「残業時間を正直に書いたら応募が減るかもしれない」「でも隠して採用しても早期離職につながる」――そんな板挟みに悩んでいる経営者・人事担当者の方は少なくありません。実は、残業時間の書き方ひとつで求人票への応募数と入社後の定着率は大きく変わります。本記事では、平均残業時間の正しい計算方法から、働きやすさを求人票で伝えるための具体的な言語化のコツまで、実務に即して解説します。
残業時間を正直に書くべき理由
隠すと早期離職とブランド毀損につながる
「残業なし」と書いておきながら実態は月20~30時間の残業がある――この求人票と現実のギャップは、入社後すぐに「聞いていた話と違う」という不信感を生みます。早期離職はもちろん、OpenWorkやGoogleビジネスプロフィールのクチコミに「求人詐欺」と書かれるリスクもあります。一度傷ついた採用ブランドを回復するには、新しい求人原稿を作る何倍もの時間とコストがかかります。
法律上も「正直な明示」が義務になっている
職業安定法第5条の3は、求人票や募集時に労働時間・時間外労働の有無を明示することを事業主に義務付けています。2024年4月の改正では、求人時と採用内定時で労働条件が変わる場合には変更内容を改めて明示することも厳格化されました。さらに、実態と著しく異なる「残業なし」表記は景品表示法上の優良誤認表示に該当するおそれがあり、虚偽の労働条件で求人を出した場合は職業安定法第65条により6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象になります。正直な表記は倫理的に正しいだけでなく、法律上も必須です。
「正直な求人票」は応募の質を上げる
残業時間を正確に書くと応募数が減ると心配する声をよく聞きますが、むしろ実態を知ったうえで応募してくる人材は入社後のミスマッチが少なく、定着率が上がる傾向があります。採用コストを抑えたい中小企業にとって、1人の採用にかかる費用(平均50~100万円ともいわれます)を考えれば、応募数より応募の質を高めるほうが合理的な選択です。
平均残業時間の正しい計算方法
集計期間は直近3~12か月が目安
求人票に「平均残業時間」を書くとき、どの期間を使えばよいか迷う方が多いです。一般的には直近3~12か月の月平均を使います。期間が短すぎると季節変動の影響を受けすぎ、長すぎると現在の実態から乖離する可能性があるため、直近6か月を基本とし、繁忙期を含む場合は12か月で算出するのがバランスが取れています。
全社平均ではなく部署・職種単位で算出する
全社の残業時間を単純に平均すると、残業の少ない部署と多い部署が混在して実態が見えにくくなります。たとえば営業職は月30時間、バックオフィスは月10時間という場合、全社平均の「月20時間」を書くと営業職には実態より少なく、バックオフィスには多く伝わってしまいます。職種ごとに分けて計算し、求人票もポジション別に用意するのがベストです。
繁閑の差が大きい場合は「期別表記」が誠実
季節性ビジネスや決算・繁忙期に集中して残業が発生する業種では、「繁忙期:月40時間、通常期:月15時間」のように分けて表記することで、応募者に正確なイメージを持ってもらえます。この表記は正直さのシグナルとして機能し、「ちゃんと開示している会社」という信頼感にもつながります。なお、36協定(労働基準法第36条)では月45時間・年360時間が原則上限のため、求人票に書く数字がこの範囲を超えないかも必ず確認しましょう。
求人票への残業時間の書き方:良い例・悪い例
幅が広すぎる表記は応募者を不安にさせる
「残業あり(月0~80時間)」という表記をよく見かけますが、これは応募者に最悪のケースを想像させてしまいます。上限の80時間が頭に残り、「ほぼ過労死ライン(月80~100時間)に近い」と感じた応募者はエントリーを控えます。実態が月平均20時間であっても、この書き方では損をしていることになります。
具体的な数字と補足情報をセットで書く
効果的な書き方の基本は、「平均値+上限値+補足情報」の3点セットです。たとえば以下のような表記が参考になります。
- 「月平均20時間(繁忙期最大40時間)/残業代は全額支給」
- 「残業は月15時間程度。22時以降の深夜残業は原則禁止しています」
- 「月平均18時間。勤怠管理ツール(kincone)で時間を見える化しており、上長が残業超過を即日確認できます」
残業代の全額支給や深夜残業の禁止ルールは、数字と同じくらい応募者が気にするポイントです。これらを一緒に書くことで、「残業があっても安心して働ける職場」という印象を与えられます。
