給与据え置きの伝え方|納得を生む3ステップ面談術

給与据え置きの伝え方|納得を生む3ステップ面談術 採用・定着
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「今年は昇給なしにせざるを得ない。でも、どう伝えればいいかわからない」——人事専任者のいない会社の経営者・兼務担当者ほど、この場面で立ち往生しやすいものです。理由は頭の中にある。でも言葉にならない。面談の時間も取れない。そして「噂が先に広まったらどうしよう」という焦りもある。この記事では、給与据え置きを社員に伝える際の面談設計を3つのステップに整理し、納得を引き出すための具体的な進め方をお伝えします。

「伝え方」が離職率を左右する理由

給与据え置きそのものより、「伝え方」への不満が退職の引き金になるケースが少なくありません。根拠なく通知された社員は「評価されていない」と感じ、会社への信頼を失います。

情報の非対称が不信感を生む

経営者は業績の実態・資金繰り・市場環境をリアルタイムで把握しています。一方、現場の社員が持つ情報量はその一部に過ぎません。「言わなくてもわかってくれるはず」という前提は、中小企業ほど危険な思い込みです。社員は手元の情報だけで判断せざるを得ないため、説明がなければ「自分が低く評価されているのでは」という解釈に流れやすくなります。

噂が先行すると取り返しがつかない

昇給時期が近づくにつれて、社員間では自然と情報交換が始まります。「今年はどうなるんだろう」という不安が噂として広まり、公式発表より先に不正確な情報が出回ると、その後にどれだけ丁寧に説明しても「後付けの言い訳」に聞こえてしまいます。公式な説明は、噂より先に届けることが原則です。

「説明した会社」と「説明しなかった会社」の差

根拠を示した上で据え置きを伝えた場合、社員は「状況はわかった。ならば次に何ができるか」という前向きな思考に移行しやすくなります。逆に説明がない場合、不満はくすぶり続け、優秀な人材ほど「この会社に居続けてよいのか」と自問するようになります。伝え方のコストは、採用・育成コストより圧倒的に安いのです。

通知前に必ず確認すべき就業規則の文言

給与据え置きを社員に伝える前に、就業規則と雇用契約書の昇給条項を確認することが最優先です。文言によっては「据え置き」が法的に問題になる可能性があります。

「義務的規定」と「裁量的規定」の違い

就業規則の昇給条項には大きく2種類あります。「毎年4月に昇給を行う」のような義務的規定がある場合、据え置きは労働契約法第9条・第10条が定める「労働条件の不利益変更」に該当する可能性があります。一方、「業績・評価に応じて昇給を行うことがある」「昇給は査定による」といった裁量的規定であれば、据え置き自体は違法ではありません。まず自社の就業規則を開いて、昇給条項の文言を確認してください

慣行にも法的効力が生じる場合がある

「就業規則には義務的な文言はないが、毎年必ず昇給してきた」という会社も注意が必要です。労働慣行として繰り返された行為は、労使トラブルの場面で「黙示の合意」と判断される余地があります(この点については複数の裁判例が存在します)。「今まで上げてきたから問題ないだろう」と判断する前に、社会保険労務士へ相談することを強くお勧めします。

「据え置き」と「減額」は法的に別物

念のため確認しておくと、現在の給与水準を維持したまま昇給しないこと(据え置き)と、現在の給与を引き下げること(減額)は法的に全く異なります。労働基準法第24条は既に確定した賃金の一方的減額を禁止していますが、据え置きはこれには当たりません。ただし、前述の不利益変更の論点とは切り離して理解しておく必要があります。

タイミング設計——いつ・誰から・どの順で伝えるか

給与据え置きの通知は、昇給発令月(多くは4月)の1〜2か月前に方針を固め、管理職への先行共有から始めて順に展開するのが実務上の基本です。

管理職への先行共有が信頼の土台になる

現場のマネージャーや管理職が「自分も知らなかった」という状態で社員に伝えることは避けなければなりません。部下から「今年どうなるんですか」と聞かれたときに答えられない管理職は、信頼を失います。全体への説明より1〜2週間先行して管理職に情報を共有し、想定される質問への回答方針もあわせてすり合わせておきましょう。

