等級制度を入れたのに給与が上がらない会社が見直すべきこと

等級制度を入れたのに給与が上がらない会社が見直すべきこと 人事制度
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「等級制度を導入してから1年以上経つのに、社員の給与がほとんど変わっていない」——こうした声を聞くことは珍しくありません。制度を整備したことで安心してしまい、気づけば評価は毎年行われているのに昇給がほぼゼロ、社員のモチベーションも下がる一方という状況に陥っている会社は少なくないのです。本記事では、等級制度導入後に給与が上がらなくなる根本原因を整理し、自社で取り組める是正の方向性を具体的に解説します。

等級制度を入れても給与が上がらない本当の理由

等級制度導入後に給与が上がらない最大の原因は、「制度の器」だけを作って「運用の中身」を設計していないことにあります。制度は入れただけでは機能せず、評価・昇格・給与の三つが連動していて初めて意味を持ちます。

「制度を作れば動く」という誤解

等級表や評価シートを整備したとき、多くの会社は「これで仕組みができた」と感じます。しかし制度はあくまでルールブックに過ぎません。誰が・いつ・何を判断するかという運用ルールと、評価者が迷わず動けるためのマニュアルがなければ、初年度から形骸化します。特に兼務で人事を担っている方の場合、評価調整会議やフォローアップ面談を設計しないまま放置されるケースが多く見られます。

評価制度と給与テーブルが連動していない

「S評価・A評価・B評価」などの評価結果は出ているのに、それが給与にどう反映されるかのルールが不明確なケースは非常によく見られます。「A評価を3年続けても給与が一円も変わらない」という状況が生まれると、社員は評価制度そのものへの信頼を失います。評価結果を給与に変換するルール(評価ランクごとの昇給額や昇給率の目安)が明文化されていない限り、制度は絵に描いた餅です。

昇給原資(財源)の設計が制度に組み込まれていない

等級・評価の仕組みだけを作り、「総額人件費をどう管理するか」を考えていないことも大きな落とし穴です。個々の評価に基づいて昇給させると人件費全体が予算を超えてしまうため、結果的に昇給を止めざるを得なくなります。昇給原資をあらかじめ設計に組み込まず、「評価を先に決めてから給与を考える」という順番になっているケースでは、経営者が最終的に「今年は据え置きで」という判断をせざるを得なくなります。

昇格が止まる「等級定義の曖昧さ」問題

昇格が停滞する直接的な原因の多くは、等級定義が現場で使えないレベルの抽象表現にとどまっていることです。上司が「この人を昇格させてよいか」を自信を持って判断できなければ、現状維持が最も安全な選択になってしまいます。

「主体的に行動できる」では判断できない

等級定義に「主体的に行動できる」「チームをリードできる」といった抽象文言しかない場合、評価者は自分の感覚で判断するしかなくなります。その結果、「なんとなく昇格させにくい」という印象論で現状維持が続きます。等級定義は、具体的な行動・成果・役割範囲で記述されていなければ実務では機能しません。たとえば「担当業務の品質チェックを自分で完結できる」「後輩1〜2名の日常業務をOJTで指導できる」といった行動ベースの記述が必要です。

昇格基準と昇給額を連動させていない設計ミス

「等級が上がれば自動的に給与が上がる」という前提で制度を設計しているケースでも、等級ごとの給与レンジ(最低額・最高額のバンド)を定めていなければ問題が生じます。現在の給与がすでに上位等級の最低額を超えている場合、「昇格しても給与が変わらない」という矛盾が起きます。これは人事用語で「レッドサークル問題」と呼ばれ、特に長年在籍している社員が昇格候補になったときに頻発します。

20〜50名規模特有の等級数の問題

大企業のように10段階の等級を設けると、現場・リーダー・管理職という3〜4層しかない小規模組織では等級が形骸化します。20〜50名規模では等級数を3〜5程度に絞り、それぞれの等級に対応する給与レンジを明確に設定するほうが運用しやすくなります。等級数が多すぎると、昇格の基準も増え、評価者の判断負荷が上がるため、昇格がさらに停滞しやすくなります。

