評価が良くても賞与を下げざるを得ないとき、どう説明する?

評価が良くても賞与を下げざるを得ないとき、どう説明する? 人事制度
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「今期は業績が厳しかったから賞与を下げないといけない。でも、あの社員は評価Aだったのにどう説明すればいい?」——経営者や兼務人事の方から、こうした相談が後を絶ちません。評価制度と賞与制度がきちんと設計されていないと、業績が悪い期ほど社員への説明に困り、関係がこじれるリスクが高まります。この記事では、評価が良くても賞与を下げざるを得ない場面で「なぜか」を納得感をもって伝えられる、原資連動ルールの作り方と説明方法を解説します。

「評価が良いのに賞与が下がる」は矛盾ではない

評価と賞与は別々の仕組みであり、両者を混同しないことがすべての出発点です。評価は「個人の貢献度」を測るものですが、賞与の原資はあくまで「会社が支払える総額」です。この二つを分けて設計すれば、「評価Aなのに賞与が下がった」という状況を制度として説明できるようになります。

評価と賞与の役割の違い

評価制度の目的は、社員の行動・成果を正しく測定し、次の成長につなげることです。一方、賞与制度の目的は、会社が生み出した利益を社員に分配することです。利益が少ない期は分配できる総額が減る——これは当然の話です。

ところが「評価が高い=賞与が高い」という暗黙の前提が社員の頭の中に根付いていると、この当然の構造が「不公平」に映ってしまいます。つまり、制度として「評価と賞与は別」という原則が社員に伝わっていないことが、多くのトラブルの根本原因なのです。

問題の根本は制度の二段階構造が伝わっていないこと

本来、賞与の仕組みは二段階に分かれています:

  • 第一段階:会社業績で原資の総額を決める
  • 第二段階:評価ランクで個人への配分比率を決める

ところが多くの中小企業では、この二段階が就業規則に明文化されておらず、経営者の感覚や前年踏襲で金額を決めてきました。その結果、業績が悪い期に「なぜ下がるのか」を客観的な根拠とともに示せなくなっています。

制度として説明できる原資連動ルールの構造

原資連動ルールとは、「会社業績の指標に応じて賞与の原資総額を決め、その範囲内で評価に基づき個人に配分する」という二段階の賞与設計です。この仕組みを事前に明文化しておくことで、業績悪化期の減額を制度として説明できます

原資の決め方(第一段階)

原資の決定には、営業利益・経常利益・売上高前年比などの指標を使うのが一般的です。たとえば以下のような「支給倍率テーブル」を設定します。

業績指標(例:経常利益率) 原資の目安(全社員の基本給合計に対する倍率)
8%以上 2.5ヶ月分
5%以上8%未満 2.0ヶ月分
3%以上5%未満 1.5ヶ月分
3%未満 1.0ヶ月分
赤字 0〜0.5ヶ月分(または不支給)

指標の種類や倍率は会社の事業構造によって異なります。重要なのは「どの数字が何ヶ月分に対応するか」をあらかじめ規程に明記することです。

個人への配分の決め方(第二段階)

原資の総額が決まったら、次に評価ランクに応じた配分率で個人額を算出します。たとえばS評価の社員には配分係数1.5、A評価は1.0、B評価は0.8といった形で設定します。

これにより「今期の原資は1.0ヶ月分で、あなたはA評価なので配分係数1.0、したがって基本給×1.0ヶ月分が賞与です」という数字での説明が可能になります。

「評価が良くても賞与が下がった」を説明する具体的な言葉

たとえば前期の経常利益率が6%(原資2.0ヶ月分)で今期が2%(原資1.0ヶ月分)になった場合、A評価の社員の賞与は単純に半減します。この場面では、次のように伝えることが効果的です:

「あなたの評価はAです。それは変わりません。ただし今期は会社の利益が前期の半分になり、規程に基づき原資も半分になりました。評価の高いあなたへの配分比率は維持していますが、原資自体が縮小したため金額が下がっています」

制度が明文化されていれば、感情論ではなく数字と規程で話すことができます。

就業規則・賞与規程への明文化で気をつけること

「業績に応じて支給する」という一文だけでは、業績悪化時の減額根拠として機能しません。原資連動ルールが制度として働くには、算定のプロセスを具体的に規程に落とし込む必要があります。

