職場スマホ私的利用を制限する就業規則整備3ステップ

職場スマホ私的利用を制限する就業規則整備3ステップ 採用・定着
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「スマホ見てるくらい、うちは目くじら立てなくていいか」と思っていたある日、顧客情報が漏れた——とまではいかなくても、業務中に手が止まっている場面が増え、注意しようとしたら「ルールにないじゃないですか」と言い返された。そういう瞬間に初めて「就業規則にスマホのことを書いておけばよかった」と気づく経営者や担当者は少なくありません。この記事では、規則がない状態での今すぐの対応から、就業規則への規定追記、全社への周知まで、実務的に整理します。

就業規則がなくてもスマホ私的利用を注意できるか

結論から言えば、就業規則に規定がなくても「口頭での注意・業務命令」は行えます。ただし、罰則の適用や「禁止」を強制的に貫徹することには根拠規定が必要です。

業務命令権の範囲と限界

労働契約法第6条・第7条に基づき、使用者は労働契約の目的を達成するために合理的な業務命令を行う権限を持っています。業務中のスマホ私的利用を制限することは「職場の規律維持」として合理性が認められやすく、就業規則がない状態でも「業務に集中してください」と命じることは法的に問題ありません。

ただし、この段階でできることは「指導・注意」にとどまります。「規則違反として譴責(けんせき)処分にする」「減給する」といった懲戒処分を科すには、就業規則に禁止行為と懲戒規定の両方が明記されている必要があります(労働基準法第89条第9号)。規定なき懲戒は裁判で無効とされるリスクが高いため、処分を想定するなら規則整備を先行させてください。

「規則にない」と言われたときの正しい返し方

「就業規則に書いていないのだから注意されても従う必要はない」という反論は、法的には必ずしも正しくありません。業務時間中に私的行為を行うことは、雇用契約上の労務提供義務に反する行為として、規則の有無にかかわらず指導対象になりえます。「現時点では口頭で指導する段階であり、今後は規則に明記して対応します」と毅然と伝えつつ、速やかに規則整備に着手することが現実的な対応です。

今すぐできる暫定対応

規則整備と並行して、以下の暫定措置を取ることで現場の混乱を最小化できます。

  • 上司から口頭で注意し、その内容・日時・状況をメモとして記録しておく
  • 部門会議や朝礼で「就業規則を整備するまでの間、業務中のスマホ私的利用は控えるよう」周知する
  • 業務目的での利用(社内連絡ツール等)と私的利用を区別するルールの草案を示す

記録を残しておくことは、後に規則を整備してから懲戒手続きが必要になった場合の事実確認としても役立ちます。

就業規則に書くべき内容と文例

スマホ私的利用の制限規定は「服務規律」の条項に盛り込むのが適切です。禁止行為の範囲と例外を明確に書くことが、後のトラブルを防ぐ鍵になります。

どこに・何を書くか

就業規則は「絶対的記載事項(始業・終業時刻、賃金等)」と「相対的記載事項(制裁規定等)」に分かれますが、スマホ利用制限は「服務規律に関する事項」として任意的記載事項に位置づけられます。既存の服務規律条項(例:「職場の秩序を乱してはならない」)の後に追記する形が自然です。

規定文例

以下は実務でよく使われるシンプルな文例です。自社の業種・状況に合わせて調整してください。

規定項目 文例
基本禁止 労働時間中は、業務上必要な場合を除き、私用のスマートフォン・携帯電話等を使用してはならない。
例外(休憩時間) 休憩時間中は、職場の業務に支障を与えない範囲で私用のスマートフォン等を使用することができる。ただし、就業場所の指定エリア外での使用とする。
例外(業務利用) 会社が認めた業務目的(社内連絡ツール・モバイルワーク等)に使用する場合はこの限りでない。
情報管理との連動 スマートフォン等を使用して業務上の秘密情報・顧客情報を撮影・送信することを禁止する。
違反時 本規定に違反した場合は、第〇条(懲戒)の規定に基づき処分することがある。

「どこまで制限できるか」の法的な線引き

制限が行き過ぎると、逆に会社側のリスクになります。特に注意すべき点が二つあります。

一つ目は、スマホの「画面確認・没収」は原則禁止です。「使っていないか確認するために画面を覗く」「カバンの中のスマホを取り上げる」行為は、労働者のプライバシー(憲法第13条・個人情報保護法等)や通信の秘密(電気通信事業法第4条)に抵触するリスクがあります。規定は「利用行為を禁止する」にとどめ、確認・没収には及ばないことが原則です。

二つ目は、休憩時間中の一律禁止には慎重さが必要です。労働基準法第34条は休憩時間の「自由利用」を保障しており、休憩中のスマホ使用を完全に禁止することは法的にグレーな領域です。「休憩中は指定エリアで使用可」のように場所を限定する形の方が、法的リスクを避けながら秩序も保てます。

就業規則を変更・追記するための手続き

就業規則の変更は「社内で決めるだけ」では効力が生じません。労働基準法が定める手続きを踏まないと、規定が無効になるリスクがあります。

常時10人以上か未満かで対応が変わる

常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成・届出が法律上の義務です(労働基準法第89条)。すでに就業規則がある場合は変更届を提出します。一方、常時10人未満の事業場では届出義務はありませんが、就業規則を作成・変更すること自体は問題なく、作成することで会社側の対応根拠が明確になります。

