変更できる」という誤解は、後の紛争コストを大きく引き上げるリスクがありますので注意が必要です。

実務的なサポートが必要な場合は

実際の契約書の文言チェックや既存社員との交渉プロセスについては、自社だけで判断するには難しい部分も多くあります。ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務担当者が直面する、こうした雇用契約・就業規則まわりの実務的な疑問にも対応しています。

「自社の雇用契約書を一度見てほしい」「既存社員への伝え方を相談したい」という段階からでも、お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 口頭で「営業専任として採用します」と伝えてしまいました。これは職種限定合意になりますか?

A. なる可能性があります。職種限定合意は書面がなくても成立しうるため、採用面接での口頭説明や入社後の実態も判断材料になります。もし現在も「営業しか担当していない」状態であれば、限定合意が認められるリスクは高まります。今後の配置転換を見据えるなら、雇用契約書の文言見直しと合わせて、変更の可能性を改めて社員と確認しておくことをお勧めします。

Q. 社員が配置転換を断った場合、懲戒処分や解雇はできますか?

A. 職種限定合意がある場合、配置転換命令自体が無効となるため、それを拒否したことを理由に懲戒・解雇することは原則できません。限定合意がなく命令が有効な場合でも、正当な理由のない業務命令拒否として懲戒処分を検討する前に、拒否の理由を丁寧に確認し協議を尽くすプロセスが必要です。いきなり解雇に踏み切ると不当解雇リスクが高まりますので、専門家への相談を先に行うことをお勧めします。

Q. 就業規則を変更すれば、全社員に配置転換を命じられるようになりますか?

A. 就業規則の変更だけでは不十分です。就業規則に配置転換の根拠規定を新設することは有効ですが、それ以前に職種限定合意を結んでいた既存社員については、就業規則の変更によって個別の合意内容を上書きすることはできません。既存社員の限定合意を変更するには、個別の書面同意が原則として必要です。新規採用社員については、入社時の雇用契約書と就業規則の両方に変更可能性を明示することが有効な対策になります。

Q. ジョブ型雇用を導入していると言えば、職種限定の問題は回避できますか?

A. 「ジョブ型雇用」という名称の問題ではなく、雇用契約書・就業規則の実際の記載内容と運用実態が問われます。ジョブ型と称していても、雇用契約書に職種変更可能性が明記されており、就業規則に根拠規定があれば問題は起きにくいです。逆に、ジョブ型と言わなくても「特定業務だけを担当する」という実態が続いていれば、職種限定合意が認定されるリスクがあります。名称よりも書面と実態の整合性が重要です。

Q. 配置転換ではなく、業務の一部を追加する場合も同様の問題が起きますか?

A. 既存業務に加えて新たな業務を担わせる場合も、職種限定合意との関係が問われます。追加業務が「限定されていた職種と全く異なる性質のもの」であれば、事実上の職種変更と判断される可能性があります。特に、追加業務によって賃金水準が実質的に変わる・労働時間が増加する場合は、社員との事前協議と書面による合意形成を行うことが安全策です。

【監修】ウェルセンス株式会社
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