「タイムカードをシステムに移行したら、古い紙は捨てていいのかな……」。移行作業を進める中で、ふとそんな疑問が頭をよぎったことはないでしょうか。法律上の保存期間を知らずに廃棄してしまうと、労働基準監督署の調査(臨検)で書類が提示できず、是正勧告を受けるリスクがあります。この記事では、勤怠管理システムの移行前後に必ず押さえておくべき法定保存期間の根拠と、実務上の手順をわかりやすく解説します。
勤怠書類の法定保存期間は何年か
結論から言えば、タイムカード・出勤簿・賃金台帳などの勤怠関連書類は、現時点では最低3年、将来的には5年の保存が求められます。以下で法的根拠と対象書類を整理します。
労働基準法が定める3種類の書類
労働基準法第109条は、使用者に対して「労働者名簿・賃金台帳・雇入れや解雇、災害補償、賃金その他の重要書類」を一定期間保存することを義務付けています。勤怠管理で特に重要な3種類の書類と保存期間を下表にまとめました。
| 書類の種類 | 根拠条文 | 保存期間(起算点) |
|---|---|---|
| 賃金台帳 | 労働基準法第108条・第109条 | 5年(当分の間は3年)/最後の記入日から |
| 出勤簿・タイムカード | 労働基準法第109条 | 5年(当分の間は3年)/最後の記入日から |
| 労働者名簿 | 労働基準法第107条・第109条 | 5年(当分の間は3年)/死亡・退職・解雇の日から |
「当分の間は3年」が意味すること
2020年の労働基準法改正(民法改正に伴う賃金請求権の消滅時効延長)により、本来の保存期間は5年に引き上げられました。ただし経過措置として「当分の間は3年」とされており、現時点では実務上は3年以上を確保しつつ、5年を見据えた管理体制を構築しておくことが求められます。「当分の間」の終了時期は政令で別途定められる予定であり、早晩5年に一本化される見通しです。今からシステム移行に着手するのであれば、最初から5年保存を前提に設計しておくと後々の変更コストを抑えられます。
保存期間の「起算点」に注意する
よくある誤解として「システム移行日から3年保管すればよい」というものがあります。しかし正しくは、その書類への最後の記入日(記録日)から起算します。たとえば2025年3月31日まで紙のタイムカードを使用し、4月1日からシステムに移行した場合、その紙タイムカードは2028年3月31日まで保管義務が続きます。移行日ではなく記録日を基準にしている点が、実務上の落とし穴になっています。
タイムカードは「出勤簿」として認められるか
労働基準法上、出勤簿の書式は定められておらず、タイムカードや勤怠システムの打刻データも、必要な記載事項を満たしていれば出勤簿の代替として有効です。
出勤簿に必要な記載事項
厚生労働省の解釈では、出勤簿の代わりとなる記録は、労働者ごとに出勤日・始業時刻・終業時刻・休憩時間・時間外労働時間が確認できることが条件とされています。紙のタイムカードはもちろん、ICカードの入退室記録やシステムの打刻ログも、これらの情報が記録されていれば有効です。
システムデータが「出勤簿として有効」であるための条件
デジタルデータで管理する場合は、「必要なときに画面表示・印刷ができる状態」を維持することが行政解釈上の要件です。具体的には次の点を確認してください。
- 労働者ごとにデータが分離・検索できること
- 過去のデータが上書き・削除されず履歴として残ること
- 打刻修正があった場合、その変更履歴が記録されていること
- システム障害時でもデータを復元できるバックアップ体制があること
この条件を満たさないシステムでは、デジタルデータが出勤簿として認められないリスクがあります。システム選定の段階で必ず確認しましょう。
移行プロジェクトの進行中に「この対応で本当に大丈夫か」と判断に迷う局面は多いものです。専門的な相談が必要な場合は、早めにサポートを活用することが後々のトラブル防止につながります。
移行後に紙のタイムカードを廃棄できる条件
システム移行後に紙のタイムカードを廃棄するためには、電磁的記録(スキャンPDF等)での代替保存が認められる条件を満たす必要があります。単純に「移行したから捨ててよい」わけではありません。
電磁的記録での保存は認められるか
労働基準法第109条は「記録の保存」を求めており、電磁的記録を明示的に禁止していません。厚生労働省の行政解釈として、必要なときに内容を確認・印刷できる状態であれば、電磁的記録での保存が認められるとされています。つまり、紙のタイムカードをスキャンしてPDFで保存した後、原本を廃棄することは条件付きで可能です。
廃棄前に確認すべきポイント
原本廃棄を行う前に、以下をすべて確認してください。一つでも満たせていない場合は廃棄を見送るべきです。
- スキャンデータが判読可能な解像度で保存されていること
- スキャンデータのファイル名や管理台帳で、対象期間・対象者が特定できること
