経営戦略と人材ポートフォリオがバラバラで困ったら

経営戦略と人材ポートフォリオがバラバラで困ったら 組織運営
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「3年後に売上を2倍にする」という経営計画はある。でも、そのために「どんな人が何人必要か」が言語化できていない——そんな状態に心当たりはないでしょうか。採用は欠員補充の繰り返しで、育成は場当たり的、気づけば採用コストだけがかさんでいる。経営戦略と人材ポートフォリオがバラバラなままでは、どれだけ事業計画を精緻化しても、実行する”人”が追いつきません。この記事では、中小企業の経営者・兼務人事担当者が実践できる「人材ポートフォリオと経営戦略を連動させる方法」を具体的にお伝えします。

経営戦略と人材ポートフォリオがバラバラになる根本原因

「人の問題」は後回しにされやすい

多くの中小企業では、経営会議で語られる内容は「売上目標」「新規事業」「コスト削減」です。人材についての議論は「誰かが辞めた」「採用どうしよう」というタイミングに限られがちです。結果として、人材計画は経営計画とは別の文脈で動き続けます。

たとえば、3年後に新規事業を立ち上げる計画があるにもかかわらず、採用基準は「今の業務をこなせるか」だけで判断している——これが典型的なバラバラ状態です。新規事業を動かせる人材を今から育てておかなければ、計画の実行時に人が足りなくなります。

「欠員補充」思考が戦略的採用を妨げる

専任人事がいない企業では、採用は「誰かが辞めたから代わりを探す」という欠員補充になりがちです。このアプローチ自体が悪いわけではありませんが、それだけでは組織は現状維持にとどまります。3年後の成長に必要な人材像を描いたうえで、計画的に採用・育成していくことが、経営戦略と連動した人材ポートフォリオの第一歩です。

人材ポートフォリオという概念の重要性

人材ポートフォリオとは、自社にどんな人材がどれくらいいるべきか、またその人材をどう組み合わせるかの全体像を指します。採用・育成・定着・外部委託のバランスを俯瞰する地図のようなものです。この概念が社内にないと、採用担当(経営者)、育成担当(現場マネージャー)、労務担当がそれぞれバラバラに動き、「人が辞めるたびに振り出しに戻る」という悪循環が生まれます。

経営計画から人材要件を逆算する手順

まず「機能・役割」を言語化する

逆算の出発点は、3年後の経営ビジョンと数値目標を明文化することです。「売上3億円達成」「新規事業の黒字化」「既存顧客のLTV向上」など、できるだけ具体的な言葉にします。次に、その目標を達成するために「どんな機能・役割が社内に必要か」を洗い出します。ここで重要なのは、職種名(「営業マン2名」)ではなく機能(「新規開拓を担うハンターとしての営業機能」「既存顧客の深耕を担うカスタマーサクセス機能」)で考えることです。

現在の人材を棚卸しする(スキルマップの作成)

3年後の「あるべき姿」が描けたら、次に現在の人材を棚卸しします。スキルマップとは、誰がどんなスキルをどの程度持っているかを一覧化した表です。たとえば、縦軸に社員名、横軸にスキル項目(営業交渉力・プロジェクト管理・データ分析など)を並べ、習熟度を3段階で評価するだけでも十分です。

多くの中小企業では「誰が何をできるか、実は把握していない」という状態が珍しくありません。スキルマップを作るだけで、「実はこの人がDXプロジェクトに使えるスキルを持っていた」という発見が生まれることもあります。

ギャップを特定し、充足手段を選ぶ

「あるべき姿」と「現状」のギャップが明確になったら、その充足手段を決めます。主な選択肢は「内部育成」「採用」「外部委託(BPO・フリーランス活用)」の3つです。たとえば、3年後にデータマーケティング機能が必要だが社内にスキルを持つ人がいない場合、今すぐ採用するのか、現社員を1年かけて育成するのか、当面は外部委託するのか——その判断をタイムラインに落とすことで、初めて採用計画・育成計画に変換できます。

