部門間の調整役に疲れたら読む仕組み化の話

部門間の調整役に疲れたら読む仕組み化の話 組織運営
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「また呼ばれた」——会議室に向かいながら、そう思ったことはないでしょうか。営業部門と開発部門が同じエンジニアを取り合い、どちらも引かない。結局、経営者が出ていって「今月はこっちを優先」と裁定を下す。翌月、また同じことが起きる。このループに疲れ果てている経営者・兼務人事担当者は、決して少なくありません。問題は「あなたの調整が下手」なのではなく、調整を支える仕組みがないことにあります。この記事では、経営者が毎回仲裁に入らなくても済む、部門間リソース配分の仕組み化について実務的な視点でお伝えします。

なぜ経営者は調整役から抜け出せないのか

経営者が部門間調整に引き出される構造は、個人の能力や努力とは無関係です。「判断基準がない」「エスカレーションが得をする」という二つの組織的欠陥が原因です。

判断基準が存在しない状態の怖さ

リソース競合が起きたとき、「どちらを優先すべきか」の共通基準が組織内に存在しなければ、誰も決められません。その結果、決断できる人、つまり経営者のところへ話が上がってきます。「声が大きい部門長が勝つ」「社歴が長い人の要求が通る」という暗黙ルールが定着している場合、それは基準がないことの代替メカニズムです。不公平感が慢性化し、現場のモチベーションは徐々に削られていきます。

「経営者に言えば通る」という学習の蓄積

エスカレーション(上位者への問題の引き上げ)が一度成功すると、それは行動パターンとして定着します。部門長が「まず自分たちで話し合う」より先に「社長に相談する」を選ぶようになるのは、合理的な学習の結果です。この文化が根付くと、部門長自身の調整能力が育たず、組織が大きくなるほど経営者への依存度が増していきます。

調整コストが人間関係コストと連動する問題

経営者が仲裁に入るたびに「えこひいきだ」「あの部門の肩を持った」という不満が生まれます。判断のたびに誰かが傷つく。これは仕組みの問題を人間関係の問題に転化してしまっている状態です。仲裁コストが人間関係の摩耗に直結している限り、経営者は「調整したくない→放置→悪化」か「調整する→不満が出る」の二択を繰り返すことになります。

リソース競合の最終的なしわ寄せは現場の個人に届く

部門間の争いに見えていた問題が、最終的には特定の従業員の過重労働・メンタル不調・離職として表面化します。これは経営リスクとして明確に認識する必要があります。

「部門間の争い」という見え方が現場の苦しさを隠す

リソース配分が不適切なまま放置されると、実際にしわ寄せを受けるのは現場の特定メンバーです。「両部門から仕事を振られているが断れない」「どちらの締め切りも守らなければならない」という状況に追い込まれた従業員は、長時間労働・ストレス過多の状態に陥ります。しかし経営者からは「部門長同士の問題」として見えているため、個人への影響が見えにくくなります。

安全配慮義務と過重労働リスク

労働契約法第5条は、使用者に対して労働者の生命・身体の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を課しています。リソース競合の結果として特定の従業員に業務が集中し、長時間労働・過重業務となった場合、会社は安全配慮義務違反を問われるリスクがあります。また、時間外労働が増加する場合には、労働基準法に基づく36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)の締結・届出が必要であり、月45時間・年360時間などの上限規制も遵守しなければなりません。「部門間の話し合いがうまくいっていないだけ」と放置することは、法的リスクを積み上げることでもあります。

ストレスチェックを早期発見のツールとして活用する

常時50名以上の事業場ではストレスチェック制度(労働安全衛生法第66条の10)が義務ですが、50名未満の事業場でも努力義務とされています。リソース過多によるストレス蓄積は、ストレスチェックの高ストレス者として早期に発見できる可能性があります。仕組みがまだ整っていない段階でも、ストレスチェックを導入することで「どの部門・誰に負荷が集中しているか」を把握する手がかりになります。

