双極性障害の社員を支える雇用継続の進め方

双極性障害の社員を支える雇用継続の進め方 メンタルヘルス対応
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「双極性障害と診断されました」と社員から告げられたとき、どう対応すればよいか戸惑った経験はないでしょうか。うつ病とは異なる波のある経過、繰り返す休職、復職判断の難しさ——専任人事がいない中小企業では、こうした双極性障害への対応を経営者や兼務担当者が一人で抱えがちです。この記事では、双極性障害の基本的な特性から、業務設計・休職ルール・復職支援まで、雇用継続に直結する実務的な考え方を整理してお伝えします。

双極性障害とうつ病は「似て非なる疾患」

躁状態・うつ状態・混合状態という三つの局面

双極性障害は、うつ状態だけが続くうつ病とは根本的に異なります。大きな特徴は「波(エピソード)」の存在です。気分が著しく高揚する躁状態、意欲が著しく低下するうつ状態、そして両方が同時に出現する混合状態——この三つの局面が繰り返される点を、まず押さえておく必要があります。混合状態は自殺リスクが最も高い時期とされており、「元気そうに見えるから大丈夫」という判断は非常に危険です。

双極Ⅰ型とⅡ型の違いを現場で意識する

双極性障害には大きく二つのタイプがあります。双極Ⅰ型は躁状態が顕著で、入院を要するほど激しい行動や判断力の著しい低下が生じることがあります。一方、双極Ⅱ型は軽躁状態とうつ状態が繰り返されるタイプで、職場では「元気なうつ病」と誤認されやすいという特徴があります。Ⅱ型の社員が「最近やる気があって仕事が捗っている」と言っているとき、実は軽躁状態である可能性があります。この違いを知らずに業務量を増やすと、翌週には深刻な落ち込みを招くことがあります。

「回復した」と「安定している」は違う

双極性障害には症状がほぼない安定期(寛解期)があります。この時期は通常業務をこなせることが多いですが、ストレス・睡眠不足・過労が再発の引き金になりやすいことが知られています。「元気そうだから」という理由で残業や急な出張を依頼することが、次の波を引き起こすリスクをはらんでいます。安定しているときこそ、慎重な業務設計が必要です。

不調のサインを見逃さない仕組みをつくる

「早期サイン」を本人・上司・人事で共有する

双極性障害の対応で最も実務的に重要なのが、波の兆候(早期サイン)を事前に把握・共有する仕組みです。早期サインとは、躁状態やうつ状態が始まる前に本人が感じる微妙な変化のことで、「睡眠時間が急に短くなった」「連絡が急に増える・減る」「いつもより声が大きい・早口になった」などが典型例として挙げられます。これらのサインは本人が最もよく知っています。採用時や復職時に「あなたにとっての早期サインは何か」をヒアリングし、人事・上司が共有しておくことで、後手に回る対応を防ぐことができます。

定期的な面談で状態を継続的にモニタリングする

双極性障害の社員には、月1回程度の定期的な上司または人事担当者との面談を設けることが有効です。面談の目的は業務評価ではなく、睡眠が取れているか、食欲はあるか、最近気になることはないか、といった体調の確認です。「問題が起きたときだけ話す」ではなく、「定期的に話す関係性をつくる」ことで、早めの対応が可能になります。記録を残しておくことも、後の対応の根拠として重要です。

「観察できること」を記録として残す

上司や人事担当者は、医療的な判断をする立場ではありません。ただし「〇月〇日、遅刻が3回続いた」「会議中に突然大声になった」など、観察した事実を記録することは実務的にも法的にも重要です。感情や推測ではなく、具体的な行動・発言・状況を記録する習慣を持つことで、医療機関との連携や休職判断の際に客観的な根拠として活用できます。

