報道機関へのリークは公益通報?会社が知るべき3つの判断基準

報道機関へのリークは公益通報?会社が知るべき3つの判断基準 コンプライアンス
Photo by Vitaly Gariev on Pexels

「うちの社員が記者に話していたらしい」——そんな事実が発覚したとき、経営者や人事担当者が最初に感じるのは、怒りと焦りと、そして「何もできないかもしれない」という不安の入り混じった感覚ではないでしょうか。報道機関へのリークは、一見すると明らかな情報漏洩に思えます。しかし公益通報者保護法の観点からは、「保護される通報」と「保護されない通報」の間に明確な線引きがあります。会社として動ける範囲と動けない範囲を正確に把握することが、初動の失敗を防ぐ第一歩です。この記事では、経営者・兼務人事担当者が知っておくべき3つの判断基準をわかりやすく整理します。

報道機関へのリークと公益通報者保護法——「第3号通報」の保護要件とは

報道機関へのリークは、公益通報者保護法上の「第3号通報」に分類されます。保護される可能性はありますが、その要件は社内通報と比べてはるかに厳格です。

公益通報の3類型と保護要件の違い

公益通報者保護法(2022年改正)は、通報先によって保護要件の厳しさが異なります。社内窓口や上司への通報(第1号)は要件が最も緩やかで、「通報対象事実を信じるに足りる相当の理由」があれば保護されます。行政機関への通報(第2号)は真実相当性が必要。そして報道機関・労働組合・消費者団体などへの外部通報(第3号)は、複数の要件をすべて満たすことが求められる、最も厳格な類型です。

通報先の類型 主な通報先 保護要件の厳しさ
第1号通報 社内窓口・上司 最も緩やか
第2号通報 監督官庁・警察 中程度
第3号通報 報道機関・労働組合等 最も厳格(複数要件の同時充足が必要)

報道機関への通報が保護される4つの実質要件

公益通報者保護法第3条第3号は、報道機関へのリークが保護されるために、以下のいずれかの事情が必要であると定めています。

  • 通報内容が真実であると信じるに足りる相当の理由がある(真実相当性)
  • 社内に通報すれば証拠が隠滅・改ざんされるおそれがある
  • 社内に通報すれば解雇等の不利益取扱いを受けるおそれがある
  • 過去に社内通報したが対応されなかった経緯がある、または対応が期待できない正当な理由がある

これらに加え、「書面による通報」という形式要件も課されています。口頭での記者への発言、SNSへの投稿、匿名の情報提供などは、原則としてこの要件を満たしません。つまり、カフェで記者と会って話した、メッセージアプリで情報を送った、といった行為は、それだけで保護の対象外となる可能性が高いのです。

保護される「通報対象事実」にも制限がある

もうひとつ見落とされがちな点が、保護される通報には「対象事実」の制限があることです。法律が保護するのは、個人情報保護法・労働基準法・食品衛生法・金融商品取引法・不正競争防止法など、別表に列挙された特定の法令違反に関わる事実に限られます。「会社の雰囲気が悪い」「給与が低すぎる」「社長の態度がひどい」といった主観的な不満や評判に関する情報は、法律上の「通報対象事実」に当たらない可能性が高く、保護の対象にならないケースがほとんどです。

リーク発覚時に会社が確認すべき3つの判断基準

社員のリークが発覚したとき、会社が最初にすべきことは感情的な対応ではなく、「このリークは法律上保護されるのか」を冷静に見極めることです。そのための判断基準が3つあります。

リークされた情報の内容を確認する

まず確認すべきは、リークされた情報が「通報対象事実」に当たるかどうかです。具体的には、労働基準法違反(未払い残業・違法な労働時間管理)、個人情報保護法違反、ハラスメントに関連する刑事罰の対象行為(暴行・脅迫)などが含まれていないかを確認します。もし法令違反の実態が伴っている場合、会社は通報者への対応と問題の是正を同時並行で進めなければならないという、非常に難しい局面に立たされます。この段階で専門家(社会保険労務士・弁護士)に相談することが強く推奨されます。

通報の形式・経緯を確認する

次に、リークが「書面による通報」かどうかを確認します。口頭での会話や非公式なメッセージのやり取りは、法律上の保護要件を満たさない場合があります。また、社内に通報窓口があったかどうか、社員がそれを利用しようとした形跡があるかどうかも重要です。内部通報を試みたが無視された、あるいは窓口そのものが存在しなかったという事情があれば、「社内対応が期待できない」という要件を社員側が主張する根拠になります。自社の内部通報体制の有無と機能状況を、この機会に改めて確認してください。

社員がリークに至った背景を把握する

保護要件の充足を判断する上で、「なぜ外部に行ったのか」という背景の把握は欠かせません。社員が証拠隠滅を恐れていた、過去に社内通報して握りつぶされた経験がある、不利益取扱いを受けることを確信していた——こうした事情があれば、第3号通報の保護要件を満たす可能性が高まります。逆に、明確な法令違反とは関係のない個人的な不満や報復目的でのリークであれば、保護は及びにくくなります。事実確認の際は、本人から直接話を聞く機会を設けることも検討してください(ただし後述の不利益取扱い禁止に注意が必要です)。

判断に迷ったら、状況の整理と法的アドバイスが何より重要です。リークの内容・形式・背景を客観的に記録した上で、専門家に相談することが、会社と社員双方の関係を守る第一歩です。

