「主治医から復職OKの診断書が届いたけど、正直まだ不安で…」と感じたことはありませんか。現場を知らない主治医の判断と、実際の業務を知っている会社側の認識が食い違う場面は、中小企業の人事担当者が最も頭を悩ませる問題のひとつです。産業医もいない、専任人事もいない環境で「誰が最終判断を下せばいいのか」と迷うのは当然のことです。この記事では、主治医と会社の意見が食い違ったときの具体的な対処法を、法的な根拠も交えてわかりやすく解説します。
主治医と会社の判断が食い違う理由
主治医が見ている情報と会社が見ている情報は別物
主治医は「患者の医学的な回復状態」を診ています。週に一度の外来診察で、睡眠・食欲・気分の波・薬の効き具合などを確認し、「日常生活を送れる程度に回復している」と判断すれば「復職可能」と診断書に記載します。一方、会社が気にしているのは「この人が実際の業務をこなせるか」です。取引先との交渉、チームの人間関係、突発的な残業、プレッシャーのかかる締め切り——こうした職場固有の情報は、主治医にはほとんど届いていません。
つまり、両者は「見ている対象が違う」だけであって、どちらかが間違っているわけではないのです。この前提を理解するだけで、対立から協力の関係へと切り替えるきっかけになります。
情報の非対称が食い違いの最大原因
実務上、主治医と会社の意見が食い違う最も多いパターンは「主治医が職場の実態を知らないまま診断を下している」ケースです。たとえば、休職者が「もう大丈夫です、早く戻りたいです」と主治医に伝えていても、主治医は「残業が月40時間ある」「担当顧客に強いクレーマーがいる」「職場の人間関係がまだ修復されていない」といった事実を把握していない場合があります。
この情報ギャップを埋めることが、意見調整の出発点です。感情的に「主治医の判断はおかしい」と反発するのではなく、まずは会社側から職場の情報を主治医に届ける——この一歩が問題解決の鍵になります。
復職可否の最終判断は誰が下すのか
法的には「会社(使用者)」に決定権がある
「主治医がOKと言っているのに会社が断れるの?」という疑問を持つ方は多いです。結論から言えば、復職可否の最終判断権は会社(使用者)にあります。主治医の診断書は「復職を妨げない」という医学的な意見表明であり、会社に復職を義務づける書類ではありません。
ただし、合理的な理由なく復職を拒否した場合は「不当な就労拒否」として損害賠償リスクが生じます。「なんとなく不安だから」という感情的な理由では通りません。あくまでも「業務遂行能力の有無」を客観的な基準として判断する必要があります。
安全配慮義務も忘れてはいけない
会社には「労働者の心身の安全に配慮する義務(労働契約法第5条)」があります。状態が十分でない社員を見切り発車で復職させ、再発・健康被害が生じた場合、「主治医がOKと言ったから」は免責事由になりません。会社が独自に「職場で安全に働けるか」を確認するプロセスを踏む責任があります。
つまり会社は、主治医の診断書を受け取った後も「鵜呑みにする」のではなく、「職場視点でも安全かどうかを自ら確認する」という能動的な姿勢が求められているのです。
産業医がいない企業が踏むべき調整プロセス
職場情報シートを主治医に提出する
産業医不在の企業でまず取り組むべきは、「職場情報シート」を作成して主治医に渡すことです。具体的には、以下のような情報を文書化して、本人の同意を得たうえで主治医に提供します。
- 具体的な業務内容と責任範囲
- 1日・1週間の労働時間の目安
- 対人関係が多い業務かどうか
- 出張・夜勤・締め切りの有無
- 復職後に想定される配慮事項(時短・業務制限など)
これを受け取った主治医は「職場の実態」を踏まえて診断の精度を上げられます。情報提供なしに「診断書が信用できない」と批判するのは、主治医への情報提供という会社の義務を果たしていない状態と言えます。
外部の産業保健専門家を一時的に活用する
50人未満の中小企業には産業医の選任義務がありません。しかし、「産業医がいないから仕方ない」で終わらせると、調整役が不在のまま問題が長期化します。こうした場合は、外部の産業保健師・産業カウンセラー・社会保険労務士などの専門家を復職調整の窓口として一時的に活用する方法があります。
たとえば、外部の産業保健師が本人と面談し、職場の状況を踏まえた意見書を作成することで、主治医と会社の橋渡し役を担うことができます。月1回数時間の契約でも機能する場合があるため、コスト面でも中小企業に現実的な選択肢です。