仕組み化の前に理解しておくべき「任せる」の落とし穴

「部門長に任せれば解決する」という考え方は、前提を間違えています。任せる前に「任せられる構造」を設計しなければ、問題は経営者のもとに戻ってくるだけです。

共通言語・判断基準・場の三つが揃わないと機能しない

部門長同士が自律的に調整できるようになるためには、三つの要素が必要です。まず、調整の際に使う共通言語(たとえば「優先度」「緊急度」「事業インパクト」といった概念)。次に、誰が見ても同じ判断ができる明文化された基準。そして、部門長が話し合う定期的な場です。この三つがなければ、「任せた」は「放棄した」と同義になります。

個人問題への帰属が仕組み設計を阻む

「あの部門長が強引なだけ」「二人が仲悪いだけ」として個人の問題に落とし込むと、仕組みの設計に着手できなくなります。実際には、全社的なリソース可視化と優先順位の合意形成プロセスの不在が根本原因であることが大半です。人間関係の改善を待っている間にも、組織の負荷は積み上がり続けます。

経営者を介さないリソース調整プロセスの作り方

仕組み化のゴールは「経営者が呼ばれなくても、部門長たちが自分たちでリソースを調整できる状態」です。そのためには、可視化・基準化・場の設計という順序で進めることが重要です。

リソースの可視化から始める

まず着手すべきは、今どのメンバーに、どの部門から、どれだけの業務が割り当てられているかを一覧で見られる状態を作ることです。スプレッドシート一枚でも構いません。「誰が空いているか」ではなく「誰にどれだけかかっているか」を全部門長が共通して把握できることが出発点です。20〜50名規模であれば、高価なツールは不要です。

優先順位の判断基準を明文化する

次に、リソース競合が起きたときに「どちらを優先するか」を決める基準を言語化します。以下は、中小企業で使いやすい基準の例です。

判断軸 具体的な問い
事業への直接インパクト この業務が遅れると、売上・顧客・契約にどう影響するか?
期限の拘束度 外部(顧客・法令)から定められた締め切りがあるか?
代替可能性 この人でなければできない業務か、他のメンバーで対応可能か?
負荷の現状 当該メンバーの今月の時間外労働はどの程度か?

この基準表を部門長全員が持ち、競合が起きたときに「この軸で考えると、今回はこちらが優先」と話し合える状態を作ります。基準は完璧でなくていい。「みんなで合意した基準がある」という事実が、調整の正統性を生み出します。

部門長が話し合う定例の場を設計する

月に一度、部門長が集まってリソースの過不足を話し合う場を設けます。このとき重要なのは、経営者がファシリテーターとしてではなく、オブザーバーとして参加することです。経営者が「決める役」として存在する限り、部門長はその判断を待ちます。「部門長たちが決める場」として設計し、経営者は必要なときだけ声をかけられる存在に役割を変えていきます。最初の数回は軌道修正が必要になりますが、それは仕組みの改善であり、失敗ではありません。

20〜50名規模ならではの制約と現実的な対処法

大企業向けの人事制度の教科書をそのまま適用しても機能しません。専任人事がいない、動かせる人員が少ない、という制約を前提に設計することが必要です。

専任人事がいない環境でも動かせる軽量な設計

専任人事が存在しない場合、仕組みの設計・運用を経営者や総務兼務者が担うことになります。そのため、維持コストの低さが最優先です。複雑なルールブックや多段階の承認フローは、作った瞬間から形骸化するリスクがあります。「一枚の優先順位基準表」と「月一回の部門長会議」という最小構成から始め、問題が出たら追加するという順序が現実的です。

人員数が少ないからこそ「融通」より「透明性」を優先する

30〜50名規模では、「あの部門から誰かを借りる」といっても実際に動かせる人が限られます。「今月だけお願い」が常態化すると、特定のメンバーへの負荷集中が固定化します。柔軟な融通よりも、「誰にどれだけかかっているかを全員が見える状態」を優先することが、長期的な健全さを保ちます。また、他部門の業務を継続的に担わせる場合には、労働契約や就業規則との整合性、当該従業員の同意と処遇の見直しが必要になることがある点にも留意してください。

