「採用を増やしたのに、なぜか組織がバラバラになっていく」——事業拡大期の経営者・人事担当者から、こうした声をよく耳にします。頭数は増えているはずなのに、チームの空気は重くなり、早期離職が続き、気づけば既存社員まで疲弊している。この「事業拡大期の組織崩壊」は、採用の失敗ではなく、採用と組織設計のズレから生まれます。本記事では、その構造的な原因と、実践的な対処法を整理します。
事業拡大期に組織崩壊が起きやすい本当の理由
採用と受け入れ体制のズレ
採用計画は立てても、「誰が・いつまでに・何を教えるか」という受け入れ設計が後回しになっていないでしょうか。既存社員がすでに業務過多の状態でOJT担当に任命されると、トレーナー自身が疲弊し「教える余裕がない」という状況に陥ります。結果として新入社員は「放置されている」と感じ、入社3〜6ヶ月以内に離職する早期離職ループが生まれます。採用コストをかけて入れた人材が半年で去っていく——この損失は、採用費だけでなく、既存社員のモチベーションにも深刻なダメージを与えます。
経営者が直接関われる人数には上限がある
創業から成長してきた経営者が直接採用・オンボーディングに関われる人数は、一般的に15〜20名程度が限界とされています。この人数を超えた段階から、価値観の浸透が経営者の目の届かないところで機能しなくなります。「以前はもっとチームワークがあったのに」という既存社員の不満は、まさにこのフェーズで表面化しやすいサインです。
事業拡大期の「成長痛フェーズ」を知っておく
社員数15名・30名・50名の各段階では、組織構造を意図的に見直す必要があります。特に15名から30名の間は、マネジメント崩壊が最も起きやすいフェーズです。この時期は、経営者一人でのコントロールが難しくなる一方、マネージャー層がまだ育っていないという「空白地帯」が生まれます。この空白を放置すると、指示系統の混乱・情報共有の断絶・チームの分断へと発展します。
事業拡大期の急速採用がカルチャーを壊すメカニズム
採用基準の属人化・形骸化
採用を急ぐほど、「とりあえず頭数を揃える」採用になりがちです。面接官が人事担当者以外にも分散するなかで、評価基準が共有されていなければ、面接官によって判断がバラバラになります。ある面接官は「スキル重視」、別の面接官は「人柄重視」という具合に、それぞれが独自の軸で選考を進めてしまうのです。
ミスマッチ採用がメンタル不調の温床になる
採用基準の形骸化が続くと、入社後に「思っていた仕事と違う」「会社の方向性が聞いていたのと違う」というミスマッチが多発します。このギャップは、新入社員のモチベーション低下だけでなく、メンタル不調・早期離職の直接的な原因になります。採用コストをかけて採用した人材が半年で休職・退職するという経営損失が繰り返されるケースは、この構造から生まれていることがほとんどです。
採用基準の「文書化・共有化」が最初の一手
対策として有効なのは、採用基準を言語化して全面接官に共有することです。具体的には「この会社で活躍するために必要な価値観・行動特性」を3〜5項目に絞り、評価シートとして整備します。面接官が変わっても一定の基準で判断できる仕組みをつくることで、ミスマッチ採用を構造的に防ぐことができます。
マネージャー不足が引き起こす現場の崩壊
「プレイングマネージャーの限界」問題
ポジションの空席を埋めるために、現場で優秀なプレイヤーをそのままマネージャーに任命するケースは、20〜50名規模の企業で頻発します。しかし、優秀なプレイヤーとマネージャーに求められるスキルは根本的に異なります。自分の仕事をこなしながら部下の育成・評価・メンタルケアまで担うことは、準備なしには非常に困難です。
急造マネージャーがハラスメントリスクを高める
マネジメントスキルが伴わないまま昇格した管理職は、部下への対応が感情的になったり、過度なプレッシャーをかけたりしやすくなります。2022年4月からパワハラ防止法が中小企業にも義務化されており、マネジメントスキル不足による言動がハラスメントと認定されるリスクは、以前より格段に高まっています。「悪意はなかった」では済まされない時代です。
