「とりあえず人事もよろしく」と言われ、何から手をつければいいかわからない——そんな状態で毎日を過ごしている方は少なくありません。社員30名規模の会社では専任の人事担当者がいないことも多く、気づかないうちに法令違反になっているリスクも潜んでいます。この記事では、初めて人事を兼務する方が今すぐ整えるべき7つのポイントを、優先度順に具体的に解説します。
まず「何が未整備か」を把握することから始める
現状診断なしに動くと二度手間になる
人事の仕事を始めたばかりのとき、多くの方が「とにかくやれることからやろう」と動き始めます。しかしそれでは優先度の低い作業に時間を取られ、法的リスクの高い問題を後回しにしてしまう危険があります。まず最初にやるべきことは、自社の現状を一覧で書き出す「棚卸し」です。
たとえば「就業規則はあるか・最終更新はいつか」「雇用契約書は全員分あるか」「36協定は締結済みか・期限は切れていないか」といった項目を、Yes/No形式で確認するだけで、自社の課題が一目で見えてきます。この診断作業を最初に行うことで、限られた時間を本当に必要な対応に集中させることができます。
「知らないことを知らない」状態が最大のリスク
人事労務の怖いところは、知識がなければ何が問題かすら気づけない点です。たとえば、社員が10名を超えた時点で就業規則の作成・労働基準監督署への届出が法律上の義務になります(労働基準法第89条)。違反した場合は30万円以下の罰金の対象になりますが、こうした事実を知らないまま何年も経過している会社は珍しくありません。
「何を知らないのかがわからない」という状態を解消するために、この記事で挙げる7つの領域を順番にチェックしていきましょう。社員30名規模の企業が特に注意すべき項目を、実務的にまとめています。
就業規則と雇用契約書を今すぐ確認する
就業規則は「あればいい」ではなく「最新であること」が重要
就業規則は常時10名以上の会社に作成・届出が義務付けられています。しかし問題は「存在するかどうか」だけではありません。2022年の育児介護休業法改正、2022年4月のパワハラ防止措置の中小企業義務化など、ここ数年で労働法は大きく変わっています。5年以上前に作ったまま放置している就業規則は、内容が現行法に反している可能性があります。
まず最初に就業規則の最終改定日を確認し、主要な法改正に対応しているかをチェックしましょう。特に「育児・介護休業」「ハラスメント相談窓口」「休職・復職の手続き」の条文は優先的に見直してください。これらの項目は、実務上のトラブルや労働基準監督署の指導対象になりやすい分野です。
雇用契約書・労働条件通知書の抜け漏れを防ぐ
雇用契約書(または労働条件通知書)は、雇い入れの際に書面で交付することが労働基準法第15条で義務付けられています。口頭での約束や入社時の簡単なメモだけでは法律違反になります。
社員30名規模の会社では「昔からいる社員の分は紙がどこにあるかわからない」という状況がよく見られます。まず全社員分の雇用契約書の存在を確認し、紛失しているものは速やかに再締結を検討してください。また、記載事項(賃金・労働時間・就業場所・契約期間など)が現行の雇用実態と一致しているかも必ず確認しましょう。特に過去に給与体系や職務内容が変わっている場合は、変更内容を書面で明記することが重要です。
36協定と労働時間管理を正しく整える
36協定なしに残業させると即違法になる
社員に時間外労働(残業)や休日出勤をさせるには、労使間で「36協定(時間外・休日労働に関する協定)」を締結し、労働基準監督署に届け出ることが必須です。この手続きを経ずに残業をさせると、たとえ残業代を支払っていても労働基準法違反になります。
36協定には有効期限(通常1年)があり、更新を忘れると空白期間が生じてしまいます。「締結した記憶はあるが更新したかどうかわからない」という場合は、今すぐ現在の協定書の有効期限を確認してください。確認方法としては、管轄の労働基準監督署に問い合わせるか、社内の書類フォルダを確認するのが確実です。
時間外労働の上限規制を把握しておく
2019年から施行された時間外労働の上限規制により、原則として月45時間・年360時間を超える残業をさせることはできません。特別条項付き36協定を締結しても、年720時間・月100時間未満(複数月平均80時間以内)という絶対的な上限があります。
社員30名規模では「繁忙期に一部の社員が長時間働いている」というケースがよくあります。出勤簿やタイムカードのデータを定期的に確認し、上限に近づいている社員を早期に把握する仕組みを作ることが重要です。労働時間管理が甘いと、知らないうちに違反状態になり、監督署の指導や社員からの請求の対象になるリスクが高まります。
社会保険・雇用保険の加入漏れをなくす
加入要件を正確に把握していないと遡及適用のリスクがある
社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、法人であれば原則として全ての常時使用する労働者が加入対象です。パートタイム社員については「週の所定労働時間が20時間以上・月額賃金8.8万円以上・雇用見込み2ヶ月超」などの要件(2024年10月改正後)を満たす場合に加入義務が生じます。
加入漏れが発覚した場合、最大2年遡って保険料を徴収されるリスクがあります。「ずっとこのままでやってきた」という慣習があっても、今の基準に照らして正しく加入できているかを確認することが先決です。不安な場合は、社会保険事務所や社会保険労務士に相談して、現在の加入状況を診断してもらうことをおすすめします。
雇用保険の加入・喪失手続きは期限厳守
