内定者が複数いるとき、誰を優先すべき?

内定者が複数いるとき、誰を優先すべき? 組織運営
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「A さんに内定を出したけど、まだ返事がない。B さんも良い人だったから断りきれず、気づいたら 2 人に内定を出している状態になってしまった——」

採用枠が 1 名なのに内定者が複数いる。専任の人事担当者がいない中小企業では、こうした状況が気づかないうちに生まれていることがあります。誰を優先すべきか判断基準がなく、時間だけが過ぎていく。その間にも候補者の信頼は静かに失われていきます。

この記事では、複数の内定者がいるときの優先順位の付け方・連絡の進め方・法的リスクまでを、人事の専門知識がなくても実践できるよう整理しています。

内定を出した時点で労働契約は始まっている

多くの経営者・担当者が「内定はまだ仮の話」と思いがちですが、法的にはそうではありません。内定を出した段階で、企業と候補者の間には労働契約が成立しています。この前提を理解しておくことが、複数内定者への対応で最初に必要なことです。

判例が示す「内定=労働契約の成立」

最高裁昭和54年7月20日判決(大日本印刷事件)は、採用内定を「解約権留保付労働契約の成立」と解しています。難しく聞こえますが、要するに「内定を出した=労働契約がスタートしている。ただし一定の条件で解約できる余地を残した状態」ということです。

「まだ正式な書類は送っていないから取り消せる」という感覚は危険です。内定通知書の書面の有無に関係なく、メールや電話で「採用します」「ぜひお願いします」という意思が双方に伝わった時点で、契約成立と判断されるリスクがあります。

「予算が削れたから」は正当な取消し理由にならない

内定取消しが法的に許容されるのは、採用内定当時には予見できなかった客観的・合理的な事由がある場合に限られます(労働契約法第16条の趣旨類推)。具体的には、著しい経営悪化による採用計画の全面中止や、内定者による重大な虚偽申告などが該当します。

「別の候補者の方が優秀だった」「予算が少し削られた」「やっぱり採用時期を後ろにずらしたい」といった理由では、不当な内定取消しとなるリスクがあります。取消しを強行した場合、候補者から慰謝料・逸失利益などの損害賠償請求を受ける可能性があります。

新卒採用では通知義務もある

新卒者への採用内定取消しを行う事業主には、職業安定法施行規則第35条に基づくハローワークへの通知義務が課されます。中途採用の場合はここまで厳格ではありませんが、法的リスクの構造は同様です。「うちは小さい会社だから大丈夫」という判断は禁物です。

複数候補者の優先順位を付ける判断基準

複数の候補者の中から誰を優先するかは、個人の好みや直感ではなく、事前に定めた採用基準で判断することが原則です。基準を後から作ると「後付けの理由」になりやすく、社内の合意も得にくくなります。

採用基準を先に言語化しておく

内定通知を出す前に、自社が何を重視するかを明文化しておくことが理想です。以下は、中小企業でよく使われる判断軸の例です。

判断軸確認ポイント
スキル・経験即戦力として業務を担えるか
入社可能時期自社が必要とするタイミングに合っているか
雇用条件のマッチ給与・勤務地・雇用形態で齟齬はないか
文化適合チームの価値観・働き方と合うか
入社意欲の確認自社への志望度を具体的に説明できるか

複数の面接官で評価が分かれやすいのが「文化適合」と「入社意欲」です。これらは主観に流れやすいため、「どんな発言・行動でそう判断したか」を面接後に記録し、評価根拠を言語化しておくと後の比較が楽になります。

スコアリングシートを活用する

各判断軸に重みづけをしてスコア化する方法(ウェイト付き評価表)は、複数候補者を比較する際に有効です。たとえば「即戦力スキル」の重みを大きくしたい場合は配点を高くする、というシンプルなもので構いません。経営者・現場リーダー・担当者がバラバラに評価しているケースでは、このシートを共有することで判断のズレを整理できます。

