人事制度がない企業が社員不安を抑えるコミュニケーションの作り方

人事制度がない企業が社員不安を抑えるコミュニケーションの作り方 人事制度
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評価基準を聞かれても、正直なところうまく答えられない」「社員が辞めるたびに、口コミサイトに書かれていないか気になる」——人事制度が整っていない企業の経営者や兼務人事担当者から、こうした声をよく聞きます。制度をつくりたいのはわかっている。でも、何から始めればいいかわからない。そのあいだにも、社員の不安は静かに積み重なっています。この記事では、制度が完成する前でも今すぐ実践できる「暫定コミュニケーション」の考え方と具体的な方法をお伝えします。

社員が感じている不安の正体

人事制度がない企業で社員が感じる不安の根っこは、「評価されないこと」ではなく「会社が自分のことを考えていないのではないか」という不信感にあります。この違いを理解することが、有効なコミュニケーション設計の出発点です。

「評価への不満」と「不信感」は別物

評価制度がなくても、経営者から「あなたのこの仕事がとても助かった」と直接伝えてもらえる職場では、社員の不安は意外と小さくなります。一方、評価基準が文書化されていなくても気にならないケースがある一方で、「なぜあの人が昇給して自分は据え置きなのか」という疑問に誰も答えてくれない状況は、強い不信感を生みます。社員が求めているのは「精緻な制度」ではなく、「自分がどう見られているか、会社がどう考えているかを知る機会」です。

口コミ・SNSへの拡散が起きるタイミング

社員の不安が口コミサイトや転職サイトのレビューに転化するのは、多くの場合「退職を決意した後」です。在職中は言えなかった不満が、退職という安全地帯を得た瞬間に言語化されます。「評価制度がない」「給与の根拠が不明」といった投稿は、採用活動にも直接影響します。問題は退職者が出てから始まるのではなく、在職中の「聞けない・聞いても答えが返ってこない」という体験の積み重ねにあります。

採用・内定者フォローへの影響

「御社のキャリアパスを教えてください」「評価の仕組みはどうなっていますか」——この2つの質問は、面接や内定後のやり取りでほぼ必ず出てきます。答えに詰まる、または曖昧な回答をすると、優秀な候補者ほど辞退を選びます。人事制度の未整備は、採用コストの無駄遣いにも直結しているのです。

「制度を整備する」より先にやるべきこと

今すぐ取り組むべきは、制度の完成ではなく「会社の考え方を見せること」です。社員の不安を和らげるために必要なのは、精緻なルールブックではなく、経営者の言葉と態度です。

「約束」と「方向性の共有」を区別する

多くの経営者が陥るのが、「中途半端に見せると期待させて裏切ることになる」という恐れです。しかし、これは「制度の内容を約束してしまうこと」と「制度をどういう考え方でつくっていくかを伝えること」を混同しているために生じる恐れです。たとえば「来年4月に評価制度を導入します」は約束です。一方、「今期中に、評価の考え方の骨格を皆さんにお伝えできるよう準備しています」は方向性の共有です。後者は頓挫しても「考え方を変えた」と説明できる余地があり、信頼を著しく損なうリスクは格段に低くなります。

まず就業規則の現状を確認する

労働基準法第89条により、常時10名以上の労働者を使用する事業場には就業規則の作成・届出が義務づけられています。賃金の決定・計算・支払の方法、昇給に関する事項は必要的記載事項です。「人事制度がない」という状態が、就業規則そのものの不備や未整備と重なっていることも少なくありません。コミュニケーション設計を始める前に、現在の就業規則で評価・賃金に関する記載がどうなっているかを確認することが実務上の出発点となります。10名未満の事業場でも、将来的な規模拡大を見据えれば早期整備が望ましい状態です。

「いつまでに何を決めるか」の部分開示

「検討中です」という言葉は、社員に「何も考えていない」と受け取られるリスクがあります。一方、「今月中に評価の考え方をまとめて、来月の全体ミーティングでお伝えします」という発言は、たった一文でも社員の不安を大きく和らげます。全体像が完成していなくても、「次のステップ」だけでも開示することが有効です。

暫定コミュニケーションの設計方法

暫定コミュニケーションとは、制度が完成する前の段階で社員の不安を最小化するために行う、計画的な情報発信と対話の仕組みです。媒体・内容・タイミングの三つを整理することで、実行できるようになります。