給与据え置きが続くと会社に何が起きるか

給与据え置きが繰り返されると、単にモチベーションが下がるだけでなく、採用・定着・労使関係にわたる複合リスクが生じます。経営判断の優先度を上げるべき理由を正確に把握しておくことが重要です。

優秀層から先に離職する構造

市場価値の高い社員ほど、給与が上がらない状況に敏感です。転職市場での自分の価値を把握しており、社内の評価制度に期待できないと判断すると、静かに転職活動を始めます。残るのは転職に踏み切れない層や、現状に不満を持ちながらも動けない層になりやすく、組織全体のパフォーマンスが徐々に低下していきます。

採用競争力の低下

求職者は「給与の上がり方」を重視します。「評価制度はあるが給与はほぼ変わらない」という評判が社内外に広まると、採用候補者が辞退するケースも増えます。20〜50名規模の企業では採用ブランドの蓄積が難しいため、給与制度の透明性・成長性は採用訴求において重要な差別化ポイントになります。

労使関係のリスク

法的な義務はありませんが、賃金改定の結果(定期昇給やベースアップの有無を含む)について、社員への説明責任は生じます。根拠なく「据え置き」を繰り返すと、退職後に未払い賃金の主張や労働審判に発展するリスクもゼロではありません。また、等級制度の是正によって一部の社員の賃金が実質的に下がる場合は、労働契約法第8条・第9条・第10条の要件(合理的な理由と周知)を確認する必要があります。

制度を見直すときに確認すべき法的ポイント

等級制度・給与テーブルの見直しは、就業規則の変更を伴うことが多く、法律上の手続きを踏まなければなりません。制度の中身だけでなく、手続きの正確さも重要です。

就業規則・賃金規程との整合性

賃金の決定・計算・支払方法は、労働基準法第89条第2号により、就業規則の絶対的記載事項とされています。等級や評価と連動した賃金テーブルを変更する場合は、労働者代表の意見聴取と労働基準監督署への届出が必要です(労働基準法第89条・第90条)。「制度を変えた」だけで就業規則の変更手続きを省略しているケースは、後になって法的トラブルの原因になることがあります。

不利益変更への注意

等級定義の見直しに伴い、一部の社員が等級を下げられたり、給与レンジの上限に達してしまう場合は「不利益変更」に該当する可能性があります。この場合、労働契約法第10条に基づき、変更の合理性と社員への周知が求められます。「不利益変更かどうか判断が難しい」という場合は、社会保険労務士や弁護士に確認することをお勧めします。

非正規雇用者との整合性

パートタイム・有期雇用労働法および労働者派遣法に基づく同一労働同一賃金の観点から、等級制度を整備する際は正社員とパート・契約社員等の均衡・均等待遇との整合性も確認する必要があります。正社員の制度だけを整えて非正規雇用者の処遇が放置されていると、後から是正コストが発生するリスクがあります。

制度を機能させるための是正の進め方

制度を機能させるためには、「何が止まっているか」を正確に診断してから是正に入ることが重要です。闇雲に制度を作り直すのではなく、原因を特定したうえで優先順位をつけて手を打つことが、限られたリソースしかない中小企業には特に求められます。

まず「どこが止まっているか」を診断する

給与が上がらない状態には複数の原因が絡み合っています。以下の表で自社の状態を確認してみてください。

診断項目 チェックポイント 該当する主な原因
等級定義 昇格要件が行動ベースで書かれているか 昇格基準の曖昧さ
給与テーブル 等級ごとに給与レンジが設定されているか 評価と給与の非連動
昇給ルール 評価ランクごとの昇給額・昇給率が明文化されているか 評価結果の未活用
昇給原資 年間の昇給予算が制度設計に組み込まれているか 財源の未整備
評価者の運用力 評価基準の解釈・フィードバックの研修があるか 評価のばらつき・停滞

見直しの優先順位をつける

診断で複数の問題が見つかった場合、全部を同時に直そうとすると混乱します。まず昇給ルールと給与テーブルの整合性を確認し、「評価結果がどう給与に反映されるか」のルールを明文化することを最優先にしましょう。次に等級定義を行動ベースに書き直し、評価者が自信を持って昇格判断できるよう整備します。最後に評価者向けの運用マニュアルと年間の評価カレンダーを整備する、という順番が実務的には取り組みやすい流れです。