マネージャーへの最低限のラインケア教育
急拡大期こそ、管理職に対するメンタルヘルスの「ラインケア」研修が不可欠です。ラインケアとは、管理職が自分の部下のメンタル不調のサインに気づき、適切に対応・相談窓口につなぐ取り組みのことです。具体的には「部下の変化に気づくポイント」「1on1の進め方」「相談を受けたときの対応フロー」を学ぶことで、マネージャーとしての最低限の対応力を短期間で底上げできます。
組織の歪みはメンタルヘルス問題として表面化する
「採用の失敗」は最終的に休職者増加につながる
受け入れ体制の不備・カルチャーの希薄化・マネージャー不足という問題が積み重なると、最終的に「社員のメンタル不調・休職者の増加」という形で経営者の前に現れます。個別の問題に見えるこれらのメンタル不調は、実は組織構造の歪みが根本原因であることがほとんどです。対症療法的に一人ずつ対応するだけでは、同じ問題が繰り返されます。
事業拡大期の50名の壁とストレスチェック義務化
社員数が50名を超えた時点で、労働安全衛生法に基づくストレスチェックの実施が義務化されます。事業拡大期には、いつの間にかこの閾値を超えていたというケースも少なくありません。ストレスチェックは単なる法的義務ではなく、組織診断ツールとして活用することで、問題が深刻化する前に経営判断に生かすことができます。
専任人事がいない企業ほど対応が遅れる
専任人事がいない企業では、休職対応・復職支援の知識がなく、対応の遅れがさらなる離職やハラスメントリスクを生みます。労働契約法第5条が定める「安全配慮義務」は、急拡大期に業務過多・マネジメント不全が生じた場合にも使用者責任を問われる根拠になります。「知らなかった」では済まされない法的リスクを、事前に整理しておくことが重要です。
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事業拡大期の組織崩壊を防ぐための実践的な対策
採用とオンボーディングをセットで設計する
採用計画を立てる段階から、「誰が・何週間で・何を教えるか」というオンボーディング設計を同時に行うことが大前提です。例えば、入社後30日・60日・90日の節目でチェックインを行い、新入社員が感じている不安や疑問を早期にキャッチする仕組みをつくります。この設計があるかないかで、早期離職率は大きく変わります。現場のOJT担当者には、育成の負荷が集中しないよう、複数名でサポートする体制を組むことも有効です。
組織の節目で構造を見直す習慣をつくる
社員数15名・30名・50名という節目を意識し、そのタイミングで組織図・役割分担・情報共有のルールを見直す習慣を持つことが重要です。特に30名前後では、経営者とメンバーの間に中間管理職層を設け、マネジメントを分散させる必要があります。このタイミングでマネージャーに対する役割期待を言語化し、必要なスキルを整理しておくと、急造マネージャーのリスクを減らせます。
メンタルヘルス支援を「組織診断」として活用する
ストレスチェックや1on1の定期実施は、社員のメンタルヘルスを守るだけでなく、「組織のどこに負荷が集中しているか」を可視化する組織診断ツールとしても機能します。急拡大期こそ、こうしたデータを経営判断に生かす体制を整えることで、問題が深刻化する前に手を打てるようになります。
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まとめ
事業拡大期の組織崩壊は、採用そのものの失敗ではなく、採用と組織設計のズレから生まれます。受け入れ体制の不備・採用基準の形骸化・マネージャー不足——これらが重なると、最終的にメンタル不調・休職・早期離職という形で経営者の前に現れます。対策の鍵は、採用とオンボーディングをセットで設計すること、組織の節目ごとに構造を見直すこと、そしてマネージャーへのラインケア教育を早めに整えることです。
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