社内規程の整備に迷ったら読む優先順位の考え方

社内規程の整備に迷ったら読む優先順位の考え方 コンプライアンス
Photo by MART PRODUCTION on Pexels

「就業規則は整えた。でも、それ以外に何が必要なのか、正直わからない」——そう感じながらも、日々の業務に追われてつい後回しにしていませんか。従業員が20名を超えたあたりから、メンタル不調者への対応、ハラスメント相談、退職トラブルといったリスクが一気に増えます。問題が起きてから「そういえば規程がなかった」と気づいても、後の祭りです。この記事では、専任人事がいなくても実践できる社内規程整備の優先順位の考え方を、法令根拠と実務の落とし穴を交えて丁寧に解説します。

就業規則だけでは不十分な理由

就業規則はあくまで「骨格」です。個別のルール——休職の手続き、ハラスメントの相談手順、個人情報の取り扱いなど——は、別の規程・細則として肉付けして初めて機能します。

就業規則の法的な位置づけ

労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する事業場に就業規則の作成と労働基準監督署への届出を義務づけています。しかし、就業規則はあくまで労働条件の基本的な枠組みを定めるものであり、「会社全体のルールブック」として完結するものではありません。就業規則に記載のない事項についてはトラブルが生じた際に会社側が不利な立場に立たされるケースも少なくなく、細則・別規程による補完が実務上の主流となっています。

「1行書いてあれば大丈夫」という誤解

特に見落とされやすいのがハラスメント対応です。就業規則に「ハラスメントを禁止する」と一文書いてあるだけでは、法令上の義務を果たしたことにはなりません。労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)の改正により、2022年4月からは中小企業を含む全企業規模でパワーハラスメント防止措置が義務化されました。厚生労働省が定める措置義務には、相談窓口の設置、事実確認の手順、再発防止策の実施といった具体的な対応が含まれており、これらをルール化した「ハラスメント防止規程」の整備が不可欠です。

規程の全体像を把握しておく

社内規程は大きく次のカテゴリに分けて整理できます。まず把握することで、自社に何が欠けているかが見えてきます。

カテゴリ 主な規程の例 関連法令
労働条件の基本 就業規則、賃金規程、退職金規程 労働基準法
服務・ハラスメント ハラスメント防止規程、SNS利用規程 労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法
健康・メンタルヘルス 休職・復職規程、メンタルヘルス指針、安全衛生管理規程 労働安全衛生法
情報管理 個人情報管理規程、情報セキュリティ規程 個人情報の保護に関する法律
人事・評価 人事評価規程、育児・介護休業規程 育児・介護休業法
経費・業務 出張旅費規程、経費精算規程 税務・内部統制上の要請

規程整備の優先順位——3段階で考える

すべてを一度に整備する必要はありません。「法令上の義務」「トラブル発生リスクの高さ」「整備コスト」の3軸で優先度を判断し、段階的に進めるのが現実的です。

まず着手すべき規程——法令義務と重大リスク

最初に整備すべきは、放置すれば法令違反になる、または一度問題が起きると対応コストが跳ね上がる領域です。具体的には次の4つが該当します。

  • 就業規則:従業員10名以上で作成・届出義務。未整備のまま増員している場合は直ちに対応が必要です。
  • 賃金規程:賃金の計算方法、締め日・支払日、各種控除の根拠を明文化します。就業規則の附則とする場合も、内容の明確さが重要です。
  • ハラスメント防止規程:パワハラ・セクハラ・マタハラいずれも義務対象。相談窓口、調査手順、不利益取り扱いの禁止まで定める必要があります。
  • 育児・介護休業規程:育児・介護休業法は改正が頻繁なため、現行法に準拠した内容かどうかの定期的な確認が欠かせません。

次に整備すべき規程——トラブル対応コストを下げる

法令上の即時義務ではないものの、一度問題が起きたときのダメージが大きい領域です。特に従業員が増えてきた20〜50名規模の企業では、メンタル不調者への対応や個人情報の漏えい事故が現実のリスクとして浮上してきます。

