メンタル不調の対応に迷ったら|安全配慮義務と職場環境整備の基本

メンタル不調の対応に迷ったら|安全配慮義務と職場環境整備の基本 コンプライアンス
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「メンタル不調の社員にどう対応すればよかったのか」「何かあったとき、会社は責任を問われるのか」——そんな不安を抱えながらも、日々の業務に追われて後回しにしてしまっている経営者・人事担当者は少なくありません。専任人事がいない中小企業ほど、安全配慮義務への対応が属人的になりがちです。この記事では、メンタルヘルス対応における安全配慮義務の基本と、いざというときに会社を守る「記録の残し方」を実務視点で解説します。

安全配慮義務とメンタルヘルスの関係を正しく理解する

法律が定める「会社の義務」とは何か

安全配慮義務とは、会社が従業員の生命・身体・精神の健康を守るために必要な配慮をする義務のことです。根拠となるのは労働契約法第5条で、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と明記されています。

重要なのは、この義務が身体的な安全にとどまらず、精神的健康(メンタルヘルス)も対象に含まれる点です。平成12年の電通事件最高裁判決では、過重労働によってうつ病を発症し自殺した社員について、会社の安全配慮義務違反が認定されました。この判決以降、メンタルヘルスは「安全配慮義務の中核」として位置づけられています。

義務違反が問われる3つの要件

実際に裁判や労働審判で会社の責任が問われる場面では、次の3点が判断基準になります。まず「予見可能性」として、会社が従業員の不調や危険を事前に知り得たかどうかが問われます。次に「結果回避可能性」として、予見できた状況で適切な対処ができたかどうかが確認されます。そして「措置の相当性」として、実際に取った対応が社会通念上「十分」といえるかが評価されます。

言い換えれば、「知っていたのに何もしなかった」「気づけたはずなのに放置した」という状態が、最もリスクの高い状況です。逆に言えば、気づいて・動いて・記録に残す、この流れを徹底することが安全配慮義務を果たす基本になります。

中小企業も例外ではない

「うちくらいの規模では訴えられないだろう」という感覚をお持ちの経営者も多いですが、安全配慮義務違反による損害賠償請求は20~50名規模の中小企業でも実際に起きています。判決では数百万~数千万円規模の賠償命令が出るケースもあります。規模の大小にかかわらず、従業員と雇用契約を結んでいる限り、会社には安全配慮義務が生じます。

メンタル不調のサインを見逃さない

よくある初期サインと見落としのパターン

メンタル不調は突然始まるわけではなく、多くの場合、事前にいくつかのサインが現れます。遅刻・欠勤・早退の増加、ミスや物忘れが目立つようになる、表情が暗くなる、口数が減る——こうした変化に気づいていても、「様子を見よう」「本人から言ってくれるまで待とう」と放置してしまうケースは非常に多いです。

上司が「声をかけたらハラスメントと言われそう」と躊躇するケースも増えています。しかし、不調のサインに気づいてから対応するまでに時間がかかるほど、症状は悪化しやすくなります。会社として「気づいたら動く」文化をつくることが、休職や離職を防ぐ最初の一手です。

「声かけ」も立派な安全配慮

上司が不調に気づいて声をかけること、産業医や保健師への相談を勧めること、一時的に業務量を調整すること——これらはすべて安全配慮義務の「実践」にあたります。専門的な知識がなくても、こうした日常的なアクションが法的な評価につながります。

たとえば「先週から元気がなさそうに見えるけど、最近業務はしんどくないですか?」という一言でも、記録に残しておけば「会社として気づいて対応した」証拠になります。声かけをためらわず、かつ記録に残す習慣が重要です。

ストレスチェックを「やりっぱなし」にしない

実施だけでは義務を果たしたことにならない

ストレスチェック制度は、労働安全衛生法第66条の10に基づき、従業員50名以上の企業では年1回の実施が義務となっています。50名未満の企業は現在、努力義務とされていますが、2026年度以降に義務化される方針が示されており、早めの準備が望まれます。

