懲戒処分の種類と就業規則への正しい記載方法

懲戒処分の種類と就業規則への正しい記載方法 労務管理
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問題のある社員に懲戒処分を下したいが、就業規則に何が書いてあったか確認したら、”懲戒する場合がある”という一文しかなかった」——こうした状況に直面したとき、処分を進めてよいのか、後から無効と言われないか、不安になるのは当然のことです。懲戒処分は、正しく整備された就業規則と適切な手続きがそろってはじめて有効となります。この記事では、懲戒処分の種類・違い・就業規則への記載方法を実務目線で整理します。

懲戒処分の種類と重さの順番

懲戒処分は軽いものから重いものまで段階的に存在し、問題行動の深刻さに応じて使い分けるのが原則です。段階を踏まずにいきなり重い処分を下すと「処分が重すぎる(相当性を欠く)」として無効とされるリスクがあります。

軽微な処分:訓戒・戒告・けん責

最も軽い懲戒処分が「訓戒」「戒告」「けん責」の三種類です。いずれも賃金や雇用に直接影響しませんが、後述するように中身は微妙に異なります。一般的には、遅刻・欠勤・軽度の服務違反など、初回または軽微な問題行動に適用します。

中程度の処分:減給・出勤停止・降格

問題が繰り返される場合や、より重大な非違行為には「減給」「出勤停止」「降格・降職」が選択肢になります。ただし、減給には労働基準法第91条による上限規制があります。具体的には、1回の減給額は平均賃金の2分の1以下、かつ1賃金支払期における減給の総額は同期の賃金総額の10分の1以下に収めなければなりません。出勤停止の日数や降格の条件も就業規則に明記しておく必要があります。

最も重い処分:諭旨解雇・懲戒解雇

「諭旨解雇」は自己都合退職を促し、応じなければ懲戒解雇とする処分です。退職金の支給有無は就業規則の定めによります。「懲戒解雇」は即時解雇が原則で、解雇予告・予告手当の例外が認められる場合がありますが、労働基準監督署の認定(解雇予告除外認定)が必要となるケースもあります。いずれも就業規則に根拠がなければ有効な処分になりません

「戒告・訓戒・けん責」の違いはどこにあるか

実務でよく混同されるこの三語ですが、法律上の定義はなく、各社の就業規則でどう定めるかによって意味が決まります。ただし、一般的な実務慣行として使い分けの目安はあります。

訓戒・戒告は「言葉による警告」

訓戒・戒告は、将来の行動改善を求める注意・警告の処分です。書面で通知するか口頭で行うかは企業の定め方次第ですが、始末書(反省文)の提出は原則として求めません。「今後同様の行為があれば、より重い処分を行う」という意思を正式に伝えるものです。

けん責は「始末書の提出を伴う戒め」

けん責は戒告に「始末書の提出義務」が加わる点が一般的な違いです。始末書は、本人が問題行動を認識し反省した事実を記録として残す意味を持ちます。これが後の処分の段階を踏んだ証拠にもなります。ただし、就業規則に「けん責とは始末書の提出を求める処分とする」と明記されていなければ、戒告と実質的な差がなくなってしまいます。

就業規則への定義が「意味の差」を作る

重要なのは、これらの言葉の意味は就業規則によって初めて確定するという点です。「うちはけん責と戒告を両方設けているが、違いは書いていない」という就業規則は少なくありません。その場合、どちらを選んでも実質的な違いがなく、本人や外部から処分内容を問われたときに説明がつかなくなります。就業規則に各処分の定義を明確に書くことが、実務上のトラブル防止につながります。

懲戒処分が無効になる4つのリスク

懲戒処分は、下したこと自体が問題になるのではなく、「要件を満たしていない処分」が後から無効と判断されることが問題です。労働契約法第15条は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒は無効と定めています。