会社ができること・できないことの限界線

リークが発覚した後、会社として何ができて何ができないのか——ここを誤ると、逆に会社が法的リスクを負う事態になります。

保護される通報者への不利益取扱いは禁止される

公益通報者保護法は、保護要件を満たす通報を行った労働者に対し、解雇・降格・減給・不当な配置転換・退職強要などの不利益取扱いを明示的に禁止しています(同法第3条・第5条)。2022年改正では、事業者の体制整備義務も強化されており、従業員300人超の企業は内部公益通報対応体制の整備が義務化されました(300人以下は努力義務)。もし保護される通報に対して懲戒処分を行った場合、その処分は無効となるだけでなく、損害賠償請求のリスクも生じます。

懲戒処分・損害賠償請求が認められる場合

一方で、リークが保護要件を満たさない場合、会社は就業規則・秘密保持義務・誠実義務違反として懲戒処分を検討できます。また、リークによって生じた具体的な損害(取引先との契約破棄・売上減少・信用毀損)については、損害賠償請求の余地があります。ただし、これらを実行する前には必ず弁護士に相談することが不可欠です。「保護されないと思っていたら実は保護されていた」というケースは少なくなく、会社側が違法な対応をしたと認定されれば、問題は大きく複雑化します。

在籍社員との関係継続に関する注意点

報道後も社員が在籍し続けるケースでは、業務上のやり取りや配置変更の判断が難しくなります。不利益取扱い禁止の縛りがある以上、「リークしたから部署を異動させる」「担当業務を外す」といった対応は、不当な報復と見なされるリスクがあります。業務上の必要性がある場合の配置変更は許容されることもありますが、タイミング・理由・本人への説明のいずれかに問題があると、不利益取扱いと認定される可能性があります。この点は専門家のアドバイスを得ながら慎重に判断することが重要です。

内部通報体制の不備が「外部リーク」を招く理由

今回のような事態が起きる背景には、多くの場合、社内の通報・相談窓口の不備があります。体制を整えることが、再発防止と法的リスクの低減につながります。

内部通報窓口がない会社が直面するリスク

2022年の改正公益通報者保護法により、従業員300人超の事業者は内部公益通報対応体制の整備が義務となりました。300人以下の中小企業は努力義務にとどまりますが、窓口が存在しないことは「社内対応が期待できない」という第3号通報の要件を社員側に与えてしまいます。つまり、内部通報体制を整えることは、単なる法令遵守ではなく、外部リークの法的保護が成立するリスクを下げるための実務的な防衛策でもあります。

専任人事のいない企業でも取り組める体制整備

専任人事のいない中小企業でも、まず取り組めることはあります。就業規則に内部通報に関する条項を設ける、相談窓口として外部の社会保険労務士や弁護士を活用する、社員に対して「まず社内に相談できる環境がある」と周知する——こうした最低限の体制があるだけで、外部リークへのハードルは高まります。完璧な体制を一気に構築しようとする必要はありません。現状の課題を整理するところから始めることが、現実的なアプローチです。

まとめ

社員が報道機関にリークした場合、それが公益通報者保護法上の「第3号通報」として保護されるかどうかは、通報内容が法令違反に関わるものかどうか、書面による通報かどうか、社内通報体制が機能していたかどうかなど、複数の要件によって判断されます。保護要件を満たす場合、会社は懲戒処分・解雇・損害賠償請求を行うことができず、逆に違法な対応をとれば会社側が法的リスクを負う可能性があります。一方で、保護要件を満たさないリークに対しては、適切な手続きを踏めば会社として対応する余地があります。いずれの場合も、感情的な初動は禁物です。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・人事担当者からの「何から始めればいいかわからない」というご相談を数多くお受けしています。社員と会社の両方にとって適切な対応を考えるため、まずは状況をお聞かせください。

よくある質問

Q. 社員が口頭で記者に話しただけでも公益通報者保護法は適用されますか?

A. 原則として適用されません。報道機関への通報(第3号通報)が保護されるには「書面による通報」という形式要件が必要です。口頭での会話やメッセージアプリでのやり取りは、この要件を満たさないとされる可能性が高いため、法律上の保護が及ばないケースがほとんどです。ただし、具体的な状況によって判断が異なる場合もあるため、専門家への相談をお勧めします。

Q. リークした社員を即日解雇することはできますか?

A. リークが公益通報者保護法の保護要件を満たす場合、解雇は法律上禁止されており、無効となります。また保護要件を満たさない場合でも、解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です(労働契約法第16条)。感情的な即日解雇は、不当解雇として会社が逆に訴えられるリスクを生じさせます。必ず弁護士に相談した上で対応方針を決めてください。

Q. 社員が「パワハラがひどい」と記者に話した場合も保護されますか?

A. パワハラの内容によります。暴行・脅迫など刑事罰の対象となる行為が含まれていれば「通報対象事実」に該当し得ますが、主観的な不満や職場環境に関する訴えだけでは対象とならない可能性があります。また、書面通報・真実相当性・社内通報体制の有無など、他の要件も同時に満たす必要があります。パワハラ事案は判断が難しいため、専門家への確認が不可欠です。

Q. 従業員数が30名の会社でも内部通報体制の整備は必要ですか?

A. 従業員300人以下の企業は努力義務にとどまりますが、体制整備は強く推奨されます。内部通報窓口がない場合、社員が「社内では解決できない」と判断して直接外部(報道機関・行政)に通報する法的根拠を与えてしまいます。就業規則への条項追加や、外部の社会保険労務士・弁護士を窓口として活用するだけでも、リスクを大きく下げることができます。

Q. リーク後も在籍している社員の配置転換は認められますか?

A. 業務上の必要性が明確で、他の社員と同様の基準で行われた配置転換であれば認められる可能性があります。しかし、リークの直後に理由を明示せず行われた配置転換は「不利益取扱い」と認定されるリスクがあります。タイミング・理由・手続きのすべてが重要であり、この判断は専門家のアドバイスを得た上で慎重に行う必要があります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

タイトルとURLをコピーしました