社員30人規模の人事制度、何から整備するかの考え方

社員30人規模の人事制度、何から整備するかの考え方 人事制度
Photo by Andrea Piacquadio on Pexels

「そろそろ人事制度を整えなければ」と思いながら、何から手をつければいいのか見当がつかない。社員が30人規模になると、そういう声をよく耳にします。創業期は経営者の判断で乗り切れていた採用・評価・給与の決め方が、人数が増えるにつれて少しずつ綻びはじめる。休職者が出て初めて復職ルールがないことに気づく。2人目の産休社員が出て「前回と対応が違う」とトラブルになる。こうした経験を持つ経営者・人事担当者は少なくありません。この記事では、社員30人規模の企業が人事制度を整備するうえで「何を・どの順番で」着手すべきかを、法的義務の観点も含めて整理します。

整備の順番を間違えると、制度より先にトラブルが来る

人事制度の整備は、「法律上すでに義務になっているもの」から着手するのが原則です。社員30人規模の人事制度は、評価制度や等級制度より先に、就業規則や協定の整備が必要です。この順番を誤ると、制度が整う前に労使トラブルや行政指導のリスクに直面します。

「今まで問題なかった」は通用しなくなる

社員が10〜20人のうちは、経営者が全員の顔を見ながら個別に対応できます。給与も「感覚」で決めてきた、休暇も「話し合い」で乗り切ってきた、というケースは珍しくありません。ところが30人を超えると、経営者の目が届かない場面が増え、属人的な対応の限界が表面化します。「あの人だけ特別扱いされている」「自分の給与の根拠がわからない」という不満は、制度の不在が原因であることがほとんどです。

法的義務と任意整備の区別が最初の判断軸

人事制度の整備を語るとき、「法的に義務づけられているもの」と「やったほうがいいもの(任意整備)」を混同している担当者は非常に多くいます。たとえば就業規則の作成・届出は、常時10人以上の社員がいる事業場では労働基準法第89条によって義務です。しかし人事評価制度の導入に法的義務はなく、あくまで任意です。この区別をつけずに「評価制度を作ろう」と動き始めると、法的リスクを抱えたまま任意の制度を整える、という本末転倒な事態になりかねません。

法的義務として最初に整えるべき制度

社員30人規模の企業が「今すぐ対応が必要」な法的義務は、大きく5つに整理できます。これらは会社の規模や業種にかかわらず、義務として定められています。

就業規則と36協定は土台中の土台

常時10人以上の社員がいる事業場は、就業規則を作成して所轄の労働基準監督署に届け出る義務があります(労働基準法第89条)。「以前作ったものがある」という場合も要注意です。就業規則は一度作って終わりではなく、法改正や会社の実態変化に合わせて継続的に改定する必要があります。特に育児・介護休業法は2022年・2023年・2025年と立て続けに改正されており、数年前に作ったまま放置している就業規則は、現在の法令と乖離している可能性が高いです。

また、残業が発生している会社では36協定(時間外・休日労働に関する協定)の締結と届出が必須です(労働基準法第36条)。この協定なしに残業をさせると法令違反となり、月45時間・年360時間の上限規制への対応も求められます。「残業はあるけど36協定を締結した記憶がない」という場合は、すぐに確認してください。

ハラスメント防止措置は中小企業も義務

パワーハラスメントの防止措置は、2022年4月から中小企業にも義務化されました(労働施策総合推進法)。セクシュアルハラスメント(男女雇用機会均等法)、マタニティハラスメント(育児・介護休業法)の防止措置と合わせて、社内方針の明示・相談窓口の設置が必要です。「窓口は経営者に直接」では、相談しにくい構造になっているため実質的に機能しません。外部の相談窓口を活用している企業も増えています。

育児・介護休業規程の最新化は急務

育児・介護休業法の改正は近年特に頻繁です。産後パパ育休(出生時育児休業)の創設や、育休取得率の公表義務(300人超の企業は義務、それ以下は努力義務)など、制度の枠組み自体が変わり続けています。規程が古いまま運用されていると、社員から「法律で認められているはずの制度が使えない」とトラブルになるケースがあります。専門家に依頼して最新の法令に沿った規程に改定することを優先してください。

