賞与支給日在籍要件の規程化3ステップ|法的根拠と周知方法

賞与支給日在籍要件の規程化3ステップ|法的根拠と周知方法 採用・定着
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「支給日の3日前に退職届を出した社員から、賞与を払えと言われている。規定がないから、どう断ればいいかわからない。」——中小企業の経営者や兼務人事の方から、こうした相談が後を絶ちません。賞与の支給日在籍要件は、適切に規程化しておけば退職者への不支給を法的に正当化できます。しかし規定がなければ、過去の慣行を根拠に支払いを求められるリスクがあります。この記事では、法的根拠を確認しながら、支給日在籍要件を3つのステップで規程化する方法と、既存社員への周知手順をわかりやすく解説します。

支給日前日に退職した社員に賞与を払う義務はあるか

結論から言えば、就業規則や賃金規程に「支給日在籍要件」が明記されていれば、支給日前に退職した社員への不支給は原則として適法です。ただし、規定がない場合は状況によって支払い義務が生じる可能性があります

賞与と労働基準法の関係

賞与は労働基準法第11条が定める「賃金」に該当します。しかし同法第89条第4号は、賞与の支給条件・算定方法・支給時期については使用者が就業規則や賃金規程で自由に定めることができると規定しています。つまり、毎月の給与とは異なり、支給日在籍要件は「どんな条件の社員に支払うか」を会社側がルール化できる重要な項目なのです。

最高裁判例が認めた在籍要件の有効性

支給日在籍要件の法的有効性は、最高裁判所の判例によって確立しています。大和銀行事件(最判昭和57年10月7日)では、「支給日に在籍する者にのみ支給する」という規定の有効性が肯定されました。この判断は現在も実務上の通説的解釈として機能しており、規定が整備されている会社であれば、支給日前日退職者への不支給は正当化されます。

規定がない場合に生じるリスク

問題は、規定がない状態です。過去に退職者へも賞与を支払ってきた実績があれば、それが「労使慣行」として認められ、支払い義務が生じる可能性があります。労働契約法第7条は、就業規則で定める合理的な労働条件が労働契約の内容を補充すると規定していますが、逆に「慣行として定着した条件」も契約内容に組み込まれるリスクがあるのです。規定がないまま退職者から請求されている場合は、早急に専門家へ相談することをお勧めします。

在籍要件の規程化が「不利益変更」にあたるかどうかの判断

在籍要件を新たに規程に盛り込む場合、それが労働条件の「不利益変更」に該当するかどうかで、手続きの重さが変わります。一概に不利益変更とはならないケースもあります。

不利益変更にあたるケース・あたらないケース

判断の分かれ目は、従来の慣行や既存規定の内容にあります。以下の表を参考に、自社の状況を確認してください。

状況 不利益変更の評価 対応方針
退職者へも賞与を支払ってきた慣行がある 不利益変更に該当しやすい 労働契約法第10条の手続きを慎重に踏む
賞与規定が存在せず、条件が不明確だった 条件の明確化として不利益変更にならない可能性あり 新設扱いで整備できる場合が多い
賞与規定はあるが在籍要件の記載がなかった 解釈次第・専門家の判断が必要 社労士・弁護士に事前確認を推奨

不利益変更が認められる要件

労働契約法第10条は、就業規則の不利益変更が有効となる条件として、変更の必要性・内容の相当性・労働者への説明・意見聴取などを総合的に考慮するとしています。つまり、一方的に「来月から退職者には払わない」と宣言しても無効になりえます。変更の合理的な理由を整理し、誠実な手続きを経ることが不可欠です。

専任人事がいない会社が特に注意すべき点

専任人事がいない中小企業では、就業規則をひな形のまま使い続け、実態と乖離している場合が少なくありません。「賞与条項がそもそもない」「条件が曖昧な文章になっている」というケースでは、支給日在籍要件の新設が不利益変更にあたるかどうかの判断自体が難しく、自社だけで結論を出すことにリスクがあります。社会保険労務士に現行規定を見てもらい、整理した上で次のステップへ進む流れが安全です。