就業規則・業務分掌の整備が仕組みの土台になる

リソース調整プロセスを設計する際、就業規則や職務分掌が整備されていると判断基準が立てやすくなります。「誰がどの業務の責任者か」が明確でない状態では、調整の話し合い自体が迷走します。まだ整備できていない場合は、簡単な「業務責任一覧」を部門ごとに作るだけでも、話し合いの質が変わります。

まとめ

部門間のリソース競合で経営者が毎回引き出される構造は、判断基準の不在とエスカレーションの習慣化という組織的な問題から生まれています。解決の鍵は「精神論」でも「コミュニケーション強化」でもなく、可視化・基準化・場の設計という具体的な仕組み化です。そして、リソース配分の問題を放置することは、特定メンバーへの過重労働・メンタル不調・安全配慮義務違反というリスクに直結します。20〜50名規模の組織では、複雑な制度より「一枚の基準表と月一回の場」という軽量な設計から始めることが現実的です。

「仕組みの設計をしたいが、何から手をつければいいのか」という迷いや不安は、多くの兼務人事担当者が抱えています。ウェルセンス株式会社では、御社の具体的なシチュエーションを踏まえた相談に応じています。まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 部門長同士の話し合いの場を作っても、結局「決まらない」で終わりそうで不安です。どうすれば機能しますか?

A. 「決まらない」が起きるのは、判断基準がないまま話し合いだけを設けているからです。まず「優先順位を決める基準(事業インパクト・期限の拘束度・代替可能性・負荷の現状など)」を明文化し、それを使って話し合う形にしてください。基準があれば「感情の押し合い」ではなく「基準に照らした確認」になり、結論が出やすくなります。最初の数回は経営者がファシリテーターとして入り、使い方を示すと定着が早まります。

Q. リソース調整の仕組みを作るにあたって、就業規則の変更は必ず必要ですか?

A. 部門間の調整ルールや優先順位基準の策定自体は、必ずしも就業規則の変更を要するものではありません。ただし、他部門の業務を継続的に担わせる人員配置を恒常化する場合や、業務内容・勤務条件が変わる場合には、労働契約や就業規則との整合を確認する必要があります。まずは運用レベルのルール整備から始め、恒常的な変更が生じる場合には社労士などの専門家に確認することをお勧めします。

Q. 従業員が30名を超えてから部門間の争いが増えた気がします。なぜこのタイミングで起きやすいのですか?

A. 10〜20名規模では経営者の目が全員に届き、「社長の鶴の一声」で動かせます。ところが30名を超えると部門が分化し、経営者が全員の業務量をリアルタイムで把握することが難しくなります。以前と同じ「声がけで調整」という方法が機能しなくなり、仕組みの必要性が顕在化するのがこの規模感です。成長の証でもありますが、意図的に仕組みをリデザインするタイミングです。

Q. 特定のメンバーに業務が集中しています。まず何をすべきですか?

A. 最初に行うべきは、そのメンバーの現在の時間外労働時間と業務量の把握です。労働基準法に基づく36協定の上限規制(原則月45時間・年360時間)を超えていないか確認してください。超えている、または近づいている場合は、仕組みの設計より先に当該メンバーの業務を即時に減らすことが優先です。その後、なぜ集中が起きたかをリソース配分プロセスの観点から分析し、再発防止の仕組みを設計します。メンタル不調のサインが見られる場合は、産業医や外部相談窓口への早期つなぎも検討してください。

Q. 専任人事がおらず、自分が兼務で対応しています。仕組み設計にどれくらいの工数がかかりますか?

A. 最小構成であれば、設計フェーズの工数は大きくありません。リソース可視化のスプレッドシートを作るのに数時間、優先順位基準の草案を作って部門長に確認するのに半日〜1日程度が目安です。ただし、部門長への説明・合意形成、最初の数回の会議のファシリテーションには継続的な関わりが必要です。「完璧な仕組みを一度で作る」より、「小さく始めて改善する」アプローチの方が兼務環境には合っています。設計の方向性に迷う場合は、外部の専門家への相談も有効な選択肢です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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