雇用保険は「週20時間以上・31日以上雇用見込み」の労働者が加入対象です。入社時の加入手続き(資格取得届)は翌月10日までが期限となっており、退職時の喪失届も退職日の翌々月10日までに提出が必要です。
入退社が重なる時期に手続きを漏らしてしまうと、後から大量の修正作業が発生します。入退社のたびに手続きリストをチェックする習慣を今から作っておくことをおすすめします。特に年度末や組織編成時期は入退社が増える傾向にあるため、あらかじめチェックリストを用意して対応漏れを防ぎましょう。
健康診断とストレスチェックの義務を理解する
定期健康診断は年1回の実施と記録保存が義務
労働安全衛生法第66条により、会社は社員に対して年1回以上の一般定期健康診断を実施する義務があります。健康診断の結果は5年間保存しなければならず、受診率が低い場合は会社側の管理責任が問われます。
社員が「今年まだ受けていない」という状況を防ぐために、受診対象者のリストと受診済み・未受診の管理表を作っておくだけで、抜け漏れを大幅に減らすことができます。健康診断は単なる法的義務ではなく、社員の健康状態を把握し、潜在的な健康リスクを早期に発見する重要な機会でもあります。
ストレスチェックは50名未満でも実施を推奨
ストレスチェックは常時50名以上の事業場で義務化されていますが、社員30名規模では努力義務にとどまります。しかし、職場のメンタルヘルス問題が顕在化してから対処するよりも、年1回のストレスチェックで「集団分析」を行い、職場環境の課題を早期に把握する方が、長期的には休職リスクを大幅に下げられます。費用も1人あたり数百円程度から外部委託できるサービスがあるため、積極的な実施をおすすめします。
メンタルヘルス対応と休職・復職の「型」を作る
問題が起きる前にフローを決めておく
社員がある日突然「もう会社に来られない」と連絡してきたとき、何も準備がなければ現場は混乱します。「休職させていいのか」「給与はどうなるのか」「いつ復職の話をするのか」——これらを場当たり的に判断すると、本人・上司・会社の三者がすれ違い、問題が長期化します。
あらかじめ「不調の申し出があった場合の初動手順」「休職開始から復職判断までのステップ」「復職後の業務調整の考え方」を書面にまとめておくことで、誰が対応しても一定の水準を保てます。メンタルヘルス対応の質は、企業のリスク管理と社員の信頼感を左右する重要な領域です。
傷病手当金と休職中の社会保険料を正しく案内する
休職中の社員が知っておくべき重要な制度に「傷病手当金」があります。健康保険から最長1年6ヶ月、標準報酬日額の3分の2が支給される制度ですが、会社から説明を受けないまま退職し、受給機会を逃してしまうケースが後を絶ちません。
また、休職中も社会保険料の本人負担分は発生します。休職期間中の保険料をどのように徴収するか(毎月振込・復職後に一括など)を休職開始前に合意しておくことで、後のトラブルを防げます。これらの説明を書面で記録しておくことが、後のトラブル防止に役立ちます。
復職判断は「主治医の意見」と「職場の受け入れ準備」の両輪で
「主治医が復職可と言ったので戻らせた」だけでは不十分です。職場の業務量・人間関係・本人のコンディションが揃っていなければ、再休職につながるリスクが高まります。産業医がいない社員30名規模の会社では、外部の産業保健専門家や支援機関を活用して、主治医の意見書の内容を職場に落とし込む「復職支援面談」を設けることを検討してください。
🔗 社員のメンタル不調に、精神科・心療内科医によるスポット産業医サービス →
書類管理と法定保存期間を整理する
何をどこに・いつまで保存するかを決める
人事労務に関わる書類には、法律で定められた保存期間があります。たとえば賃金台帳・出勤簿・雇用契約書は5年間(経過措置で当面3年)、健康診断の個人票は5年間の保存が必要です。「なんとなく古いから捨てた」では、労働基準監督署の調査や訴訟時に証拠を提出できなくなるリスクがあります。
書類の種類・保存期間・保管場所を一覧表にして社内で共有するだけで、管理の属人化を解消できます。これは新しい人事担当者が引き継ぐ際にも有効です。
デジタルと紙の二重管理をやめてルールを統一する
入社手続き書類は紙、雇用契約書はPDF、36協定は担当者のパソコンの中……という状態では、必要なときにすぐ書類が見つからず、最新版がどれかもわかりません。社員30名規模であっても「この書類はここに保存する」というルールをシンプルに決めて、全員が同じ場所を参照できる環境を作ることが、長期的な管理コストを大幅に下げます。クラウドストレージやHRクラウドツールを活用すると、ペーパーレス化と検索性の両立が図りやすくなります。
まとめ
社員30名規模で人事を初めて兼務する方が整えるべき7つのポイントは、「現状の棚卸し」「就業規則・雇用契約書の整備」「36協定と労働時間管理」「社会保険・雇用保険の加入確認」「健康診断・ストレスチェックの実施」「メンタルヘルス・休職復職の型づくり」「書類管理の仕組み化」です。すべてを一度に完璧に仕上げる必要はありません。まず最初に法的リスクの高い項目(就業規則・36協定・社会保険)に対応し、次にメンタルヘルス対応や書類管理の仕組みを順番に整えていくことが現実的なアプローチです。
「どこから手をつければいいかわかりませんでした」「自社の状態が法令に照らして問題ないか診断してほしい」という方は、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。人事の専門家が現状を整理し、優先度に応じた実務サポートをご提供します。特定の課題だけの相談でも歓迎しています。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