支給日在籍要件を規程化する3つのステップ

在籍要件の規程化は、現状確認・条文作成・届出と周知という3段階で進めます。手順を正しく踏むことで、法的有効性を担保できます。

現行規定の確認と課題の整理

まず最初に行うべきは、現行の就業規則・賃金規程に賞与条項が存在するか、その内容が実態と合っているかを確認することです。常時10人以上の従業員を雇用する事業場では、就業規則の作成・所轄労働基準監督署への届出が労働基準法第89条によって義務付けられています。10人未満でも、賃金規程などの書面で賞与の支給条件を明示しておくことが紛争防止につながります。確認の視点は次の通りです。

  • 賞与条項が就業規則または賃金規程に存在するか
  • 支給対象者の条件(支給日在籍要件)が明記されているか
  • 退職者への支給実績があるか、その慣行が継続しているか
  • 過去に退職者から賞与請求を受けた事例があるか

条文案の作成

次に、支給日在籍要件を明記した条文を作成します。条文の基本的な文言例は「賞与は、支給日において在籍する従業員に対して支給する。支給日前に退職した者には支給しない」という形です。ここで重要なのは、「支給日に在籍していること」を支給の条件として明確に定めることです。「原則として」「やむを得ない場合を除き」などの曖昧な表現は、後日解釈の余地を生むため避けてください。また、会社都合退職(解雇)のケースについては別途検討が必要です。解雇直前の支給日において在籍要件を理由に不支給とした場合、権利濫用や公序良俗違反として争われるリスクがあります。この点も条文または運用ルールで整理しておくと安心です。

労働者代表への意見聴取・届出・周知

条文案が固まったら、就業規則の変更手続きを進めます。労働基準法第90条は、就業規則を変更する際に過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)の意見を聴取し、意見書を添付して届け出ることを義務付けています。意見書は「同意書」ではなく「意見を聴いた証明」であるため、代表者が反対意見を述べた場合でも届出自体は可能ですが、変更の合理性が後日問われたときに不利になりえます。届出後は、労働基準法第106条に基づき、変更内容・施行日を全社員に周知する義務があります。周知方法については次のセクションで詳しく説明します。

支給日在籍要件の設定に関して「自社の慣行との整合性は大丈夫か」「現在の従業員に説得的に説明できるか」と不安な場合は、一度専門家に見てもらうことで後々のトラブルを防げます。

既存社員への周知方法と反発を防ぐコミュニケーション

規程変更は書類上の手続きだけでなく、社員への丁寧な説明が信頼維持のために不可欠です。特に支給日在籍要件の新設は「退職時に損をする変更」と受け取られやすいため、伝え方に気を配る必要があります。

法律が求める「周知」の方法

労働基準法第106条が定める周知方法は、常時見やすい場所への掲示、書面の交付、電子媒体での閲覧可能な状態の確保などです。「社内ポータルにアップした」「メールで送った」だけでは不十分なケースもあるため、受領確認が取れる方法(署名・押印または既読確認)を組み合わせることをお勧めします。施行日を明確に定め、「この日以降に支給される賞与から適用する」と明示することで、遡及適用のリスクを回避できます。

社員説明会・書面での丁寧な説明

規程変更の内容を全社員に口頭または書面で説明する機会を設けることが、トラブル防止に大きく貢献します。説明のポイントは「なぜ変更するのか(目的・背景)」「何がどう変わるのか(変更前後の対比)」「いつから適用されるのか(施行日)」の3点です。特に、支給日在籍要件の新設は「ルールが不明確だったことを整理するもの」であることを誠実に伝え、隠蔽や一方的な不利益変更という印象を持たせないことが重要です。

変更後の記録管理

周知した記録(説明会の実施記録、書面の配布と受領確認)は必ず保存してください。将来、退職者から賞与請求があった場合に「変更前から在籍していた社員に対しても、施行日前に適切な周知を行った」という証拠として機能します。記録がないと、周知の有効性自体が争点になりえます。