スコアリングはあくまで補助ツールです。数字だけで決めるのではなく、最後は「この人と一緒に仕事をしたいか」という問いを経営判断として持つことも大切です。

「入社意欲が高い」だけで決めない

候補者が強い入社意欲を示している場合、それ自体は評価ポイントになります。ただし、意欲が高く見えるのは「この会社に入れるかどうか不安で積極的に動いている」状態である場合もあります。意欲の高さと仕事の実力・適性は別軸で評価することが大切です。

内定承諾を待っている間に別の候補者を保留し続けるリスク

「A さんの返事を待ちながら、B さんにはとりあえず待ってもらっている」という状態が長引くと、B さんが離脱するだけでなく、企業側が法的責任を問われる可能性も生じます。

回答期限を設定しないことで起きる問題

内定承諾の回答期限を明示せずに「都合のよいときに返事してください」という運用をすると、候補者側は他の就職活動・転職活動を止めて待ち続けることになります。その後に企業側の都合で内定取消しや長期放置が続いた場合、候補者が転職活動機会を失った期間について「信頼利益の侵害」として損害賠償を請求する根拠になり得ます。

内定通知を出す際には、承諾・辞退の回答期限を明示することが不可欠です。一般的には内定通知日から 1 週間〜2 週間が目安とされますが、候補者の状況(在職中かどうかなど)を踏まえて柔軟に設定してください。

第二候補者への誠実な対応

優先順位をつけていること自体を候補者に正直に伝えることは必須ではありませんが、「返事を待っていただく理由」は誠実に伝えることが求められます。たとえば「現在社内での採用枠の確定作業を進めており、○月○日までに改めてご連絡します」といった形で、明確な期日を示した連絡をすることが誠実な対応です。

「とりあえずキープしておこう」という感覚で何も連絡しないまま数週間放置することは、候補者の信頼を損なうだけでなく、企業のブランドにも影響します。中小企業ほど、候補者の口コミが採用に影響しやすい点も意識しておきたいところです。

複数内定者の対応は判断が難しく、手探りのまま進めるのは避けたいところです。「基準をどう整理すべきか」「すでに複数に通知している場合の対処法」など、状況に応じた具体的なアドバイスが必要なら、一度相談してみる価値があります。

採用枠が埋まった後の候補者への連絡の進め方

採用枠が確定したら、内定を出せなかった候補者・あるいは優先度が下がった候補者には、速やかに誠実な連絡をすることが企業としての基本姿勢です。連絡が遅れるほど候補者側のダメージは大きくなります。

「採用枠が埋まった」場合と「内定取消し」は別物

ここで注意が必要なのは、状況によって対応が異なるという点です。

  • 正式な内定通知(書面・メール・電話での採用確定連絡)をすでに出している場合:内定取消しとなるため、相応の理由と丁寧な説明が必要です。法的リスクを伴うため、早急に対応を整理してください。
  • 選考途中・最終面接前後でまだ内定通知を出していない場合:選考の結果として採用を見送る旨を伝えることに法的問題はありません。ただし、言葉の選び方・連絡のタイミングは誠実に行うことが大切です。

「内定通知書を送っていないから大丈夫」という判断は危険です。前述のとおり、メールや口頭でも採用意思が双方に伝わっていれば内定成立と見なされることがあります。判断に迷う場合は、専門家への相談を検討してください。

連絡する際の基本的な文面の考え方

見送りを伝える際には、理由を詳細に説明する義務はありませんが、「検討の結果、今回は採用に至りませんでした」という端的な伝え方に加えて、選考に時間をいただいたことへの感謝を一言添えることが基本です。長々とした説明は逆に不信感を生むことがあります。

電話が難しい場合はメールでも構いませんが、返信期限を示した内定通知を出していた場合は、その期限前後に連絡することがマナーです。

内定辞退・内定取消しのリスク管理を整備する

複数内定者への対応は、今後の採用プロセスを見直すきっかけでもあります。採用基準・内定管理のルールを整えておくことで、同じ問題の繰り返しを防ぐことができます。

採用基準と内定通知のタイミングを整理する

採用枠が 1 名であれば、原則として最終候補者 1 名に絞ってから内定通知を出す運用にすることで、複数内定者問題の多くは防げます。やむを得ず複数に通知を出す場合は、内定通知書に「採用枠確定後に改めて入社条件を確認する」旨の条件を明示し、口頭や書面で整合性を取ることが重要です。

