休職中社員の確定申告、会社の対応義務はある?

休職中社員の確定申告、会社の対応義務はある? メンタルヘルス対応
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「うちの社員が休職中なんですが、確定申告について何か会社がしないといけないことはありますか?」——社労士や税理士に相談するほどでもないかもしれないけれど、放置して後でトラブルになるのも怖い。専任の人事担当者がいない会社では、こういった「グレーゾーンの問い合わせ」こそ対応に困るものです。休職中社員の確定申告をめぐる会社の義務と実務対応を、法的根拠とともに整理します。

会社に「説明義務」はあるのか

結論から言えば、確定申告や医療費控除について社員に説明する法的義務は会社には課されていません。ただし、それは「何もしなくてよい」という意味ではなく、義務ある対応と任意の配慮を区別して理解することが重要です。

法令上、会社が負う義務の範囲

確定申告・医療費控除に関する「説明義務」を会社に直接課した法令は存在しません。一方で、源泉徴収票の交付については所得税法第226条により会社に明確な義務が課されています。退職者・休職者を問わず、法定の期限内(原則として翌年1月31日まで)に交付しなければならず、これを怠ると税務上のリスクが生じます。また、年末調整は「給与を支払う使用者」が行う義務(所得税法第190条・第191条)であり、休職中でも年内に給与支払いがある場合は原則として対象です。

義務はないが「配慮」が関係維持に直結する

医療費控除の申告は個人の権利であり、会社が代わりに手続きすることはできません。しかし「説明しなかったから会社は問題ない」と割り切ると、後々の関係に影響することがあります。休職中は通院や投薬などで医療費がかさむケースが多く、医療費控除を活用できれば社員の経済的負担が軽減されます。「会社が何も教えてくれなかった」という不満は、復職意欲や職場への信頼感にも影響します。義務ではなくても、適切な情報提供は人事対応として有効な投資です。

「個人の問題だから会社は関係ない」という誤解

確定申告そのものは個人の手続きですが、その周辺では会社の協力が必要な場面が複数あります。傷病手当金の申請書類(事業主証明欄)への記入、源泉徴収票の発行、年末調整の実施可否の判断など、「確定申告に関わる会社側の作業」は決して少なくありません。「完全に個人の問題」と思って何もしないと、本来会社がすべき手続きを後回しにするリスクがあります。

源泉徴収票はいつ、どのように交付するか

休職中社員への源泉徴収票の交付は、法律上の義務です。年末調整の実施可否によって対応が変わるため、自社の状況に合わせて判断してください。

年内に給与支払いがある場合

休職中でも年内に一部でも給与が支払われていれば、その社員は原則として年末調整の対象となります。年末調整を実施した上で、源泉徴収票を翌年1月31日までに交付します。ただし、医療費控除は年末調整では適用できないため、医療費が多い社員は別途確定申告が必要です。この点を社員が知らないケースは多く、年末調整が完了したからといって「すべて終わり」と思い込む前に、必要に応じて案内することが望ましいです。

年内に給与がゼロの場合

傷病手当金だけを受け取り、年内に給与の支払いが一切ない場合は年末調整の対象外となります。この場合でも源泉徴収票は発行・交付が必要です(源泉徴収税額がゼロでも交付義務があります)。社員本人が確定申告を行う必要があるため、源泉徴収票を早めに交付しておくことが重要です。確定申告の受付開始(翌年2月16日〜)よりも前に手元に届くよう、1月中には交付するのが実務上の目安です。

郵送・手渡しどちらでもよいか

源泉徴収票の交付方法に法令上の制限はなく、郵送でも手渡しでも問題ありません。ただし、休職中社員への郵送では、本人が現住所で受け取れるかを事前に確認しておくことをおすすめします。メンタル不調による休職の場合、環境が変わっていることもあるため、送付先住所を改めて確認する一声が親切です。

