新規事業メンバーに既存評価制度が合わないと感じたら

新規事業メンバーに既存評価制度が合わないと感じたら 人事制度
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「新規事業チームに既存の評価制度を当てはめても、まったくかみ合わない気がする。でも別の制度を一から作る時間もない」——新規事業を立ち上げた経営者や人事担当者から、こうした声が増えています。既存事業向けに設計された評価基準は、KPI達成やミスの少なさを重視するものが多く、「正解のない仮説検証を繰り返す」新規事業の仕事ぶりを正しく映し出せません。この記事では、評価制度を全部作り直すことなく、今日から動ける現実的な対処法をお伝えします。

既存評価制度をそのまま使うリスク

既存の評価制度を新規事業メンバーにそのまま適用すると、成果の見え方が歪み、正当な評価が難しくなります。まずこのリスクを具体的に把握することが、対応策を考える出発点です。

「プロセス型・ルーティン型」の評価基準が新規事業に合わない理由

既存事業向けの評価制度は、業務を安定的に遂行できているか、決められた手順を守っているか、KPIを着実に達成しているかといった観点で設計されていることがほとんどです。これは既存事業では合理的な基準ですが、新規事業のフェーズに当てはめると「失敗続き=低評価」という結果になりやすい。実際には価値のある試行錯誤であっても、評価シートの上では「成果ゼロ」と映ってしまいます。

評価者が「何を見ればよいかわからない」問題

経営者や他部門の責任者が評価者を兼ねるケースでは、新規事業特有の「探索的な行動」や「ピボット(方向転換)の判断の適切さ」をどう評価すればよいか、基準を持てていないことがほとんどです。評価者自身が新規事業を経験していなければ、定性的な貢献度を公正に判断するのは困難です。評価基準が曖昧なまま処遇を決めることは、後になって労使トラブルの火種にもなりかねません。

「頑張っても評価されない」が引き起こす離職リスク

20〜50名規模の企業では、新規事業を担うメンバーは多くの場合2〜3名程度の少人数です。このメンバーがモチベーションを失ったり離職したりすると、代替要員の確保は容易ではなく、事業そのものが止まるリスクがあります。評価制度の問題は「制度の話」にとどまらず、事業継続リスクに直結します。

「別制度を一から作る」は必ずしも正解ではない

新規事業向けの評価制度を検討するとき、「全部別に作り直す必要がある」と思い込んでしまうのは最も多い誤解です。実際には既存制度の一部を流用しながら「部分修正」する方法が、現実的かつ効果的です。

「全別制度」ではなく「部分修正型」で考える

既存の評価制度は大きく「業績・KPI評価」と「コンピテンシー(行動特性)評価」の2軸で構成されていることが多いです。新規事業メンバーに対しては、コンピテンシー評価の部分はそのまま活用しつつ、業績・KPI評価の指標と重み付けだけを変える「部分修正型」のアプローチが現実的です。最初から全部作り直そうとして作業が止まってしまう失敗パターンが非常に多いため、「どこを変えるか」を絞り込むことが重要です。

既存制度と修正版の比較イメージ

評価軸 既存事業向け 新規事業向け(部分修正)
業績評価の主な指標 KPI達成率・売上・ミスの少なさ 仮説検証の数・ピボットの適切さ・学習速度
評価サイクル 年2回(半期) 四半期ごとのローリング見直し
コンピテンシー評価 そのまま適用 基本的にそのまま適用(問題解決力・協働力など)
目標設定手法 MBO(目標管理制度) OKR(目標と主要な結果指標)の活用を検討

就業規則・賃金規程との整合性確認を忘れずに

評価制度を修正する場合、就業規則や賃金規程に「評価・賃金の決定基準」に関する記載があれば、変更内容との整合性を確認する必要があります。また、変更内容が労働者にとって不利益になる場合は、労働契約法第10条が定める「合理的な変更」の要件(変更の必要性・内容の相当性・労働者への説明と同意)を満たすことが求められます。就業規則の変更を伴うケースでは、社会保険労務士など専門家への相談をお勧めします。

