休職申請を拒否したい会社が知るべき法的リスクと対応策

休職申請を拒否したい会社が知るべき法的リスクと対応策 メンタルヘルス対応
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「診断書を持ってきたけど、今この時期に休まれたら本当に困る」——そう思いながらも、どう対応すればいいか判断がつかない。休職申請を受け取った経営者・人事担当者の多くが、まさにこの瞬間に迷います。

拒否したらどうなるのか。認めるにしても条件はつけられるのか。就業規則に規定がなければ断れるのか。こうした疑問に、法的リスクと実務的な対応策の両面から答えていきます。特に欠員が出ると業務が回らない20~50名規模の企業こそ、正確な知識を持って対応することが、会社と従業員の双方を守ることにつながります。

休職申請を会社は拒否できるのか

結論から言えば、医師の診断書が提出されている状況での一方的な拒否は、法的リスクが非常に高い対応です。「拒否できるか/できないか」という二択で考える前に、なぜ拒否が危険なのかを理解しておく必要があります。

直接禁止する法律はないが、安全配慮義務が問題になる

「休職申請を拒否してはいけない」と明記した法律は、実は存在しません。しかし、労働契約法第5条が定める「安全配慮義務」が大きな壁となります。使用者は労働者の生命・身体・健康に配慮する義務を負っており、医師が「療養が必要」と診断した従業員を就労継続させ、症状が悪化した場合は安全配慮義務違反として損害賠償請求を受けるリスクがあります。

重要なのは、「休職を認めなかった行為」そのものより、「認めなかった結果として健康被害が生じたこと」が法的に問われる点です。

「会社が認める場合」という就業規則の文言だけでは拒否できない

就業規則に「会社が認めた場合に休職を命ずる」と記載されているケースでは、「うちは会社の判断で断れる」と考える経営者が少なくありません。しかし裁判例上、この文言があっても会社の裁量は無制限ではないと解されています。医師の診断書が出ている状況での恣意的な拒否は、安全配慮義務違反・不法行為(民法第709条)として争われる可能性があります。

「就業規則にそう書いてあるから」という主張は、裁判所では通りにくいと認識しておきましょう。

休職制度がない会社はどうなるか

「うちには休職制度自体がないから、申請されても無効」と考えるケースがあります。休職制度がないこと自体は違法ではありませんが、だからといって就業不能な従業員を出勤させ続けられるわけではありません。制度がない状態で申請を拒否し、症状が悪化すれば安全配慮義務違反が問われます。むしろ制度がないこと自体が、トラブル時に会社の管理体制の問題として指摘される材料になります。

拒否した場合に会社が直面する法的リスク

休職申請を拒否することで、会社はいくつかの深刻なリスクにさらされます。どのようなリスクが連鎖するかを把握しておくことが、適切な判断の前提になります。

安全配慮義務違反による損害賠償

医師が療養を要すると診断しているにもかかわらず就労を継続させ、症状が悪化した場合、従業員または遺族から損害賠償請求を受けるリスクがあります。精神疾患の悪化や最悪の事態につながった場合、賠償額は多額になり得ます。中小企業にとってこのリスクは経営に直結する問題です。

不当解雇リスクと労働紛争への発展

休職を認めずにそのまま解雇・退職勧奨に進んだ場合、労働契約法第16条が規定する「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」を満たさないとして、不当解雇と認定される可能性が高まります。メンタル不調を理由とする解雇はもともとハードルが高く、休職というプロセスを経ずに解雇すると、裁判所での判断はさらに会社に不利になります。

実務上は「休職 → 復職可否の確認 → 退職」という手順を踏むことが、会社側にとっての安全な対応とされています。

労災認定との関係で会社の責任が明確になるリスク

業務に起因するメンタル不調(過重労働、ハラスメント等)であると認められた場合、労働基準法第19条により、療養期間中の解雇は原則禁止されます。さらに、休職申請を拒否して症状が悪化し、その後に労災申請へ発展すると、申請拒否という行為自体が会社の管理責任を問う証拠として使われることになります。ハラスメント問題の直後など、タイミングが重なるケースでは特に注意が必要です。