「業績に応じて支給する」では不十分な理由

就業規則に「賞与は会社業績に応じて支給する」とだけ書いてある場合、裁判所や労働基準監督署から見ると支給条件が不明確と判断される可能性があります。

労働基準法第11条では、支給条件・計算方法が明確に定められた賞与は「賃金」として扱われます。算定基準が曖昧なままだと、社員から「支給基準が不透明だ」と主張された際に反論しづらくなるのです。

規程に盛り込むべき項目

賞与規程には少なくとも次の内容を含めることをお勧めします。

  • 原資算定に使う業績指標の種類(経常利益率・売上高前年比など)
  • 指標の水準と支給倍率の対応関係(支給倍率テーブル)
  • 個人配分に使う評価ランクと配分係数の関係
  • 会社の裁量により支給額を変更できる旨の条項
  • 支給対象者の要件(支給日在籍要件など)

特に「会社の業績状況により支給倍率を変更することがある」という条項は、業績連動であることを明示する上で重要です。

就業規則変更時の法的手続き

これまで暗黙に「評価=賞与額」という運用をしてきた場合、原資連動ルールの明文化は「就業規則の不利益変更」に当たる可能性があります。

労働契約法第9条は原則として労働者の個別同意を求めており、第10条では「合理的な理由があり社会通念上相当な変更」であれば就業規則変更のみで効力が認められる余地があるとしています。いずれにせよ、以下の手続きが必須です:

  • 過半数労働組合または過半数代表者への意見聴取
  • 労働基準監督署への届出(労働基準法第89条・第90条)
  • 変更の経緯と合理性を文書に記録

変更の経緯と合理性を文書に残しておくことが、後のトラブル防止につながります。

評価制度と賞与制度を「分離」することの法的問題

評価制度と賞与制度を分けて設計すること自体は、法的に問題ありません。ただし、分離の「やり方」と「説明の仕方」を間違えると、不当な減額として争われるリスクが生じます。

分離設計が問題になる場面

評価と賞与を完全に切り離すこと自体は適法ですが、社員が「評価が反映される」と合理的に期待できる状況を会社側が作り出していた場合は話が変わります。

たとえば過去に「評価がAなら賞与2ヶ月」と明示的に説明してきた経緯があると、それが「労働契約の内容」と解釈される可能性があります。こうした慣行がある場合は、制度変更を行う前に丁寧な説明と合意形成が必要です。

「不当だ」と言われないための事前対応

制度変更前に社員に対して「なぜ変えるのか」「変えた後どうなるか」を個別面談で説明し、理解を得るプロセスを踏むことが重要です。

特に規模が小さい企業では全員への個別説明が現実的に可能なため、一人ひとりに丁寧に伝えることが信頼関係の維持にも直結します。また、変更後の制度が以前より社員に有利な面(評価の透明性向上など)を持つ場合は、そのメリットも合わせて伝えると受け入れられやすくなります。

社員への説明資料をどう作るか

制度を口頭で説明するだけでなく、簡単な資料を用意することで社員の理解が格段に上がります。資料は「わかりやすさ」を最優先に、図と数字で構成することが重要です。

資料に含める要素

賞与説明資料には、次の三つのパートを設けると整理しやすくなります:

  1. 今期の会社業績の状況:売上や利益の実績値と前期比を示す
  2. 原資の決まり方:支給倍率テーブルと今期の該当欄をハイライト
  3. 個人への配分の決まり方:評価ランクと配分係数の一覧を示し、本人の評価ランクと金額の計算過程を記載

これにより社員は「会社の業績がこうだったから、制度上この金額になった」という流れを自分で追えるようになります。

面談で伝える言葉のポイント

資料を渡すだけでなく、必ず上司または経営者が直接説明する場を設けることが大切です。面談では次の順序で話すことをお勧めします:

  1. 「あなたの評価はAで、それは今期もきちんと認めています」という言葉を最初に伝える
  2. 評価への敬意を示した上で、原資が業績により縮小した事実を数字で説明
  3. 「評価は評価、原資は原資」という構造を伝え、「評価が無駄になった」という誤解を防ぐ

