「今年のMVP表彰、休職中の○○さんはどうしよう…」——会議室でそう口にしたとき、場が一瞬静まり返った。外すのが正しいのか、含めるべきなのか。どちらを選んでも何かが引っかかる。専任の人事担当がいない中小企業では、こうした判断を誰も教えてくれないまま、経営者や兼務担当者が一人で抱え込むことになりがちです。
この記事では、休職・復職中の社員の評価と表彰制度について、法的リスク・実務判断・本人への伝え方を整理し、「会社も本人も納得できる選考」に向けた考え方をお伝えします。
休職・復職社員を表彰対象から外すことは差別になるのか
結論から言えば、一律に「外す=差別」でも「含める=正解」でもありません。判断の根拠と手順が整っているかどうかが、法的リスクを左右します。
メンタル不調と障害者差別解消法の関係
メンタル不調が「精神障害」として認められる状態にある社員(精神障害者保健福祉手帳の有無は問いません)に対して、合理的な理由なく不利益な取扱いをすることは、障害者差別解消法および障害者雇用促進法における「不当な差別的取扱いの禁止」に抵触する可能性があります。評価・表彰の選考対象から外すことが「不利益取扱い」に当たるかどうかは、その理由と根拠が問われます。
一方、「評価期間中に稼働実績がなかった」「業務範囲が限定されており比較対象として適切でない」といった客観的な理由に基づく区別は、「合理的な理由のある区別」として不当差別には当たらないとされています。感情論ではなく、事実に基づいた判断軸を持つことが重要です。
時短復職が育児・介護に関連する場合の注意点
復職後に時短勤務をとっている社員について、その理由が育児である場合は育児・介護休業法第23条の2が適用されます。同条は、育児短時間勤務中の社員を評価や賞与において不利益に取り扱うことを禁じており、「時短だから対象外」という判断は法令違反になり得ます。復職の背景を確認したうえで、適用される法令の範囲を見極めてください。
安全配慮義務として「外す」ことが正当化される場面
労働契約法第5条に定める安全配慮義務の観点から、「復職途上の社員に表彰選考というプレッシャーをかけないための配慮」として選考から外す判断が合理的と評価される場合があります。ただしこれが認められるためには、会社が一方的に決めるのではなく、本人に意向を確認したうえで判断するプロセスが必要です。本人が「参加したい」と希望している場合に会社側だけで除外することは、配慮ではなく不利益取扱いとみなされるリスクがあります。
「配慮のつもりが差別」になる落とし穴
善意の対応が、本人に深刻なダメージを与えるケースがあります。特に復職途上にある社員への伝え方は、内容以上にプロセスが重要です。
説明なき除外が引き起こすもの
「傷つけたくないから選考に含めなかった」という会社の善意が、当事者には「自分は評価されない存在だと思われている」と受け取られることがあります。休職・復職中は自己評価が低下しやすい時期であり、周囲が何も言わずに自分だけ外されたという事実は、回復途上の精神状態に想定以上の影響を与える場合があります。少人数の職場では「誰が表彰されたか」が全社員に伝わりやすく、説明がなければ孤立感はさらに増します。
「今回だけ」の個別対応が慣行になるリスク
明文化されないまま個別判断を続けると、「前回もそうだったから」という慣行が生まれます。後になって制度を変えようとしたとき、「権利の縮小」とみなされてトラブルになることがあります。今回の判断は、制度の明文化に向けた整理のきっかけとして捉えることをお勧めします。
🔗 判断の根拠が不十分な場合や、本人への対応に不安がある場合は、専門家に相談することで後のトラブルを防ぐことができます。 →
判断基準の考え方
「外すか・含めるか」の二択で悩む前に、判断の根拠となる基準と確認すべきプロセスを整理することが先決です。
評価期間中の稼働実績を軸にする
最も合理的な判断軸は、「評価期間中に通常勤務に相当する実績データが揃っているかどうか」です。たとえば、評価対象期間の大半を休職していた社員については、「業績を比較・評価するための実績が存在しない」という客観的な事実に基づいて選考対象外とすることができます。一方、復職後に一定期間フルタイムまたはそれに準じた稼働をしていた社員については、その期間の実績を対象に評価することが合理的です。
本人への意向確認を必ずプロセスに入れる