  • 休職・復職規程:休職開始の判断基準、復職可否の判定手順、復職後のフォロー体制を明文化します。ルールがない状態で対応すると、担当者によって判断がばらつき、当事者や周囲への対応が属人化します。
  • 懲戒規程:就業規則に懲戒の定めがない場合、または記載が不十分な場合は別立てで整備します。懲戒処分は手続きの不備を理由に無効とされるリスクがあります。
  • 個人情報管理規程:従業員情報・顧客情報を扱うすべての企業に必要です。個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)に基づく安全管理措置の具体的な内容を規定します。

組織の成熟に応じて整備する規程

内部統制の強化や採用力・定着力の向上を目的とした規程は、組織の実態に合わせて段階的に整備します。情報セキュリティ規程、人事評価規程、出張旅費・経費精算規程、SNS利用規程などがこのカテゴリに入ります。これらは法令上の義務ではありませんが、税務調査や内部統制の観点から、従業員数が30名を超えるあたりで整備を検討し始めるのが一般的です。

整備しないと起きる具体的なリスク

規程が未整備のまま問題が起きると、対応の遅れと判断のばらつきが複合的なリスクを生みます。「なんとなく必要そう」という感覚を、具体的なリスクとして認識することが、整備を前に進める第一歩です。

メンタル不調・休職対応で起きる混乱

休職・復職規程がない状態でメンタル不調者が出ると、「いつから休職させるか」「給与はどうするか」「いつ復職を認めるか」という判断をすべてその場でしなければなりません。担当者によって対応が変わると、当事者から「他の人と扱いが違う」とクレームが来るケースもあります。また、復職後の業務配慮が不十分なまま元の業務に戻した結果、再休職になるというケースも実務では珍しくありません。

メンタル不調への対応に迷われていても、対応のルール化から相談窓口設置まで、人事だけで判断する必要はありません。

ハラスメント相談への対応不備

ハラスメントの相談があった際に、社内に対応手順の規程がないと、相談を受けた人事担当者の個人的な判断で動かざるを得なくなります。調査の手順・関係者へのヒアリング方法・プライバシー保護の取り扱いが定まっていないと、対応の不備を理由に行政指導を受けるリスクや、被害者から損害賠償請求を受けるリスクが高まります。パワハラ防止法の措置義務に違反した場合、厚生労働省から勧告を受けたうえで企業名が公表される制度も設けられています。

懲戒処分が無効になるリスク

服務規律違反や重大な問題行動に対して懲戒処分を行う場合、就業規則や懲戒規程に「その行為が懲戒事由に当たること」と「処分の種類・手順」が明記されていなければ、処分が無効とされる可能性があります。裁判例においても、懲戒処分の有効性は就業規則への明記と手続きの適正性が厳しく問われます。

従業員数・状況別の判断基準

規程整備の「どこから始めるか」は、自社の従業員数と現状の整備状況によって変わります。自分のケースに当てはめて、次のステップを判断してください。

従業員10名未満の段階

就業規則の作成義務はまだ生じませんが、賃金の支払いルールや服務の基本だけでも書面で整理しておくと、後のトラブルを防げます。この段階で準備しておくと良いのは、雇用契約書の整備と、ハラスメント防止の基本方針の明文化です。従業員数が少ないうちに「会社のルールとして何を大切にするか」を文書にしておくことが、後の規程整備の土台になります。

従業員10〜30名の段階

就業規則の作成・届出義務が生じます。賃金規程、ハラスメント防止規程、育児・介護休業規程をあわせて整備するのがこの段階のセットです。また、メンタル不調者が出始めるのもこの規模帯であることが多いため、休職・復職の手順を早めに文書化しておくことを強くお勧めします。

従業員30〜50名の段階

個人情報管理規程、情報セキュリティ規程、人事評価規程の整備を本格的に検討する時期です。採用・育成・定着のサイクルが本格化し、評価基準が属人的なままでは従業員の不満が蓄積しやすくなります。また、この規模になると税務調査や労働局による調査の対象になる機会も増えるため、経費精算規程などの内部統制系の整備も視野に入ってきます。

自社で作るか、専門家に依頼するかの判断

コストを抑えたい気持ちは当然ですが、規程の種類によって「内製できるもの」と「専門家に任せるべきもの」は明確に分かれます。判断の目安を持っておくと、外注コストを最小化しながら品質を担保できます。

内製に向いている規程

出張旅費規程や経費精算規程のように、社内の業務フローを反映するだけで作成できるものは、厚生労働省や中小企業庁が公開しているひな形を活用して内製するのが現実的です。SNS利用規程なども、基本的な禁止事項と報告ルールを社内で整理した上でひな形をカスタマイズする形で対応できます。