ここで多くの企業が陥るのが「実施したから大丈夫」という思い込みです。ストレスチェックは実施して終わりではなく、高ストレスと判定された従業員への医師による面接指導の勧奨と、その結果を踏まえた職場環境の改善までが義務のセットです。チェックの結果を活かした対応がなければ、「実施した」という事実があっても安全配慮義務を果たしたとは言えません。

面談記録と改善アクションを残す

高ストレス者への面接指導を行った場合は、面談の日時・参加者・話し合った内容・その後の対応方針を必ず記録に残してください。産業医に面談を依頼した事実、本人に面接指導を勧奨した記録も同様です。

職場環境の改善についても、「検討した」「上司に伝えた」だけではなく、「いつ・誰が・何を・どう変えたか」を文書化することが重要です。たとえ小さな改善であっても、記録として積み上げることで「会社として継続的に取り組んでいる」姿勢を示せます。

休職前後に残すべき記録と対応の流れ

休職に至るまでのプロセスを文書化する

社員が体調不良で休職に入る前後のプロセスは、後々トラブルになりやすいポイントです。口頭でのやり取りだけで進めていると、「会社から説明を受けていない」「何も対応してもらえなかった」と言われたとき、反論する証拠がなくなります。

具体的には、まず不調のサインに気づいた日時と内容をメモしておきます。次に産業医や保健師への相談・面談勧奨を行った記録、本人に対して行った業務軽減や配置転換などの配慮内容とその根拠を記録します。診断書を受領した日時と対応の記録、休職命令を出す際の書面なども必ず残してください。

休職中の連絡ルールを書面で合意する

休職期間中、会社と本人の間で「どのくらいの頻度で連絡を取るか」「誰が窓口になるか」「給与・社会保険の扱いはどうなるか」といったルールをあらかじめ取り決めておくことが重要です。これを口頭だけで済ませると、後から「そんな取り決めは聞いていない」「連絡が多すぎてプレッシャーになった」といったトラブルに発展することがあります。

休職開始時に、連絡頻度・復職の条件・休職期間の上限などを書面にして本人に渡し、署名または受領確認をもらうのがベストプラクティスです。形式は難しく考える必要はなく、A4一枚の確認書でも十分機能します。

復職判定のプロセスも記録に残す

復職時は「本人が元気になったから戻す」ではなく、産業医の意見書や主治医の診断を踏まえた組織としての判断プロセスが必要です。誰が・いつ・どんな情報をもとに復職可否を判断したかを記録しておくことで、仮に再発や退職に至った場合でも「会社として適切な手続きを踏んだ」ことが証明できます。

ハラスメント対応と安全配慮義務は切り離せない

パワハラが原因のメンタル不調は二重の責任が生じる

パワーハラスメントや長時間労働が原因でメンタル不調が発生した場合、会社はパワハラ防止法(労働施策総合推進法)違反と安全配慮義務違反の両方を問われる可能性があります。「ハラスメント相談窓口を設置しているから大丈夫」という認識では不十分で、実際に相談があった際の対応記録・調査プロセス・加害者への指導・再発防止策の実施までが一体で求められます。

窓口を設けているだけで、相談が来ても記録もなく、調査も行わず、加害者への指導も口頭だけで終わっている——そういった状態は、ないよりはましかもしれませんが、法的なリスクは依然として高いままです。

対応記録が「会社の誠実さ」を証明する

ハラスメント案件が発生した場合、会社が取るべきアクションを時系列で記録することが不可欠です。相談を受けた日時と相談内容の概要、事実確認のためにヒアリングした日時と相手、調査の結果と判断の根拠、加害者に対して行った指導・処分の内容と日時、再発防止策の具体的な内容——これらをすべて文書として残すことが、後のトラブルに備える最大の防御になります。

「会社として真剣に向き合った」という記録の積み重ねが、裁判や労働審判の場で会社の誠実さを示す証拠になります。

今日から始める職場環境整備の実践ポイント

まず「記録する習慣」をつくる

完璧な規程や制度を整えることより先に、「気づいたことをその日のうちにメモに残す」習慣をつくることが現実的な第一歩です。特別なシステムは不要で、日付・出来事・対応内容を記したテキストファイルやGoogleドキュメントでも機能します。重要なのは、「やった」という事実が後から確認できる形で残ることです。