評価者(管理職・経営者)のトレーニング

制度文書を整備しても、評価者が正しく使えなければ意味がありません。「評価制度の使い方説明会」を1回実施しただけで終わっているケースでは、評価基準の解釈がバラバラになり、「あの上司は甘い・あの上司は厳しい」という不公平感が広がります。評価調整会議(評価者が集まり評価結果を擦り合わせる場)を年1〜2回設けるだけでも、評価のばらつきは大幅に改善されます。

複数の原因が複雑に絡まっている場合、人事だけで判断するのは難しい面があります。制度の見直しと法的対応を同時に進めるなら、外部の専門家に相談することで、ミスや後戻りを防ぐことができます。

まとめ

等級制度を導入したのに給与が上がらない状態は、制度そのものが間違っているのではなく、「評価と昇格と給与が連動していない」「等級定義が現場で使えない」「昇給原資が設計に組み込まれていない」という運用上の問題が原因であることがほとんどです。まず診断で「どこが止まっているか」を特定し、昇給ルールの明文化・等級定義の行動ベース化・評価者トレーニングの順で是正を進めることが、限られたリソースで動く中小企業には現実的なアプローチです。また、制度見直しに伴う就業規則の変更手続き(労働基準法第89条・第90条)や不利益変更への対応(労働契約法第10条)は、法的リスクを避けるうえで欠かせない確認事項です。

ウェルセンス株式会社では、20〜50名規模の成長企業を対象に、等級制度・評価制度の運用上の課題を一緒に整理するご相談を承っています。「制度はあるが何かが止まっている」と感じている方は、まず現状をお聞かせください。具体的な診断と優先順位の整理からご支援します。

よくある質問

Q. 等級制度を見直す際、既存社員の給与を下げることはできますか?

A. 等級の見直しによって社員の賃金が実質的に低下する場合は「不利益変更」にあたる可能性があります。労働契約法第10条では、就業規則の変更によって労働条件を不利益に変更するためには、変更の合理的な理由と労働者への周知が必要とされています。一方的に賃金を下げることは労務トラブルのリスクが高いため、社会保険労務士や弁護士に相談したうえで進めることをお勧めします。

Q. 昇給原資はどのように設計すればよいですか?

A. 一般的には、年間の人件費予算のうち昇給に充てられる総額をあらかじめ決め、その範囲内で評価結果に応じて配分する設計が基本です。たとえば「全社の昇給原資を総人件費の一定割合に設定し、高評価者に重点配分する」という方法があります。財源を先に決めてから評価と連動させることで、昇給判断が経営上の根拠を持つようになります。具体的な設計は会社の財務状況によって異なるため、専門家と一緒に検討することをお勧めします。

Q. 等級定義を行動ベースに書き直す際のポイントは何ですか?

A. 「主体的に行動できる」「リーダーシップを発揮できる」といった抽象表現を、「担当業務の品質チェックを自分で完結できる」「後輩1〜2名のOJT指導ができる」のような具体的な行動・役割・成果の記述に置き換えることが基本です。評価者が「この社員は該当するかどうか」をYes/Noで判断できるレベルの粒度が目安になります。自社の業務内容に合わせて記述することが重要です。

Q. 評価制度と給与テーブルの連動は、どのような手順で整備すればよいですか?

A. まず各等級に対応する給与レンジ(最低額・最高額)を設定します。次に評価ランク(S・A・B・C等)ごとの昇給額または昇給率の目安を決め、それを就業規則の賃金規程に明記します。この連動ルールを社員に説明することで、「頑張れば給与が上がる」という納得感が生まれます。賃金規程の変更には労働基準法第89条に基づく届出が必要なため、手続きも忘れずに行ってください。

Q. 20〜30名規模でも等級制度の見直しは必要ですか?

A. 規模が小さい場合でも、採用・定着・社員のモチベーション管理のために給与の透明性は重要です。ただし大企業向けの複雑な制度をそのまま導入する必要はなく、等級数を3〜4段階に絞り、シンプルな給与レンジと昇給ルールを整備するだけでも大きな改善につながります。「制度が複雑で運用できない」という状態を避けるために、自社の規模と運用リソースに合ったシンプルな設計を選ぶことが大切です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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