就業規則に根拠がない

懲戒処分は、就業規則にその種類と事由が明記されていることが有効性の大前提です。就業規則に「懲戒解雇する場合がある」とだけ書かれていて、懲戒解雇に至る事由が列挙されていなければ、処分の根拠が不明確として無効リスクが生じます。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、労働基準法第89条第9号により、制裁の種類と程度を就業規則に記載することが義務づけられています。10人未満の企業でも、就業規則がなければ懲戒処分は著しく困難になります。

処分の重さが問題行動に見合っていない

初めての遅刻1回で懲戒解雇、というような処分は「相当性を欠く」として無効になります。軽い処分から段階的に対応し、それでも改善がなければ重い処分に移行するという流れが、法的にも説得力を持ちます。同様に、過去に同じような行為を見逃していたにもかかわらず、特定の社員だけ厳しく処分する「処分のアンバランス」も問題視されます。

弁明の機会を与えていない・記録が残っていない

懲戒処分を下す前に、本人に事実関係について説明・弁明する機会を与えることが手続の適正性として求められます。また、口頭注意や指導の記録(日時・内容・対応者・本人の反応)が残っていなければ、「そんな注意は受けていない」と言われたときに反論できません。指導記録は面談のたびに残し、できれば本人にも確認させる運用が望ましいといえます。

就業規則を周知していない

就業規則は作成するだけでなく、従業員に周知することが法律上の要件です(労働基準法第106条)。周知の方法としては、職場への掲示、各従業員への配布、または従業員がいつでも閲覧できる場所への備え付けが認められています。クラウドストレージに保存してURLを共有する方法も、閲覧可能な状態であれば周知として認められる場合があります。

就業規則への懲戒規程の正しい記載方法

就業規則の懲戒規程には、処分の種類・各処分の定義・懲戒事由の三つを整理して記載することが実務的な最低ラインです。以下に記載すべき項目の骨格を整理します。

記載すべき項目 記載内容の例
懲戒処分の種類 訓戒、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇
各処分の定義 「けん責とは、始末書の提出を求め将来を戒める処分とする」など
懲戒事由(軽微) 正当な理由のない遅刻・欠勤、職場秩序を乱す言動など
懲戒事由(重大) 横領・傷害・ハラスメント・機密漏洩・無断欠勤14日以上など
減給の上限規定 労働基準法第91条に従い、1回の減給額・総額の上限を明示
出勤停止の日数 「出勤停止は○日以内とし、その間は無給とする」
手続規定 懲戒委員会の設置・弁明の機会付与・決定通知の方法など

懲戒事由は「列挙方式+包括条項」で書く

懲戒事由はできる限り具体的に列挙することが望ましいですが、すべての問題行動を事前に網羅することは現実的ではありません。そのため、列挙した事由のほかに「その他これらに準ずる行為をした場合」という包括条項を設けるのが一般的です。ただし、包括条項のみで懲戒しようとすると、裁判では具体性が不足として無効になるリスクがあるため、主要な事由は必ず具体的に記載してください。

従業員数・状況別の対応ポイント

常時10人以上の従業員を使用している場合は、就業規則の作成・労働基準監督署への届出が法律上の義務です。懲戒規程が不十分であれば、早急に整備して再届出を行う必要があります。10人未満の企業でも、懲戒処分を将来的に行う可能性があるならば、就業規則(または服務規律・懲戒規程)を整備しておくことを強く推奨します。就業規則がない状態で懲戒処分を下すことは実務上著しくリスクが高く、「就業規則なし=懲戒権なし」に近い状態と認識しておく必要があります。

懲戒処分を有効に運用するための実務フロー

就業規則が整備されていたとしても、運用が適切でなければ処分は無効になります。口頭注意から懲戒解雇までの段階を意識した対応が、後のトラブル防止につながります。

記録を残しながら段階的に対応する

まず、問題行動を把握した時点で口頭注意を行い、その内容・日時・場所・対応者を記録します。次に、繰り返しや改善がない場合には書面による注意指導(指導書)を交付し、可能であれば本人のサインか確認印をもらいます。その後も改善がなければ、けん責(始末書提出)→減給・出勤停止→降格→諭旨解雇・懲戒解雇という流れで段階的にエスカレーションします。この積み重ねが、処分の「相当性」と「手続の適正性」を証明する証拠になります。

