パートタイム試用期間なしの解雇リスクと正しい対処法

パートタイム試用期間なしの解雇リスクと正しい対処法 コンプライアンス
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「採用して数日で、この人はちょっと難しいかも…と気づいてしまった。でも契約書に試用期間を書いていなかった。もう辞めさせることはできないのだろうか」——パートタイム社員の採用直後に、こうした状況に直面する経営者・人事担当者は少なくありません。専任の人事担当がいない中小企業では、契約書の整備が後回しになりがちで、気づいたときには法的リスクを抱えたままになっているケースも多いものです。この記事では、試用期間の記載がない場合の法的リスクと、現実的な対処法をわかりやすく整理します。

「試用期間なし」で採用したパートは本当に辞めさせられないのか

結論から言えば、試用期間の記載がない有期雇用のパートタイム社員を契約期間中に解雇するのは、法的に非常に難しい状況です。ただし「絶対に不可能」ではなく、一定の条件と手順を踏めば対処できる場面もあります。

試用期間がない場合の契約の見え方

労働契約書や雇用通知書に試用期間の記載がない場合、法律上は「その契約書に書かれた契約期間どおりの有期雇用契約」が成立していると評価されます。たとえば「雇用期間:2024年4月1日〜2024年9月30日」と書かれていれば、その6ヶ月間の雇用が約束された契約です。期間の途中で会社側から一方的に終了させることは「中途解雇」に該当し、厳しい法的要件を満たさなければなりません。

試用期間を口頭で伝えただけでは有効にならない

「入社前に”最初の1ヶ月は試用期間です”と話していた」というケースは珍しくありません。しかし、労働基準法第15条および労働基準法施行規則第5条では、試用期間を含む労働条件は書面で明示する義務があります。口頭のみの合意では、後日「そんな話は聞いていない」と言われたとき、会社側が試用期間の存在を証明することができません。これは単なる記載漏れではなく、法的な書面明示義務違反にもなり得ます。

「試用期間中は自由に解雇できる」という誤解が最大の落とし穴

仮に試用期間を正しく書面で定めていたとしても、「試用期間中は理由なく解雇できる」というのは誤解です。最高裁判所昭和48年の三菱樹脂事件判決において、試用期間中の本採用拒否にも解雇権濫用の法理(労働契約法第16条)が類推適用されると示されています。試用期間は「通常の解雇よりも広い余地がある」というものであり、完全に自由というわけではありません。

有期雇用の中途解雇に必要な「やむを得ない事由」とは

有期雇用の契約期間中に解雇を行うには、労働契約法第17条第1項が定める「やむを得ない事由」が必要です。この基準は無期雇用(正社員)の解雇よりも厳格とされており、「なんとなく合わない」「期待していたスキルに届かない」という理由では認められません。

「やむを得ない事由」として認められやすいケース・認められにくいケース

区分 具体例 判断の傾向
認められやすい 無断欠勤が継続している/重大な服務規律違反(横領・暴力など)/業務そのものが成立しないレベルの著しい能力不足 客観的事実として記録が残せる場合に限り有効になりやすい
認められにくい 「雰囲気が合わない」「思ったより仕事が遅い」「コミュニケーションが気になる」 主観的・抽象的な理由は解雇理由として不十分とみなされるリスクが高い

「やむを得ない事由」を主張するために必要な記録

問題行動があった場合でも、記録がなければ会社側の主張を裏付けることができません。具体的には、指導を行った日時・内容・本人の反応をメモとして残す、口頭注意だけでなく書面で注意指導を行う、複数の管理者が同じ認識を持っていることを確認しておく、といった対応が重要です。採用後すぐに問題に気づいた時点から、こうした記録を積み重ねることが後々の判断を守ります。