申請が認めにくい状況での現実的な対応策

「完全に認めるのも困るが、完全に拒否するのもリスクがある」——そう感じる状況では、条件付き承認や段階的な対応という選択肢があります。ただし、これらは適切な範囲内で実施しないと、かえってリスクになります。

条件付き承認という選択肢

完全な拒否ではなく、「短時間勤務・業務軽減での様子見期間を設けた上で休職可否を再判断する」「休職期間の上限や復職条件を事前に文書で合意する」といったアプローチが有効な場合があります。これは安全配慮義務を果たしながら、業務継続とのバランスを取る方法です。

ただし重要な前提があります。医師が「即座に療養が必要」と明示している場合に段階的対応を強いることは、安全配慮義務違反になりかねません。条件付き承認は、医師の指示内容と本人の病状に照らして合理的な範囲に限られます。

産業医・会社指定医による意見聴取を活用する

主治医の診断書は、患者(従業員)の申告をもとに作成される部分が多く、就業可否の客観的判断として使うには限界があります。会社は産業医や会社指定医による「就業可否判断」を就業規則に定めておくことで、会社側の見解を公式記録として残せます。

ただし、これは「拒否するための手段」ではありません。あくまで、就業継続が可能かどうかを客観的に判断するための仕組みです。産業医の意見が「療養が必要」となれば、それに沿って対応することが求められます。

産業医の選任義務(常時50人以上の事業場)がない規模の企業でも、地域の産業保健総合支援センターを活用することができます。

欠員対応と業務分担の事前整備

「一人が抜けると業務が回らない」という切実な状況は、20~50名規模の企業では特に深刻です。しかし、それは休職申請を拒否する法的根拠にはなりません。欠員リスクへの対応は、休職申請を受けてからではなく、日常的な業務分担の見直しや、休職者が出た場合の対応フロー(業務引継ぎ手順、外部リソースの活用など)をあらかじめ準備しておくことで軽減できます。

会社が今すぐ整備しておくべき就業規則と運用ルール

休職申請に関するトラブルの多くは、就業規則の整備不足から生じます。申請が来てから慌てるのではなく、事前に制度を設計しておくことが最大のリスク対策です。

就業規則に明記すべき主な項目

項目 内容のポイント
休職の事由 傷病休職・精神疾患を含む疾病を明記
休職期間の上限 勤続年数に応じた期間設定が一般的
通算規定 同一・類似傷病の再休職をカウントする方法を明記
復職の条件 主治医+産業医の就業可否判断を必須とする
休職中の連絡・報告義務 月1回の状況報告など、合理的な範囲で設定
休職期間満了時の扱い 復職不能の場合の退職扱いを明確に規定

これらが整備されていないと、休職期間の終了後にも判断基準がなく、退職や解雇を検討した際に会社側の主張が弱くなります。

運用上の記録と文書管理が重要

就業規則の整備と並んで重要なのが、申請から対応までの記録を残すことです。「診断書を受け取った日時」「会社として伝えた内容」「産業医に相談した記録」「本人との面談内容」——これらを文書として残しておくことで、後に労働紛争や労災申請が発生した際に、会社が誠実に対応したことを示せます。

口頭でのやり取りだけで進めると、事実関係の認識に食い違いが生じやすく、トラブルが複雑化します。

「疑わしいケース」への対応で気をつけること

懲戒処分やハラスメント問題の直前など、タイミングが重なる申請を「意図的なもの」と疑い、対応を硬化させるケースがあります。しかしこうした状況でこそ、慎重な対応が求められます。

疑念があっても「拒否」はリスクを高める

たとえ申請のタイミングに不自然さを感じても、医師の診断書がある以上、それを一方的に無効と判断することはできません。「仮病では」という会社側の主張は、医学的根拠がなければ通りません。むしろ「疑わしいから拒否した」という事実が、後の裁判で会社に不利な材料になります。