弁明の機会を正式に設ける

懲戒処分を下す前には、必ず当事者に事実関係を確認し、弁明する機会を設けてください。面談の場を設け、本人の話を聞いた上で処分を決定するプロセスを経ることが重要です。面談の内容も記録に残し、本人が何を主張したかを文書化しておきます。このプロセスがあれば、後に「一方的な処分だ」という主張に対して反論が可能になります。

処分内容は必ず書面で通知する

口頭だけで処分を伝えると、後から「そんな処分を受けた覚えはない」というトラブルになります。処分通知書(処分の種類・理由・日付・発令者を明記)を作成し、本人に交付した事実を記録してください。本人が受取を拒否した場合は、内容証明郵便や配達証明付き郵便での送付も選択肢になります。

まとめ

懲戒処分は「問題のある社員を処分する手段」である前に、「就業規則の整備・適正な手続き・段階的対応」という三つの柱があってはじめて有効になる法的行為です。戒告・訓戒・けん責の違いも、就業規則にどう定義するかで決まります。就業規則が古い・簡素・存在しないという状況のまま懲戒処分を行うことは、後から無効とされる大きなリスクを伴います。まずは現在の就業規則の懲戒規程を確認し、不足があれば整備することが最優先です。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務人事担当者からのご相談を多数お受けしています。「就業規則の懲戒規程をどう整備すればよいかわからない」「実際に問題社員への対応に直面していて判断に迷っている」という方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。現状の把握と具体的な対応方針の整理からサポートいたします。

よくある質問

Q. 就業規則に懲戒の種類が書いていない場合、処分はまったくできないのですか?

A. 法律上、懲戒処分の根拠は就業規則への明記が原則です。記載がない種別の処分を下すと、後から無効とされるリスクが非常に高くなります。ただし、就業規則がない・不備がある状態でも、口頭注意や書面指導(懲戒処分ではなく業務上の指導として行うもの)は可能です。まずは就業規則を整備した上で、今後の処分対応に備えることを優先してください。

Q. 減給処分を行う際の法律上の上限はどのくらいですか?

A. 労働基準法第91条により、1回の事案に対する減給額は「平均賃金の2分の1」が上限です。また、1つの賃金支払期(たとえば1か月)における減給の総額は、その期の賃金総額の「10分の1」を超えてはなりません。この上限を超えた減給は違法となります。複数の問題行動がある場合でも、この上限の範囲内で対応する必要があります。

Q. 始末書を書くよう求めたら「書かない」と言われました。どう対応すればよいですか?

A. 始末書の提出拒否自体が、就業規則に「業務命令への違反」として記載されていれば、新たな懲戒事由になり得ます。また、始末書を書かなかった事実を記録しておくことで、後の処分段階における経緯の証拠として活用できます。「書かない」という事実と、その際の本人の発言・態度も記録に残してください。ただし、始末書の強要が問題になるケースもあるため、対応方針に迷ったら専門家への相談をお勧めします。

Q. 懲戒処分の記録はどのくらいの期間保管すればよいですか?

A. 労働基準法上、労働者名簿や賃金台帳は5年間(経過措置として当面3年間)の保存義務があります。懲戒処分の記録そのものについて法律上の明示的な保存期間は定められていませんが、労働審判や訴訟が想定されるケースを考慮し、退職後も含めて少なくとも5年は保管することを推奨します。処分通知書・指導記録・弁明記録などは一括してファイル管理しておくと安心です。

Q. 従業員が9人以下の場合、就業規則は作らなくてよいのですか?

A. 常時10人未満の事業場は労働基準法上の作成・届出義務はありませんが、就業規則がないこと自体が問題になるのは従業員数に関係ありません。懲戒処分を将来的に行う可能性がある場合、就業規則(または服務規律・懲戒規程)がなければ処分の根拠を示せず、実質的に有効な懲戒ができない状態になります。小規模であっても、簡易なものからでよいので就業規則を整備しておくことを強くお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
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