媒体ごとの使い分け

20〜50名規模の企業では、経営者が直接話す場が最も信頼度の高い媒体になります。メールや社内報は「伝達」には向いていますが、「対話」には不向きです。以下を参考に、状況に応じた媒体を選んでください。

媒体 向いている用途 注意点
全社ミーティング(経営者発信) 方向性・考え方の共有 一方通行にならないようQ&Aの時間を設ける
1on1(上司・経営者と個別面談) 個別の不安の傾聴・個別の関心に応える 発言内容を他のメンバーに漏らさないルールの明確化
社内メール・チャット 決定事項の周知・タイムラインの共有 感情的な内容は文字だと誤解されやすい
社内報・ドキュメント 考え方の整理・後から参照できる記録 作成に時間がかかるため鮮度を保つ工夫が必要

伝えるべき三つの内容

暫定コミュニケーションで社員に伝える内容は、次の三点に絞ると効果的です。まず「会社が現在の状況をどう認識しているか」を正直に伝えます。「評価の仕組みが十分でないことは認識しています」と経営者が認めること自体が、信頼の第一歩です。次に「どういう考え方で制度をつくるつもりか」という価値観・方針を言葉にします。たとえば「成果だけでなく、チームへの貢献も大切にしたい」という方針は、まだ制度がなくても伝えることができます。最後に「次のアクションとその時期」を具体的に示します。「今期末までに評価の考え方の骨子を共有します」という一文で、社員は「動いている」と感じることができます。

参加感を生む仕組みをつくる

制度設計のプロセスに社員の声を取り入れる姿勢を示すことは、透明性と参加感を同時に生みます。アンケートでも、代表メンバーとの意見交換の場でも構いません。「みなさんの声を参考にしながら進めます」と伝えるだけで、社員は「自分たちのための制度をつくっている」という感覚を持ちます。この参加感が、暫定段階での不安を大きく緩和します。

給与・評価の透明性を高める暫定的な対応

正式な評価制度がなくても、給与や評価に関する「考え方」を言語化して伝えるだけで、社員の不安を実質的に減らすことができます。完璧なルールより、誠実な説明が先です。

「評価基準がない」ではなく「まだ言語化されていない」

多くの中小企業では、評価が「ない」のではなく、経営者や上司の頭の中にある基準が「言語化されていない」状態です。たとえば「お客様の声を大切にしている人を評価したい」「締め切りを守ることを重視している」という判断軸は、すでに存在していることがほとんどです。それを�条書きでも構わないので文字にして社員に見せるだけで、「評価の根拠がわからない」という不満は大きく軽減されます。労働基準法第15条・労働契約法の観点からも、賃金決定の考え方を労働者に示すことは適切な対応です。

昇給・賞与の根拠を説明できる準備をする

昇給や賞与の金額を伝える際に「なぜこの金額か」を説明できるかどうかが、信頼と不信の分かれ目です。正式な評価制度がない段階でも、「今期はこの点を評価して、この金額にしました」と一言添えるだけで、社員の受け取り方は変わります。注意が必要なのは、暫定的な評価の説明であっても、現行の処遇水準を下げる変更を含む場合は、労働契約法第9条・第10条の不利益変更の原則に従い、合理的理由と適切な手続きが必要になる点です。変更の際は専門家への確認をお勧めします。

パートタイム・有期雇用者への対応も忘れない

正社員だけを対象に制度を整備していると、パートタイムや有期雇用の従業員との待遇差が問題になることがあります。パートタイム・有期雇用労働法により、不合理な待遇差は禁止されており、中小企業もすでに適用対象です。暫定コミュニケーションを設計する際には、雇用形態にかかわらず全員が対象であることを意識し、発信内容に偏りが生じないよう注意してください。

口コミ対策として今できること

退職者による口コミへの最善の対策は、在職中の社員が「ここで働いてよかった」と感じる経験を積み重ねることです。退職後の発信を止めることはできませんが、発信の内容を変えることは在職中の関係性によって可能です。

退職者が「書きたくなる」理由を理解する

口コミサイトに批判的なレビューを書く退職者に共通しているのは、「在職中に聞いてもらえなかった」という体験です。評価への不満そのものよりも、「言っても変わらない」「どうせ聞いてくれない」という無力感が動機になっていることが多い。定期的な1on1や意見を言える場が機能していた職場では、退職後に批判的な投稿をしようという気持ちになりにくいのです。