この流れで説明することで、社員の納得感が大きく変わります。

会社の規模・状況による対応の分岐

就業規則や賞与規程がまだ整備されていない場合:今期の賞与については「今回は会社業績を踏まえた経営判断として」と説明しつつ、来期に向けて制度整備を急ぐことが現実的な対応です。

すでに就業規則があり原資連動の記載が曖昧な場合:今期の支給後に規程の見直しに着手し、次の賞与支給前までに改訂・届出を完了させるスケジュールが目安になります。

産業医や社労士との連携が難しい20〜50名規模の企業では、外部の専門家に規程のレビューだけでも依頼することをお勧めします。

まとめ

評価が良くても賞与を下げざるを得ない場面は、会社の規模に関わらず起こります。そのとき「感覚」や「前年踏襲」で説明しようとすると、社員との関係が壊れるリスクがあります。

対策は二点に尽きます:

  • 原資連動ルールの明文化:業績指標と支給倍率テーブルを就業規則・賞与規程に明記
  • 二段階設計の社員への共有:評価ランクと配分係数をセットで説明し、「評価と原資は別」という原則を理解させる

この二つで、「なぜこの金額か」を数字と制度で説明できるようになります。就業規則の変更が伴う場合は労働契約法・労働基準法上の手続きを踏むことが不可欠です。

制度設計に不安がある、または社員への説明に自信がない場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。賞与制度の設計支援から社員説明資料の作成、規程の整備まで、中小企業の人事担当者が一人で抱えがちな課題をまとめてサポートします。

よくある質問

Q. 就業規則に「業績に応じて支給する」と書いてあれば、業績悪化時の賞与減額は当然認められますか?

A. その一文だけでは根拠として弱い可能性があります。「業績に応じて」という記載は支給条件が不明確とみなされることがあり、どの指標がどの水準になったときに何ヶ月分の原資になるかという算定プロセスが明記されていないと、社員から「判断基準が不透明だ」と主張された際に反論しにくくなります。支給倍率テーブルを規程に明記することが重要です。

Q. 今まで「評価=賞与額」という運用をしてきました。原資連動に切り替えると不利益変更になりますか?

A. 切り替え後の制度が社員にとって不利になる場合は、不利益変更に当たる可能性があります。労働契約法第9条は原則として個別同意を求めています。ただし変更に合理的な理由があり、社会通念上相当な内容であれば、第10条により就業規則の変更のみで効力が認められる余地があります。変更の経緯・合理性を文書に残し、過半数代表者への意見聴取と労働基準監督署への届出を必ず行ってください。

Q. 原資連動ルールを導入する際、業績指標は何を使えばいいですか?

A. 一般的には経常利益・営業利益・売上高前年比などが使われます。どれが適切かは事業モデルによって異なります。たとえばコスト構造が固定費中心の会社では売上高よりも利益額の方が実態を反映しやすいですし、成長投資期の会社では前年比売上が使いやすい場合もあります。社員が「なぜこの指標か」を理解しやすいシンプルな指標を選ぶことが、説明のしやすさにもつながります。

Q. 評価は高いが賞与が下がった社員が「不当だ」と言ってきた場合、どう対応すればいいですか?

A. まず賞与規程の該当条項を示した上で、原資の決定プロセスと個人配分の計算過程を数字で説明します。「評価への評価は変わっていない」ことを明示した上で、「原資が業績により縮小した結果として金額が下がった」という制度上の説明を行います。規程に明記がある場合は、感情的な反論よりも制度の透明性を丁寧に示すことが最も有効です。それでも納得が得られない場合は、第三者の専門家(社労士等)を交えた面談も検討してください。

Q. 賞与をゼロにすることは法的に許されますか?

A. 就業規則や労働契約で賞与の支給が「確定的な賃金」として定められている場合、不支給は賃金未払いとなるリスクがあります。一方、「会社業績により支給しないことがある」と明記されていれば、業績悪化による不支給が認められる余地が広がります。ゼロにする可能性がある場合は、その旨を規程に明記した上で、社員に対して事前に業績状況を誠実に説明しておくことが重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
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