求人票の給与レンジとオファー乖離を防ぐ対処法

求人票の給与レンジとオファー乖離を防ぐ対処法 コンプライアンス
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「面接してみたら求人票に書いたレンジより低めのオファーになりそうで、どう説明すればいいか困っている」——採用の現場では、こうした場面が思いのほか多く起きています。幅を持たせた給与レンジは集客に便利な反面、最終オファーとの乖離が法的リスクやトラブルの火種になることをご存知でしょうか。本記事では、職安法(職業安定法)の明示義務の内容と、乖離を防ぐための実務対処法を具体的に解説します。

求人票の給与レンジと実際のオファーが「ずれる」原因

給与レンジとオファーの乖離は、多くの場合、求人票の作成プロセスと採用意思決定のプロセスが分断されていることから生まれます。構造的な原因を把握することが、再発防止の第一歩です。

「集客のための上限値」として上限を高く書いてしまう

「とにかく応募を増やしたい」という意識から、実際の給与テーブルと切り離した状態で求人票の上限を設定するケースがあります。しかし、ハローワークや厚生労働省の運用基準では、求人票の賃金欄は「実際に支払われる予定の賃金」を記載することが求められており、集客目的で上限を水増しすることは認められません。行政記録として残るため、後から相談や苦情が入ると、求人票の記載と実態の乖離が確認されてしまいます。

採用担当者と最終決定者(経営者)の間に情報断絶がある

専任の人事がいない中小企業では、求人票を作成したのは担当者でも、最終オファー金額を決めるのは経営者、というケースが珍しくありません。この構造の中で「社長の一声」によって想定より低い金額が提示されると、求人票との乖離が生じます。このような場合、担当者が「法的にどこまで許容されるか」を判断できないままトラブルに至ることがあります。

スキル確認後に「下限以下」のオファーを出したくなる

「25〜40万円」と記載して採用活動を進めたものの、面接で候補者のスキルが下限に届かないと判断した場合、下限を下回るオファーを出したくなることもあります。正直に伝えること自体は必ずしも問題ではありませんが、説明の仕方と記録の残し方を間違えると、後のトラブルに発展しやすくなります。

職業安定法の「明示義務」とは何か

求人票の記載は、単なる会社の意思表示ではなく、職業安定法上の「労働条件の明示」にあたります。法律の内容を正確に把握しておくことで、何が違法でどこまでが適法かの判断軸が持てます。

明示義務の基本構造(職業安定法第5条の3)

職業安定法第5条の3は、求人者(企業)が求職者に対して賃金・労働時間などの労働条件を明示する義務を定めています。明示すべき事項には「賃金」が含まれており、これは求人票の記載だけでなく、採用プロセスの各段階での対応を規律するものです。虚偽の条件を示した場合には、職業安定法第65条により6か月以下の懲役または30万円以下の罰則の対象となりえます。

2022年10月施行の改正で「変更時の明示義務」が新設された

2022年10月施行の改正職業安定法では、明示のタイミングが細分化・厳格化されました。特に重要なのが、職業安定法第5条の3第3項に新設された「変更時の明示義務」です。求人票に記載した労働条件を変更・削除・特定する場合は、内定段階・労働契約締結前に変更点を明確に文書で伝えることが義務化されました。

明示のタイミング 内容
求人申込み時 求人票への賃金記載
求職者に求人を紹介するとき(面接設定等) 求人票の条件を再確認・提示
内定時・労働契約締結前 変更がある場合はその内容を文書で明示

労働基準法第15条との関係

労働基準法第15条は、労働契約締結時に賃金・労働時間等を書面(または電磁的方法)で明示する義務を定めています。雇用契約書や労働条件通知書に記載された内容が「最終的な契約条件」となるため、求人票と乖離する場合は契約書の記載が上書きされた形になります。ただし、引き下げた理由の説明がない、候補者の同意が得られていない、という状態でのオファーはトラブルに発展しやすいため注意が必要です。