専門家への依頼が必要な規程

一方、就業規則、ハラスメント防止規程、休職・復職規程、育児・介護休業規程は、法令の改正に対応しながら正確に作成する必要があります。特に育児・介護休業法は近年の改正が多く、古いひな形をそのまま使うと現行法に違反するリスクがあります。社会保険労務士(社労士)や弁護士など専門家のチェックを経ることで、法的リスクを大幅に下げられます。

「ひな形+専門家レビュー」というハイブリッドアプローチ

費用を抑えながら品質を確保する現実的な方法として、厚生労働省が公開しているひな形や社労士会のモデル規程をベースに内製し、完成後に専門家に確認してもらうというアプローチがあります。全文を専門家に作成依頼するよりもコストを抑えられるため、予算が限られている中小企業では有効な選択肢です。

現状の規程棚卸しや優先度判断に悩まれているなら、ウェルセンス株式会社への相談も一つの選択肢です。貴社の規模に合わせた整備計画をご提案できます。

まとめ

社内規程の整備は、「就業規則を作ったら終わり」ではありません。法令上の義務を満たすこと、トラブル発生時の対応コストを下げること、組織が成長するにつれて内部統制を強化することの3つの目的に合わせて、段階的に整備を進めることが重要です。

まず着手すべきは就業規則・賃金規程・ハラスメント防止規程・育児介護休業規程の4点セット。次に休職・復職規程と個人情報管理規程を加え、その後は組織の実態に合わせて評価・セキュリティ・経費精算まで広げていくのが現実的な順序です。

「どこから手をつけるべきかわからない」「自社の規程が現状に追いついているか確認したい」「専門家に見てもらう前に現状を整理したい」という場合は、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。現状の規程の棚卸しから優先順位の整理まで、貴社の規模と課題に合わせて一緒に考えます。

よくある質問

Q. 従業員が10名未満でも、就業規則以外の規程は必要ですか?

A. 就業規則の作成義務(労働基準法第89条)は常時10人以上の事業場に適用されますが、ハラスメント防止措置は企業規模を問わず全企業に義務が課されています。また、個人情報を扱う事業者には個人情報保護法上の安全管理措置が求められます。従業員が少ない段階でも、ハラスメント防止の基本方針と個人情報の取り扱いルールは文書化しておくことをお勧めします。

Q. 休職・復職規程がない状態でメンタル不調者が出た場合、どうすればよいですか?

A. 規程がない場合でも、まず産業医や主治医の意見を確認しながら、書面で休職開始・期間・給与の取り扱いを個別に合意する形で対応することが現実的です。ただし、担当者によって判断がばらつくリスクや、対応の不備が後から問題になるリスクがあります。問題が起きたこのタイミングを機に休職・復職規程の整備を急ぐことを強くお勧めします。

Q. ハラスメント防止規程は就業規則と別に作る必要がありますか?

A. 就業規則内に記載する形でも法令上は認められますが、実務上は「ハラスメント防止規程」として別立てにする企業が増えています。別規程にすることで、改正対応の際に就業規則全体を届け出し直す手間を省けること、社員への周知・配布がしやすいこと、相談窓口の設置や手順など詳細を盛り込みやすいことがメリットです。

Q. 厚生労働省のひな形をそのまま使っても問題ありませんか?

A. ひな形はあくまで「最低限の枠組み」であり、自社の業種・業態・就業形態に合わせたカスタマイズが必要です。特に育児・介護休業規程は法改正への対応が必要なため、ひな形の作成年月を必ず確認してください。就業規則や重要な別規程については、社労士や弁護士によるレビューを経ることで、法的リスクを大幅に下げられます。

Q. 社内規程の整備を相談する場合、どのような情報を用意しておくとスムーズですか?

A. 現在の従業員数(正社員・パート・契約社員の内訳)、既存の規程の一覧(就業規則の有無・作成時期など)、直近で困っているトラブルや懸案事項の概要があると、現状の棚卸しがスムーズに進みます。「何が足りないかもわからない」という段階からでも相談を歓迎していますので、まずは現状をお聞かせください。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

人事だけで抱えない。産業医にスポットで相談
タイトルとURLをコピーしました