全体への方針説明と個別面談の順番

推奨する展開の順序は以下のとおりです。

フェーズ 対象 実施時期の目安 主な目的
管理職への先行共有 マネージャー・管理職 発令月の2か月前 現場対応の準備・質問への備え
全体への方針説明 全社員 発令月の1〜1.5か月前 根拠の明示・噂の先行防止
個別面談の実施 希望者または全員 全体説明から2週間以内 個人の不安・疑問の解消

専任人事がいない場合の現実的な運用

全員との個別面談を短期間で実施するのが難しい場合は、「希望者のみ個別面談を受け付ける」という方法も有効です。ただし、その場合でも全体説明の場で「個別に話したい方は申し出てください」と明示することが重要です。声を上げにくい社員が不満を抱えたまま沈黙するリスクを軽減するために、上長経由での申し込みルートも用意しておきましょう。

納得を生む面談の3つのステップ

個別面談で社員の納得を引き出すには、「理由を説明する」だけでなく、「相手の声を聞く」「次の展望を示す」という3つの段階を順に踏むことが重要です。

まず聞く——社員の状況と気持ちを受け取る

面談の冒頭は、説明ではなく傾聴から始めます。「最近業務で大変なことはありますか」「自分の仕事について、気になっていることはありますか」といった問いかけで始めると、社員は「話を聞いてもらえる場だ」と感じます。給与の話をすぐに切り出すと、「通告しに来た」という印象を与えてしまいます。最初の5〜10分を傾聴に使うことで、その後の説明が受け入れられやすくなります。

次に説明する——根拠を3つの軸で整理する

給与据え置きの理由は、以下の3つの軸で整理すると社員に伝わりやすくなります。まず「事業環境の変化」として、原材料費の高騰・市場の変動・競合環境の変化など外部要因を示します。次に「財務的根拠」として、「人件費以外に優先すべき設備投資やリスク積立がある」という判断の背景を説明します(詳細な数値の開示範囲は経営判断で構いません)。最後に「将来の展望」として、「来期以降に向けてこういった取り組みを進めている」という方向性を示します。この3点セットで説明すると、「なんとなく厳しいから」という印象を与えずに済みます。

最後に前を向く——個人への期待と今後の評価方針を伝える

面談の締めくくりは、会社全体の話から個人の話に戻します。「あなたのこういった仕事ぶりは評価している」「来期はこういった取り組みをしてほしい」という個人への期待を具体的に伝えることで、社員は「据え置きは自分への評価ではなく、会社全体の状況によるものだ」と理解しやすくなります。「来年は必ず上げる」という約束は避けながらも、「業績が改善した際には真っ先に反映する意向がある」というメッセージは伝えられます。

「頑張っている社員」と一律据え置きの不公平感をどう扱うか

全員一律の据え置きは運用は楽ですが、貢献度の高い社員ほど「なぜ自分も同じ扱いなのか」と感じやすく、優秀な人材の離職リスクを高めます。

一律据え置きが生むリスクを直視する

評価制度が整っていない段階では、一律据え置きを選ぶ経営者が多いのは事実です。しかし、成果を出している社員と出していない社員を同じ扱いにすることは、「頑張っても報われない」というメッセージとして受け取られます。特に20〜50名規模の成長段階にある会社では、少数のキープレイヤーの離職が事業に直接影響するため、この点は軽視できません。

制度がなくても「差」を示す方法はある

昇給制度が整っていない場合でも、「特定のプロジェクトへのアサイン」「役割称号の付与」「研修・育成機会の優先的提供」といった非金銭的な形で貢献への評価を示すことは可能です。面談の場でこうした個別の期待や機会を伝えることで、給与の据え置きをモチベーション低下の引き金にしないための緩衝材になります。