変更手続きの流れ

まず、スマホ利用制限を追記した就業規則の改定案を作成します。次に、労働者代表(過半数代表者または過半数労働組合)から意見を聴取し、意見書を取得します。意見聴取は「同意を得ること」ではなく「聴取すること」で足りますが、記録として残しておくことが重要です。その後、所轄の労働基準監督署に変更届・意見書・変更後の就業規則を提出します。

なお、黙認状態だったスマホ利用を新たに制限することは、労働契約法第10条の「不利益変更」に該当するかどうかが問われることがあります。ただし、業務時間中の私的行為は本来「既得権」とはなりにくいため、変更の合理性は比較的認められやすいとされています。

周知がなければ規則は効力を持たない

就業規則は「周知」が効力発生の要件です(労働基準法第106条・労働契約法第7条)。変更後の就業規則を事務所の見やすい場所に掲示する、イントラネットに掲載する、書面を配布するなど、労働者が実際に知ることができる状態にしなければなりません。「作って届け出たけれど社員に伝えていなかった」では、規定が機能しないことになります。

規則整備後の注意・指導の進め方

規則が整備されたら、次は現場での運用です。指導は段階的に行い、すべての記録を残すことが後のトラブル対応の基盤になります。

指導は口頭から書面へ段階的に

初回の違反に対しては、まず口頭で注意・指導を行います。「いつ・どのような状況で・どのように注意したか」をその日のうちにメモとして記録しておきます。繰り返し違反が見られる場合は、指導書(書面)を渡し、本人の署名を取得します。指導書には「具体的な違反の事実」「改善を求める内容」「今後の対応(再発時は懲戒の可能性がある旨)」を明記します。

対応を属人化させないための工夫

上司によって注意の基準がバラバラだと、不公平感から職場の雰囲気が悪化します。指導フローをシンプルな手順として管理職に共有し、「誰が見ても同じ対応ができる状態」を作ることが重要です。特定の部署や役職にだけ厳しく適用されているように見える状況は、ハラスメントリスクにもつながります。

配慮が必要な社員への対応

メンタル不調の社員や、スマホがコミュニケーション・ストレス発散の手段になっている社員への一律禁止には慎重さが必要です。こうした社員に対しては、禁止の強制よりも「業務に集中できない背景に何があるか」を産業医や社内の相談窓口と連携して把握することが先決です。20〜50名規模の企業では産業医が選任されていないケースも多いですが、地域の産業保健総合支援センターへの相談や、外部のメンタルヘルス支援サービスを活用する方法もあります。

スマホ禁止ルール運用の中で、社員のメンタル状態に気がかりな点があれば、外部の相談窓口を活用することも有効です

まとめ

職場でのスマホ私的利用を制限するには、まず現状の問題を整理し、次に就業規則の服務規律条項にスマホ規定を追記し、最後に法定手続きを経て全社に周知する、という流れが基本です。規則がない段階でも口頭での注意・業務命令は行えますが、懲戒処分を想定するなら規則整備が先決になります。また、スマホの画面確認・没収はプライバシー侵害のリスクがあること、休憩時間中の一律禁止には慎重さが必要なことも忘れないでください。

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よくある質問

Q. 就業規則がない(または10人未満の会社)でも、スマホ規定を作る意味はありますか?

A. あります。常時10人未満の事業場には就業規則の作成義務はありませんが、スマホ利用に関するルールを社内文書として定めて周知しておくことで、「言った・言わない」のトラブルを防ぎ、指導の根拠を明確にする効果があります。将来の事業拡大に備えた準備としても有効です。

Q. 業務用スマホを会社が支給している場合、私的利用の制限はどうすればよいですか?

A. 会社が貸与したスマホは会社の財産であるため、私的利用の禁止はより強い根拠で規定できます。就業規則の服務規律条項に「会社が貸与するスマートフォンは業務目的以外に使用してはならない」と明記し、さらに貸与時の誓約書・利用規程で個別に確認を取ることが望ましい対応です。

Q. スマホ私的利用を理由に即座に解雇することはできますか?

A. 原則として、スマホの私的利用だけで即解雇は難しいと考えるべきです。解雇が有効になるには「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です(労働契約法第16条)。まず口頭注意・指導書・懲戒(譴責・減給等)の段階を踏み、改善が見られない場合に初めて雇用継続の是非を検討する流れが法的に安全です。

Q. スマホ禁止のルールをパートや派遣社員にも適用できますか?

A. パートタイム社員には、就業規則がパートにも適用されることを明示しておく必要があります。就業規則の適用範囲条項に「パートタイム労働者を含む全労働者に適用する」と記載し、採用時に説明しておくことが重要です。派遣社員については派遣元の就業規則が基本ですが、業務上の指示(私的スマホ利用への注意)は派遣先として行える範囲で対応できます。派遣元と事前に確認しておくとスムーズです。

Q. スマホ規定を整備するとき、社員から反発が出た場合はどう対応すればよいですか?

A. 規定の目的(情報漏洩の防止・安全確保・生産性向上など)を丁寧に説明することが最初の対応です。就業規則変更の手続きとして労働者代表から意見聴取を行うプロセス自体が、「会社が一方的に決めた」という反発を和らげる効果もあります。また、例外規定(休憩時間中は指定エリアで使用可など)を合理的に設けることで、社員の不満を最小限に抑えながらルールを運用できます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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