PIPを中小企業で導入する3ステップ|記録・対話・評価連携の進め方

PIPを中小企業で導入する3ステップ|記録・対話・評価連携の進め方 人事制度
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「仕事ぶりが気になっているあの社員、もう2年になる。でも何をどう伝えたらいいのか……」。そう感じながら、明確なアクションを取れないまま時間が過ぎていませんか。低評価が続く社員への対応は、放置すれば組織全体の士気に影響し、かといって誤った進め方はトラブルに発展します。本記事では、パフォーマンス改善計画(以下、PIP)について、専任人事がいない中小企業でも実践できる導入方法を、記録・対話・評価制度との連携という3つの軸で解説します。

PIPとは何か、解雇のための手段ではない

PIP(Performance Improvement Plan)とは、業務パフォーマンスが一定基準を下回る社員に対して、改善目標・期間・支援内容を明示し、本人の成長を促すための計画です。解雇の準備手続きではなく、「改善の機会を公正に与えたこと」を記録するプロセスです。

日本における法的な位置づけ

日本では労働契約法第16条(解雇権濫用法理)により、解雇は「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の両方を満たさなければ無効とされます。能力不足・成績不良を理由とする解雇については、裁判所が「会社が改善の機会・指導を十分に与えたか」「配置転換等の代替手段を検討したか」を重視します。PIPはまさにこの要件に対応するものとして機能します。ただし、PIPを実施したからといって自動的に解雇が正当化されるわけではありません。

「解雇への布石」と受け取られるリスク

PIPという言葉が日本でも知られるようになり、社員側が「証拠固めではないか」と警戒するケースが増えています。本人の同意や信頼関係なしに進めると、労働基準監督署や社外の専門家に相談される、あるいは紛争に発展するリスクがあります。PIPを導入する際は、「改善を支援するためのプロセスである」という目的を誠実に伝えることが出発点です。

退職勧奨との違いを明確にする

PIPと退職勧奨は別物です。PIPに並行して退職勧奨を行う場合、社員の自由意思を尊重しなければなりません。執拗な勧奨や圧力的な言動は、民法第709条(不法行為)として損害賠償請求の対象になり得ます。PIPを進めながら退職を迫るような運用は、会社側のリスクを高めるだけです。

PIPを始める前に整えること

パフォーマンス改善計画を有効に機能させるには、「低評価の根拠」と「就業規則の整備」という2つの土台が不可欠です。この土台がなければ、PIPは主観的な指導の押しつけになってしまいます。

評価根拠を記録として持つ

「なんとなく仕事ができていない」という感覚だけでは、PIPは組み立てられません。評価制度が整っている場合は、直近2〜3評価期間分の評価結果とフィードバック面談の記録を確認しましょう。評価制度が整っていない場合は、業務上の具体的な事実(納期遅延の回数、顧客クレームの内容、上司からの指導内容と日時)を記録として整理するところから始めます。「いつ、何を、どう指導したか」という事実の積み重ねが、PIPの起点になります。

就業規則との整合を確認する

低評価・能力不足を理由とした降格・減給・PIPの実施は、就業規則に根拠規定があるかどうかが重要です。根拠のない不利益変更は労働契約法第9条・第10条に抵触する可能性があります。従業員数10名未満で就業規則が未整備の場合は、PIPを始める前に社労士に相談し、最低限の根拠規定を確認・整備することを強くお勧めします。

産業医・社労士の関与を検討する

中小企業では、経営者や兼務担当者が評価者・指導者・PIP管理者を兼ねることが多く、恣意的な運用になりやすいリスクがあります。また、低評価の背景にメンタルヘルスの問題が潜んでいることもあります。社労士や産業医(従業員50名以上で産業医が義務でない場合も、外部相談先として活用可能)を早い段階から関与させることで、客観性の担保と紛争予防につながります。

PIPシートに必ず盛り込む4要素

パフォーマンス改善計画のシートは「改善目標・期間・進捗確認の方法・未達時の対応」の4要素を明記することが最低条件です。この4要素が揃っていないPIPは、後から「そんな話は聞いていない」という主張を防げません。