評価の仕組みを「今期から整備する」と宣言する

「今年は一律据え置きだが、来年度は貢献度を反映できる評価の仕組みを整える」と明言することも、有効な対応のひとつです。評価制度の整備をコミットメントとして示すことで、「今は仕方ないが、次は公正に評価される」という期待を持たせることができます。約束した以上は実行が求められますが、この宣言自体が面談の場の信頼感を高めます。

「来年はどうなりますか」と聞かれたときの答え方

先行きが不透明な中で「来年は必ず上げます」とは言えないが、「わかりません」だけでは社員の不安を煽ります。誠実さと方向性のバランスを取った答え方が必要です。

「条件付きの意思」を伝える表現を使う

「現時点では確約できないが、〇〇という条件が整えば昇給を検討する」という条件付きの意思表示は、約束とも放棄とも異なる、誠実な伝え方です。たとえば「売上が今期比で10%改善した場合には、来年度の昇給を最優先で検討する方針です」のような表現は、社員に判断の根拠を示しつつ、過度な期待を生まない伝え方になります。

「いつ・何を基に判断するか」の時間軸を示す

「わからない」という回答が不安を生む理由のひとつは、判断のタイミングが見えないことです。「第3四半期の決算を踏まえて、来年1月頃に来年度の方針を改めてお伝えする」のように、次に情報が届くタイミングを示すだけで、社員の不安はかなり軽減されます。経営の透明性を高めるという意味でも、判断時期のスケジュールを共有することは有効です。

まとめ

給与据え置きの伝え方は、「何を言うか」と同じくらい「いつ・誰から・どの順で」が重要です。就業規則の確認を最初に行い、管理職への先行共有、全体説明、個別面談という順番で展開する。面談では傾聴・根拠説明・個人への期待という3段階を意識する。一律据え置きの不公平感には、非金銭的な対応と評価制度整備の宣言で対処する。そして将来の質問には、条件付きの意思と次の判断タイミングをセットで伝える。これらのポイントを押さえた伝え方は、社員の不安を取り除き、会社への信頼を維持するための実質的な投資になります。

よくある質問

Q. 給与据え置きを伝えるベストなタイミングはいつですか?

A. 昇給発令月(多くは4月)の1〜2か月前が実務上の目安です。まず管理職に先行共有し、そこから1〜2週間後に全体説明を行い、その後に個別面談という流れが基本です。噂が先行する状況を防ぐために、社員が不安を感じ始める前に公式な説明を届けることが重要です。

Q. 就業規則に「毎年4月に昇給を行う」と書いてある場合、据え置きはできないのですか?

A. 義務的に昇給を行うと読める文言がある場合、据え置きは労働契約法第9条・第10条の「不利益変更」に該当する可能性があります。ただし、変更が合理的で社員への説明・協議が適切に行われていれば認められる場合もあります。文言の判断は専門家によって異なるため、社会保険労務士への確認を通知前に必ず行ってください。

Q. 個別面談で「来年は上がりますか」と聞かれた場合、どう答えればよいですか?

A. 「確約はできないが、〇〇という条件が整えば最優先で検討する」という条件付きの意思表示が有効です。加えて「来年1月頃に来年度の方針を改めてお伝えする予定です」のように次の判断タイミングを示すと、社員の不安を和らげることができます。根拠のない約束は後のトラブルになるため避けてください。

Q. 全員一律で据え置く場合、特に頑張っている社員へのフォローはどうすればよいですか?

A. 昇給以外の形で貢献を評価することが有効です。重要プロジェクトへの優先的なアサイン、役割の拡大、研修機会の提供などが代表的な方法です。また、「来年度は貢献度を反映できる評価の仕組みを整備する」と面談の場で明言し、今後の公正な評価への道筋を示すことも、優秀な社員のモチベーション維持に効果的です。

Q. 専任人事がいない会社でも、全社員との個別面談を実施できますか?

A. 全員との個別面談が難しい場合は「希望者対象の個別面談」を設けることが現実的な選択肢です。その際、全体説明の場で「個別に話したい方は申し出てください」と明示し、上長経由でも申し込めるルートを用意しておきましょう。声を上げにくい社員を取りこぼさない仕組みを、制度の代わりに設計することが重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
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