申請と別件の問題を切り離して対応する

懲戒処分や業績評価などの別件がある場合は、休職申請への対応とは切り離して、それぞれを適切に処理することが原則です。休職中に懲戒手続きを進めることが全面的に禁じられているわけではありませんが、本人の回復を妨げるような対応は安全配慮義務の観点から問題になり得ます。このようなケースは法的判断が絡む複雑な状況ですので、専門家への相談を早めに行うことを強く推奨します。

まとめ

休職申請を一方的に拒否することは、直接禁止する法律がないものの、安全配慮義務違反・不当解雇・労災リスクといった深刻な法的問題につながる可能性があります。特に医師の診断書が提出されている状況では、拒否よりも「条件付き承認」「産業医意見の取得」「就業規則の整備」といった対応が、会社と従業員の双方を守ることになります。

「今すぐ拒否できるか」を考える前に、「どう対応すれば会社としてのリスクを最小化できるか」という視点に切り替えることが重要です。就業規則の整備状況・産業医の有無・申請のタイミングなど、状況によって取るべき対応は異なります。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務人事担当者を対象に、休職・復職対応や就業規則の整備支援、メンタルヘルス問題への実務サポートを提供しています。「自社のケースではどう判断すればいいか」という具体的な疑問をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。初回相談では、御社の状況に合わせた現実的な対応策をご一緒に考えます。

よくある質問

Q. 就業規則に休職制度がない場合、申請を断ることはできますか?

A. 休職制度がないこと自体は違法ではありませんが、だからといって医師が就業不能と診断した従業員の申請を断り、就労を継続させることはできません。症状が悪化した場合、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)として損害賠償請求を受けるリスクがあります。制度がない場合は、早急に就業規則を整備することを検討してください。

Q. 診断書の内容が曖昧で、本当に休む必要があるか判断できません。どうすればいいですか?

A. 主治医の診断書は患者の訴えに基づく部分が多く、就業可否の客観的判断として限界があります。会社は産業医や会社指定医による意見聴取を就業規則に定めることで、会社側の判断を記録として残せます。産業医の選任義務がない規模(常時50人未満)の企業は、地域の産業保健総合支援センターへの相談も活用できます。ただし、産業医意見は拒否の根拠ではなく、就業可否の客観的確認手段として機能します。

Q. 懲戒処分の直前に休職申請を出してきました。意図的な申請への対応方法はありますか?

A. タイミングへの疑念があっても、医師の診断書がある以上、一方的に「意図的だから無効」とは扱えません。「疑わしいから拒否した」という事実が後の紛争で会社に不利な材料になるリスクもあります。休職申請への対応と懲戒手続きは切り離して処理するのが原則です。このようなケースは法的判断が絡む複雑な状況ですので、弁護士や専門家への相談を早めに行うことを強く推奨します。

Q. 休職を認めたくない理由が「欠員が出ると業務が回らない」という場合、会社側の事情は考慮されますか?

A. 残念ながら、業務上の都合は休職申請を拒否する法的根拠にはなりません。ただし、医師と相談のうえ「短時間勤務・業務軽減での移行期間を設ける」といった条件付き対応が可能な場合もあります。また、欠員リスクへの備えは日常的な業務分担の見直しや引継ぎ手順の整備で軽減するのが根本的な対策です。申請が来てから考えるのではなく、事前のリスク管理として取り組むことをお勧めします。

Q. 休職後に「復職できない」と判断した場合、退職・解雇はできますか?

A. 就業規則に「休職期間満了時に復職できない場合は退職とする」と明記されていれば、規定に基づく自然退職として処理できます。ただし「復職できない」と判断するには、主治医と産業医の就業可否意見を踏まえた客観的な根拠が必要です。このプロセスを踏まずに解雇に進むと、不当解雇(労働契約法第16条)として争われるリスクがあります。就業規則への復職条件の明記が、事後トラブルを防ぐ最大のポイントです。

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【監修】ウェルセンス株式会社
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