- 保存先のストレージにバックアップ(別媒体・クラウド等)があること
- 保存期間(3年または5年)の満了日が管理されていること
- 廃棄ルール(誰が・いつ・どのように廃棄するか)が文書化されていること
「移行直後に捨ててよい」という誤解が起きる理由
システム移行プロジェクトでは、新システムへの切り替えと同時に「旧データの片付け」が話題になりがちです。倉庫スペースを確保したい、管理コストを下げたいという実務上の動機から、移行完了と同時に紙を処分してしまうケースが実際に起きています。しかし保存期間の起算点は移行日ではなく最後の記録日であることを、移行プロジェクトのメンバー全員で共有しておく必要があります。
勤怠システム移行で整備すべき手順
移行を法令違反なく進めるには、移行前・移行中・移行後の3段階で対応事項を整理しておくことが重要です。
移行前に決めておくこと
移行作業を始める前に、まず次の点を確定させます。移行タイミングは月の区切り(月末・月初)か、年度の区切り(3月末・4月初)に合わせると、給与計算サイクルとの整合が取りやすく管理がシンプルになります。月の途中での移行は二重管理期間が生じやすいため、特別な理由がない限り避けることを推奨します。また、過去データをどの形式・どの場所に保存するか、廃棄期限をどこで管理するか(スプレッドシート・台帳等)を文書化しておきます。
移行中の二重管理をどう設計するか
旧システム(紙を含む)から新システムへの切り替え期間中は、打刻記録が二重になります。この期間の記録は両方を保管対象とし、どちらが正式な出勤簿として機能しているかを社内ルールで明確にしておきます。特に残業承認・修正申請のフローが旧体制と新体制で混在しないよう、切り替え日を明確に周知することが重要です。
移行後に確認するチェックリスト
新システムへの移行が完了したら、以下を確認します。
- 新システムで始業・終業・休憩・残業が労働者ごとに記録されているか
- 賃金台帳と打刻データが連動して追跡できる状態か
- 打刻修正・変更履歴が記録・追跡できるか(改ざん防止)
- 過去データ(移行前分)の保存先と廃棄期限が管理台帳に記録されているか
- システム障害時のバックアップ体制が整っているか
- 就業規則の変更が伴う場合、労働基準監督署への届出と従業員への周知が完了しているか
賃金台帳・出勤簿・タイムカードの関係を整理する
この3種類の書類は、それぞれ別の法的根拠を持ちながら、実務上は互いに連動して管理することが求められます。
それぞれの役割と法的位置づけ
出勤簿(タイムカードを含む)は「いつ・何時間働いたか」を記録する書類です。賃金台帳は「どれだけの賃金を計算・支払ったか」を記録する書類で、労働基準法第108条が作成を義務付けています。労働者名簿は「雇用関係の基本情報(氏名・住所・生年月日・採用日・退職日等)」を記録するもので、第107条が作成を義務付けています。
3つの書類が「連動」していなければならない理由
労働基準監督署の臨検では、これらの書類を突き合わせて、時間外労働の実態と賃金支払いが一致しているかを確認します。たとえばタイムカードに残業が記録されているのに、賃金台帳に残業代の記載がなければ、未払い賃金の疑いが生じます。システム移行後は特に、新システムの打刻データと給与計算ソフトの賃金台帳が正しく連動しているかを必ず検証してください。
会社規模・体制別の対応ポイント
従業員数や管理体制によって、優先すべき整備事項は異なります。従業員が20名以下でエクセル管理が中心の場合は、まず出勤簿と賃金台帳の書式を法定記載事項に沿って整備することから始めましょう。30名以上でシステム導入を検討中の場合は、システム選定の段階で「賃金計算ソフトとの連携機能」があるかどうかを必ず確認します。就業規則がない(または10年以上更新していない)場合は、システム移行と並行して就業規則の整備・届出も行うと、将来の臨検リスクを大幅に下げられます。
まとめ
勤怠管理システムの移行は、単なるツールの切り替えではなく、法定保存義務を正しく引き継ぐ作業です。タイムカードや出勤簿・賃金台帳の保存期間は「当分の間3年(将来は5年)」で、起算点は移行日ではなく最後の記録日であることが最大のポイントです。移行後に紙を廃棄するには電磁的保存の要件を満たす必要があり、無断廃棄は法令違反になります。また、打刻データ・賃金台帳・労働者名簿の3書類が互いに連動して追跡できる状態を保つことが、臨検対応の核心です。
「うちの対応が正しいか確認したい」「システム選定や移行ルールの設計で判断に迷っている」という場合は、人事の判断を一人で抱え込まずウェルセンス株式会社に相談してみてください。専任人事のいない企業の勤怠・労務課題に対して、実務的でわかりやすいサポートを提供しています。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


