「うちにはマネジャーができそうな人がいない」——経営者からそんな声を聞くたびに、よく話を掘り下げてみると、実態は少し違うことが多いです。候補になりそうな人はいる。でも、いつ・どうやって育てればいいかわからない。目の前の業務が忙しすぎて、育成に時間を割けない。気づいたら組織が拡大していて、マネジメント人材が慢性的に不足している——そういうケースがほとんどです。採用を加速させているまさに今こそ、マネジメント人材育成の仕組みを整えるタイミングです。この記事では、20〜50名規模の組織が実際に取り組める育成の考え方と手順を、具体的にお伝えします。
なぜ組織拡大期にマネジメント人材が不足するのか
組織拡大期にマネジメント人材が足りなくなるのは、採用スピードが育成スピードを構造的に上回るからです。メンバーが増えるほど管理職の必要数は増えますが、育成には時間がかかるため、常に「マネジャー不足」の状態が続きます。
採用と育成のスピード差という構造問題
たとえば、今10名の組織が1年で20名に拡大するケースを考えてみてください。メンバーが倍になれば、チームの分割やリーダーの配置が必要になります。しかし、マネジャーとして機能できる人材を一から育てるには、最低でも半年から1年はかかります。採用が先行し、育成が後追いになる——この構造が「慢性的なマネジャー不足」を生み出します。
「いつか育てたい」が何年も続く理由
20〜50名規模では、経営者や既存幹部が現場を兼務していることがほとんどです。日々の業務に追われる中で、育成は「重要だが緊急ではないこと」として後回しにされやすい。仕組みがなければ、育成の意思があっても実行されません。「いつか」は、仕組みなしには永遠に来ないのです。
管理職ポストの少なさという現実
20〜50名規模では、マネジャーポストが実質1〜3ポストしかないことも珍しくありません。候補を育成しても、登用できるポストがなければ育成した人材がモチベーションを失い、離職する可能性もあります。育成設計と同時に「育てた後にどのポストに就けるか」という出口設計も必要です。
昇格基準の落とし穴:プレイヤー優秀≠マネジャー適性
マネジメント人材育成でもっとも多い失敗は、「営業成績が高い」「技術力がある」という個人パフォーマンスを根拠にマネジャーへ昇格させることです。プレイヤーとしての優秀さとマネジャーとしての適性は、必要なスキルセットが根本的に異なります。
プレイヤーとマネジャーに求められるスキルの違い
プレイヤーに求められるのは、自分が成果を出す能力です。一方、マネジャーに求められるのは、他者を通じて成果を出す能力です。部下の強みを見極め、仕事を委任し、育成し、チームとして成果を最大化する——これはプレイヤーとして積み上げてきたスキルとは別物です。「できる人」が「育てられる人」になるには、意識と行動様式の転換が必要です。
昇格判断に使える視点
では、誰をマネジャー候補として見ればいいのか。個人の成果だけでなく、以下のような行動特性を観察することが有効です。自発的に周囲をサポートしているか。後輩に仕事を教えることに抵抗がないか。失敗を他責にせず自分で振り返れるか。問題が起きたときに「仕組み」で解決しようとするか。こうした行動は、マネジメント適性の早期サインです。昇格後に気づくのではなく、日常業務の観察から候補者を絞り込む習慣をつけましょう。
「マネジャーとして何ができればOKか」を言語化する
育成の出発点は、マネジャーに求める役割・行動・成果を言語化することです。「部下の目標設定と進捗管理ができる」「週1回の1on1を実施し、メンバーの課題を把握している」「採用面接に同席し、採用判断に関われる」——こうした具体的な行動基準がなければ、育成の進捗を測ることができません。また、候補者本人も「何を学べばよいか」がわからないまま経験だけを積む状態になります。
育成計画の設計:誰を・いつ・どうやって育てるか
マネジメント人材の育成計画は、対象者の選定・育成期間の設定・育成手法の組み合わせという三つの要素を設計することで実行可能になります。「とりあえず研修に送る」では育成は機能しません。
対象者の選定と育成期間の目安
まず、現時点でマネジャー候補となる人材を2〜3名選定します。次に、育成期間の目安を設定します。マネジャーとして一通りの役割を担えるようになるまでには、最低でも12〜18か月を見込むのが現実的です。急いで昇格させれば機能しない。一方で、時間をかけすぎれば組織の成長に間に合わない——このバランスを意識して計画を立てます。
OJT・研修・フィードバックの組み合わせ
育成手法は、OJT(仕事を通じた学習)・OFF-JT(研修・勉強会)・フィードバックの三つを組み合わせることが基本です。研修単体では行動変容につながりにくいことが、多くの現場で確認されています。研修で学んだことを実務で試し、上司やメンターからフィードバックをもらい、自分で振り返る——このサイクルを設計することが重要です。20〜50名規模では、フォロー体制(誰が・いつ・どう支援するか)が設計されていないまま研修だけ実施するケースが多いため、意識して組み込む必要があります。
育成計画の構成要素を整理する
| 要素 | 内容 | 20〜50名規模での注意点 |
|---|---|---|
| 対象者選定 | 行動特性・本人の意志・育成可能性を確認 | 本人のキャリア面談を必ず実施する |
| 役割定義 | マネジャーに求める行動・成果を文書化 | 経営者が直接言語化することが多い |
| 育成期間 | 12〜18か月を目安に段階的に設計 | 採用計画と連動させて逆算する |
| 育成手法 | OJT+研修+フィードバックの組み合わせ | 研修後のフォロー担当者を決めておく |
| 進捗確認 | 月次・四半期での振り返りミーティング | 経営者が関与することで実効性が上がる |
育成途中の離脱を防ぐ:心理的サポートの設計