改善目標は定量・定性ともに具体化する

「もっと頑張ること」「積極的に取り組むこと」といった曖昧な目標は設定してはいけません。例えば、「週次報告書を毎週金曜17時までに提出する」「顧客からのメールに24時間以内に返信する」「月次売上目標の80%以上を達成する」のように、達成したかどうかを客観的に判断できる基準を設定します。定性的な目標(コミュニケーション改善など)も、「上司との1on1で指摘事項ゼロが2週間継続」のように行動ベースで表現します。

期間と確認頻度を明示する

PIPの期間は一般的に60〜90日程度が実務では多く用いられています。短すぎると「改善の機会を与えた」という実績が薄くなり、長すぎると組織への影響が長引きます。進捗確認は週次の1on1面談を基本とし、面談内容・本人の発言・指導内容を必ず書面で記録します。口頭だけのやり取りは後から証拠として機能しません。

未達時の対応を事前に明示する

PIP期間終了後に目標が未達だった場合の対応(降格・配置転換・退職勧奨の可能性など)を、開始時点で本人に明示しておくことが重要です。「知らなかった」「聞いていない」という状況を防ぐためです。この説明を行った事実を記録し、可能であれば本人の確認署名を取得します。本人が署名を拒否した場合は、「署名を求めたが本人が拒否した」という事実そのものを記録に残します。

要素 悪い例 良い例
改善目標 もっと積極的に仕事に取り組む 週次報告書を毎週金曜17時までに提出する
期間 しばらく様子を見る 〇年〇月〇日〜〇年〇月〇日(90日間)
進捗確認 何かあれば相談する 毎週月曜10時に1on1を実施・議事録を双方確認
未達時の対応 (記載なし) 期間終了後に評価を実施し、結果によっては処遇変更を検討することを事前に説明

対話の進め方|面談で信頼関係を壊さないために

PIPの成否は、面談の質にかかっています。「指摘して終わり」ではなく、本人が現状を理解し、改善に向けて自律的に動ける状態をつくることが目的です。

開始面談で目的と流れを丁寧に説明する

パフォーマンス改善計画を開始する際の面談では、「この計画はあなたを追い出すためではなく、パフォーマンスを改善するための支援である」という趣旨を誠実に伝えます。会社として何を期待しているか、現状との乖離がどこにあるかを、具体的な事実をもとに説明します。感情的な言葉(「正直もう限界だ」「このままでは困る」)は避け、事実と目標の話に集中します。

週次面談は「記録」と「対話」を両立させる

進捗確認の面談では、目標に対して何ができて何ができなかったかを事実ベースで確認します。本人が困っていることや、支援が必要なことがあれば会社としてできる範囲で応じる姿勢を示すことが重要です。面談後は必ず議事メモを作成し、本人にも内容を共有します。メール等で送付した記録を残すと、後から「そんな話はしていない」という主張への対応が容易になります。

ハラスメントになる言動を把握しておく

PIPの文脈でも、「辞めなければずっとこの扱いだ」「君の年齢でこのレベルは恥ずかしい」といった発言はパワーハラスメントに該当し得ます。労働施策総合推進法(パワーハラスメント防止措置義務)に基づき、事業主は職場におけるハラスメントを防止する措置を講じる義務があります。管理職や経営者自身が「指導」と「ハラスメント」の境界線を理解した上でPIPを運用することが不可欠です。

評価制度との連携|PIPを制度の中に位置づける

パフォーマンス改善計画を単発の対応で終わらせず、評価制度の一サイクルとして組み込むことで、納得感のある運用と組織全体の公平性が担保されます。

「評価→フィードバック→PIP→再評価」のサイクルを作る

PIPは「評価制度→フィードバック面談→改善目標の合意→PIP期間→再評価」という一連のサイクルの中に位置づけます。評価根拠がなければパフォーマンス改善計画は成立しません。評価期間終了後のフィードバック面談で低評価の事実を正式に伝え、本人の認識を確認した上でPIPに移行するという流れが、法的にも実務的にも安定しています。

