「傷病手当金が終わったので、失業給付をもらいたい。離職票を出してほしい」——休職中の社員からこんな連絡が来たとき、どう対応すればよいか、すぐに答えられる担当者は多くありません。在職中なのに離職票を出していいのか、退職はいつ確定するのか、会社は何をする義務があるのか。制度の複雑さと手続きの分かりにくさが重なり、対応が後手に回りやすい場面です。この記事では、傷病手当金終了後に休職中の社員が失業給付を受けるまでの流れと、会社が担うべき実務を順を追って整理します。
傷病手当金が終わっても「すぐ失業給付」にはならない
傷病手当金が終了した後、すぐに失業給付(雇用保険の基本手当)を受給することは原則できません。これは多くの社員と会社が誤解しやすい点です。
在職中は「失業」の前提を満たさない
雇用保険の失業給付は「失業状態にある」ことが受給の大前提です。失業とは、離職しており、かつ働く意思と能力があるにもかかわらず就職できていない状態を指します。休職中の社員はまだ在職しているため、この前提条件をそもそも満たしていません。社員が「傷病手当金が切れた=次の給付を受けられる」と思い込んでいるケースがよく見られますが、在職中である以上、失業給付の申請自体ができません。
退職後も「就労可能」でなければ受給できない
仮に退職が完了した後も、療養が続いており「今すぐ働ける状態ではない」という場合、失業給付はすぐには受けられません。ハローワークは求職活動ができる状態であることを確認したうえで給付を認定するためです。この場合は「受給期間の延長」を申請し、就労可能な状態になってから改めて給付を受けるという流れになります。社員本人にもこの仕組みを丁寧に伝えることが、会社側の重要な役割です。
傷病手当金と失業給付は「同時受給」できない
退職後も傷病手当金を継続受給している期間中は、失業給付と重複して受け取ることはできません。どちらを先に使うか、延長申請をどのタイミングで行うかは、社員本人が自分の状態を踏まえてハローワークと相談しながら判断します。会社がその判断を指示する立場にはありませんが、正しい情報を案内することはトラブル防止につながります。
「受給期間の延長」制度を正しく理解する
傷病を理由に退職後も就労できない場合に活用できるのが「受給期間の延長」制度です。これは失業給付の受給期間(原則として離職翌日から1年間)を最大4年まで延ばすことができる制度で、会社ではなく本人が申請します。
制度の骨格と申請の流れ
通常、失業給付は離職日の翌日から1年以内に受給しなければ権利が失効します。療養が長引くとこの1年を使い切れずに給付を受けられなくなる、というのがこの制度で解決しようとしている問題です。傷病・妊娠・育児などで30日以上就業できない状態が続く場合、その日数分だけ受給期間を延長できます。申請先はハローワークで、申請主体は本人です。会社が代わりに申請することはできません。会社の役割は、適切なタイミングで離職票を交付し、本人が申請できる環境を整えることです。
「特定理由離職者」に該当する場合の優遇
心身の疾病や障害を理由とした退職は、ハローワークが「特定理由離職者」と認定する可能性があります。認定されると、給付制限期間(通常は自己都合退職時に発生する2〜3ヶ月の待機)が免除されるほか、所定給付日数が優遇される場合があります。認定はハローワークが行いますが、会社が作成する離職証明書(離職理由の記載欄)の内容が重要な根拠となります。退職の経緯を正確かつ適切に記載することは、会社の法的義務であり、虚偽記載は不正とみなされます。
産業医が選任されていない企業の場合、退職前の復職可否判断に外部のスポット産業医サービスを活用することで、より客観的で適切な対応が進められます。
離職票は在職中に発行できるか
結論から述べると、在職中(退職が確定していない状態)の社員に対して離職票を発行することは、原則としてできません。
離職票が発行できるのは「退職確定後」
離職票は、会社がハローワークに雇用保険被保険者離職証明書を提出し、ハローワークから交付を受けた後に本人へ渡すものです。この一連の手続きは「退職(離職)が確定した事実」を前提としています。退職が決まっていない状態で社員から「離職票を出してほしい」と求められた場合、会社は「退職が確定してから手続きします」と説明するのが正しい対応です。断ることは権利侵害ではなく、制度上の正当な対応です。
就業規則上の「自動退職」が起きている場合は別扱い