中途解雇を避け、契約満了を活用するという考え方

有期雇用であれば、契約期間の満了という手段があります。契約更新をしないことは「雇い止め」と呼ばれ、解雇とは法的に異なります。雇い止めにも一定のルール(雇用継続への期待が高い場合は合理的理由が必要)はありますが、初回の短期契約であれば中途解雇よりも紛争リスクはずっと低くなります。「今すぐ辞めさせなければならない」状況でなければ、まず契約満了まで適切に対応し、更新しない選択をとることが現実的です。

試用期間を書き忘れた場合、今からできる対処

契約書への試用期間記載を忘れていた場合でも、状況によっては対処できる手段があります。ただし「後から不利な条件を一方的に押しつける」形は絶対に避けなければなりません。

合意退職という最もリスクの低い解決策

本人が「自分も合っていないと感じている」「早めに辞めたい」という意向を持っている場合、合意退職が最もトラブルリスクの低い選択です。合意退職とは、労使双方が合意の上で雇用契約を終了させるものです。この場合、会社からの解雇ではないため、解雇権濫用の問題は生じません。ただし、後から「辞めるよう強要された」と言われないよう、本人の自由意思であることを書面(退職合意書)で確認することが重要です。

契約書の書き直しは「押しつけ」にならないよう慎重に

試用期間の記載漏れに気づいた段階で、改めて合意のもと契約書を締結し直す方法もあります。ポイントは「書き換え」ではなく、本人の合意を得た上で新たな書面を作ることです。ただし、採用後に「やっぱり試用期間があります」と一方的に伝える形は、本人にとって不利な条件の追加とみなされ、合意の有効性が争われるリスクがあります。この方法をとる場合は、必ず社労士・弁護士に相談の上、進めることを強くお勧めします。

今後の採用に向けて契約書を整備する

現在進行中の問題への対処と並行して、今後の採用に向けた整備も欠かせません。試用期間の明示、解雇事由・服務規律の明記、2024年4月施行の労働基準法施行規則改正で強化された有期雇用への労働条件明示義務(更新上限・無期転換ルール・就業場所の変更範囲など)への対応——これらを一度に整備しておくことで、次回以降のリスクを大きく下げることができます。

状況別・パートタイム社員への対応フローの考え方

「採用後すぐに問題が発覚した」といっても、状況はさまざまです。会社の規模・就業規則の有無・問題の種類によって、適切な対応は異なります。

就業規則がある場合とない場合の違い

常時10人以上の労働者を使用する事業場は就業規則の作成・届出が義務づけられています(労働基準法第89条)。就業規則がある場合は、そこに定められた解雇事由・手続きに従うことが基本です。就業規則がない場合、解雇の判断基準が曖昧になり、かえって労働者側に有利に解釈される可能性があります。まず自社の就業規則の有無と内容を確認することが最初のステップです。

初回契約の短期パートと長期継続パートでは対応が変わる

採用後間もない初回の短期契約(例:3ヶ月)と、複数回更新を重ねた長期パートでは、法的な位置づけが大きく異なります。長期継続しているパートは「雇用継続への合理的な期待」が形成されているとみなされやすく、雇い止めにも合理的な理由が求められます(労働契約法第19条)。一方、初回の短期契約であれば、期間満了時に更新しない判断は比較的とりやすい立場です。「いつから働いているか」「何回更新しているか」をまず確認してください。

問題行動がある場合の初動対応

無断欠勤・指示無視・他スタッフとの深刻なトラブルなど、明確な問題行動がある場合は、初動の対応が後々の判断を左右します。まず口頭で注意・指導を行い、その記録を残します。次に、改善を求める書面を交付し、改善期間を設けます。それでも状況が変わらない場合に初めて、退職勧奨や雇い止めの検討という流れをとることが、紛争リスクを下げる実務的な手順です。最初から「辞めさせる方法」を探すのではなく、指導と記録のプロセスを経ることが重要です。

パワハラ・不当解雇リスクを避けるための実務的な注意点

「辞めてほしい」という気持ちをそのまま言動に出してしまうと、パワハラや不当解雇として訴えられるリスクが生まれます。意図と行動を分けて、適切なプロセスをとることが経営者・人事担当者の役割です。