傷病手当金と確定申告の関係を正しく理解する

傷病手当金は非課税のため、それ自体を確定申告で申告する必要はありません。ただし、医療費控除との関係については正確に理解しておく必要があります。

傷病手当金は所得税の課税対象外

傷病手当金は健康保険法に基づく保険給付であり、所得税法第9条第1項第3号により非課税とされています。社員から「傷病手当金を受け取っているが確定申告は必要か」と聞かれた場合、傷病手当金のみが収入源であれば原則として確定申告の義務はありません。一方で、年内に給与収入があった場合は、給与分について確定申告(または年末調整)が必要になる場合があります。

医療費控除の計算で注意すべきこと

医療費控除(所得税法第73条)は、年間の医療費が一定額を超えた場合に確定申告で受けられる所得控除です。休職中は通院・投薬などで医療費が増えやすく、制度を活用できるケースが多いです。ここで見落としやすいのが高額療養費との調整です。高額療養費制度(健康保険法第115条)により払い戻しを受けた金額は、医療費控除の計算で医療費から差し引く必要があります。払い戻し前の医療費をそのまま申告すると過大申告になるため、社員本人に注意を促しておきましょう。

セルフメディケーション税制との選択

医療費控除と「セルフメディケーション税制」(租税特別措置法第41条の17の2)はどちらか一方しか適用できません。セルフメディケーション税制は、一定のOTC医薬品の購入費用を対象とする制度です。どちらが有利かは支出の内容によって変わります。会社側が詳細な試算を行う必要はありませんが、「どちらかを選んで申告できる」という制度があることを案内するだけでも、社員の助けになります。

社員・家族への案内をどこまでどう行うか

事務連絡としての情報提供は、メンタル不調者への「配慮」と相反しません。必要な連絡は明確に、かつ負担の少ない形で行うことが大切です。

連絡を躊躇しがちな理由とその整理

メンタル不調による休職者に対しては「連絡が刺激になるのでは」という遠慮が生じがちです。しかし、税務関連の事務連絡は業務上必要な情報提供であり、適切な形式と内容であれば問題ありません。連絡の頻度や内容の重さが問題になるのであって、源泉徴収票の発送や確定申告に関する簡単な案内は、むしろ「会社がちゃんと見ている」という安心感につながる場合もあります。多くの企業は「何をすればいいか分からない」という判断停止に陥りやすいため、スポット相談で方針を整理することをおすすめします。

家族への案内が必要な場合

本人のメンタル状態によっては、本人宛ではなく家族(配偶者など)を通じて連絡するケースもあります。ただし、個人情報の取り扱いに注意が必要です。本人の同意なく家族に詳細な情報を開示することは避け、「源泉徴収票を郵送する」旨の事前告知程度にとどめるのが安全です。

案内文のポイントと文例

社員への案内文は、情報量を絞り、読む負担を最小限にすることが大切です。以下は案内文のひな形です。

項目 内容
送付物 源泉徴収票(〇〇年分)
案内内容 確定申告(2月16日〜3月15日)に必要な場合はご活用ください
補足 医療費が多い場合は医療費控除の対象になる可能性があります。詳細は税務署またはe-Taxをご確認ください
問い合わせ先 不明点は担当(〇〇)までご連絡ください

難しい言葉を使わず、「何をすればよいか」の行動が明確になるシンプルな文面にすることがポイントです。医療費控除の詳細な計算方法を会社が説明する必要はなく、「制度がある」「税務署やe-Taxで確認できる」という案内で十分です。

会社の規模・体制別の対応チェック

対応の範囲は会社の規模や体制によって現実的に変わります。自社の状況に照らして、最低限すべき対応と望ましい配慮を整理しましょう。

専任人事・社労士がいない場合

専任の人事担当者や顧問社労士がいない場合でも、源泉徴収票の発行・交付は必ず行わなければなりません。これは税務上の義務であり、規模に関係なく発生します。確定申告に関する詳細な説明は求められていないため、「源泉徴収票の交付」と「確定申告・医療費控除という制度があることの簡単な案内」の二点を最低ラインとして対応しましょう。不明点は税理士や社労士に単発相談する形でも対応可能です。