会社都合退職・ハラスメント退職のケースは別途注意が必要

支給日在籍要件を規程化した後も、退職の経緯によっては在籍要件を理由とした不支給が認められないケースがあります。特に会社都合退職の場面では注意が必要です。

会社都合退職(解雇)への適用リスク

会社側の都合で解雇した結果、支給日に在籍できなくなった社員に対して支給日在籍要件を盾に賞与を不支給とした場合、権利濫用や公序良俗違反(民法第90条)として争われる可能性があります。裁判例では、解雇の有効性と賞与支給義務を分けて判断するものもあり、「解雇自体は有効でも、賞与は支払うべき」という結論が出るケースもあります。解雇に際して賞与支給日が近い場合は、必ず事前に弁護士や社労士に相談してください。

ハラスメントや不当な圧力による退職のケース

パワーハラスメントや職場環境の問題が原因で事実上退職を強いられたケース(いわゆる「追い出し部屋」的な状況など)では、表面上「自己都合退職」であっても、退職の意思表示の効力自体が問われることがあります。この場合、支給日在籍要件があっても不支給を正当化できない可能性があります。メンタルヘルス上の問題を抱えた社員が退職に至る場面では、賞与支給の問題と同時に、退職の経緯が適切だったかという別次元の問題も生じうることを念頭に置いてください。

まとめ

支給日在籍要件は、就業規則または賃金規程に明確に定めることで、退職者への不支給を法的に正当化できます。大和銀行事件(最判昭和57年10月7日)を根拠とするこの考え方は実務上の通説ですが、規定がない状態・慣行がある状態・会社都合退職のケースでは例外が生じます。規程化のステップは、現行規定の確認・条文作成・労働者代表への意見聴取と届出・全社員への周知の順に進め、各段階で記録を残すことが重要です。また、不利益変更に該当するかどうかは自社だけで判断するのが難しいケースも多く、人事判断に自信がない場合は専門家のサポートが安心です。

ウェルセンス株式会社では、就業規則の整備・賞与規程の見直しを含む人事労務課題について、専任人事がいない中小企業の実情に合わせたご支援を行っています。「自社の規程が現状に合っているか確認したい」「退職者から賞与請求が来て困っている」という場合は、まずお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 就業規則に賞与条項がない場合、退職者への不支給は認められますか?

A. 規定がない場合、不支給の根拠が弱くなります。過去に退職者へも賞与を支払ってきた実績があれば、それが労使慣行として支払い義務の根拠と判断される可能性があります。規定がない状態で退職者から請求されている場合は、速やかに社会保険労務士または弁護士へ相談することをお勧めします。

Q. 支給日在籍要件を新設することは、必ず不利益変更になりますか?

A. 必ずしも不利益変更になるわけではありません。従来の規定に賞与条件の記載がなく、退職者への支給慣行もなかった場合は、「条件の明確化」として不利益変更に該当しない可能性があります。一方、退職者への支給慣行があった場合は不利益変更と評価されやすいため、労働契約法第10条の手続きを慎重に踏む必要があります。

Q. 会社都合で解雇した社員に対しても、支給日在籍要件を理由に賞与を不支給にできますか?

A. 会社都合退職(解雇)の場合は注意が必要です。解雇によって支給日に在籍できなくなった社員に対して支給日在籍要件を盾に不支給とした場合、権利濫用や公序良俗違反として争われる可能性があります。解雇予定日と賞与支給日が近接している場合は、必ず事前に専門家へ相談してください。

Q. 従業員が10人未満の場合、就業規則の整備は必要ですか?

A. 常時10人未満の事業場には、労働基準法第89条が定める就業規則の作成・届出義務はありません。ただし、賞与の支給条件を就業規則や賃金規程として書面で整備していない場合、退職者から請求されたときに反論の根拠が弱くなります。義務がない規模の会社でも、支給日在籍要件を含む賞与に関するルールは書面で明文化しておくことを強くお勧めします。

Q. 支給日在籍要件を規程に追加した後、すぐにその規定を退職者への不支給に使えますか?

A. 規程変更の施行日以降に到来する支給日から適用されます。施行日前に退職した社員や、施行日前の支給日に係る賞与に遡って適用することは原則できません。また、施行日前に全社員へ適切に周知が完了していることが、規程変更の有効性の前提となります。周知の記録(説明会の議事録、書面の配布・受領確認など)は必ず保存してください。

【監修】ウェルセンス株式会社
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