「採用代行を使えば楽になる」と導入したはずが、ふとした瞬間に「これ、法的に大丈夫なのか」と気になった経験はないでしょうか。採用代行(RPO)は便利な反面、運用の仕方によっては「偽装派遣」と見なされるリスクがあります。専任人事のいない中小企業ほど、契約書の中身を確認せずに丸投げしがちです。この記事では、偽装派遣の判断基準から契約書整備の実務手順まで、現場で使えるレベルで解説します。
採用代行(RPO)が「偽装派遣」と見なされる仕組み
採用代行が偽装派遣と認定されるかどうかの核心は、「誰が外部担当者に指示を出しているか」という一点に集約されます。契約書の名目が「業務委託」であっても、実態が派遣と同じであれば、労働者派遣法の規制対象になります。
偽装請負・偽装派遣とは何か
偽装請負(偽装派遣)とは、請負契約・業務委託契約を結びながら、実態として発注側が受託者の労働者を直接指揮命令している状態を指します。法的根拠は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(労働者派遣法)と、労働者供給事業を禁止する「職業安定法」第44条です。名称が「委託」「外注」「RPO」であっても、実態で判断されます。
合法な業務委託と違法な偽装派遣を分ける「指揮命令」の意味
判断基準を明示しているのが、厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号、通称「37号告示」)です。この告示では、請負(業務委託)として認められるために必要な要件が定められています。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 作業への指示 | 発注者が受託者の労働者に直接、業務の指示・命令をしていないこと |
| 配置・管理 | 受託者が自ら労働者の配置・管理をしていること |
| 資機材・技術 | 受託者が自らの機器・技術・専門知識を用いていること |
| 事業主としての責任 | 受託者が独自の財務・法律上の責任を負っていること |
RPO特有のグレーゾーンがある理由
RPOは採用プロセス全体をアウトソースする性質上、受託者の担当者が発注企業の社内に深く関わります。「求人票を今日中に修正して」「この応募者のレジュメを先に確認して」と日常的に指示を出している場合、それは指揮命令に該当する可能性があります。採用担当者が便宜上の指示だと思っていた行為が、法的には「命令」とみなされるケースがあるのです。
自社の運用が偽装派遣に該当するか確認する方法
すでにRPOを活用している場合、現在の運用が偽装派遣に当たるかどうかは、日常業務の「指示の流れ」を点検することで判断できます。契約書の文言ではなく、実態を確認することが重要です。
指揮命令に当たる行為の具体例
以下のような行為が日常的に行われている場合、偽装派遣と認定されるリスクが高まります。
- 自社の担当者がRPO担当者に対し、その日のタスクや優先順位を直接指定している
- 面接の評価基準や選考合否の判断を自社がRPO担当者に都度伝えて動かしている
- RPO担当者が自社オフィスに常駐し、社員と同列に扱われている
- RPO事業者内部のマネジメント(シフト・業務分担)を自社側が行っている
「承認するだけ」の状態が危険な理由
専任人事のいない中小企業では、RPO事業者の担当者が採用実務をほぼ主導し、自社の担当者は「報告を受けて承認するだけ」という状態になりやすいです。一見、自社側は関与が少ないように見えますが、実態として業務の細部をRPO担当者が自律的に管理しているか、それとも自社の意向で逐一動いているかがポイントです。「承認」の名目で頻繁に細部の変更指示を出している場合は、指揮命令に近い関与になっていると考えてください。
常駐・オンライン常時接続の扱いに注意
RPO担当者が週に何日も自社に来て業務をしている場合や、チャットツール上で自社社員と同列に扱われている場合も注意が必要です。物理的・デジタル的に「自社の職場環境に組み込まれている」状態は、指揮命令関係を示す一つの根拠となります。企業規模が20〜50名程度の場合、人員が少ない分だけRPO担当者が社内に溶け込みやすく、この状態に陥りやすい傾向があります。
偽装派遣と認定された場合のリスクの全体像
「なんとなく問題があるかもしれない」という感覚を持ちながら対処が後回しになるのは、リスクの具体像が見えていないからです。偽装派遣の認定は、罰則・行政対応・民事上の問題が重なる複合リスクです。
刑事・行政上の制裁
労働者派遣法違反として認定された場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります(法人両罰規定あり)。職業安定法の労働者供給事業禁止規定(第44条)に該当する場合も同様の水準の罰則があります。さらに、厚生労働省・労働局による行政指導、場合によっては企業名の公表も行われることがあります。中小企業にとって、企業名の公表は採用ブランドへのダメージとして深刻です。
「労働契約申込みみなし制度」による直接雇用リスク