会社が一方的に決定するのではなく、本人に対して「今回の表彰選考について、参加の意向を確認させてください」と伝えることが重要です。本人が「辞退したい」と希望すれば選考から外すことに問題はなく、「参加したい」と希望すれば原則として選考に含めます。この確認プロセスを踏むことで、判断の恣意性を排除し、後のトラブルを防ぐことができます。確認した事実と本人の回答は、口頭でなく記録に残しておくことをお勧めします。
自社の状況別チェックポイント
| 状況 | 確認すべき点 |
|---|---|
| 就業規則・評価規程がある | 選考対象者の要件が明記されているか確認する。記載がなければ今回を機に整備する |
| 就業規則はあるが表彰規程がない | 今回の判断基準を文書化し、次回以降の運用ルールの原案とする |
| 産業医と連携している | 復職中の社員の稼働状況・負荷の許容範囲について産業医の見解を参考にする |
| 産業医がいない(30人未満等) | 主治医意見書や復職支援計画書を参考に、本人の状態を把握したうえで判断する |
本人への伝え方
どれだけ合理的な判断であっても、伝え方を誤れば本人の信頼を失います。伝えるべき内容と、伝える順番を意識することが大切です。
伝える順番と言葉の選び方
まず、今回の選考に関して意向を確認する場を設けます。「プレッシャーをかけるつもりはないのですが、今回の表彰選考についてお気持ちを聞かせていただけますか」という入り方が自然です。次に、会社として設けている選考基準(評価期間中の稼働実績など)を説明し、「あなたを評価していないのではなく、今の状況を踏まえた判断である」という点を明確に伝えます。最後に、本人の意向を確認してから最終判断を行う、という順番を守ることで、会社の誠実さが伝わります。
少人数職場では「周囲への伝え方」も設計する
20〜50名規模の職場では、「誰が表彰されたか」「誰が対象外だったか」はすぐに全員に伝わります。表彰された社員を発表する際には、選考基準や対象者の要件をあわせて共有することで、「なぜあの人が対象外なのか」という憶測や不公平感を生まれにくくすることができます。個人の状況には踏み込まず、制度の説明という形で行うことがポイントです。
経営者・現場リーダー間で伝え方を統一する
専任人事がいない環境では、社長が本人に伝えた内容と、現場マネジャーが別の機会に伝えた内容がズレることがあります。「社長はOKと言っていたのに、マネジャーから外れると聞かされた」というケースは、本人の不信感を一気に高めます。伝える内容・役割分担・タイミングを事前に統一してから対応してください。
判断の根拠が不十分な場合や、本人への対応に不安がある場合は、専門家に相談することで後のトラブルを防ぐことができます。
制度として整備するための具体的なアクション
今回の対応を「場当たり的な判断」で終わらせないために、制度として整備することが中長期的な組織の安定につながります。
表彰・評価規程に「対象者要件」を明記する
選考対象者の要件として、たとえば「評価対象期間において、通常勤務または復職後の勤務形態で一定期間以上稼働していること」という基準を明文化します。具体的な稼働率や期間の設定は会社の規模・制度に合わせて設計してください。要件を規程に落とし込むことで、毎回の判断を属人的な裁量から切り離すことができます。
意向確認と判断記録のフローを作る
本人への意向確認→上長・担当者との協議→最終判断→本人への結果説明、という一連のフローを文書化しておくと、担当者が変わっても同じ対応ができます。確認記録は紙またはデータで保存し、後からトラブルになったときの根拠として活用できる状態にしておきます。
まとめ
休職・復職中の社員を表彰対象から外すことは、理由と手順が整っていれば必ずしも差別にはなりません。一方で、説明なき除外・一方的な判断・伝え方のミスは、法的リスクと本人の精神的ダメージの両方を招きます。
大切なのは「外すか・含めるか」の二択ではなく、以下の3つのプロセスを踏むことです。
- 客観的な基準の設計
- 本人への意向確認
- 組織内での伝え方の統一
また、今回の判断を規程の整備につなげることで、次回以降の属人的な判断を減らすことができます。
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よくある質問
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