給与レンジの上限に悩んだら見直したいグレード設計の考え方

給与レンジの上限に悩んだら見直したいグレード設計の考え方 人事制度
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「頑張ってくれているのに、もう給与を上げる余地がない」——そんな悩みを抱える経営者・人事担当者は少なくありません。その背景にあるのは、給与レンジや等級制度が整備されていないことによる構造的な問題です。この記事では、給与レンジの上限をどう決めるか、上限に達したときの対処法、グレード設計の基本的な考え方まで、実務に即して解説します。

給与レンジとグレード設計の基本を押さえる

給与レンジとは何か

給与レンジとは、あるグレード(等級)に対して設定された「最低額〜最高額」の幅のことです。たとえば「グレード3:月給25万円〜32万円」のように定義し、そのグレードに属する社員はこの範囲内で給与が決まります。給与レンジを設けることで、採用時・昇給時の判断基準が明確になり、「前職給与に引っ張られて社内バランスが崩れた」という事態を防ぐことができます。

グレード設計との関係

給与レンジは、グレード(等級)体系があって初めて機能します。グレード設計とは、社員の役割・職責・スキルに応じてランクを定義する仕組みです。代表的なものに「職能等級制度(スキル・能力基準)」と「役割等級制度(担う役割・ミッション基準)」があります。中小企業では後者の役割等級制度のほうがシンプルで導入しやすく、「この役割を担うグレードにはこの給与レンジ」という対応が明確になります。

設計なしに運用するリスク

グレードも給与レンジも明文化されていない状態での運用は、属人的な判断が横行しやすく、社員間の不公平感や労使トラブルにつながります。労働基準法第89条では、常時10人以上の労働者を使用する事業場には就業規則(賃金規程含む)の届出が義務付けられています。10人未満でも整備は強く推奨されており、昇給停止や降給の際に根拠がなければ、労働契約法第9条・第10条に基づき「不利益変更」として無効とされるリスクもあります。

給与レンジの上限はどう決めればいいか

ミッドポイントを起点に設計する

給与レンジを設計するうえで最初に決めるのが「ミッドポイント(MP)」です。これは、そのグレードにおける標準的な給与水準であり、市場賃金の参照点となります。たとえばグレード4のミッドポイントを月給35万円と設定した場合、そこから上下に幅を持たせてレンジを構成します。

レンジ幅(スプレッド)の目安

ミッドポイントを中心にどれだけの幅を持たせるかを「スプレッド」と呼びます。一般的には±15〜25%が実務上の目安とされています。ミッドポイント35万円でスプレッドを±20%に設定すると、給与レンジは28万円〜42万円になります。スプレッドが狭すぎると上限に達するのが早くなり、広すぎると最低賃金付近の社員と上限近くの社員の差が大きくなりすぎます。自社の賃金体系全体のバランスを見ながら設定することが重要です。

市場賃金データの活用

ミッドポイントの水準を決める際には、市場データを参照することをお勧めします。無料で使えるものとして、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査(賃金センサス)」があります。職種・年齢・企業規模別のデータが公開されており、自社の給与水準が市場と比べて高いか低いかの目安にできます。加えて、自社の「労働分配率(人件費÷付加価値)」を確認し、支払い能力の範囲内で上限を設定することも欠かせません。たとえば同業他社の中堅社員の平均年収が450万円前後であれば、該当グレードのミッドポイントをその水準に合わせて設計するのが現実的です。

隣接グレード間の「オーバーラップ」という考え方

オーバーラップとは何か

グレード間のオーバーラップとは、下位グレードの給与レンジ上限が、上位グレードの給与レンジ下限より高くなるように設計することです。たとえば、グレード3の上限が32万円で、グレード4の下限が28万円であれば、28万〜32万円の帯がオーバーラップしています。この設計により、「昇格直後に給与が下がる」という逆転現象を防ぎつつ、昇格後の成長余地も確保できます。

オーバーラップが重要な理由

オーバーラップのない設計では、昇格のタイミングで給与がいきなり大きく上がる、または上がらない、という不自然な動きが生じます。たとえばグレード3の上限が30万円で、グレード4の下限が34万円だった場合、昇格した時点で4万円の急上昇が起きます。これは人件費管理の観点からも、社員の期待値管理の観点からも望ましくありません。適切なオーバーラップを設けることで、昇格と昇給の動きを連動させてスムーズに管理できます。

グレード数の設計目安

20〜50名規模の中小企業であれば、グレードは4〜6段階程度が運用しやすい目安です。グレードが多すぎると管理が複雑になり、少なすぎるとレンジ幅が広くなって評価の意味が薄れます。たとえば「一般職(グレード1〜2)→中堅職(グレード3〜4)→管理職(グレード5〜6)」という3層・6段階の構造は、中小企業に多く見られる実務的なモデルです。

給与レンジの上限に達した社員への対応策

上限到達は「設計の問題」と捉える

優秀な社員が給与レンジの上限に達してしまうのは、その社員の問題ではなく、制度設計の問題です。「毎年頑張ってくれているのに、もう上げる余地がない」という状況は、グレードと給与レンジが現実の人材構成に合っていないサインです。まずはその認識を持つことが、適切な対応への第一歩になります。