評価制度が未整備の場合の対応

評価制度が整っていない場合でも、「業務上の期待値と現状のギャップを文書化する」ことでPIPの起点を作ることができます。具体的には、担当業務の職務記述(ジョブディスクリプション)を簡易版で作成し、「現在どの項目が未達か」を明記したシートを面談前に準備します。評価制度の整備と並行して進めることが理想ですが、まず記録と対話から始めることが現実的なアプローチです。

PIP終了後の再評価と処遇反映

PIP期間終了後は、設定した目標に対して達成状況を評価し、その結果を記録します。目標が達成された場合はその旨を本人に伝え、通常の評価サイクルに戻します。未達の場合は、就業規則の規定に基づき配置転換・降格等の処遇変更を検討します。いずれの場合も、PIP開始時に説明した「未達時の対応」に沿って進めることが、後のトラブル防止につながります。

まとめ

パフォーマンス改善計画は解雇のための手続きではなく、改善の機会を公正に与え、その過程を記録するプロセスです。中小企業・専任人事なしの環境でも、「根拠となる評価記録の整備」「4要素を盛り込んだPIPシートの作成」「週次面談と記録の継続」という流れで実践できます。大切なのは、本人に目的を誠実に伝え、改善を支援する姿勢を保ちながら、事実を積み重ねていくことです。

ただし、PIPの設計・運用には法的な判断が伴います。「どこから始めればいいかわからない」「すでに対話が難しい状況になっている」という場合は、社外の専門家に早めに相談することが、会社・社員双方にとって最善の選択です。ウェルセンス株式会社では、メンタルヘルス対応・休職復職支援・人事労務の課題を抱える中小企業の経営者・人事担当者からのご相談をお受けしています。「うちのケースで相談できるのか」という段階からでも、お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. PIPは社員に拒否されたら進められませんか?

A. PIPシートへの署名は法的に必須ではありません。本人が署名を拒否した場合も、「PIPの内容を説明し、本人は署名を拒否した」という事実を記録に残すことで、会社として改善機会を提供したという記録は成立します。ただし、拒否の背景(内容への不満・不信感など)を確認し、対話を続けることが重要です。

Q. 評価制度がない会社でもPIPは使えますか?

A. 使えます。評価制度が未整備の場合は、担当業務の期待値と現状のギャップを文書化することから始めてください。「この業務でどのレベルを期待しているか」「現状どこが満たされていないか」を具体的な事実で記録し、本人に説明することがパフォーマンス改善計画の起点になります。評価制度の整備と並行して進めることが理想です。

Q. PIPを実施すれば、目標未達の場合に解雇できますか?

A. パフォーマンス改善計画を実施したからといって、自動的に解雇が正当化されるわけではありません。労働契約法第16条(解雇権濫用法理)のもと、解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。PIPは改善機会の付与と記録として機能しますが、配置転換等の代替手段を検討したかどうかも裁判所は重視します。解雇を検討する場合は、必ず弁護士や社労士に事前相談してください。

Q. PIP中に対象社員がメンタル不調を訴えた場合、どう対応すればよいですか?

A. PIPを一時中断し、まず本人の健康状態の確認を優先します。主治医の診断書の提出を求め、就業可能かどうかを確認してください。メンタル不調が業務上のストレスに起因する可能性がある場合、PIPの継続が症状悪化を招くリスクもあります。産業医(外部委託可)や社労士と連携し、休職対応に切り替えるかどうかを慎重に判断することが重要です。ウェルセンス株式会社では、メンタルヘルスと人事対応の統合的なサポートを提供しているため、こうした場面での相談もお受けしています。

Q. 面談の記録はどのように残せばよいですか?

A. 面談後に議事メモを作成し、日時・参加者・話し合った内容・本人の発言・次回までのアクションを記録します。作成後は本人にもメール等で送付し、「内容を確認した」という事実を残すことが理想です。本人が内容に異議を申し立てた場合も、その旨を記録に追記します。専用のフォーマットがなくても、Word・Googleドキュメント等で構いません。重要なのは継続的・一貫した記録の保存です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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