「幅(レンジ)で書けば何でもOK」という誤解を解く

給与を幅のある表記にすること自体は適法ですが、「レンジで書いておけばどこに落ち着いても問題ない」という考え方は誤りです。幅の使い方にはルールがあります。

下限付近のオファーを続けると「実質的な虚偽記載」になりうる

たとえば「25〜40万円」と記載しながら、採用者のほぼ全員に25万円台を提示しているとしたら、その上限値は実態を反映していないと見なされます。合理的な評価根拠なしに下限付近を提示し続けると、「実質的な虚偽記載」と同視されるリスクがあります。「経験・能力により決定」等の付記は許容されていますが、実際の決定プロセスが不透明では「実態と異なる記載」とみなされる可能性があります。

レンジの幅は内部の給与テーブルに基づいて設定する

求人票の給与レンジは、実際の社内給与テーブルや等級制度に紐づけて設定することが基本です。たとえば、「入社時は経験・スキルに応じて25〜32万円、昇給後の上限は40万円」であれば、「25〜40万円(経験・スキルにより決定、入社初年度は25〜32万円の範囲)」のように、実態に沿った説明を付記することで過度な期待を防げます。

給与レンジ外のオファーは原則として避ける

求人票に記載したレンジの下限を下回るオファーは、変更の明示義務(職業安定法第5条の3第3項)の観点から、変更の理由と内容を文書で明示することが必要です。レンジの上限を超えるオファーは候補者にとって有利であるため法的な問題は生じにくいですが、社内の公平性の観点から事前に承認を得ておくことが重要です。

求人票と雇用契約書の給与が違う場合に取るべき対処

すでに乖離が生じてしまった場合でも、適切に対処することでトラブルを最小化できます。乖離の発覚タイミングによって対応の優先順位が異なります。

オファー前に乖離に気づいた場合

内定を出す前であれば、まず求人票の記載内容と提示予定額の差分を明確にします。差分がある場合は、次の手順で対応します。まず候補者へのオファー面談またはオファーレターの中で、「評価の結果、給与は〇〇万円とさせていただきます」と具体額を明記します。次に求人票に記載した給与レンジとの差がある場合は、「選考の結果、スキル・経験を総合的に判断した結果です」と理由を添えて文書で伝えます。そして候補者から書面またはメールで同意を得た上で労働条件通知書・雇用契約書を締結します。この流れを踏むことで、改正職業安定法の変更時の明示義務を満たすことができます。

入社後に「聞いていた給与と違う」と言われた場合

入社後にクレームが来た場合は、まず感情的に対立することなく、事実確認を丁寧に行うことが重要です。求人票・オファーレター・雇用契約書のそれぞれに何が記載されていたかを整理し、どの時点で何を伝えたかを記録とともに確認します。雇用契約書に記載された金額が労働基準法上の「最終的な契約条件」になりますが、候補者が「変更の説明を受けていない」と主張する場合は、内部で対応を検討するか、専門家(社会保険労務士や弁護士)への相談を検討してください。

会社の規模・状況によって対応の重点が変わる

社内に就業規則や給与テーブルが整備されていない場合は、まず給与決定の基準を社内で文書化することが先決です。一方、就業規則がある場合は、求人票の記載が就業規則と整合しているかを確認します。ハローワーク経由の求人の場合は行政記録が残るため、特に慎重な対応が求められます。

求人票の給与設定に不安がある場合は、早めに相談することで、後々のトラブルを防げます。

再発防止のために整備すべき社内ルール

乖離を防ぐには、求人票の作成・承認・オファー提示のプロセスを仕組みとして整えることが最も効果的です。一度ルールを作ってしまえば、担当者が変わっても安定した運用ができます。

求人票の給与記載を「承認制」にする

求人票の給与欄を担当者が単独で決定するのではなく、経営者または人事責任者の承認を経て確定するプロセスを設けます。この際、承認の前提として「社内給与テーブルとの整合性確認」を必須のチェック項目として組み込みます。承認記録を残しておくことで、後から「なぜこの数字になったのか」が追跡できます。