今すぐ動ける暫定対応の考え方

本格的な制度設計には数ヶ月かかることもあります。まず「暫定対応」として機能する仕組みを早期に整え、その後の正式設計につなげるロードマップを示すことが重要です。

OKRで「探索型の評価」を仮運用する

OKR(Objectives and Key Results:目標と主要な結果指標)は、新規事業の不確実性と相性がよい目標管理の手法です。「何を達成したいか(Objective)」と「それを測る具体的な指標(Key Results)」を四半期単位で設定し、期末に達成度を振り返ります。年単位の目標では変化に追いつけない新規事業において、短いサイクルで目標を更新できる点が大きなメリットです。既存の評価制度と並行して「新規事業チームのみOKRを試行」する形でスタートしやすく、導入コストも抑えられます。

評価の「処遇決定」と「フィードバック」を分けて考える

評価制度には大きく2つの機能があります。昇給・賞与・昇格を決める「処遇決定」の機能と、メンバーの成長を支援する「能力開発・フィードバック」の機能です。新規事業の立ち上げフェーズでは、まず後者のフィードバック機能に重点を置いた暫定運用が合理的です。月1回の1on1面談で仮説検証の振り返りと行動へのフィードバックを行い、処遇決定については別途「暫定的な基準」を設ける形でつなぐことができます。

「暫定のまま放置」を防ぐロードマップの明示

暫定対応で最も避けなければならないのは、「とりあえず話し合いで対応する」状態が1年、2年と続くことです。メンバーが「正式に評価されていない」と感じ続けると、エンゲージメントの低下や離職につながります。暫定対応を始めると同時に、「半年後には正式な評価基準を設計する」「1年後には既存制度に統合する」といったロードマップを社内に明示しておくことが、メンバーの不安を和らげる上で重要です。

新規事業の評価設計に関する考え方や判断基準は、企業ごとに異なります。自社の状況に合わせた暫定対応の形を相談したいとお考えでしたら、お気軽にご連絡ください。

既存メンバーとの公平性をどう説明するか

新規事業チームだけ評価基準を変えると、既存部門から「特別扱いは不公平」という声が上がることがあります。この摩擦を最小化するには、変更の「理由と範囲」を丁寧に説明することが欠かせません。

「公平性」と「同一性」は違うと伝える

公平な評価とは「同じ基準で全員を測ること」ではなく、「それぞれの役割・状況に見合った基準で測ること」です。たとえば営業職とエンジニア職で評価指標が異なることに誰も違和感を持たないように、新規事業担当と既存事業担当で指標が異なることも、役割の違いとして説明できます。この点を全社に向けてわかりやすく伝えることが、社内摩擦を防ぐ第一歩です。

変更の「範囲・期間・戻し方」を明確にする

既存メンバーの不満が高まりやすいのは、「いつまで特別扱いが続くのか」「将来的に制度が統合されるのか」が見えないときです。「新規事業が軌道に乗った段階(たとえば売上が○○万円を超えたタイミング)で既存評価制度に段階的に統合する」という出口を示すことで、例外対応への不信感を和らげることができます。

20〜50名規模ならではの設計上の注意点

中小規模の企業では、精緻な評価制度を作っても運用が追いつかず形骸化するケースが多いです。シンプルさと持続可能性を最優先に設計することが重要です。

「2〜3名のための制度」はシンプルであるほどよい

新規事業メンバーが少人数の場合、複雑な評価シートや多段階の審査プロセスを導入しても、運用コストが見合いません。評価項目は絞り込み、1枚のシートで完結できる設計を目指してください。評価項目が多いほど「制度のための制度」になり、本来の目的であるメンバーの成長支援と処遇の納得感が失われます。

将来の「統合フェーズ」を見越した設計にする

新規事業が成長し、チームが拡大した段階では、新規事業向けの評価制度を既存制度に統合するフェーズが来ます。このとき、最初から「統合しやすい構造」で設計しておくと後の負担が大きく減ります。たとえば、コンピテンシー評価の項目は既存制度と共通にしておき、業績評価の指標だけを別設定にするといった工夫が有効です。