退職勧奨と強要の境界線

退職勧奨とは、会社が労働者に対して自発的な退職を求めることです。これ自体は違法ではありませんが、断られた後も繰り返し迫る、「辞めなければ配置転換する」と脅す、大勢の前で退職を迫るといった行為は、強迫・パワーハラスメントとみなされる可能性があります。退職勧奨を行う場合は、一対一の場で一度だけ丁寧に伝え、返答は本人に委ねる形をとることが基本です。

「合わない」を理由に記録なしで解雇するリスク

記録も指導のプロセスもなく、主観的な「合わない」だけを理由に解雇した場合、不当解雇として労働審判・裁判に発展するリスクがあります。仮に解雇が認められなかった場合、未払い賃金の支払いや職場復帰命令が出る可能性もあります。中小企業にとってこのリスクは事業運営に直接影響するため、「その場で何とかしたい」という焦りがあっても、適切なプロセスを踏むことが長い目で見たコスト削減につながります。

まとめ

パートタイム社員の契約書に試用期間の記載がない場合、契約期間中の解雇は「やむを得ない事由」がなければ法的に認められません。試用期間を口頭で伝えただけでは有効な合意とは言えず、書面明示義務違反のリスクも生じます。採用後すぐに問題に気づいた場合は、まず指導・記録のプロセスを踏み、合意退職や契約満了(雇い止め)といった紛争リスクの低い方法を検討することが現実的です。また、今後の採用に向けて契約書・就業規則を整備しておくことが、同じ問題の再発を防ぐ根本的な対策になります。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務人事担当者の方々からの、労務管理や雇用トラブルに関するご相談をお受けしています。「自社の契約書が正しいか確認したい」「今起きている問題をどう収めればいいかわからない」という段階から、一緒に整理していきます。まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 契約書に試用期間を書いていませんでした。今からでも追記できますか?

A. 一方的に追記・書き換えることはできません。本人の合意を得た上で新たな書面を締結し直す形であれば可能な場合もありますが、本人にとって不利な条件の追加とみなされると合意の有効性が争われるリスクがあります。必ず社労士・弁護士に相談した上で進めることをお勧めします。

Q. 採用して3日で「全く仕事にならない」と判断しました。すぐに解雇できますか?

A. 試用期間の記載がない有期雇用の場合、3日間での解雇は労働契約法第17条の「やむを得ない事由」を満たすことが難しく、不当解雇とみなされるリスクが高いです。まず口頭での指導と記録から始め、合意退職の可否を確認するプロセスをとることが現実的です。

Q. パートタイム社員にも試用期間は設定できますか?

A. 設定することは可能ですが、有期雇用の場合は契約期間とのバランスが重要です。たとえば3ヶ月の有期契約に対して2ヶ月の試用期間を設けるといったケースは、実質的な雇用保護を著しく損なうとして問題になり得ます。設定する場合は、労働契約書・雇用通知書への書面明示が義務であり、契約期間との整合性も確認が必要です。

Q. 問題のあるパートタイム社員を辞めさせたいとき、退職勧奨はしてもいいですか?

A. 退職勧奨自体は違法ではありません。ただし、断られた後も繰り返し迫る、不利益をちらつかせるといった行為はパワーハラスメントや強迫とみなされます。一対一の場で一度だけ丁寧に伝え、返答は本人に委ねることが基本です。また、退職勧奨を行った事実と本人の回答を記録として残しておくことも重要です。

Q. 雇い止めと解雇は何が違うのですか?

A. 解雇は契約期間の途中で会社側が一方的に雇用を終了させることで、厳しい法的要件が課されます。雇い止めは有期雇用の契約期間が満了した際に更新しないことで、解雇とは法的に異なります。ただし、長期継続・複数回更新されたパートタイム社員の雇い止めには「合理的な理由」が必要とされる場合があります(労働契約法第19条)。初回・短期の契約であれば雇い止めのリスクは相対的に低くなります。

【監修】ウェルセンス株式会社
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