マネジャー候補や新任管理職は、役割転換のストレスや孤独感から不調になりやすい時期を必ず通ります。育成投資を無駄にしないためにも、心理的なサポートを育成計画に組み込むことが必要です。
役割移行期に起きやすいこと
プレイヤーからマネジャーへの転換は、「自分が成果を出す」から「他者を通じて成果を出す」へのシフトを意味します。この転換期には、自分が担ってきた業務を手放すことへの不安、部下との関係構築のストレス、評価する・される両方の立場に立つことの戸惑いが同時に発生します。こうした状態に無サポートで置かれると、不調や離職につながるリスクがあります。
本人の「心理的準備」を確認するプロセス
育成の大前提として、候補者本人がマネジャー役割を受け入れる準備ができているかを確認することが重要です。経営者側が「この人に任せたい」と思っていても、本人が役割移行への強い不安を抱えていたり、そもそもマネジャーになることを望んでいなかったりするケースは少なくありません。昇格を決める前に、キャリア面談を通じて本人の意向・不安・期待を丁寧に確認し、経営者側の期待を言語化して伝えるプロセスを必ず設けましょう。
安全配慮義務の観点からも見落とせない
労働契約法第5条は、使用者に対して労働者の生命・身体・精神の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を課しています。マネジャー候補・新任管理職に過度な業務負荷をかけることは、この義務違反につながりうると解釈されます。育成期間中の業務量の調整、相談できる窓口の設置、定期的な状態確認など、「育てながら守る」体制を設計しておくことが、法的観点からも必要です。なお、ストレスチェックの実施義務や産業医の選任義務は従業員数50名から発生しますが、50名未満の企業でも自主的な実施は可能ですし、むしろ拡大期こそ取り組む価値があります。
経営者自身がボトルネックにならないために
20〜50名規模の組織でマネジメント人材育成が進まない背景には、経営者自身の「まだ任せられない」という心理的バリアが大きく影響しています。育成を機能させるには、経営者が意識的に権限を委ねるプロセスを設計する必要があります。
「自分がやった方が早い」の先にあるもの
経営者が現場に入り込んでいると、候補者が判断・実行する機会を奪ってしまいます。育成とは、失敗を含む経験を積ませることです。「うまくできないかもしれない」という不安を抱えながらも、判断の機会を渡し続けることが、マネジャーとしての能力形成につながります。経営者が手を離せないまま候補者に「マネジャーとして育ってほしい」と思っていても、それは成立しません。
段階的な権限委譲の設計
権限委譲は、いきなり全部任せるのではなく、段階的に行うことが現実的です。まず候補者が「提案する」フェーズから始め、次に「実行し、報告する」フェーズへ、そして「判断し、結果に責任を持つ」フェーズへと移行します。各フェーズで何を任せるかを明示し、定期的な振り返りを行うことで、経営者も候補者も安心して移行できます。
活用できる公的支援制度
育成の仕組みを整える際には、厚生労働省の「人材開発支援助成金」を活用できる場合があります。この助成金は、OJTや計画的なOFF-JTを実施する事業主が対象で、育成計画書や評価票の整備が要件となります。申請の過程で育成の仕組み化が促されるため、助成金目的でなくても仕組みづくりのきっかけとして活用する価値があります。詳細は最寄りのハローワークや都道府県労働局に確認してください。
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管理職の法的位置づけを整理しておく
組織拡大期に「管理職」を増やしていくプロセスで、労務リスクを見落としがちです。特に「管理監督者」の定義をめぐるトラブルは、拡大期の中小企業に多く発生します。
「マネジャー」と「管理監督者」は別物
労働基準法第41条第2号が定める「管理監督者」は、時間外・休日労働の割増賃金規定の適用が除外される労働者のことです。ただし、名称が「マネジャー」「課長」「部長」であっても、それだけでは管理監督者とは認められません。経営者と一体的な立場にあること、出退勤の自由があること、その地位にふさわしい待遇を受けていることが実態として必要です。形式だけ管理職にして残業代を払わない運用は、未払い賃金リスクを生み出します。
昇格と同時に労務設計も見直す
マネジャーへ昇格させる際には、職務内容・権限・賃金設計を同時に見直すことが重要です。責任だけが増えて賃金が実態に見合わなければ、本人のモチベーション低下や離職につながります。また、就業規則に管理職の定義・待遇・労働時間管理の方法が明記されているかを確認し、必要であれば昇格前に整備しておきましょう。
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まとめ
組織拡大期のマネジメント人材育成は、「誰かをそのうちマネジャーにする」という曖昧な意図ではなく、対象者の選定・役割定義・育成計画・心理的サポート・権限委譲設計という一連の仕組みとして整えることが不可欠です。プレイヤー優秀な人材をそのまま昇格させる失敗、研修だけで終わる育成、育成途中での離脱——こうした問題の多くは、仕組みの不在から生まれます。
また、マネジャー育成は単なるスキル開発ではなく、メンタルヘルスや労務管理とも密接に関わります。育成の途中で候補者が不調になったとき、あるいは昇格後に機能しないマネジャーが生まれたとき、その影響は組織全体に及びます。
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よくある質問
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