賃金台帳のデジタル化|法定要件を満たす4ステップ

賃金台帳のデジタル化|法定要件を満たす4ステップ 採用・定着
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「賃金台帳を紙で保管しているが、このままで大丈夫なのか」「クラウドに移行したいが、法律的に問題ないのか確信が持てない」——中小企業の経営者や兼務人事担当者から、こうした声をよく聞きます。2020年の労働基準法改正で保存期間のルールも変わり、対応を検討するタイミングは今まさに来ています。この記事では、賃金台帳のデジタル化が法的に認められる根拠と、現場ですぐ動ける実務的な4つのステップを整理します。

デジタル保存は法律上、問題なく認められている

結論から言えば、賃金台帳の電子(デジタル)保存は労働基準法施行規則で明確に認められています。「紙でなければならない」というルールは存在しません。

電子保存の根拠となる法令

賃金台帳の作成義務は労働基準法第108条に定められており、その記載事項は労働基準法施行規則第54条で規定されています。そして同規則第54条第2項・第56条において、賃金台帳を「電磁的記録」として作成・保存することが認められています。つまり、クラウドサービスや給与計算ソフトで作成・保存した電子データでも、法的効力を持つ賃金台帳として扱われます。

電子帳簿保存法との混同に注意

「電子保存するなら電子帳簿保存法(電帳法)に従わなければ」と思い込んでいるケースが少なくありません。しかし電帳法は国税関係帳簿書類を対象とする国税庁所管の法令であり、賃金台帳には適用されません。賃金台帳の電子保存の根拠はあくまで労働基準法施行規則です。電帳法の要件を満たせば賃金台帳もOKと思い込むと、労働基準監督署の調査時に「要件を満たしていない」と指摘されるリスクがあります。

デジタル保存に求められる最低限の要件

労働基準法施行規則が求めるデジタル保存の要件はシンプルです。「いつでも必要に応じて画面に表示・印刷できること」「労働基準監督署の調査に際して提出できること」の2点が満たされていれば、形式は問われません。複雑なシステム認証や電子署名は必須ではなく、給与計算ソフトやクラウドサービスの標準機能で十分対応できます。

保存期間は「5年」が安全な運用基準

2020年の労働基準法改正により、賃金台帳の保存期間は原則5年に延長されました。ただし経過措置があるため、実務ではその扱いを正確に理解しておく必要があります。

改正の概要と経過措置

労働基準法第109条の改正(2020年4月1日施行)により、賃金台帳を含む労働関係書類の保存期間は3年から5年に延長されました。ただし同法附則第143条に経過措置が設けられており、「当面の間は3年間」とされています。この「当面の間」がいつ終わるかは現時点で未定です。経過措置が終了すれば即座に5年対応が必要になるため、今から5年保存で運用しておくことが実務上の安全策です。

起算点の考え方

保存期間の起算点は「最後に記入した日」です。たとえば2024年3月分の給与(3月末支払い)の賃金台帳であれば、3月末日が最後の記入日となり、そこから5年間が保存義務の対象期間になります。月次で作成している場合は各月の台帳ごとに起算日が異なる点に注意が必要です。

過去分の紙台帳はどうするか

デジタル移行を機に「昔の紙台帳を処分してよいか」と考えるケースがありますが、保存義務期間が残っている分は廃棄できません。過去分の紙台帳は保存期間が満了するまで紙のまま保管するか、スキャンして電子データとして保存するかを選択します。スキャン保存する場合は、原本と同等の内容が判読できる解像度・形式で保存することが求められます。

法定要件を満たす実務的な4つのステップ

デジタル化の手順は大きく4つに整理できます。順番を守ることで、移行中のトラブルや二重管理の混乱を防ぐことができます。

現状の棚卸しと記載要件の確認

まず最初に、現在の賃金台帳が法定の記載事項をすべて満たしているかを確認します。労働基準法施行規則第54条が定める必須記載事項は以下のとおりです。

  • 氏名・性別
  • 賃金計算期間
  • 労働日数・労働時間数
  • 時間外・休日・深夜の各労働時間数
  • 基本給・各種手当の種類と金額
  • 控除項目と控除金額

デジタル化に移行する前にこの確認を行うことで、移行後も法令に沿った台帳を継続的に作成できます。現状の紙の台帳に不備がある場合は、この機会に記載フォーマットごと見直すことを推奨します。

クラウドサービスの選定

次に、給与計算機能と帳票出力・保存機能を備えたクラウドサービスを選定します。サービス選定時に確認すべき判断軸を以下に整理します。

確認項目 確認ポイント
法定記載事項の出力 必須6項目が帳票に含まれるか
表示・印刷対応 必要時にすぐ画面表示・印刷できるか
データ保持期間 契約期間中は5年以上データが保持されるか
アクセス権限管理 閲覧・編集の権限を担当者別に設定できるか
サービス継続性 事業者の規模・実績・サポート体制は十分か
データエクスポート 解約・移行時にデータを取り出せるか