人事専任がいない場合の現実的な進め方

専任の人事担当者がいない場合、制度設計を経営者や総務兼務担当者が担うことになりますが、本業と並行しながら制度設計まで行うのは現実的に難しいことがほとんどです。社会保険労務士や人事コンサルタントなど外部の専門家と連携し、「骨格だけ外部で設計し、細部は自社でカスタマイズ」するハイブリッドな進め方が、コストと品質のバランスが取りやすいアプローチです。

人事課題を経営者や兼務担当者だけで抱えると、本業がおろそかになるリスクがあります。外部サポートの活用も視野に、自社に合った進め方を検討してみてください。

まとめ

新規事業メンバーへの評価制度の問題は、「全部作り直す」必要はなく、既存制度の業績評価部分の指標と重み付けを変える「部分修正型」のアプローチが現実的です。まず暫定対応としてOKRの試行や1on1によるフィードバック強化を行いながら、正式な制度設計のロードマップを社内に明示する。そのうえで、既存メンバーへの公平性の説明と、将来の統合フェーズを見越した設計を意識することが重要です。ただし、就業規則の変更や賃金基準の見直しが絡む場合は、労働契約法上のリスクも生じるため、専門家のサポートがあると安心です。

ウェルセンス株式会社では、20〜50名規模の企業が抱える評価制度・人事労務の課題に、実務的な視点からご支援しています。「うちの状況に合った対応を相談したい」という場合は、お気軽にご連絡ください。

よくある質問

Q. 新規事業メンバー2〜3名のためだけに評価制度を変えることは、法的に問題がありますか?

A. 評価制度の設計内容そのものを法律が直接規制しているわけではありません。ただし、評価結果が給与や賞与に反映される場合、就業規則や賃金規程に記載された基準との整合性が必要です。変更が労働者にとって不利益になるケースでは、労働契約法第10条が定める手続きを踏む必要があります。また、恣意的・不透明な評価は後に労使紛争になった際にリスクとなるため、変更の根拠と基準を文書化しておくことが重要です。

Q. OKRと既存のMBO(目標管理制度)はどう使い分ければよいですか?

A. MBOは達成度を処遇に直結させやすい一方、目標が固定されるため変化の速い新規事業には合いにくい面があります。OKRは「達成率60〜70%でも価値ある挑戦」という考え方が前提で、探索フェーズの評価に向いています。既存事業にはMBOを継続し、新規事業チームにのみOKRを試行するという使い分けが現実的です。ただし処遇決定の基準をどう設けるかは別途設計が必要です。

Q. 新規事業担当者を「ジョブ型契約」で採用している場合、評価制度の設計に違いがありますか?

A. ジョブ型(職務限定)での採用の場合、職務定義書(ジョブディスクリプション)に記載された職務内容に基づいた評価設計が基本となります。職務が明確に定義されているため、評価基準も職務の達成度に絞りやすい反面、職務外の貢献を評価しにくい側面もあります。一方、総合職採用の場合は職務横断的な貢献も評価対象にできる柔軟性があります。いずれも雇用契約書の内容と評価基準の整合性を確認することが大前提です。

Q. 新規事業の評価制度を暫定運用から正式制度に切り替えるタイミングはどう判断すればよいですか?

A. 主なタイミングの目安として、新規事業の収益モデルが安定してきた段階、チームが3〜4名以上に拡大する段階、既存事業との協業が始まる段階などが考えられます。暫定対応の開始時点で「半年後に見直しポイントを設ける」とロードマップを明示しておき、そのタイミングで正式移行の判断をするのが実務的です。判断が難しい場合は、外部の専門家に現状評価を依頼することも一つの選択肢です。

Q. 既存部門のメンバーから「新規事業チームだけ特別ルールは不公平」と言われたとき、どう説明すればよいですか?

A. 「公平な評価とは、同じ基準で全員を測ることではなく、役割に見合った基準で測ること」という考え方を丁寧に説明することが出発点です。営業職とエンジニア職で評価指標が異なるように、新規事業という異なる役割には異なる基準が必要であることを、具体的な業務の違いを示しながら話すと伝わりやすくなります。また、変更の範囲・期間・将来の統合方針を明示することで、「いつまで特別扱いが続くのか」という不安を解消することも重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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