メンタル不調の社員を懲戒する前に何をすべきか?

メンタル不調の社員を懲戒する前に何をすべきか? メンタルヘルス対応
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「もう3ヶ月、毎週のように遅刻か早退が続いている。注意しても改善されない。そろそろ懲戒処分を考えているが……本当にこのまま進めていいのだろうか」

そのような迷いを抱えながら、この記事にたどり着いた方は少なくないはずです。結論から言えば、メンタル不調が疑われる社員への懲戒処分は、正しい手順を踏まずに行うと法的に無効とされるリスクがあります。しかし「何もできない」わけでもありません。会社として踏むべきステップを理解し、記録を残しながら対応することで、組織を守ることができます。この記事では、懲戒の前に会社が取るべき具体的な行動を、法的根拠とともに順序立てて解説します。

「遅刻・早退が多い」=懲戒できるは危険な思い込み

遅刻・早退が続く社員に対して懲戒処分を下すこと自体は、条件さえ整えば違法ではありません。しかし、背景にメンタル不調がある場合、その「条件」のハードルは一段高くなります。まずこの前提を理解することが重要です。

懲戒権にはそもそも制約がある

労働契約法第15条は、懲戒処分が有効となるためには「客観的に合理的な理由」があり、かつ「社会通念上相当」でなければならないと定めています。たとえ就業規則に「遅刻○回で懲戒」と明記されていても、それを機械的に適用しただけでは「合理的理由あり・相当性あり」とは認められないケースがあります。裁判所は、会社が懲戒の前にどのような配慮・対応を行ったかを重視します。

メンタル不調が絡む場合に問われる「安全配慮義務」

労働契約法第5条は、使用者に対して労働者の生命・身体・精神の安全を確保するよう配慮する義務(安全配慮義務)を課しています。社員の遅刻・早退の背景にメンタル不調がある、あるいはその疑いがある状況で、何ら配慮をせずに懲戒処分に踏み切った場合、この義務違反を問われる可能性があります。「本人から申告がなかった」「診断書が出なかった」という事情だけでは、免責にならないケースもあります。

「さぼり」か「不調」かを会社が一方的に決めてはいけない

「体調不良とだけ言うが、診断書もない。これはさぼりではないか」——そう感じるのは自然なことです。しかし、会社側が医学的根拠なく「さぼりと判断した」として処分した場合、後日、本人が精神科の受診記録を示して「当時はうつ状態だった」と主張すれば、処分の合理性が問われます。判断の前に、まず「確認するプロセス」を踏むことが会社を守ります。

メンタル不調の社員に対する懲戒の前に踏むべきプロセス

メンタル不調が疑われる社員への対応は、以下の流れで進めることが原則です。この手順を踏んだ上でもなお改善が見られない場合に、初めて懲戒・解雇の検討が現実的な選択肢となります。

段階 内容 ポイント
本人との面談 遅刻・早退の事実と背景のヒアリング 「責める」ではなく「把握する」スタンスで
受診・診断の勧奨 主治医受診または産業医面談を会社として促す 「勧奨した」記録が重要
業務上の配慮措置 業務量軽減・勤務時間調整・担当変更の検討 検討・実施の経緯を残す
就業可否・休職の判断 診断書提出を求め、休職制度を案内する 就業規則に休職規定があるか確認
記録の整備 上記すべての過程を文書化・保管 面談記録・メール・通知書を一元管理

本人との面談——「把握する」姿勢が出発点

まず最初に行うべきは、本人と1対1の面談の場を設けることです。このとき重要なのは、「なぜ遅刻したのか説明しろ」という詰問調ではなく、「状況を理解して一緒に考えたい」というスタンスをとることです。本人が不調を認めやすい雰囲気を作ることで、問題の全体像が見えてきます。面談の日時・場所・同席者・話した内容・本人の反応は、その日のうちに書面にまとめて保管してください。

受診勧奨と産業医面談——「勧めた」記録が会社を守る

体調不良が疑われる場合、会社として主治医への受診を促すことが求められます。産業医を選任している企業(常時50名以上の事業場では義務)であれば、産業医面談を設定してください。50名未満で産業医がいない場合でも、地域産業保健センターの無料相談を活用できます。重要なのは「会社として受診を勧めた」という事実を記録に残すことです。口頭だけでなく、メールや書面で通知しておくと後日の証拠になります。