在職中の対話の質を高める

制度がなくても、上司・経営者との対話の頻度と質を高めることは今すぐできます。月に一度、15分でも「最近どうですか」「困っていることはありますか」という会話の場を設けるだけで、社員の受け取り方は変わります。重要なのは、その場で問題をすべて解決することではなく、「聞いてもらえている」という実感を持ってもらうことです。

採用面接・内定者対応での伝え方

面接や内定後のやり取りで評価制度について聞かれたとき、「現在整備中です」と答えることは決して恥ずかしいことではありません。大切なのはその後の一文です。「今期中に評価の考え方を整理して、来年度から運用を始める予定です。どんな考え方で評価したいかをお伝えすることはできます」と続けることで、誠実さと前向きな姿勢を同時に示せます。曖昧にごまかすより、正直に現状と方向性を伝えるほうが、候補者の信頼を得やすいケースが多いです。

まとめ

人事制度がない状態で社員の不安を抑えるために最も重要なのは、「制度を完成させてから発表する」のではなく、「会社がどう考えているかを今すぐ言葉にして伝えること」です。就業規則の現状確認から始め、評価の考え方を言語化し、次のアクションと時期を示す。この三つを経営者の言葉で直接発信するだけで、社員の不安は大きく変わります。

「何をどの順序で伝えればいいか」「就業規則の現状が問題ないか」「暫定的な対応が法的にどんな注意点があるか」——こうした点について一人で判断するのが難しい場合、ウェルセンス株式会社では、中小企業の実情に沿った人事労務の相談を承っています。制度設計の前段階から、コミュニケーションの設計まで、御社の状況に合わせた入口からご相談いただけます。まずはお気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 人事制度がないことを社員に正直に伝えると、かえって不安を煽りませんか?

A. 多くの場合、社員はすでに「制度がない」ことを体感しています。経営者が「整備中です」と認めるより、何も言わないほうが不信感を高めます。「現状を認識していること」と「方向性を考えていること」を誠実に伝えることは、不安を煽るのではなく軽減する効果があります。大切なのは「認めること」と「次のアクションを示すこと」をセットにすることです。

Q. 従業員が10名未満の場合、就業規則の整備は必要ですか?

A. 労働基準法第89条による作成・届出義務は常時10名以上の事業場に課されています。10名未満であれば法的義務はありませんが、将来的な採用・規模拡大を見据えると、早い段階から就業規則の骨格を整えておくことは実務上有益です。また、就業規則がなくても労働条件の明示義務(労働基準法第15条)は全事業場に適用されます。

Q. 暫定的な評価の説明をした後、実際の昇給額を変更したい場合、何か注意点はありますか?

A. 暫定的な説明であっても、社員が「一定の処遇水準が継続される」と合理的に期待できる状況をつくった後に、その水準を下げる変更を行う場合は、労働契約法第9条・第10条の不利益変更に該当する可能性があります。変更には合理的な理由と適切な手続きが必要です。変更を検討する際は、社会保険労務士や専門家に事前に相談することを強くお勧めします。

Q. 口コミサイトに書かれてしまった場合、どう対処すればいいですか?

A. 口コミへの直接の反論や削除要請は、よほど事実と異なる内容でない限り逆効果になりやすいです。現実的な対処は、まず在職中の社員との関係を改善することと、採用活動の場で自社の考え方を丁寧に説明することです。採用サイトや面接の場で「評価の方向性」を自社の言葉で語ることで、求職者が口コミと実際の声を比較できる状況をつくることが、中長期的には最も有効な対策になります。

Q. パートタイムや有期雇用の社員にも、同じようにコミュニケーションを取るべきですか?

A. はい、雇用形態にかかわらず全員を対象にすることが適切です。パートタイム・有期雇用労働法により、正社員と非正規雇用者の間の不合理な待遇差は禁止されており、中小企業もすでに適用対象です。評価や給与の考え方を伝える際に「正社員向けの話」に留めると、非正規雇用者の不安や不信感が高まるリスクがあります。全員が「自分たちにも関係のある話として伝えてもらえた」と感じる発信を意識してください。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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