固定残業代がある場合は必ず詳細を明記する
固定残業代(みなし残業)を採用している場合は、「固定残業代:月30時間分・3万円を含む。超過分は別途全額支給」のように金額・時間数・超過分の扱いを必ず記載します。求人票では「就業時間に関する特記事項」欄が活用できます。固定残業代の内訳を不透明にしたまま求人を出すことは、応募者の不信感を招くだけでなく、労働契約のトラブルにもつながります。
「残業があっても働きやすい」を言語化する方法
働きやすさを構成する5つの要素を整理する
残業時間の数字だけが一人歩きしてしまう原因は、「働きやすさ」を構成する要素が言語化されていないからです。働きやすさは次の5つの軸で整理できます。まず時間管理の透明性(残業代全額支給・勤怠管理ツールの導入など)、次に柔軟な働き方(フレックスタイム・リモートワーク・時短勤務など)、そして心身のサポート体制(メンタルヘルス相談窓口・産業医面談など)、休暇取得の実績(有給取得率・育児休業取得実績など)、最後に職場環境・文化(上司との1on1頻度・チームの雰囲気など)です。この5軸を使って自社の現状を棚卸しすると、求人票に書けるポイントが意外と多く見つかります。
数字と制度だけでなく「運用の実態」を伝える
制度があっても使われていなければ意味がありません。「有給取得率80%(2023年度実績)」「育児休業取得者3名(直近2年)」のように実績数値を添えると、制度が形骸化していないことが伝わります。また「月1回の上司との1on1面談を全社で実施」「メンタル不調の早期相談窓口を外部委託で設置」のような具体的な運用例は、応募者の安心感に直結します。
メンタルヘルス支援を「働きやすさの証拠」として打ち出す
残業時間をゼロにできない企業でも、「残業があっても安心して働き続けられる環境」を整えることで差別化できます。外部のメンタルヘルス相談窓口の設置、休職・復職支援の体制、産業医との連携などは、福利厚生欄や会社紹介ページで積極的に訴求すべき内容です。特に20~50名規模の企業では大企業に比べてこれらの体制が整っていないと思われがちなため、「小さくても整っている」という事実を見せることが採用競争力の向上につながります。
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媒体別の残業時間表記のポイント
Indeedとハローワークは構造化データを意識する
Indeedは求人情報を構造化データとして読み取り、検索結果に反映します。「月平均○時間」のように数値が明確な表記はAIに認識されやすく、「残業少なめ」などの検索条件にヒットしやすくなります。ハローワーク求人票では「時間外労働時間数(月平均)」の記入欄が設けられており、ここに正確な数字を入れることが応募者の検索絞り込みに直結します。
Wantedlyは数字よりカルチャーと文脈で伝える
Wantedlyはスタートアップ・成長企業向けの求人プラットフォームで、給与や残業時間を前面に出す構造ではありません。代わりに「なぜ残業が発生しているのか」「その分どんな成長機会があるのか」「残業があっても離職率が低い理由は何か」といった文脈で語ることが効果的です。数字は「ストーリー記事」の中に自然な形で盛り込むと読み飛ばされにくくなります。
自社で表記ルールを統一して属人化を防ぐ
担当者が変わるたびに求人票の残業時間表記が揺れるのはよくある問題です。「残業時間の表記テンプレート」を社内ドキュメントとして1枚用意するだけで、この属人化は防げます。テンプレートには、計算方法・集計期間・繁忙期の扱い・固定残業代の明記ルール・各媒体への転用ルールを記載しておきましょう。これは採用担当が変わっても一貫した採用ブランドを守るための最低限のインフラです。
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まとめ
残業時間の求人票への書き方は、「正直に、具体的に、補足情報とセットで」が基本です。平均残業時間は部署・職種単位で直近6か月を目安に算出し、繁忙期と通常期を分けて表記することで応募者に誠実な印象を与えられます。また、残業時間の数字だけでなく、メンタルヘルス支援体制・有給取得実績・柔軟な働き方といった「働きやすさを構成する5つの要素」を言語化して添えることが、応募の質と定着率の向上につながります。
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