双極性障害の社員に合わせた業務設計の原則

睡眠リズムの安定を最優先に考える

双極性障害の症状管理において、睡眠リズムの乱れは最大のリスク要因の一つとされています。夜勤・早朝出勤・長距離出張の連続・締め切り直前の深夜対応——こうした業務スタイルは、たとえ本人が「問題ない」と言っていても、状態を不安定にする可能性があります。勤務時間の固定化(できれば9〜17時などのフレキシブルでない枠組み)や、出張の事前調整、繁忙期の業務量の事前確認などが、実務的な配慮として有効です。

安定期・躁状態・うつ状態で業務量の基準を変える

双極性障害の社員に対応するうえで有効なのが、状態別の業務量の目安をあらかじめ設定しておくことです。たとえば、安定期は通常業務の80〜90%、軽い波を感じているときは50〜60%、休職基準の状態になったら休業という形で、段階的な基準を本人・上司・人事の三者で事前に共有しておきます。この枠組みがあると、「今日は少し落ち着かないから仕事を減らしてほしい」と本人が申し出やすくなり、早期対処が可能になります。

業務の「責任の重さ」にも配慮する

業務量だけでなく、担当業務の責任の重さも設計する必要があります。特に躁状態のときは判断力が低下しているため、大きな金額の決裁・顧客への重要提案・採用判断など、取り返しのつかないミスにつながりやすい業務から一時的に外すことが望ましいです。「本人が自信満々に見えるから任せた」という判断が、後で深刻な問題に発展するケースは少なくありません。

繰り返す休職に対応できる就業規則の整備

「通算規定」がない就業規則はリスクになる

双極性障害の再発率は非常に高く、研究によっては約90%とも言われています。つまり、1回の休職で対応が終わるとは考えにくく、複数回の休職を前提とした就業規則の整備が不可欠です。多くの中小企業の就業規則には「勤続〇年以上の社員は〇ヶ月間休職できる」という記載はあっても、「前回の復職から〇ヶ月以内に再度休職した場合は、前回の残日数を引き継ぐ」といった通算規定がありません。この整備がないまま対応を続けると、何度でも同じ条件で休職させるしかなくなり、組織への負担が蓄積します。

復職条件を明文化しておく

復職の可否を判断する基準が曖昧なまま「主治医が復職可能と言った」という一点だけで対応すると、現場と経営の間で認識がずれ、トラブルになりがちです。復職条件の例として、生活リズムが安定していること(起床・就寝時間が一定)、一定期間通院を継続していること、試し出勤(リハビリ出勤)期間中に問題がないことなどを就業規則や復職支援規程に明記しておくことが重要です。主治医の診断書に加えて、会社独自のチェックリストを用いることで、判断の根拠が明確になります。

休職期間満了時の取り扱いを整理しておく

休職期間が満了し、復職できない状態が続いた場合の取り扱いも、就業規則に明記しておく必要があります。「休職期間満了をもって退職とする」という規定があれば、退職は合意解約ではなく就業規則に基づく「自然退職」として扱われます。ただし、この手続きが不明確・連絡不足・記録不十分な状態で行われると、後から無効を主張されるリスクがあります。定期的な状況確認の連絡・書面のやり取りを記録として残すことが、法的リスクの軽減につながります。

復職判断と合理的配慮の実務的な考え方

産業医がいない企業での復職判断の進め方

従業員50人未満の企業には産業医の選任義務がないため、多くの中小企業では専門的な第三者なしに復職判断を行っています。この場合、主治医への情報提供や意見聴取が重要な代替手段になります。たとえば、「業務内容・勤務時間・職場環境」を書面で主治医に伝え、「この条件での復職が可能か」を確認する「職場情報を踏まえた主治医意見書」を依頼する方法があります。また、自治体や商工会議所が提供する外部の産業保健サービス(産業保健総合支援センターなど)を無料で活用することもできます。

「合理的配慮」はどこまで求められるか

障害者雇用促進法の改正(2016年)により、事業主は障害のある労働者に対して「合理的配慮」を提供する義務を負っています。双極性障害もこの対象です。合理的配慮とは、働くうえでの障害を取り除くための調整のことで、業務量の調整・勤務時間の変更・通院のための早退許可などが具体例として挙げられます。ただし、「過度な負担」になる配慮は義務の範囲外とされています。重要なのは、「配慮できること・できないこと」を本人と話し合い、合意の過程を記録として残すことです。