採用基準のブレをなくす「人材要件定義」

曖昧な採用基準が生む「こんなはずじゃなかった」

求人票に「コミュニケーション能力が高い方」「主体的に動ける方」と書かれていても、面接官によって評価軸がバラバラになります。経営者は「自分で考えて動ける人」を求め、現場マネージャーは「素直に指示に従う人」を求めていた——そんなすれ違いが入社後のミスマッチを生みます。

人材要件を4つの軸で整理する

採用基準を明確化するために、人材要件を次の4要素で整理することをお勧めします。

まず「スキル」は、業務に直結する技術・資格・経験です(例:法人営業3年以上、Excelでのデータ集計可能)。次に「コンピテンシー」は、成果を出す人に共通して見られる行動特性です(例:困難な状況でも粘り強く代替案を探す行動パターン)。そして「カルチャーフィット」は、自社の価値観・行動規範との一致度です。最後に「ポテンシャル」は、学習適応力や成長余地で、特にスタートアップ・成長企業では重要視されます。

この4要素を採用ポジションごとに文書化しておくだけで、面接官が複数いても評価軸がぶれにくくなります。

人材ポートフォリオの4象限でポジションを分類する

採用する人材のポジションを「スキルの希少性(汎用↔専門)」と「業務への直接貢献度(コア↔サポート)」の2軸で分類すると、採用優先度と育成方針が整理しやすくなります。たとえば、コア業務かつ専門性が高いポジション(例:技術責任者)は採用コストをかけてでも即戦力を外部から獲得すべきです。一方、汎用スキルで足りるサポート業務は内部育成や派遣・BPOで賄う判断もできます。

人材計画に「メンタルヘルスリスク」を組み込む視点

成長企業ほど休職リスクが高まる理由

組織が急成長するフェーズでは、業務量の急増・役割の不明確化・マネジメント不足が重なり、メンタル不調者が増加しやすくなります。実際、20〜50名規模の企業では「頑張ってくれていた中堅社員が突然休職して、人員計画が全崩れした」という声を多く聞きます。1人の休職が残存メンバーの負荷増大を招き、それがさらに不調者を生む連鎖も起こり得ます。

バッファとしての休職発生率を計画に含める

人材ポートフォリオの設計では、休職リスクをあらかじめバッファとして織り込むことが重要です。たとえば20名規模の企業であれば、年間1〜2名程度の休職・離職リスクを想定して採用・育成計画を立てるだけで、計画が崩れにくくなります。また、常時50人以上になると労働安全衛生法によるストレスチェックが義務化されます。成長企業はこのタイミングを見越して、50名到達前からメンタルヘルス対策の仕組みを整えておくことが得策です。

育休・介護休業を前提にした代替要員計画

2022年改正の育児・介護休業法では産後パパ育休が新設され、男性社員の育休取得がより現実的になりました。人材計画の中に「育休取得を前提とした代替要員の確保」を組み込んでいないと、突然の穴が開いて残りのメンバーに過重な負荷がかかります。育休取得者のポジションをカバーできる人材をあらかじめ育成しておくか、外部リソースと連携する仕組みを整えておくことが、安定した人材ポートフォリオ運営につながります。

採用・育成・定着を一本化するための実践ポイント

「採用→育成→定着」をひとつの流れとして設計する

採用担当(経営者)・育成担当(現場マネージャー)・労務担当が別々に動いていると、「せっかく採用した人が定着せず、また採用コストがかかる」という悪循環が生まれます。この悪循環を断ち切るには、採用・育成・定着をひとつの連続したプロセスとして設計することが必要です。

具体的には、採用時に定めた「人材要件4要素」を入社後の育成計画にそのまま引き継ぎ、「この人はどのスキルを伸ばすべきか」「カルチャーフィットの課題はどこか」をオンボーディング段階から明確にします。