休職制度の案内——就業規則の有無で対応が変わる

診断書が提出され、就業が困難な状態であることが確認されたら、休職制度を案内します。就業規則に休職規定がある企業は、その手続きに沿って進めてください。一方、就業規則自体がない、または休職規定がない中小企業の場合は、個別の労働契約の内容や過去の慣行を踏まえながら対応を検討する必要があります。休職規定がないまま放置するのではなく、この機会に整備を検討することも重要です。

メンタル不調対応の記録をこう残す

「面談はしたが議事録がない」「口頭注意だけで書面を出していない」という状態では、後日トラブルになったとき「会社は何もしなかった」と見なされるリスクがあります。記録は「残したかどうか」ではなく「何が記録されているか」が問われます。

面談記録に必ず含める項目

面談記録には、日時・場所・同席者・面談の目的・話した内容の要点・本人の発言・会社側の対応方針・次のアクションと期日を記載します。「面談しました」という1行メモでは不十分です。本人に内容を確認させ、可能であればサインをもらうことで、後の「言った・言わない」を防げます。

書面通知を活用する

口頭指導には限界があります。「受診を勧奨したこと」「業務上の配慮措置を実施したこと」「診断書の提出を求めたこと」は、書面またはメールで本人に通知し、その控えを保管してください。メールは送受信のタイムスタンプが残るため、証拠として有効です。

記録の一元管理と保管期間

面談記録・医療関連書類・業務指示・注意書などは、案件ごとにフォルダーをまとめて管理します。労働関係書類の保存期間は労働基準法上原則3年ですが、トラブルに発展する可能性がある案件については、解決後も一定期間保管しておくことが望ましいです。紙とデジタル両方で保管すると紛失リスクを減らせます。

メンタル不調対応でよくある落とし穴と対処法

実務の現場では、「正しい対応をしているつもりだった」という状況でリスクを抱えているケースが少なくありません。代表的な落とし穴を確認しておきましょう。

「診断書がなければ病気扱いしなくていい」という誤解

診断書の有無だけで判断するのは危険です。本人の様子・遅刻早退の頻度と態様・面談での発言内容などから「メンタル不調が疑われる状況」と客観的に判断できる場合、会社はその段階から相応の配慮をする義務が生じます。「本人が申告しなかった」「書類を出さなかった」という事情は、必ずしも会社を守る理由になりません。

「注意したのに改善しない」=すぐ懲戒、ではない

一般的な勤怠違反であれば「注意→改善なし→懲戒」という流れが成立しますが、メンタル不調が背景にある場合は別です。不調状態の本人に対して通常の「改善指導」を行っても、それ自体が配慮義務を果たしたとは評価されない可能性があります。「注意・指導」の段階で、不調の有無を確認し、必要な配慮措置を検討するプロセスが求められます。

「他の社員が限界」という現実的なプレッシャーへの向き合い方

少人数の組織では、1人の欠勤・遅刻が他のメンバーに直接しわ寄せがくる構造になりがちです。この状況を放置することも問題ですが、感情的になって拙速に処分すると後から問題が大きくなります。周囲の社員への業務負荷を軽減するための一時的な業務再配分を行いつつ、不調社員への対応プロセスを並行して進めることが現実的な対処法です。「組織全体のために動いている」という姿勢が、他の社員への説明責任としても機能します。

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産業医がいない中小企業が活用できるリソース

産業医の選任が義務付けられるのは常時50名以上の事業場です。それ未満の企業でも、外部リソースを活用することで専門的なサポートを得ることができます。

地域産業保健センターの無料相談を活用する

50名未満の事業場を対象に、全国の労働基準監督署管轄区域ごとに「地域産業保健センター」が設置されており、産業医や保健師への相談が無料で利用できます。「社員のメンタル不調が疑われるが、どう対応すべきかわからない」という段階から相談可能です。厚生労働省の「産業保健総合支援センター(さんぽセンター)」も、事業主向けの相談窓口を提供しています。