休職期間の上限を定めた就業規則がある場合、その期間が満了した日をもって自動的に退職扱いになる規定(自動退職条項)を設けているケースがあります。この場合は「退職の合意」がなくとも、就業規則上の退職日が確定するため、その日付を離職日として離職証明書を作成し、離職票を交付することになります。ただし、この手続きを踏む前に「休職期間満了の事実を本人に通知していたか」「退職の合意や意思確認を試みたか」という経緯の記録を残しておくことが、後の労使トラブルを防ぐうえで重要です。
離職票の交付が遅れると会社リスクになる
退職が確定したにもかかわらず、会社が正当な理由なく離職票の交付を遅らせた場合、本人の受給期間を実質的に損ない、損害賠償請求や行政指導の対象となりうるリスクがあります。退職が確定したら速やかに(通常10日以内を目安に)ハローワークへ届け出て、離職票を本人に渡すことが会社の義務です。
傷病手当金終了後の会社対応フロー
傷病手当金終了のタイミングで会社が取るべき対応は、「社員の状態確認」と「退職・復職の方向性決定」を軸に進めます。以下の流れを整理しておくと、現場での判断がスムーズになります。
復職可否の確認が最初の分岐点
傷病手当金の終了(支給開始から通算1年6ヶ月)を会社が把握した、または社員から連絡を受けた段階で、まず復職の可否を確認します。主治医の診断書や、産業医が選任されている企業であれば産業医の意見書をもとに判断します。産業医が選任されていない場合(労働安全衛生法上の義務が生じるのは常時50人以上)、外部の産業医サービスや嘱託産業医を活用する選択肢もあります。
復職不可の場合の退職協議と手続きの流れ
| 段階 | 対応内容 | 主体 |
|---|---|---|
| 復職可否確認 | 主治医・産業医の意見取得、面談 | 会社・本人 |
| 退職の確定 | 合意退職の協議、または休職期間満了による自動退職 | 会社・本人 |
| 雇用保険手続き | 離職証明書をハローワークへ提出、離職票を本人へ交付 | 会社 |
| 受給延長申請 | まだ療養中の場合、受給期間延長をハローワークへ申請 | 本人 |
| 失業給付申請 | 就労可能な状態になった段階で求職申請・受給開始 | 本人 |
就業規則がない・休職規定がない場合は早急に整備を
就業規則のない会社や、休職に関する規定が整備されていない場合、「いつまで休職させるべきか」「満了後はどう扱うか」の根拠が曖昧になります。この状態で退職手続きを進めると、後に「解雇だ」と主張される余地を与えます。就業規則の整備と休職規定の明文化は、このような局面での会社防衛に直結します。現状で規定がない場合は、この機会に整備を検討してください。
会社が対応を誤ると起きるリスク
傷病手当金終了後の対応は、放置や誤対応が労使トラブルに発展しやすい局面です。具体的にどのようなリスクがあるかを把握しておくことが、適切な対応の動機付けになります。
不当解雇の主張につながるケース
休職期間が就業規則上の上限を超えたにもかかわらず、退職の意思確認や通知を行わないまま放置していた場合、後になって「事実上解雇された」と主張される可能性があります。一方で、十分な手続きを踏まずに一方的に退職扱いにしたケースも、解雇権濫用と見なされるリスクがあります。どちらの方向でも、記録と丁寧なコミュニケーションが会社を守ります。
離職証明書の記載ミスが招くトラブル
離職証明書の「離職理由」欄を誤った区分で記載した場合、本人が受けられるはずだった給付(特定理由離職者としての優遇等)を受けられなくなることがあります。後から本人が「会社の記載ミスで損害を受けた」として民事上の請求をしてくるケースも存在します。疾病を理由とした退職であれば、その事実を正確に記載することが原則です。不明な場合はハローワークの窓口に確認しながら作成するのが安全な対応です。
まとめ
傷病手当金終了後の社員対応は、「在職か退職か」「就労可能かどうか」の2軸で整理することが基本です。在職中に離職票を出すことはできず、退職が確定してから雇用保険手続きを進め、まだ療養中であれば受給期間の延長を本人がハローワークに申請する流れになります。会社は離職証明書の離職理由を正確に記載し、速やかに離職票を交付する義務を果たすことが求められます。就業規則・休職規定の整備と、手続きの記録の保存が、後のトラブルを防ぐ最大の備えです。
傷病手当金終了後の対応は、単一の部門だけでは判断が難しいことも多くあります。ウェルセンス株式会社では、メンタルヘルスや休職復職に関する人事労務の相談に対応しており、専任人事がいない企業でも実務的にサポートしています。
よくある質問
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