育成投資の「費用対効果」を見える化する

場当たり的な研修を繰り返しても教育投資の効果は見えにくいものです。スキルマップで現状を把握し、3年後の人材要件とのギャップを特定したうえで研修・OJTを設計すると、「この研修は3年後の新規事業立ち上げに必要なスキルを埋めるためのもの」という目的が明確になり、費用対効果も測定しやすくなります。たとえば、育成にかけた費用と、外部採用した場合のコスト(求人広告費・エージェント手数料・入社後の立ち上がり期間のロス)を比較するだけで、育成投資の合理性が数字で示せます。

定着率を上げるために「納得性」を大切にする

労働契約法では、労働条件の明示と納得性の確保が求められています。職務要件(ジョブディスクリプション)を整理して社員と共有することは、法的な観点だけでなく、「自分に何が期待されているか」を社員が理解することにつながり、エンゲージメントと定着率の向上にも直結します。採用時に伝えた期待役割と、実際の業務のギャップが大きいと、早期離職の主因になります。

まとめ

経営戦略と人材ポートフォリオを連動させるには、3年後の経営目標から必要な「機能・役割」を逆算し、現状とのギャップを特定したうえで採用・育成・外部調達の手段を選ぶという流れが基本です。採用基準を人材要件の4要素(スキル・コンピテンシー・カルチャーフィット・ポテンシャル)で明文化し、メンタルヘルスリスクや育休取得をバッファとして計画に組み込むことで、計画が崩れにくい組織になります。

とはいえ、専任人事がいない環境でこれらをゼロから整備するのは、日々の業務と並行しながらでは簡単ではありません。ウェルセンス株式会社では、メンタルヘルス対応・休職復職支援にとどまらず、人材計画の整備や経営戦略との連動についても中小企業の実態に合わせてご支援しています。「何から手をつければいいかわからない」という段階からでも、まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 人材ポートフォリオの設計は、何名規模の企業から取り組むべきですか?

A. 従業員10名を超えたあたりから、属人的な「なんとなく採用」では対応しきれなくなるケースが増えます。20〜50名規模の成長企業では特に、急拡大に人材計画が追いつかないリスクが高まるため、早めに取り組むことをお勧めします。規模が小さいうちほど、シンプルなフォーマットで始めやすいというメリットもあります。

Q. スキルマップを作ったことがないのですが、どこから始めればよいですか?

A. まずはExcelで縦軸に社員名、横軸に「現在の主な業務で必要なスキル5〜10項目」を並べ、習熟度を「できる・一部できる・できない」の3段階で記入するだけで十分です。完璧なフォーマットより、とにかく「見える化」することが出発点です。作成後に3年後の必要スキルを横軸に追加すると、自然とギャップが浮かび上がります。

Q. 採用基準を明文化すると、現場から「使いにくい」と反発されませんか?

A. 現場の声を反映して人材要件を定義することが重要です。経営者だけで決めた採用基準は現場から「うちの実態と違う」と思われがちです。現場マネージャーに「この仕事で成果を出している人はどんな行動をしていますか?」とヒアリングしながら一緒に作ると、現場の納得感が高まり、面接でも評価軸がぶれにくくなります。

Q. メンタルヘルスリスクを人材計画に組み込むとはどういうことですか?

A. 簡単に言うと、「休職者が出ても計画が大きく崩れない人員バッファを持つ」ことです。たとえば20名規模なら、年間1名の休職・退職を想定して採用・育成のスケジュールを組みます。加えて、業務量が急増するタイミングに合わせて事前に1on1やストレスチェックを実施する仕組みを整えておくことで、不調の早期発見と計画の安定運用の両立が図れます。

Q. 経営計画は毎年変わるのに、3年後の人材要件を今決めても意味がありますか?

A. 人材要件は「一度決めたら変えない」ものではなく、経営計画の見直しに合わせて年1回程度アップデートするものです。重要なのは「計画を固定すること」ではなく、「経営の方向性と人材計画を常に連動させる思考習慣を持つこと」です。最初から完璧な3年計画を作る必要はなく、まず「1年後に必要な人材像」を明確にするだけでも、採用・育成の判断精度は大きく上がります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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