「他の社員への負担」と「配慮の継続」のバランスを保つ

「大切な社員を支えたい」という気持ちと「他のメンバーへのしわ寄せが限界」という現実のはざまで判断に迷うケースは非常に多いです。この場合に重要なのは、感情ではなく、「どこまでを会社として対応したか」という記録です。業務の調整内容・面談の実施日・本人への説明内容などを記録しておくことで、最終的に雇用継続が困難と判断する場面でも、「合理的配慮を尽くした」という根拠になります。記録のない対応は、善意であっても後から「何もしなかった」と見なされるリスクがあります。

まとめ

双極性障害の社員への雇用継続支援は、「何をどこまで配慮するか」を明確にすることから始まります。疾患の特性を理解し、状態別の業務設計・早期サインの共有・就業規則の整備・復職基準の明文化という四つの軸を整えることで、後手に回る対応を防ぐことができます。特に繰り返す休職への対応は、最初の休職が起きる前に仕組みをつくっておくことが重要です。「何かが起きてから考える」では、組織にも本人にも大きな負担が生じます。

ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業の経営者・兼務担当者の方を対象に、双極性障害を含むメンタルヘルス対応・休職復職支援・就業規則整備のご相談をお受けしています。「今すぐ問題があるわけではないが、備えておきたい」という段階からのご相談も歓迎しています。一人で抱え込まず、まずは気軽にご連絡ください。

よくある質問

Q. 双極性障害の社員に対して、どこまで業務を制限してよいですか?

A. 業務の制限は「合理的配慮」の一環として認められていますが、一方的に制限するのではなく、本人と話し合いながら決めることが重要です。状態別の業務量の目安(安定期・波があるとき・休職基準)を事前に三者で共有しておくと、制限の判断が双方にとって納得しやすくなります。制限の内容と合意のプロセスは必ず記録に残してください。

Q. 躁状態のとき、本人は「元気だ」と言います。無理に休ませることはできますか?

A. 躁状態の本人は「調子がいい」と感じており、休むことへの抵抗感が強い場合が多いです。強制的な休業は難しい面もありますが、早期サインの共有や主治医への連絡(本人同意のもと)、業務量の一時的な軽減といった段階的な対応が現実的です。就業規則に「業務上必要と認める場合、会社は医師の受診や休養を命じることができる」などの規定を設けておくことも有効です。

Q. 主治医が「復職可能」と言っているのに、会社が復職を断ることはできますか?

A. 主治医の判断は「日常生活が可能かどうか」を基準にしていることが多く、職場での業務遂行能力とは別軸です。会社が独自の復職基準(生活リズムの安定・試し出勤の実施・業務チェックリストなど)を就業規則や復職支援規程に明文化していれば、その基準を満たしていないことを理由に復職を保留することは、合理的な判断として認められやすくなります。ただし、理由を明確に本人に説明し、記録を残すことが前提です。

Q. 何度も休職を繰り返す社員を、最終的に退職扱いにすることはできますか?

A. 就業規則に休職期間・通算規定・期間満了時の自然退職条項が明記されており、合理的配慮を尽くしたうえでの判断であれば、休職期間満了による退職は法的に認められる場合があります。ただし、手続きの不備・記録の欠如・本人への説明不足があると、後から無効を主張されるリスクがあります。最終判断の前に、社会保険労務士や弁護士への相談を強くお勧めします。

Q. 社員の双極性障害の診断を、職場の他のメンバーに伝えてもいいですか?

A. 診断名・病状は「要配慮個人情報」(個人情報保護法)に該当し、本人の同意なく第三者に開示することは原則できません。職場の上司・同僚への共有は、本人が「どこまで伝えてよいか」を確認したうえで、必要最小限の範囲にとどめることが求められます。「体調の関係で業務調整が必要」という事実のみを伝え、病名を明かさない形での共有が一般的です。

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【監修】ウェルセンス株式会社
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