20〜50名規模の企業であれば、給与計算から台帳作成・保存まで一体化したクラウド給与サービスが運用負荷を最小化できます。個別のスプレッドシートで管理し、別途クラウドストレージに保存する方法も法的には問題ありませんが、更新漏れや誤ファイルの混在リスクが生じやすいため、一体型ツールのほうが現実的です。

移行日と過去分の取り扱いを決める

「何月給与分からデジタルに切り替えるか」という移行日を明確に決めます。期の始まり(4月や1月)に合わせると管理がシンプルになります。過去分の紙台帳は、保存期間が残っている分は紙のまま保管するか、スキャン保存を行います。移行日以前の分を「いつ廃棄できるか」を保存起算日から逆算して一覧化しておくと、後の管理が楽になります。

アクセス権限・バックアップ・社内周知の整備

最後に、運用フローを整備します。具体的には、閲覧・編集できる担当者の権限設定、定期バックアップの実施確認(クラウドサービス側の設定だけでなく、別媒体へのエクスポートも含む)、そして社内への運用マニュアルの共有です。「クラウドに上げたから安心」で終わらせると、サービス終了やアカウント失効時にデータが消失するリスクがあります。少なくとも年1回はデータのダウンロード・エクスポートを行い、手元にも保存しておく習慣をつけましょう。

クラウド移行でよくある2つの落とし穴

デジタル化を進める際に見落としがちなリスクが2点あります。事前に把握しておくことで、後から対応が必要になる事態を防げます。

「クラウド保存=バックアップ済み」という過信

クラウドサービスに保存すれば自動的にバックアップされていると思い込むケースが多くあります。しかし、サービス側のシステム障害・プラン変更・事業撤退などによってデータが失われるリスクはゼロではありません。賃金台帳の保存義務期間(最低3〜5年)の間、データが確実に維持・出力できる状態でなければ、法的義務を果たしたことになりません。クラウド保存に加えて、定期的に別媒体(ローカルサーバー・外付けHDDなど)へのエクスポートを行う二重管理体制を設けることを推奨します。

移行期間中のダブル管理の長期化

「とりあえずデジタルも始めよう」と移行日を決めないまま並行運用を始めると、紙とデジタルの二重管理が慢性化します。どちらが正という状態が生まれると、後から労働基準監督署の調査が入ったときにどちらを提出すべきか判断できなくなります。移行日を明確に決め、「その日以降はデジタルのみ」と社内ルールを確定させることが重要です。

まとめ

賃金台帳のデジタル化は、労働基準法施行規則に基づいて法的に認められており、「紙でなければならない」というルールはありません。保存期間は原則5年(経過措置で当面3年)であり、「最後の記入日」から起算します。デジタル移行の手順は、現状の記載要件確認・ツール選定・移行日と過去分の決定・権限とバックアップ整備の4ステップで進めるのが基本です。電帳法との混同やクラウドへの過信といった落とし穴を避け、二重管理が長引かないよう移行日を明確に決めることが成功のポイントです。

移行の具体的な進め方や自社の現状把握に不安がある場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。人事専任者がいない中小企業でも実務的にサポート可能です。

よくある質問

Q. 賃金台帳を紙のまま保管し続けても問題ありませんか?

A. 法律上は紙保管でも問題ありません。ただし、火災・水害・誤廃棄による紛失リスクや、保存場所の確保コストを考えると、デジタル化はリスク管理の観点からも有効な選択肢です。法的義務はデジタル・紙どちらでも満たせます。

Q. 給与明細と賃金台帳は同じものですか?

A. 異なります。給与明細は従業員に交付する書類(労働基準法第89条・賃金規程に基づく)であり、賃金台帳は使用者が作成・保存する帳簿(労働基準法第108条)です。給与計算ソフトでは両方を出力できますが、保存義務があるのは賃金台帳のほうです。

Q. 保存期間中にクラウドサービスを解約した場合、データはどうなりますか?

A. サービスによって異なりますが、解約後にデータが削除されるケースがあります。解約前に必ずデータをエクスポートし、別媒体に保存してください。保存義務期間が残っている分を消失させると、法令違反になる可能性があります。契約時にデータの取り出し可否を確認しておくことを推奨します。

Q. 賃金台帳のデジタル化に電子署名や認証は必要ですか?

A. 労働基準法施行規則上、電子署名や特別な認証は必須要件とされていません。「必要なときに表示・印刷できること」「労働基準監督署に提出できること」の2点を満たしていれば、市販の給与計算ソフトやクラウドサービスの標準機能で対応できます。

Q. 従業員が20名未満の小規模事業者でも賃金台帳の作成・保存義務はありますか?

A. はい、あります。労働基準法第108条は従業員数による適用除外を設けておらず、従業員を1人でも雇用している使用者は賃金台帳の作成・保存義務を負います。規模に関わらず法定要件を満たした賃金台帳の整備が必要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
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