処遇オプションを複数持つ

上限到達時の対応として、多くの中小企業では「昇格させるか、我慢させるか」の二択になりがちです。しかしそれ以外にも実務的な選択肢があります。代表的なものを整理すると、まず「業績連動一時金(賞与)での還元」があります。月給は据え置きにしつつ、成果に応じた賞与で報いる方法で、固定費を抑えながらモチベーションを維持できます。次に「専門職制度の新設」があります。マネジメントラインには乗らないが高い専門性を持つ社員向けに、別ラインのグレードと給与レンジを設けるものです。また「役割の拡大・プロジェクトリーダーへの任用」といった形で、処遇よりもやりがいと責任感を軸に動機付ける方法も有効です。

「昇格のための昇格」を防ぐ

ポジションの空きがないのに昇給のために昇格させてしまうケースは、組織の機能不全につながります。管理職の数が増えすぎると意思決定が遅くなり、部下を持てない管理職が生まれるという問題も起きます。昇格はあくまで「役割・責任の拡大」に対する処遇であるという原則を制度設計に組み込むことが重要です。そのためにも、昇格要件を明文化し、給与上限到達と昇格判断を切り離す仕組みを持つことが必要です。

既存社員への制度導入時の注意点

不利益変更にならない設計を

新たに給与レンジや上限を設定する際、現在すでにその水準に近い、または超えている社員が存在する場合は慎重な対応が必要です。労働契約法第9条・第10条に基づき、賃金の実質的な引き下げとなる変更は、合理的な理由がなく、かつ周知・合意形成がなければ無効とされる可能性があります。既存の給与を超える形での上限設定、または現状を下回らない形での移行措置を設けることが実務上の基本です。

段階的な導入と丁寧な説明

制度導入は一度に全社展開するのではなく、まず管理職層から試験的に始め、問題点を修正しながら段階的に展開するアプローチが安全です。また、社員への説明では「なぜ制度を整備するのか」という背景と目的を丁寧に伝えることが不可欠です。「昇給を止めるための制度」ではなく「成長とキャリアを見える化するための制度」というメッセージを一貫して伝えることが、社員の理解と納得を得るうえで重要になります。

非正規社員への対応も忘れずに

パートタイム・有期雇用労働法(2021年4月より中小企業も適用)により、正規・非正規間の不合理な待遇格差は禁止されています。給与レンジを整備する際は、正社員グレードと非正規社員の職務内容・責任範囲の関係も整理しておく必要があります。「なぜ正社員とパートで給与差があるのか」を説明できる状態にしておくことが、法的リスクの回避につながります。

まとめ

給与レンジの上限問題は、多くの場合「制度設計の不備」が根本原因です。ミッドポイントとスプレッドを基準にレンジを設計し、グレード間のオーバーラップを確保することで、昇格・昇給の動きをスムーズに管理できるようになります。上限到達への対応も「昇格か我慢か」の二択ではなく、一時金・専門職制度・役割拡大など複数の選択肢を持つことが重要です。また、既存社員への不利益変更とならない設計と丁寧な説明・合意形成も欠かせません。

「何から手をつければいいかわからない」という段階であっても、ウェルセンス株式会社では人事制度の整備・グレード設計の相談を承っています。制度の全体設計から個別の処遇対応まで、御社の規模や状況に合わせた実務的なサポートを提供しています。

よくある質問

Q. 社員が10人未満でも給与レンジやグレード設計は必要ですか?

A. 法的な届出義務は常時10人以上の事業場から発生しますが、10人未満でも整備は強く推奨されます。採用・昇給・退職対応のたびに判断基準がなければトラブルの温床になるため、規模が小さい今こそシンプルな制度を作っておくことが後々の負担を減らします。

Q. 給与レンジの上限は一度決めたら変更できないのですか?

A. 変更は可能ですが、上限を引き下げる変更は労働者への不利益変更になる可能性があります。引き上げる方向への変更は比較的スムーズです。変更の際は必ず就業規則・賃金規程を改定し、社員への周知と合意形成を丁寧に行うことが重要です。

Q. 専門職制度を作る場合、どのくらいの人数から検討すべきですか?

A. 明確な人数基準はありませんが、「マネジメントラインには乗らないが高い専門性を持つ社員が複数名いる」または「今後そのような人材が生まれる見込みがある」状況であれば検討の価値があります。20〜30名規模でも専門職制度を導入している企業は多く、制度自体はシンプルに1〜2グレードから始めることができます。

Q. 市場賃金データはどこで調べればいいですか?

A. 無料で使えるものとして、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査(賃金センサス)」が代表的です。職種・年齢・企業規模別の賃金データが公開されており、自社の給与水準の客観的な確認に役立ちます。民間データとしてはdodaやマイナビの給与調査レポートも参考になります。複数のデータを組み合わせて判断することをお勧めします。

Q. グレード設計と給与レンジ整備を同時に進めるのは難しいですか?

A. 同時進行は負荷が高いため、まずグレード(等級)の定義を先に整備し、その後で各グレードに対応する給与レンジを設定するという順序で進めるのが実務的です。グレード定義が固まれば、給与レンジはミッドポイントとスプレッドを決めるだけで比較的早く設計できます。専門家のサポートを活用することで、作業期間を大幅に短縮することも可能です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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