外部EAPや専門家との顧問契約を検討する

EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)を外部委託することで、社員が直接専門家に相談できる仕組みを作ることができます。また、社労士や産業保健の専門家と顧問契約を結び、ケースが発生するたびに相談できる体制を整えることも有効です。問題が起きてから探すより、日頃から相談先を確保しておくことが、少人数組織での人事リスク管理の基本です。

就業規則の整備は「後回し」にしない

常時10名以上の事業場では就業規則の作成・届出が義務です。それ未満でも、休職・復職・懲戒の規定が整備されていない状態での対応は、判断基準が曖昧になり、かえってトラブルを招きます。「休職規定がないので休ませられない」「懲戒の基準が就業規則にないので処分できない」という事態を避けるためにも、現状の就業規則を確認し、必要であれば専門家に見直しを依頼することをお勧めします。

メンタル不調の社員への懲戒は「記録」が会社を守る

メンタル不調が疑われる社員への懲戒処分は、正しい手順を踏まないまま進めると、法的に無効とされるリスクがあります。会社が取るべきことは、まず本人との面談で状況を把握し、次に受診・診断を勧奨して、その上で業務上の配慮措置を検討・実施すること。そして休職制度の案内まで含めたプロセス全体を記録に残すことが、会社自身を守る最大の対策です。

「今まさに対応に困っている」「手順が合っているか確認したい」「就業規則に休職規定がなくて不安」——そのような状況にある経営者・人事担当者の方には、一度専門家に相談することをお勧めします。ウェルセンス株式会社では、中小企業のメンタルヘルス対応・休職復職支援・人事労務の課題について、実務に即した形でご相談をお受けしています。「こんなことを聞いていいのか」という段階からでも、お気軽にご連絡ください。

よくある質問

Q. 就業規則に「遅刻10回で懲戒戒告」と定めていれば、そのまま適用できますか?

A. 就業規則の規定があっても、機械的な適用は危険です。労働契約法第15条により、懲戒処分には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要とされます。とりわけメンタル不調が疑われる状況では、受診勧奨・配慮措置・休職制度の案内といったプロセスを経たかどうかが、処分の有効性を左右します。就業規則の条文は「懲戒できる条件の一つ」であり、それだけで全てが正当化されるわけではありません。

Q. 本人が「体調不良」と言うだけで診断書を出しません。受診を強制できますか?

A. 診断書の提出や受診そのものを強制することは原則できません。ただし、就業規則に「会社が指定する医師の診断を受けることを命じることができる」旨の規定があれば、受診命令を出すことが可能です。規定がない場合でも、「受診を勧奨した」という事実を書面で記録しておくことは重要です。本人が受診を拒否した場合でも、会社が適切な勧奨を行ったという記録があれば、後の対応の合理性を裏付ける証拠になります。

Q. 社員が10名未満で産業医もいません。相談できる専門家はどこですか?

A. 50名未満の事業場は、各都道府県の「地域産業保健センター」に無料で相談できます。産業医・保健師・メンタルヘルス対応の専門家が対応しています。また、厚生労働省が運営する「産業保健総合支援センター(さんぽセンター)」も事業主向けの相談窓口を設けています。個別ケースについてより踏み込んだ対応が必要な場合は、社労士やメンタルヘルスの専門支援機関への相談も有効です。

Q. 休職規定がない場合、メンタル不調の社員をどう扱えばよいですか?

A. 休職規定がない場合でも、本人と話し合いの上で欠勤扱い・有給消化・一時的な業務調整などの個別対応を検討することができます。ただし、会社ごとの対応がバラバラになると不公平感が生じ、他のトラブルの原因にもなります。この機会に社労士と協力して休職規定を整備することを強くお勧めします。就業規則の作成・変更は、労働基準監督署への届出が必要です(常時10名以上の事業場)。

Q. メンタル不調の社員への対応記録は、どの程度の詳しさで残す必要がありますか?

A. 最低限、日時・場所・同席者・面談の目的・話した内容の要点・本人の発言・会社側の対応方針・次のアクションと期日を記録してください。「面談しました」という1行メモでは、後に「何も対応しなかった」と見なされるリスクがあります。可能であれば本人に内容を確認させてサインをもらうか、面談後にメールで内容を送り既読を確認することで、「言った・言わない」のトラブルを防ぐことができます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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