就業規則に休職規定がある場合

就業規則に休職中の待遇・連絡方法などを規定している場合は、その規定に沿った対応が原則となります。「休職中の連絡は月1回とする」などの取り決めがある場合、税務関連の事務連絡もその枠組みの中で行うのが整合的です。規定がない場合は、必要な事務連絡のルールをこの機会に簡単に文書化しておくと、今後の対応がスムーズになります。

産業医・外部EAPを活用している場合

産業医や外部のEAP(従業員支援プログラム)を活用している場合、メンタル面のサポートと事務連絡の役割分担を明確にすることが重要です。税務関連の案内は人事・総務が行い、メンタルサポートは産業医・EAPが担う、という役割の棲み分けを意識することで、どちらも中途半端にならずに済みます。

まとめ

休職中社員の確定申告について、会社に法的な「説明義務」はありません。ただし、源泉徴収票の交付は所得税法上の義務であり、これを起点に確定申告・医療費控除に関する簡単な案内を添えることが、会社として最低限すべき対応です。傷病手当金は非課税であることを理解した上で、高額療養費との調整など社員が見落としやすいポイントを簡潔に伝えるだけでも、制度の恩恵を受けそびれるリスクを下げることができます。「義務かどうか」だけでなく、「対応することで信頼関係を維持できるか」という視点も、休職者対応には欠かせません。

休職者への対応は確定申告だけでなく、復職支援・メンタルヘルスケア・人事労務の判断が複合的に絡む場面が多いです。「どこから手をつければいいかわからない」「社内で判断できない」という状況でも、ウェルセンス株式会社では中小企業の実情に合わせた相談対応を行っています。一人で抱え込まず、まずは気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 休職中の社員から「医療費控除の申告方法を教えてほしい」と言われた場合、会社はどこまで対応すべきですか?

A. 会社に医療費控除の申告手順を詳しく説明する義務はありません。「確定申告の期間(翌年2月16日〜3月15日)に税務署またはe-Taxで手続きが可能です」と案内し、詳細は国税庁のウェブサイトや税務署に問い合わせるよう促す対応が適切です。必要な源泉徴収票を早めに交付しておくことが、会社としての最重要対応です。

Q. 傷病手当金を受け取っている社員は確定申告をしなくてよいのですか?

A. 傷病手当金は所得税法第9条第1項第3号により非課税のため、それのみが収入の場合は原則として確定申告の義務はありません。ただし、年内に給与収入があった場合は給与分について確定申告や年末調整が必要になる場合があります。また、医療費控除などの還付申告をしたい場合は、義務がなくても確定申告を行うことができます。

Q. 休職中に給与が支払われていない場合でも、源泉徴収票を発行する必要がありますか?

A. はい、必要です。年内に給与支払いがあった場合はもちろん、支払いがなく源泉徴収税額がゼロであっても、源泉徴収票は発行・交付する義務があります(所得税法第226条)。社員本人が確定申告や還付申告を行う際に必要になりますので、翌年1月31日までに交付してください。

Q. 高額療養費の払い戻しがあった場合、医療費控除の申告額はどうなりますか?

A. 高額療養費制度により払い戻しを受けた金額は、医療費控除の計算において医療費支出から差し引く必要があります。たとえば年間の医療費が50万円で、高額療養費として10万円が払い戻された場合、控除の対象となる医療費は40万円として計算します。この調整を忘れると過大申告になります。社員への案内文に「高額療養費の払い戻し分は差し引く必要がある」と一言添えておくと親切です。

Q. メンタル不調で休職中の社員に税務の連絡を送ることは、精神的な負担にならないでしょうか?

A. 連絡の内容と量を絞れば問題ありません。「源泉徴収票を郵送します」「医療費控除という制度があります」程度のシンプルな案内は、業務上必要な事務連絡として適切な範囲です。返信を求めない、選択肢を押しつけない、短い文章にするといった配慮をした上で、書面またはメールで一方向に送る形が負担を最小限にします。連絡を完全に省くと、後で「何も教えてもらえなかった」という不満につながる場合もあります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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