トラブル防止のために次に整えるべき制度

法的義務の対応が整ったら、次は「起きてからでは遅い」トラブルを防ぐための制度整備に移ります。特に休職・復職ルールと賃金の根拠の明文化は、30人規模で最初のケースが発生する前に準備しておくべき領域です。

休職・復職規程は「初めてのケース」の前に作る

就業規則に休職の条項があっても、「復職の判断基準」「復職後の業務軽減の期間」「再発した場合の取り扱い」まで明記されているケースは少ないです。初めてメンタル不調で休職した社員が出たとき、「主治医が復職可能と言っているが、会社としてどう判断すればいいか」という問いに答えられる仕組みがなければ、現場が混乱します。復職支援のプロセスは、産業医や外部の専門機関とも連携しながら、事前に手順を整えておくことが重要です。

賃金・昇給の根拠は文書で残す

給与を経営者の判断で個別に決めてきた場合、社員数が増えると「なぜあの人は上がったのか」という疑問が出てきます。これは単なる不満ではなく、賃金規程や昇給基準が存在しないことへの正当な疑問です。賃金規程を整備し、等級や昇給の基準を文書化することで、経営者の負担も下がります。「今まで感覚でやってきたことを言語化する」作業と捉えると取りかかりやすくなります。

同一労働同一賃金への対応は後回しにできない

正社員とパート・契約社員など異なる雇用区分の社員が混在している場合、パートタイム・有期雇用労働法に基づく均等・均衡待遇への対応が必要です。「不合理な待遇差」は法的リスクとなり、待遇差の理由を説明できない場合は問題となります。30人規模では個別合意で処理してきた待遇のバラつきが、ちょうどこの段階で制度的な矛盾として表れ始めます。雇用区分ごとに待遇を整理し、差がある場合はその根拠を明確にしておく必要があります。

評価制度・等級制度は「土台」が整ってから

人事評価制度や等級制度は、法的義務ではありませんが、採用競争力や社員の定着に直結する重要な制度です。ただし、就業規則・賃金規程・休職復職規程といった土台が整う前に評価制度を先行させると、評価結果を処遇に反映する根拠がなく機能不全に陥りやすいです。

評価制度が必要になるタイミングのサイン

以下のような状況が出始めたら、評価制度の設計を検討するタイミングです。「昇給・昇格の判断を経営者だけでは追いきれなくなった」「中途採用で入った社員が評価されないと感じて離職した」「社員から『どうすれば給与が上がるか』を聞かれても答えられない」といったケースがその典型です。評価制度は複雑にする必要はありません。最初は評価項目を絞り、半期に1回のフィードバック面談と連動させるシンプルな仕組みから始めることをお勧めします。

社員30人規模で整備する制度の優先順位

優先度 整備する制度・対応 根拠・理由
最優先 就業規則の最新化・届出 労働基準法第89条(10人以上で義務)
最優先 36協定の締結・届出 労働基準法第36条(残業がある場合は必須)
最優先 ハラスメント防止規程・相談窓口 労働施策総合推進法ほか(中小企業も義務)
最優先 育児・介護休業規程の改定 育児・介護休業法(改正対応が必要)
次に着手 休職・復職規程の明文化 トラブル防止・メンタルヘルス対応
次に着手 賃金規程・昇給基準の整備 処遇の根拠明確化・離職防止
次に着手 同一労働同一賃金の対応 パートタイム・有期雇用労働法
その後 人事評価制度・等級制度 組織力強化・採用競争力向上

「うちの規模でそこまで必要か」という疑問への答え

社員30人規模で大企業と同じ制度を作る必要はありません。ただし、法的義務は規模にかかわらず適用されます。必要なのは「大企業の制度の簡易版」ではなく、「自社の実態に合った、法的リスクのない最小限の制度」です。