オファー時に「変更事項確認シート」を使う

求人票の記載内容とオファー内容を並べて比較できる「変更事項確認シート」を用意し、乖離がある項目とその理由を候補者に書面で伝える運用を標準化します。候補者がサインまたはメールで返信する形式にしておくと、同意の記録が残り、後のトラブルを防ぎやすくなります。

定期的に求人票の内容を見直すサイクルをつくる

採用が終わった後でも、「実際のオファー額と求人票の記載に差があったか」を振り返るタイミングを設けます。差が生じていた場合は次回の求人票作成前に記載内容を修正します。このサイクルを年1〜2回繰り返すだけで、求人票の実態との乖離が徐々に解消されていきます。

採用担当者だけでは判断しきれない法的リスクは、人事の専門家に相談することで安心です。

まとめ

求人票の給与レンジとオファーの乖離は、職業安定法の明示義務違反に直結するリスクがあります。特に2022年10月の改正により、求人票記載の条件を変更する場合は内定前に文書で明示する義務が明確化されました。「レンジで書けば大丈夫」という認識を改め、社内の給与テーブルに基づいた記載、承認プロセスの整備、変更事項確認シートの活用という三つの実務対応を組み合わせることで、法的リスクと候補者トラブルの両方を大幅に減らすことができます。

採用・人事労務の運用に不安を感じる場合、ウェルセンス株式会社では、実務に即したアドバイスを提供しています。「求人票の書き方が適切か確認したい」「給与をめぐるトラブルが生じてしまった」など、気になることがあればお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 求人票に「25〜40万円」と書いて、最終的に28万円のオファーを出すことは違法ですか?

A. レンジ内であれば直ちに違法とはなりませんが、2022年改正職業安定法により、求人票の記載から変更がある場合は内定前に変更内容を文書で明示する義務があります。「スキル・経験の評価結果として28万円とします」という理由と金額を書面で伝え、候補者の同意を得た上で雇用契約書を締結することが必要です。

Q. 求人票と雇用契約書の給与が違う場合、どちらが優先されますか?

A. 労働基準法第15条に基づき、労働条件通知書や雇用契約書に記載された内容が最終的な契約条件として優先されます。ただし、候補者への変更説明がなかった場合は「不当な条件変更」としてトラブルになることがあります。変更の理由と内容を事前に文書で伝えることが重要です。

Q. 求人票の給与レンジを下回るオファーを出してしまいました。今から対処できますか?

A. 内定前であれば、変更内容と理由を文書で候補者に伝え同意を得ることで対処できます。すでに内定通知を出してしまった場合は、改めてオファーレターを発行して変更内容を明示し、候補者の確認サインをもらうことをお勧めします。入社後に発覚した場合は、事実確認と記録の整理を行い、必要に応じて社会保険労務士や弁護士に相談してください。

Q. ハローワークに求人を出す場合と、民間求人サイトでは対応が違いますか?

A. 職業安定法の明示義務はハローワーク・民間求人サイトいずれにも適用されます。ただし、ハローワーク経由の求人は行政記録として残るため、候補者や求職者から苦情・相談が入った際に労働局が記録と実態の乖離を確認できる状況にあります。民間求人サイトに比べて行政対応のリスクが生じやすい点で、特に慎重な運用が求められます。

Q. 社内に給与テーブルがない場合、求人票にはどう書けばよいですか?

A. まず、過去の採用実績(入社時の給与実態)をもとに最低限の給与レンジを確認し、実態に即した範囲を記載することから始めてください。同時に、社内での給与決定基準を文書化する作業を並行して進めることをお勧めします。「経験・スキルにより決定」という付記を入れる場合は、具体的にどの要素をどう評価するかを内部で決めておくことが、後のトラブル防止につながります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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