平成27年施行の労働者派遣法第40条の6が定める「労働契約申込みみなし制度」は、違法派遣が行われた場合に、派遣先が派遣労働者に対して直接雇用の申込みをしたものとみなす制度です。これが適用されると、RPO担当者から「自分は御社の労働者として扱われるべき」と主張される法的根拠が生まれます。意図せずRPO担当者との雇用契約が成立したとみなされるリスクがあり、中小企業にとっては予期せぬ人件費負担につながります。
RPO事業者との関係悪化と契約トラブル
偽装派遣の問題が表面化すると、RPO事業者との契約関係の見直しが必要になります。その際に「どちらが責任を負うか」という争いになるケースもあります。事前に契約書で責任範囲を明確にしていない場合、自社が不利な立場に置かれることがあります。
偽装派遣リスクを防ぐ契約書整備の進め方
偽装派遣リスクの予防は、契約書の「名目」ではなく「実態との整合性」を確保することから始まります。まず既存の契約書の内容を確認し、次に運用ルールと合わせて整備する、という順序で進めましょう。
契約書に明記すべき項目
業務委託契約書(準委任型・請負型いずれも)には、以下の内容を具体的に記載することが重要です。ひな形をそのまま使っている場合は、RPOの実務内容に合わせて条項を追記・修正してください。
- 受託者(RPO事業者)が遂行する業務の範囲を具体的に列挙する(求人票作成・応募者管理・面接日程調整など)
- 受託者が自らの責任で業務を遂行することを明記し、発注者からの個別指示によらないことを規定する
- 受託者の担当者に対する指揮命令は受託者内部で完結することを明確にする
- 発注者が行える関与の範囲を限定列挙する(成果物の確認・最終合否決定など)
- 受託者が独立した事業主として費用・法律上の責任を負うことを明記する
契約書の「名目」と「実態」が異なっていないか、今一度確認することが重要です。判断に不安がある場合は、人事労務の専門家に現状を相談しながら進めることをお勧めします。
日常運用で気をつけるポイント
契約書を整備しても、日常の運用がそれと乖離していれば意味がありません。現場レベルで注意すべきポイントとして、まず自社担当者がRPO担当者に「今日やること」を逐一指示するコミュニケーションをやめることが挙げられます。代わりに、週次・月次の定例ミーティングで成果・進捗を確認する形に切り替えると、指揮命令の実態を作らずに済みます。また、RPO担当者が自社オフィスに常駐している場合は、勤務場所・業務ツールのアクセス権限の位置づけを整理し、「自社社員と同列」にならないよう区別を明確にしてください。
既存契約の見直し手順
現在進行中のRPO契約がある場合は、まず現行の契約書と実際の業務フローを照合し、乖離がないかを確認します。次に、指揮命令に該当しうる行為を洗い出し、それを是正する運用ルールを先に整備します。その後、契約書の条項をルールに合わせて改定するという順序が現実的です。RPO事業者側も適法な運用を望んでいることが多く、率直に「契約の整合性を確認したい」と伝えれば、協力的に対応してくれるケースがほとんどです。
面接運営における法的リスクの注意点
RPOが担う業務の中でも、面接運営は特に指揮命令の境界線が曖昧になりやすい領域です。面接プロセスへの関与の仕方によって、リスクが大きく変わります。
RPOが面接に関わる場合の適切な役割分担
RPO担当者が面接に同席したり、面接官へのブリーフィングを行ったりすること自体は、直ちに問題になるわけではありません。問題になるのは、自社の担当者がRPO担当者に対して「今日の面接では特にこの質問を重点的に聞いて」「この候補者を通してほしい」と直接指示を出す場合です。面接の運営方針・質問設計・評価軸の設計は、RPO事業者が自律的に受託業務として提供し、自社は最終的な合否判断のみを担う形が法的に安全です。
選考基準の管理責任はどちらにあるか
選考基準を自社が策定し、RPOはそれを運用する、という形であれば実態として問題になりにくいです。ただし、策定した基準をRPO担当者に「随時修正して」「都度調整して」と細かく指示する運用は、実質的な業務指揮に当たるため注意が必要です。選考基準は契約締結時または業務開始時に合意し、変更は正式な仕様変更の手続きを経る形にしておくと、日常的な指揮命令の形にならずに済みます。
まとめ
採用代行(RPO)の活用における偽装派遣リスクは、契約書の名目ではなく「指揮命令の実態」で判断されます。37号告示の基準に照らして、自社担当者がRPO担当者に日常的な業務指示を出していないか、RPO担当者が自律的に業務を遂行しているかを確認することが出発点です。リスクが確認された場合は、まず運用ルールを是正し、次に契約書を実態に合わせて整備する順序で対応しましょう。労働契約申込みみなし制度(労働者派遣法第40条の6)による直接雇用リスクや罰則を考えると、早期の対処が重要です。
「自社の契約・運用が適切かどうか確認したい」「どこから手をつければよいかわからない」という場合、ウェルセンス株式会社では人事労務の実務課題に関する相談をお受けしています。採用代行の契約整備から運用改善まで、専任人事がいなくても対応できる現実的な進め方を、一緒に考えます。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