制度の「完成度」より「機能すること」を優先する

30人規模の企業が陥りがちなのは、「どうせ作るなら完璧な制度を」と考えるあまり着手できないことです。評価制度なら評価項目を10個に絞る、給与テーブルは等級を3〜4段階にする、復職プログラムは段階的な勤務時間の目安だけ決めておく、という「動ける最小単位」から始めることが実態に合っています。

「その都度対応」のコストを意識する

制度がないまま個別対応を続けることにも、見えないコストがかかっています。同じ質問への対応を毎回ゼロから考える時間、トラブルが起きてから弁護士や社労士に相談する費用、不満を持った社員が離職し採用をやり直すコスト。制度を整備することは「余裕があればやること」ではなく、こうしたコストを減らすための投資として捉える視点が有効です。

まとめ

社員30人規模で人事制度を整備するときは、まず「法的義務になっているもの」から着手するのが正しい順番です。就業規則の最新化・36協定の締結・ハラスメント防止措置・育児介護休業規程の改定が最初の優先事項であり、これらは規模にかかわらず義務として定められています。その次に、休職・復職規程の明文化や賃金根拠の整理を行い、土台が整ってから人事評価制度や等級制度の設計に移るのが実務上の合理的な流れです。「完璧な制度」を目指すより「機能する最小限の制度」を早く動かすことが、30人規模の企業には適しています。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務担当者を対象に、メンタルヘルス対応・休職復職支援・人事労務の制度整備に関するご相談をお受けしています。制度整備の優先順位の整理から、実装支援まで、貴社の状況に応じてサポートいたします。社員30人規模での制度づくりについてお困りでしたら、まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 就業規則は以前作ったものがあります。それで十分ですか?

A. 作成した時期によっては、現在の法令と大きく乖離している可能性があります。育児・介護休業法は2022年・2023年・2025年と改正が続いており、数年前の就業規則には対応していない内容が含まれることがほとんどです。「作ったことがある」ではなく「現行法に沿った内容かどうか」を確認することが必要です。社労士などの専門家に一度レビューを依頼することをお勧めします。

Q. 人事評価制度がないと、法的に問題がありますか?

A. 人事評価制度の導入自体に法的義務はありません。ただし、賃金規程や昇給基準がまったく存在しない場合、給与決定の根拠が不明確となり、労働契約上のトラブルにつながるリスクがあります。評価制度の整備よりも先に、昇給・賞与の基準を賃金規程として明文化しておくことが優先事項です。

Q. 休職者が出ましたが、復職させてよいか判断できません。どう対応すればいいですか?

A. 主治医の診断書だけで復職の可否を判断することには限界があります。主治医は「治療の観点」から回復を判断しますが、「職場で業務を遂行できるか」という観点は別です。復職判断には産業医の意見や、復職支援プログラム(段階的な勤務)の仕組みが有効です。就業規則に復職の判断基準と手続きを明記しておくことが、トラブルを防ぐうえで最も重要です。まだ規程がない場合は、専門家に相談しながら整備を進めることをお勧めします。

Q. ハラスメントの相談窓口は、社内に設置しなければいけませんか?

A. 相談窓口は必ずしも社内に設置する必要はありません。外部の専門機関や社労士事務所に委託することも認められています。30人規模では「相談担当者=経営者」となりがちですが、それでは相談しにくい状況が生まれます。特にハラスメントの相談においては、経営者が関係者である場合に相談できない構造になりかねないため、外部窓口の活用が現実的な選択肢です。

Q. 制度整備を一度に全部やろうとすると業務が止まります。どう進めるのが現実的ですか?

A. 一度に全部整備しようとすることは現実的ではありません。まず法的リスクの高いものから着手し、3〜6ヶ月単位で対応項目を絞って進めることが現実的です。社労士や専門家に一部を外注することで、担当者の負担を大幅に減らすことができます。「完璧な制度」よりも「機能する最小限の制度を早く整える」という考え方が、30人規模の企業には適しています。優先順位の整理から支援を受けることが、遠回りのようで最も近道です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

タイトルとURLをコピーしました