就業規則に内定取消し事由を明記しておくことも、法的リスクの軽減につながります。就業規則を整備していない場合は、10 名未満の会社では法的義務はありませんが、採用トラブル対策として整備を検討する価値があります。

内定辞退リスクへの備え方

企業側が内定を出しても、候補者から辞退されるリスクは常にあります。辞退は候補者の権利であり、法的に問題はありません。辞退を防ぐために大切なのは、内定後のコミュニケーションです。

入社前に職場見学・チームメンバーとの面談・条件の丁寧な確認を行うことで、候補者の不安を取り除く効果があります。「内定を出したら終わり」ではなく、入社日までのフォローを一つのプロセスとして設計することが、中小企業での採用定着率の向上につながります。

採用・人事業務は経営判断と法的知識が絡み合う領域です。一人で完結させようとせず、必要に応じて外部リソースを活用することも、組織成長の近道になります。

まとめ

複数の内定者がいるときに最初に確認すべきことは、「すでに内定通知を出しているかどうか」です。内定を出した段階で労働契約は成立しており、「別の人が良かった」「予算が変わった」という理由だけでの取消しは法的リスクを伴います。優先順位を付けるための判断軸は採用前に明文化しておくことが理想で、スコアリングシートなどを活用して複数の評価者間での認識を揃えることが重要です。また、第二候補者を長期保留することも信頼損失・法的問題につながるため、回答期限の明示と誠実な連絡が欠かせません。

「採用枠が限られているのに、誰をどう選べばいいか整理できていない」「すでに複数に内定を出してしまって対応に困っている」という場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。採用・人事労務の課題に対して、専任人事のいない中小企業の実態に合わせた形で一緒に整理します。まずは気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 内定通知書を送る前に「採用予定」とメールで伝えた場合、内定取消しはできますか?

A. 書面がないからといって自由に取り消せるわけではありません。メールや口頭での採用意思表示であっても、双方に伝わった時点で内定(解約権留保付労働契約)が成立したと判断されるリスクがあります。取消しを検討している場合は、安易に判断せず専門家に相談することをお勧めします。

Q. 採用枠が 1 名なのに 2 名に内定を出してしまいました。今からでも対処できますか?

A. 状況によります。どちらかがまだ承諾前であれば、誠実な説明とともに辞退を促す形で話し合いの余地があります。両者がすでに承諾している場合は内定取消しの法的リスクが生じるため、できるだけ早く状況を整理し、必要であれば社会保険労務士や弁護士に相談することを検討してください。

Q. 内定承諾の回答期限はどのくらいに設定するのが適切ですか?

A. 一般的には内定通知から 1 週間〜2 週間が目安です。在職中の転職者の場合は、現職への退職交渉に時間がかかるため、2 週間程度の余裕を持たせることが多いです。期限を設けることは候補者への圧力ではなく、双方にとってのスケジュール管理として機能します。期限の延長を求められた場合は、理由を確認した上で柔軟に対応することも選択肢の一つです。

Q. 経営者・現場・担当者で候補者への評価が割れています。どうやって合意を取ればよいですか?

A. 評価が割れる原因の多くは「何を重視するか」の認識が共有されていないことにあります。採用前に判断軸とその優先順位を揃えておくことが最も効果的です。事後的に調整する場合は、それぞれが評価を下した理由(具体的な発言・行動)をもとに話し合うことで、感情的な対立を防ぎやすくなります。スコアリングシートはこの場面でも活用できます。

Q. 「補欠候補者」として残しておきたい場合、候補者に正直に伝えるべきですか?

A. 「補欠」という言葉を使う必要はありませんが、「現在採用枠の確定作業中であり、○月○日までに改めてご連絡する」など、次のアクションと期日を明示した誠実な連絡をすることは必要です。理由のない長期保留は候補者の信頼を損ない、最終的に離脱を招きます。また、長期間にわたって他の就職活動を止めさせていた場合、信頼利益の侵害として問題になる可能性もあります。

【監修】ウェルセンス株式会社
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