たとえば「〇月〇日、Aさんの遅刻が続いているため上司の山田が面談。本人より睡眠が取れていないとの申告あり。産業医面談を勧奨した」——こうした短いメモが積み重なることで、万一のときに会社の対応を証明できます。

36協定の範囲を超えた残業に注意する

36協定(時間外・休日労働に関する労使協定)で定めた上限を超えた残業が常態化している場合、それ自体が安全配慮義務違反の根拠になり得ます。労働時間の記録を正確に取り、月ごとに時間外労働の状況を把握する仕組みを整えることは、メンタルヘルス対応の土台です。「忙しい時期だから仕方ない」で流さず、長時間労働が続く社員には積極的に声をかけ、必要であれば業務分担の見直しを行ってください。

外部専門家との連携を視野に入れる

産業医の選任義務は50名以上の企業ですが、50名未満でも産業医や社会保険労務士、EAP(従業員支援プログラム)などの外部専門家と連携することは有効な安全配慮の一つとして認められます。専任人事がいない企業ほど、一人で抱え込まずに外部の知見を活用することが、適切な対応と記録を残すための現実的な方法です。

まとめ

安全配慮義務は「何か大きな対策をしなければならない」というものではなく、日々の気づき・声かけ・記録の積み重ねが核心です。メンタル不調のサインを見逃さず、動いた事実を記録に残し、休職・復職のプロセスを書面で管理する——この流れを地道に続けることが、会社と社員の双方を守ることにつながります。

「うちはまだ大丈夫」と思っている間に、対応が後手に回ってしまうケースは中小企業に多く見られます。ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない成長企業のメンタルヘルス対応・休職復職支援・労務管理の課題について、実務に沿った形でご相談をお受けしています。「自社の安全配慮義務への対応が十分かどうか確認したい」「何から手をつければいいかわからない」という段階からでも、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 従業員が50名未満でも、安全配慮義務は適用されますか?

A. はい、適用されます。安全配慮義務は労働契約法第5条に基づくもので、従業員数に関わらず、雇用契約を結んでいるすべての企業に課せられます。ストレスチェックの実施義務(50名以上)とは別物ですので、小規模企業だからといって安全配慮義務が免除されるわけではありません。

Q. 上司が「大丈夫?」と声をかけた事実は記録に残す必要がありますか?

A. 残しておくことを強くお勧めします。口頭でのやり取りは後から証明できません。「いつ・誰が・何を伝えたか・どんな反応だったか」を簡単なメモでも記録しておくことで、会社が適切に気づいて対応した事実を示せます。裁判や労働審判の場では、こうした日常的な記録が重要な証拠になります。

Q. ストレスチェックを実施しましたが、高ストレス者が誰も面接指導を希望しませんでした。それでも会社の義務は果たせていますか?

A. 面接指導の勧奨を適切に行い、本人が希望しなかった場合は、その事実を記録に残しておくことが重要です。「勧奨した」という記録がなければ、安全配慮義務を果たしたとは言えません。また、面接指導の有無にかかわらず、職場環境の改善に向けた取り組みも並行して行う必要があります。

Q. 休職中の社員への連絡は、どのくらいの頻度が適切ですか?

A. 頻度に法律上の明確な基準はありませんが、月1回程度の状況確認が一般的です。重要なのは、休職開始時に本人と連絡頻度・方法・窓口を書面で合意しておくことです。連絡が多すぎてプレッシャーになったり、逆に全く連絡がなく不安を感じさせたりしないよう、双方が納得できるルールをあらかじめ決めておきましょう。

Q. パワハラの相談窓口を設置しているだけでは不十分ですか?

A. 窓口の設置は安全配慮義務の出発点にすぎません。実際に相談があった場合に、事実確認・調査・加害者への指導・再発防止策の実施・それらの記録化までが一体で求められます。窓口があっても機能していなければ、安全配慮義務違反やパワハラ防止法違反を問われるリスクは残ります。相談対応の手順を事前にマニュアル化しておくことをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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