試し出勤(リハビリ出勤)で段階的に判断する
正式復職の可否をいきなり決めるのではなく、「試し出勤期間」を設けることも有効な手段です。就業規則や復職支援規程に定めを設けておくことで、本人・会社の双方にとって安心感があります。たとえば「最初の2週間は午前中のみ出社し、業務は補助的な軽作業のみ」とするなど、段階的に負荷を上げながら適応状況を確認します。
この段階で問題が生じれば「まだ正式復職は難しい」という判断を客観的に下せます。逆に問題がなければ、本人・会社双方が納得した形で正式復職に移行できます。
本人と主治医が強く復職を求めてくる場面の対処法
感情的な局面こそ書面とプロセスで対応する
経済的事情から本人・家族が早期復職を強く希望し、主治医も「本人の意思を尊重する」形で診断書を書くケースは少なくありません。会社として「まだ早い」と感じていても、断ることへの心理的・法的な怖さから、曖昧な対応になってしまう企業も多いです。
こうした局面では、感情的なやり取りを避け、プロセスと書面で対応することが鉄則です。「復職可否は主治医の診断書だけでなく、会社として職場適性を確認する手順があります」と明示したうえで、調整プロセスへの協力を依頼します。口頭だけで進めると後から「あのとき復職できると言われた」などのトラブルになりやすいため、経緯を文書で残すことが重要です。
「業務遂行能力」を判断基準に据える
感情的な対立を避けるためには、判断基準を「業務遂行能力があるかどうか」という客観的な軸に統一することが効果的です。「会社としては心配だから」「なんとなく不安」という表現は、本人・主治医に「偏見・差別」と受け取られるリスクがあります。
一方、「通常勤務に必要な判断力・集中力・コミュニケーション能力が業務に適した水準に回復しているかどうかを確認するプロセスが必要です」という表現は、合理的・中立的に聞こえます。評価の視点を「感情」から「能力・適性の確認」へと移すことで、本人・家族への説明もしやすくなります。
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再発を防ぐための復職後フォロー体制
復職は「ゴール」ではなく「スタート」と捉える
復職が実現した後も、最初の3カ月は再発リスクが高い時期です。「復職できたから一安心」と放置してしまうと、数週間で再休職するケースが後を絶ちません。復職後は、上司や人事担当者が定期的に状況確認を行う「フォローアップ面談」を1〜2週間ごとに設けることが推奨されます。
面談では「調子はどうですか」という抽象的な質問ではなく、「睡眠は取れていますか」「業務量は無理なく感じますか」「気になっていることはありますか」など、具体的な項目を確認します。変化を早期に察知することが、再発防止の最大の鍵です。
復職支援規程を整備しておく
何度も再休職を繰り返すケースや、復職の可否で社員とトラブルになるケースを未然に防ぐために、「復職支援規程(職場復帰支援のルール)」を就業規則とは別に整備することを推奨します。規程には、復職申請の手順・提出書類・会社側の確認プロセス・試し出勤の期間・判断基準などを明記します。
規程があることで、担当者が変わっても一貫した対応が可能になり、「なぜ復職させてもらえないのか」という本人からの不満にも規程に基づいて説明できるため、トラブル予防効果が高まります。20〜50名規模の企業でも、数ページ程度のシンプルなものから始めることができます。
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まとめ
主治医と会社の判断が食い違う場面は、情報の非対称と役割の違いから生まれます。主治医は医学的な回復を、会社は職場での業務適性を見ており、どちらが正しいという話ではありません。復職可否の最終決定権は会社にありますが、合理的なプロセスなしに拒否すると法的リスクを招きます。まず会社側から主治医へ職場情報を提供し、外部の専門家を調整役に活用しながら、段階的な試し出勤を経て判断を下すことが実務の王道です。再発防止のためには、復職後のフォロー体制と復職支援規程の整備が不可欠です。
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